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昔、欧州をあちこち渡り歩いてた頃。サンジはよく、俺が注文したスィーツを少しだけと言っては味見してた。料理が趣味だったサンジとしては、デザートにも関心があったらしいのだけれど。俺と同じくらいまでには甘党じゃなかったから、一皿食べ切るとなると胸やけがしたらしい。いつだったか、そんな話をナミさんとメッセンジャーで話したことがあって、
「今時はサ、小さなケーキが500円とかいうのもザラだし、
お店でパフェとか食べようものなら、
1000円以上するトコだって当たり前にあるもんな。」
【うわぁ〜〜〜、相変わらずニッポンの物価って高いのねぇ。】
確かに日本のスィーツの、様々な創意工夫とか繊細な細工とかには素晴らしいものがあるけれど、そこまで高いっていうのは、
【少なくとも気軽な“おやつ”の域ではないわよね。】
「まぁね。」
だから俺も、コンビニデザートのマニアになっちゃった。これがまた、ハマると美味しいのばかりだしvv …と。なんだか女の子同士みたいな会話になっちゃって、
【でもね、ルフィみたいな可愛らしい子ならともかく、
サンジくんとかゾロさんとかみたいな、
いかにもお酒の方がイケるクチですって見栄えの人がサ、
実は甘いものが死ぬほど大好きだったらちょっと可哀想かもね。】
「…どして?」
だって、差別する訳ではないけれど。会社帰り風の、いかにもダンディなスーツ姿の偉丈夫さんが、オールベリーとマンゴーソースの夢見るレインボウパフェなんてものを満面の笑み浮かべて食べてたら、どう? そんなのその人の勝手で自由な筈だって分かっていても、ついつい引いちゃうか、物珍しいものとして じ〜〜〜っと眺めてしまわない? ナミさんから言われて…そうかもねと納得しちゃったな。
………ちなみに、甘いものが好きという感覚を“女子供のもの”と決めちゃったのは、冗談抜きに“後天的”というか、随分と後世に発した理屈だそうで。もともと生き物はヒトだろうがそうでなかろうが、概おおむね甘いものを自然と好みます。甘味イコール糖分で、吸収しやすく即効性の高いエネルギーの素だからで、胃の小さい子供が甘みを好むのも当然の本能から出ているもの。それと、醸造の技術が未発達だった頃のお酒は結構甘かったらしいので、昔はさほど、甘いものを大人の男性が食べても“男らしくない”とまでの解釈はされてはいなかった。ところが。お酒の醸造技術が発達するにつれ、どんどんと辛口のものも出て来たし、アルコール度数もぐんぐん上がって、慣れないと多くは飲めないものとなって来た。(あと、東洋人は生まれつき、欧米人ほど酒には強くないんですね。分解酵素の種類だか量だかが元から違うのだそうで。)なので、無理しないと飲めないものを飲み干すのが“男らしい”なんて言われるようになった。負けちゃってあまり飲めなかったり、こっちの方がと甘いものに手が伸びる人は“女子供のよう”と言われるようになってしまった。………のだそうです。(おそまつ)
◇
何だか気になるWebゲームの配信元は、○○○という玩具メーカーの子会社で。今年度になってから新規に立ち上げられた会社なので、過去の経歴というのか、背景というものは無に等しい。よって、業績も提携歴も全てが“これから”という真っ新さらな会社なのだが、
「それでもね、俺との接点ってのが どっかにないかなって探ってみたんだけど。」
お夕食の仕上げに取り掛かる寸前まで、あれこれと自分なりに網を張ってみた。その結果として、出て来たものの中には、これと言って目ぼしいものもなかったのだけれど、
「俺の素性はともかく、実際に接してなきゃ判らないよな細かい好みだとか、限られた場での“発言”ってものが流れる経路って言ったら、そんなにはないでしょ?」
まずは“発信元”である側から考察してみて。ルフィ本人が bbsなどに書いた覚えがないとなれば、それを聞いてた“誰か”がどこかへ漏らして流したということになる訳で。
「PC教室の子たちやサミさんとか、身近なところを言い出せばキリがないけれど、それでもね。プリアティのケーキの話はそうそうあちこちで持ち出しちゃいない。」
ということで。それを話題にした覚えがあって、しかも玩具メーカーの制作部への接触ということが可能な人物。
「流通業界っていえば、ゾロだって関わってるじゃない。だから、さっき聞いてみたんだけど。」
しかも企画部の人間だから。気の利いた言い回しのサンプルをと求められての参考に、そういやこんなことを言ってたななんて格好で、ルフィの言いようを口にしてはいないかと、それを確かめがてらに“○○○との提携の覚えはないか”と訊いた彼であったらしく。だがだが、むうと口を曲げたゾロ云わく、
「参考にせよサンプリングにせよ、ルフィの何かを活かすつもりなら、ちゃんと前以てお前にも言うぞ、俺は。」
「うん。」
もしくは、そういうパターンではなくて。知り合いの男の子がそんなことを言っててねという、何でもない軽い会話が誰ぞの耳に残ってて、こんな形で使われたというのだって可能性としてはあるのだが、
「ルフィのそんなかわいい殺し文句を、何でまた言い触らさにゃならんのだ。」
「………ゾロ。///////」
この言いようはちょっとばかり脱線のし過ぎだが(笑)、会社では“寡黙で切れ者な頼れるナイスガイ”で通ってるゾロであり、後半はともかく“寡黙”というのは、入社以降ずっと変わらない彼の個性。よって、そんな浮かれたことを会社で口にした覚えはないと言うのも納得が行くこと。
「正確には口下手なだけなんだがな。」
「だろうねぇvv」
ゾロんトコは女の子が多い職場だしねぇ。何だよそれ。だ・か・ら、ゾロってば、休憩の時とかに何を話したら良いのか判らないんでしょう? う………。//////
「脱線はともかく。」
こらこら、筆者の仕事を取るでない。(苦笑)
「…となると。残り、もう一つだけ、俺のそういう何げない台詞を拾ってる可能性のある人たちの心当たりがある。しかも、その“心当たり”さんは、春頃にこの会社の開発部に指南役っぽい“アドバイザー”を送ってる。」
経営補佐っていう意味合いのコンサルティング・アドバイザーだろうとは思うんだけれど。でも、これだって立派な“関連筋”だ。俺とこの会社がつながってるラインの1つではある訳でしょ? つらつらと並べるルフィに、
「………それって。」
聞いてたゾロが何となく、嫌な予感がしたらしい声になる。つらい目を見るというシリアスな“嫌な”ではなく、はた迷惑なというレベルでのそれであり。ルフィもそこんところは判らないではないせいか、前髪の下、表情豊かな眉毛をちこっと下げて見せ、
「そ。きっと恐らく…これって
“ムシュ・サンジェスト”繋がりのデータ漏洩、若しくは乱用だと思う。」
ああ、やっぱり。(笑) 二人してパソコンを置いている予備室へと入り、サーバーなみのご立派なPCとモニターを据えたデスクに向かうと、
「ご飯の支度があったから、コンサルティングっていう関わりを突き止めたトコどまりだったんだけどね。」
ぱちんとスイッチを入れてPCを起動させつつ、ルフィが自分なりの推量というのを続ける。
「ゾロがシロだとなると、後はもう そこしか思い当たらない。ここでの生活自体が覗かれているのなら、話はキリがなくなるところだけれど。ハッキングだなんて…このPCへの特別の回線を引いた時に厳重なチェック装置も持ち込んでるから無理な話だしね。」
「そういや、仰々しいのを引っ張って来てたもんな。」
経済界の謎の大立者“ムシュ・サンジェスト”の、それもプライベートなアドレス等へつながるラインなんてものを引いた関係上、盗聴だの侵入だのへの防御態勢も万全に敷かれており、
「近ごろでは電波振動からでもデータが読めるらしいからって、ウチの私用電話やケーブルテレビのもきっちりチェックが入ってる。だから、そっちから盗まれたってことは有り得ない。」
カチャカチャとキーボードを叩いて幾つもある暗証番号を入力しているルフィの言いようへ、
「…で? どっちだと睨んでんだ? お前としては。」
ゾロが短く訊いたのへ、
「サンジの乱用の方だと思いたいな。」
軽く笑いつつ小さな肩をすくめて見せる。先程までは、サンジへの脅威の取っ掛かりとして誰かが仕掛けた罠だったらどうしようなんてところを心配していた彼だったのだが。そして、だとしたら…例えばゾロの持つデータからというよな格好にての、自分の身近という側から覗き見られたものの盗用だったなら、それだと責任重大だよなんて少々不安になってもいたものの。そうではなさそうだと分かった途端、ちょっとは冷静になれてよくよく考えを練る余裕が出来た。伏し目がちになって、キーを叩く手元を見下ろすルフィ。柔らかな頬へ睫毛の陰が仄かに落ちているのが、口許では笑って見せたのに…神妙そうな表情にも見えて。
「ご飯食べてサ、ゾロとお喋りしてたら随分落ち着いて来たの。」
そう。会話というのは大事です。一人で“あーでもない、こーでもない”と、心の中の迷路で曖昧な思いを相手に四苦八苦しているよりも、誰かと声を出して(チャットでも構いませんが)論を交わす方が、持論が“言葉”という形になり、はっきりとした輪郭を持つため、どんどんと…現実に即したものや出口へ向かうものへと、育ったり導いたりすることが出来るんですね。手慣れたコードをカタカタと打ちながら、ルフィはゾロへと話を続けた。
「俺がこの回線でやり取りしてるのは、気安いお喋りばっかなんだけれどもね。」
単なる知己同士の会話に過ぎない代物。業務連絡もしなくはないが、特殊な、重要な、難しいものは、あんまり回されては来ない。ルフィの技量や能力を云々してというのでなく、ただ単にルフィにはルフィのやりたいことを優先させたいからだそうで。こっちでの“事務員”というルフィの肩書は、言ってみれば“お小遣い”を渡すための口実みたいなものなのだとか。そんな回線上で交わされた屈託ない会話に出て来た、何てことのないフレーズ。
「落ち着いて考えたら、
もっと早く気がつくべきなことが思い浮かんで…今更ながら気がついたんだ。」
キーボードを操作しつつ、妙に自信満々というお顔になっている奥方なものだから。
“…ほほぉ。”
こちらにはまだ何が何だか良く判らないんだが、ルフィの上には何やら素晴らしい閃きが訪れたらしいなと。ゾロは黙って聞く側に徹している。
「サンジだったら。こうまで一般へと広まってるものへの監督を…いくら畑違いだからって言っても半端にするとも思えない。」
経営方面への補佐しかしてはいないからと放ってはおかない。業績の変化なんていうチェックは当然するだろうから、こんなゲームが巷で沸いてるなんてトピックスはすぐにも耳に入る筈で、どらどらと接してもみることだろう。
「もしも…サンジじゃなくて、派遣した担当者が勝手に俺との会話っていう情報を使い回してるんだったら、とっくにそれなりの制裁ってのをしていると思う。」
「…だろうよな。」
隠し撮りの写真や何やとは格が違う、プライバシーの最たるもの。あの切れ者が家族と同格に大切にしている少年のプライベートにあたるもの。それをこんな格好で利用されたとなれば。自分に断りもなく勝手に晒して売りものにしやがって…と、烈火のごとくに怒ってもいようから、こうやってこっちの耳目に触れることもないままにとっとと企画ごと握り潰されて、データも回収されている筈だ。………ということは?
「理詰めで考えてみた結論へ、ドーンと当たっててくれたらおなぐさみ、なんだけど。」
最後の関所、アクセスする相手の身の上を問うフレームへ、最後のIDとパスワードを入力し、Enterキーをかちゃりと押したところが、
【未検出;ページが見つかりません。】
はい? インターネットではお馴染みなフレーズが真っ白な画面に出て来ましたが、
「………これってメールソフトだったんじゃあ。」
「うん。」
だから。本来だったなら、メールかメッセンジャーかを選ぶ画面になる筈なのに。それに、ネットの方のあのお馴染みの雛型の画面ではないし。おかしいなというのはルフィにも当然判っていて、何だこりゃと思いながら、画面の中の矢印をその漢字3文字へと置いてみると、
【こらこら、むやみにクリックしちゃあいけないだろうが。】
そんな文言に変わったから………これはもしかして。む〜んと眉を寄せてから、
「さんじ〜〜〜。」
ちょいと夏向きのお声で、モニタ前のマイクに向かって呼びかければ、
【よっ。】
ちゃらりららん♪ という軽快な電子音と共に、画面が真ん中から“するするる…”と解けてゆき、別なそれへと展開する。表向きには某国家研究所にて鋭意開発中ということになっている、ハイビジョンTV並のリアルタイムで連動している超高速 光ケーブルモードの、極めてクリアな動画画面であり。その真ん中でにっこりと微笑んでいらしたのは、現地はかなりの早朝であるはずの海の向こうにいる、
「サンジ♪」
そうそう。ルフィが“彼へ向けての何かの陰謀だったらどうしよう”と、一時的にでもちょっぴり心痛めていた、ムシュ=サンジェストさんであるのだが。
“…全然元気の平気そうだよな。”
ゾロがルフィの座っている椅子の傍らから見やった相手は、記憶している中の最もお元気そうな彼となんら変わらぬ溌剌ぶりであり。これは余談ながら、ルフィが相手だとどんなに落ち込んでいたって“ぐぐん”と持ち直す彼だそうだからと、そこを過小計上してみても…今からトライアスロンに挑戦して来ますと駆け出しても良いくらいに、それは生き生きしている様子だったから。まま、心配は要らないかとゾロとしても胸を撫で下ろしたほど。
【ついさっき、お前までが例のゲームに登録してたのが分かってさ。】
それで慌てて…こんな小細工を仕掛ける余裕がある辺り。これはやはり、玄人を相手に素人が案じることはなかったのかもですね。(笑) 蜂蜜をくぐらせたかのような甘い色合いの金髪に、宝石みたいな透き通った色味が、今はとびっきり優しい温かさで満たされている青い瞳。内側に光を押し込めてあるかのような やわらかな色合いの白い肌目には、そのどちらもがよく映えており、
「接続ゲートにこんな細工して遊ぶ前に、俺に言うことはないの?」
【あははvv ごめんごめん。】
不満げな言われようにも、屈託なく笑って見せる御機嫌振り。
【勝手をして悪かった。でも、他でもない“ルフィのキャラクター”が受けてしまったもんでね。】
本当に、こんな風な“商売もの”として普及させるつもりはなかったのだとサンジは言う。某○○○社へ派遣された社員というのは、他でもないサンジ本人であり、
【日本に拠点がある会社だったから、何となく…自分で関わっておこうって思ってしまってサ。】
ゾロの勤める会社のお得意先との競争になったりした時には、さぞかしファイトが沸くだろうと思っただなんて憎まれを言ってから、
【経営管理の資料を整理していた間にサ、開発中だっていう育成ゲームのソフトをちょちょいと いじらせてもらってね。】
ルフィのグラフィックを起こし、一種の“サイバー・パートナー”というキャラクターにして、自分のノートパソコンに入れておいたところが、打ち合わせ中にスケジュール表の画面をちらりと見た相手さんの制作サイドの方々が興味を持ったのだそうで、
『遊ぼうようなんて言い出して、画面の隅にオセロの盤を取り出したり、
先に寝るねなんてパジャマ姿で言って、画面の照度を勝手に落としたり。
そういう振る舞いが本物の子供みたいなんだよ。』
アトランダムなプログラムを活用し、成長させてゆくという形式のものには色々と限界がある。細かいものにすればバグだって出るから、どうしたってパターン的には画一的なものに落ち着くしかなくて。その点を画期的なものにして他との差別化を図りたいとしていたらしき、彼らのアンテナにジャストミートで引っ掛かってしまったらしく。しきりと関心を持ったスタッフさんたちから、それを現在計画中のWebゲームにも応用したいと申し出られて、
【テストモードとして配布しているのは、日本のサイトでだけなんだが…こういうのには国境はないからさ。あっと言う間に広まっちゃって。バグが出ないかの調整に、この夏中 大わらわだったんだ。】
スタッフさんたちと取り組むこういう作業ってのも楽しいもんだねと、若者たちに揉まれた経験に喜んで見せる美丈夫さんだが、
“結構な年齢だってのによ。”
そでしたね。(笑) 奥さんもいりゃあ可愛いお嬢ちゃんだっているんだ、いい加減、落ち着いたらどうだいなんて思ったゾロの傍らで、
「…っとに。」
ずっと黙っていたルフィが、ぽつりと小さく呟いた。楽しげなサンジの様子に安心した…というような様子には到底見えない真顔でいる彼であり、
【………ルフィ?】
モニターの中の金髪の君も、どこか怪訝そうな声を掛けて来たのだが、二人のお兄さんたちが間際とモニターとから見つめた少年はというと、
「ホンっトに、心配したんだからねっ。」
俯いたままに、だが、声は随分と苛烈な勢いで。暢気な空気を一気に打ち払わんという語勢でもって、一気にまくし立て始める。
「サンジって、何にも言わないで、何でも一人で、何とかしようとするんだもん。昨日まで、風間くんに話聞くまで、こんなののこと、全然知らなかったから、だからっ。また何か、厄介ごとに巻き込まれるかして、でも、話してくれないまま、一人で解決しようとしてるのかなって。どんな緊急事態なのかよりも、そんなサンジなままなのかなって。そんな、片意地張ってるサンジなままなのかなって、そう思っ…て…。」
最初の勢いが。徐々に徐々に緩んで…撓たわんで、
【…ルフィ。】
感極まって涙が出て来たか、掠れてきた声でそれでもまだ何か、言いつのろうとするルフィであり。失速しつつあるその様子にはらはらしつつも、声を掛けられすにいた いい大人二人が見守る中、
「今のサンジの傍にはナミさんとかロビンさんがいるって、だから大丈夫だって思いもしたけどさ。そう思ったら今度は…もう俺なんか、いてもいなくても同じなんだろかって………。」
言がそんな方向へと至るに及んで、
【それは違うっっ!!】
鋭い声が反駁を唱え、ルフィがひくりと息を引いて…やっと口を噤んだ。
【ルフィ、ひどく心配させたみたいだね。ごめんよ?】
何をそんなにも深刻に構えたルフィなのかが、今の混乱した言いようからは半分くらいしか拾えなかったサンジだったものの。やさしいルフィがそれは心配していてくれたらしいってこと。だからして、お調子に乗っている場合じゃなかったらしいと、それだけは判ったから。泣かせてごめんと まずは謝ってから、
【でもな、いてもいなくても…なんて、そんな悲しいことは二度と言わないでおくれ?】
繊細な作りのお顔が、寂しそうに辛そうに悲哀の表情を浮かべて見せる。
【こっちこそ、直接逢えないのがどれだけ寂しいって思っているか。今日もちゃんと起きれたのかな。ゾロの野郎なんかの出社時間に間に合わないと、それだけでこの世の終わりみたいな顔になって1日を過ごすお前だからな。料理の腕が上がったらしいから、そろそろ新しいレシピ集を整理して送ってやらないとな。日本は今年は暑かったらしいから、体を壊してはいないだろうか。あの頭の固いクソ野郎のせいで、また何か困ってないか泣いてないかって、いつもいつも心配しているのに。なのに、そんな風に言われたら…。】
「サンジ…。」
ついついモニター画面を撫でているルフィだったりするところを見ると、熱意は素晴らしく深いところへ見事に届いたらしいけれど。
“………そこまで並べるかい。”
こき下ろされたご亭主には、当然のことながら、不評のようでございます。(笑) 大事な大事なルフィなんだからな、うん、サンジだって大事な大事なサンジだよと。傍で聞いているのが馬鹿馬鹿しくなるような慈愛に満ちた労いたわり合いが展開され、
【ルフィが可愛がってもらえれば良いなってな、そう思ってのグラフィックなんだが。何だか嫌だって言うなら、すぐにも別のモデルに差し替えるぞ?】
「ううん、そんなことない。」
ただ、前以て聞かされてなかったから、何が起こってるんだろうって落ち着けなかっただけだよと、まるで…母親が素直に“ごめんなさい”を言った子供を相手に“良いのよ良いのよ”と宥めているような雰囲気になっているほどで。
“…ま・いっか。”
この二人のつながり“絆”が、いかに深いそれであるのかは、ゾロとて重々知ってはいるのだし。滅多に逢えない、遠い遠い空の下でそれぞれ別々の生活を送る彼らが、その点へどれほどの我慢を強いているのかも何となく判るから。ひょんなことが切っ掛けだったながら、相手への思い入れを確かめ合ってる二人を、今夜はそっとしておいてやることにし、そろりと場から離れた旦那様でございます。
長かったような、短かったような夏も、そろそろ終焉を迎えていて。
その幕引きにはちょっぴりホットだった騒動のこの結末に、
苦笑が止まらぬご亭主であったそうな………。
〜Fine〜 04.8.23.〜04.8.31.
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*台風騒ぎなどが挟まって日が空いてしまったせいでしょうか、
お話の方向がどんどんと変わっちゃいまして。
作中でのルフィの言いようではありませんんが、
えいえいっと書き連ねてゆくうちに見えて来るものというのもあるもんで。
素性やニュースソースを隠すという点において、
ある意味で“エキスパート”なサンジさんなら、
こんなドジは踏まないのではなかろうかと気づいてしまったんですね。
前半のそこはかとないミステリーっぽさが、
後半ではあっさり剥がれてしまっててすいませんです。
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