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良く晴れた空に、真っ白な帆が眩しいほど良く映えている。衣音くんが何とかここまで操って来た船は、かつてのゴーイングメリー号にたいそう似たキャラベルで、
「ウソップさんが作って待っててくれてたんだ。ごくごく小人数でも、素人でも、簡単に操作出来るようにっていう改良があちこちにしてあって、いい船なんだ。」
少年は嬉しそうに、誇らしげに笑った。それから、
「ウソップさんは"なんとなくそんな気がした、予感があって作っておいた"って大威張りで言ってたけど、ここへと同じように、きっと父さんが手紙を出してたんだと思う。」
あっさりと見破られてますのね。(笑)相変わらずな男だなぁと、サンジもナミもついつい苦笑して。だが、メインマストを見上げて、ふと、気がついた。
「海賊旗(ジョリー・ロジャー)はまだ掲げないのか?」
「ええ。思うより早くグランドラインへ入ってしまったんで、検討中なんです。」
丁寧な口調で応じたのは衣音で、それを引ったくるように、
「衣音が煮え切らないのが悪いんじゃないか。島ごとジャンケンで決める、なんて言っといてよ。」
「???」
「お前だって"それで良い"って言ったろうが。」
な、何の話かな? 怪訝そうな顔を向けられて、
「あ、えっと。海賊旗を挙げるかどうするか、島に辿り着くごとにジャンケンをして、勝った方の意見で決めようって事にしたんですよ。」
「成程。それで、君ばかりが勝ち続けてるんだ。」
答えずに"あはは"と笑う。いかにも慎重そうで、聡明そうな彼の選びそうな手筈なものだから、それに良いように遊ばれている少年が、ますます自分たちの船長を彷彿とさせて、サンジもナミも苦笑が絶えない。恐らくは…まだ子供だからとか、まだたった二人だからとか、そんなことが理由で"先延ばし"にしている衣音くんなのではなかろう。海賊というものが、決して夢や冒険だけで語られるような、きれいごとばかりの代物ではないと判っているからこその躊躇もあるのだろうと重々偲ばれる。
「ま、そんなに急ぐこたぁないさ。まずは物見遊山から始めても良い筈だ。」
ポリシーや矜持に、もしくは大切な人や譲れない誓いのために、一つしかないこの命を張っても良いと、本当に覚悟を決めた時でも遅くはなかろう。
「食料や燃料、あんなに一杯ありがとうございます。」
「いいさ、いいさ。補給は出来る時に沢山たんとってのが基本だからな。」
此処まで来ればそう遠い訳でなし、とりあえずは"子授け島"を目指して出発するという。そんな彼の姿がデッキの縁から海へと映り込んでいて、
"………ん?"
目の錯覚か。海の面おもてに映り込んでいた彼の、その、父親にも似た聡明そうな額の中央部。何かしらキラリと光るものがあったように見えて。はっと視線を戻して確かめると、何もない。
"何だ?"
宝石のようなもの。硬質な宝珠を思わせるかけらを、そこにはめ込まれていたようにも見えたのだが、
"…んな訳ないか。"
そういうファッションがない訳ではないが、本人の額は何も飾らぬままだと、直にそこを見やればすぐに判る。水面の乱反射がそうと見えただけなのかも…と、妙な思い違いを振り払うように軽くため息をついたサンジだった。
「さて、それじゃあ。」
お見送りの皆様へと手を振った少年の隣り。てっきり衣音だと思って、
「帆を張ってくれ。俺は錨を…。」
揚げるから…と言いかけてそちらを向いた坊やの顔が、ぴたりと固まる。
「判ったわ、張ってくる。」
「え? え?え? え?」
はしこく索具に取りついて桁木までの縄ばしごを登ろうとしたのは、幼なじみの黒髪の少年ではなく、
「ハニーっっ?!」
ここのグランシェフの宝物、オールブルーの至宝にして"奇跡の真珠"ことおいおいベルちゃんではないか。長い御々脚おみあしをさらした軽快そうなショートパンツ姿が眩しい、溌剌としたいで立ちで、気がつけば甲板には5、6個はあるトランクの山。もしかしなくとも、彼女の荷物であるらしい。
「ベルっ! あなた、どうするつもりなの?」
「ついてくのよ。何だか面白そうなんだもの。」
「はあ?」×4
親御さんばかりでなく、少年や衣音までもが呆気に取られて空いた口が塞がらない。
「馬鹿な真似はおよしなさいっ! 何にも知らないあなたがついてっても、ただ足手まといになるだけよ? 邪魔をしちゃいけないわ。」
「あら、だってお母さんだって航海士として船に乗ってたことがあるんでしょう?」
「あなたにはそんな技術もないでしょうがっ!」
「でもでも、お料理なら作れるわよ? それにお宝の鑑定だって出来るわ。」
「あなたのお料理って…新鮮な材料が揃ってなきゃ成り立たないものばかりでしょうがっ。」
このやりとりに、つい、
「…それってどんな料理だと思う?」
「冷や奴に20ベリー。」
「じゃあ俺は卵かけご飯に50ベリー。」
こらこら、坊やたち。(笑) 父と母と娘の掛け合い漫才、もとえ…説得合戦はもう少々続きそうで、これは当分出港は出来そうもないらしい。なかなか愉快な彼らの冒険の旅は、その最初のページを………まだ全然、めくってもいない辺りなのかも知れないのだった。
〜Fine〜 02.1.3.〜02.2.27.
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*そうは見えないかも知れませんが、
これは"サンジさんバスデイ企画"です。
日付でお察しの通り、お正月から手をつけていたにもかかわらず、
何だかもたついた内容へよじれてしまいまして、
気がつけばぎりぎりのUPという運びになってしまいました。
途中からサンジさんよりも坊やの方へ比重が傾いてしまったのが敗因です、ええ。
ホントは単なる"その後のシェフ殿"という、
素描風のSSにするつもりでいたのですが、
思いもかけず、
彼がルフィと泣く泣く?離れることとなった下りを
細かく書いても良い機会に恵まれたもんですんで、(葉サマ、リクありがとうvv)
じゃあ…ってんで、
こっちはどんどん坊やのお話という色が濃くなってってしまったようです。
それにしても、双璧のどっちもが奥さんと娘に頭が上がらない辺り…。(笑)
*それにつけても。
最初は単にお気楽に、
"子持ちになってしまったルフィとゾロ"という設定しか考えてませんで。
10,000HIT記念という期間限定企画で終わるだろうと
そんな風に思ってたんですよ、奥様。(こらこら)
それがこうまで枝葉が広がりの、設定が固まりのして。
SAMI様まで引きずり込んでのシリーズものとして立ち上がってしまいまして。
こうなると、自然と考えなきゃならないことも、あれこれ出て来ます。
摩訶不思議な出生について、
自我も芽生えた子供たちの側からはどう思ってたんだろうかとか、
今回話題に上らせたような、
何だかシリアスな課題が待ち構えてもいた訳です。
けどまあ、さほど深刻な話には致しません、はい。
(だってほら、Morlin.は痛い話が大っ嫌いだし。)
ぱっきーっと明るい子供たちです。
だってあの彼らが伸び伸びと育てたんですからねvv
*…ところで、
この期に及んで、まだ坊や(とお嬢ちゃん)の名前が決まっていません。(笑)
決めちゃうとはっきりくっきりと別なお話になってしまいそうで、
支障がない限りこれで押し通そうと此処まで来ましたが…。
いっそのこと"ゾロル"というのはいかがでしょうか?(まんまですがな/爆笑)
お嬢ちゃんは"海"を引っ繰り返して"みう"とか。
(あ、どっかのサプリメント飲料みたいかな?)
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