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衣音くんの十八番である“投げ小柄こづか”も、わざと致命的な箇所へは当たらないようにと繰り出されていたし、船長さんが見せた太刀さばきにしても、わざわざ刃を返しての“峰打ち”という格好になったから。徹底的に殴られないと相手が降伏してくれないという形の体力勝負な活劇になってしまったのだけれど。大勢の見物がいたせいか、相手も…最初こそ破れかぶれな勢いで一斉に向かって来たが、一気に激高した分だけ鎮火も思ったより早かったらしい。…これも若さの差ですかね。(苦笑) そして、
「いいぞっ! 坊主たちっ!」
「海賊なんざ、やっちまえっ!」
それなりに背丈や体格は伸びつつあるものの、それでも…どうみたってお子様な少年たちによる、そりゃあ鮮やかで痛快な活劇が繰り広げられたものだから。野次馬の垣根は時間を追うほど ずんずんと分厚くなり。港にも当然設置されてあった警察の出張所からの係官が、駆けつけはしたものの なかなか近づけなかったほどだったとか。そんな無勢さえ影響なく…1ダースほどいた悪漢どもをたたんでしまった少年たちの腕っ節や、時々思い出したように迫り来る懲りない連中を 見張り台から動かないまま鞭の一閃で軽々とはたき落とすお兄さんの動じない態度が、人々からの大喝采を誘い。襲撃当時は船に居残っていたのが か弱い女の子たった一人であったというのが判明したことで、周囲に集まっていた見物の衆たちからは、尚のこと激しいブーイングが沸き起こり、縛り上げられた海賊たちに容赦なく浴びせられることとなったのだが。
――― そう。だ・が、である。
さして周到でもなかった、むしろ無策すぎるほど無謀な彼らが。外海の海上でのお手合わせで一度平らげられているにもかかわらず、こんなところまでわざわざ追って来て、別名“海賊キラー”などと呼ばれているような彼らへのリベンジを仕掛けて来たのには…さすがに理由があったらしく。港湾警察へと身柄を引き渡す前に、その辺りを坊やたちが問いただしたところが。
「俺たちは“暁の明け星”っていうスタールビーを取り返しに来ただけだ。」
さすがに観念したのだろう、リーダー格だった尖りアゴ男が渋々と白状した“動機”とやらがそれだったのだが、
「“暁の明け星”?」
「スタールビー?」
「そういや、あったよう、な…?」
う〜ん? そうだったか? そんな大層なものなんてあったか? と、3人揃って右に左に何度も小首を傾げてしまうほど。彼らの印象にはこれといって残っていないような“お宝”にすぎなかったようなのだが、
「あ、あれはなぁっ! ウチのお頭が、初めての航海の初めての襲撃で強奪した、記念の品なんだよっ!」
「…そんなこと、威張ってどうすんのよ。」
まったくである。呆れ半分、細い肩をひょいとすくめたベルちゃんだったが
「それだけじゃあない、結構な値だってついてるんだっ。」
何たって某大国の首都市長さんが愛人へとプレゼントしたほどの品なんだと、ますます妙な威張り方をするもんだから、
「そうかしら。単品ではせいぜい10万ベリー。指輪や何かに使ってあって何とか30万ってトコかしら。」
呆れたのを通り越し、いっそ腹が立って来たらしいベルちゃんが、やっとのことでブツを思い出した模様。ほらほら、楕円形の赤い石を覚えてない? 光の加減で真ん中に*型の条が浮き出す宝石。ああ、でも同じのが2つあったぞ、どっちのだ? 色みがよくて大きかった方のは、サイライ島で海王類を倒したお礼にもらった中にあった石だったでしょ? だからあっちじゃない方よ…と。何とも情けない説明を交わされてから、
「ああ、思い出した。」
ポンっと船長さんが手のひらを叩いて見せ、
「あれだったら、イロをつけてもらって15万で買ってもらったよな。」
騙そうとしたお詫びだって、換金所のお兄さんがサービスしてくれて、そんな値になったんだよね? ああ…と。まるで“幼稚園で先生に褒められたんだよ?”とお母さんに報告でもするかのような軽やかさで、お顔を見合わせ、くすすと笑う坊やたちの言を前に、
「そ、そんなぁ〜〜〜。」
がっくしと肩を落としたおじさんたちこそ、いとあはれなり。………残念でしたね、海賊さんたち。(苦笑)
◇
次なる問題は…といいますか。奇襲を仕掛けた海賊たちがやっとのことで検挙されてった後の、それからそれから。
「……………で。」
相変わらずに。それは穏やかに、にっこりと微笑っているお兄さんが約一名。依然として甲板に居残っていらっさる。つばの部分も曖昧な、目の詰んだ麻のふくろのような形の濃色の帽子を、銀色にも見える濃灰色の、肩に触れるほどの柔らかそうな髪の上へと小粋にかぶり。先程 鮮やかに操って見せた鞭のように、スリムながらも強靭そうな、撓やかな肢体をした二十前後という年頃のお兄さん。黒地のシャツにやはり黒のスリムなパンツ、その上へと重ねた半袖のジャケットといういで立ちは、あんまり“船乗り”っぽくはなく、だがだが、観光客にしては失礼ながら垢抜けてない。地元の人…だとしても、やっぱり色々と、気になる人物であったりし。
「こんな騒動の真っ只中に、一人でいたベルちゃんの傍らへいち早く駆けつけてくれて、その後も完璧なガードまでしてくれて。それは物凄く助かったんですけれど…。」
うんうん。頼みもしないのに か弱いレイディを守って下さったお心遣いは、本当に本当にありがたいのではあるけれど。腕に自慢の男として、そんな事態を看過出来なかったからにしたっても。そんな心意気だけで、こうも間が良く駆けつけることが出来るものだろかという点から慮(かんがみ)るに。
「あんた、一体何物なんだ?」
船長さんたちでさえ、間に合わなかった突発事態。実は実は、何かあったらキッチンのオーブンへ花火を放り込めと言ってはあったが、それさえ実行出来なかったほどのパニックに陥っていたベルちゃんであり。それほどの奇襲だったのにと思えば、どう考えたって。こうまでの助け舟を出せたというのは、引っ繰り返せば…彼らへの関心なり注目なりがあってこそ、異変をいち早く見とがめることも出来て、成り立った対処ではなかろうか。そんな順番でしょうよという含みをもって、敢えて訊いてみた緑髪の船長さんへ、
「そうだね。そういう用心深さがなけりゃあね。」
此処まではともかく、此処からは“運”だけでは進めない海だからと、誰をこそ不審がっているのか、判っているやらいないやらな穏やかそうな口調で応じて下さってから、指の長い綺麗な手で帽子を取ると、それを恭しくも自分の胸の前へと伏せて見せる。
「俺の名前は、フレイア=バスクード。
親父は、シュライア=バスクードっていう、元“海賊狩り”だ。」
さらりと明かされた肩書きに、
「え…?」
「…あ。」
船長さんの、そして衣音くんのお顔が見るからにハッと弾かれて。
「デッドエンドレースってのをした時に知り合ったっていう?」
「“将軍”なんて呼ばれてた相手へ、たった一人で殴り込みをかけたって聞いたけど。」
おおお、一応は聞かされていたらしい。(笑) そんな二人の反応へ、
「何なに、海賊さんだったの?」
こちらさんは唯一まるきり心辺りがなかったベルちゃんが、話の流れから、船長さんの親御さんのお知り合いということは…と、思いついたままを口にしたところが、
「いや、むしろ逆だ。」
違う違うと訂正を受け、
「海賊処刑人とか言われてた賞金稼ぎでサ、まだ若かったのに凄腕の一匹狼で、当時のグランドラインでも結構有名だったらしい。」
そうと語ったのが船長さんなら、その後を接いで衣音くんが話を続ける。
「けど、それってホントは、自分が住んでた町を焼き払った海賊を捜し出して、復讐するためのことだったって。」
それがために無茶をしまくり、その腕前とともに名も上げて、海賊の世界での頭角を現し、ついには念願の仇敵とも出会うに至ったのではあったのだが………詳細は『劇場版 ワンピース“デッドエンドの冒険”』をご参照くださいってですかね。こらこら 海賊時代の冒険のエピソードは、それこそ山ほどあったろうに、その中からこの話をしてあげていたルフィ母さんであったらしく。そしてそして、詳細までちゃんと覚えていたお子たちでもあったのは、
「一緒に旅をする仲間としてっていうような出会い方じゃあなかったんだってな。母ちゃんとしては、決着がついてない喧嘩での再戦をしたかったらしいけれど。母ちゃんたちは海軍に追われてたし、シュライアって人の方は方で、生き別れになってた家族とも逢えたんで もう海賊にかかわるのはやめるって言ってたから。そこで別れてそれっきりになったって。」
当然のことながら、それはこの、目の前にいる彼本人のことではないし。シュライアという人の方にだって、当然のことながら逢ったこともない坊やたちであるのにね。なのにこんなにも、そりゃあ嬉しそうな彼らでいるのは、恐らくね。お母さんたちに聞かされた数ある冒険譚の中、殊更印象的だったお話に連なる存在と、こうして実際に出会えた興奮から。
「話は聞いてたけど、母ちゃんも父ちゃんも今ひとつ絵心がなかったもんでサ。」
こんな奴だと絵に描いてくれたこともあったらしいが、そこからの言葉をついつい濁した坊やの気持ちは…判らんではない。確かになぁ。ルフィさんの絵画の腕前ってば、凄まじいものがありましたからねぇ。(苦笑) でもでも、
「言われてみれば…髪の色とかも聞いてたのと同じだし、ゴツゴツと筋肉質ではなく、しゅっとしたスマートな兄ちゃんだったとも言ってたから。」
それらへの符合を素直に嬉しがってる船長さん、
「結構いい男だったって母ちゃんは言ってたし。」
「…そんなことを言ったから、お父さんの“絵心”までもが鈍ったんじゃないの?」
ベルちゃんたら鋭〜い。そうかもしれないよね、うんうん。(笑) そんなこんなが明かされたのへ、我がことを語られてでもいるかのように、面映ゆげなお顔をしていたフレイアさんだったが、
「麦ワラ帽子を宝物にしてたんだってな。親父が騒動の最中に、無くさないよう拾ってやったのを、こんなもんでそこまでって驚いたほど感謝されたって。」
おおう、そこまで知ってるなんて。まだ観てない人へは“ネタバレ”になるから、回想はその辺にしといてほしいのだが。こらこら
「生死の境を渡りかねないような修羅場で色々と世話になったし、何たって十代って若さであっと言う間に“海賊王”になっちまった伝説の人だからね。あんたの親御さんの話は親父や叔母からよく聞いていた。海へ出るのなら、あんな痛快な奴らになって気持ちのいい旅をしろって言われてた。それから、まあ…よくある話で、田舎暮らしに飽いて海へ出たんだが。」
そんな出先のあちこちでも、父から聞いた以上の冒険話が沢山残されている先代の海賊王の。その息子らしき存在が、グランドラインへ出たという話が、その筋にてひたひたと広まっていて。だから、いつかどこかで出会えるのを楽しみにしていたと言われて、
「え? そこまで素性が知れて広まってるのか?」
それにしては…咎め立てもないままだったし、海軍さんにも手配の海賊を差し出したりして過ごして来たのにねと、キョトンとした彼らだったが、
「曖昧なまんまの部分も多いまんまに、だからだよ。」
だってサ、公け的には今世紀最高額っていう賞金首なままな人たちなんだし。そんな人たちが子供を作って、しかも再びの伝説目指して…かどうかは判んないけど、海へ旅立たせただなんて噂を、天下無敵の正義集団ってことになってる海軍が堂々と肯定出来るかい? 陸(おか)へと取り逃がしたってことを認めたくはないだろうしね。
「しかも。」
綺麗な人差し指をピンと立て、
「もう聞き及んでいるかもしれないが、
今のグランドラインでは“秘石”の噂でも持ち切りだ。」
「あ…。」
あれは、ルフィさんたちが手に入れたっていう秘宝“ワンピース”のことじゃあないのかってな話も根強くてサ、
「君らがグランドラインに戻って来たのも…いや、君らにしてみりゃ初の航海なんだろうけど。その“秘石”に何かしら関係があっての船出じゃないかって噂が、一番人気で飛び交っているんだよ?」
すっぱりと言われた当事者さんたちはといえば、
「そ、そうなのか?」
「…そこまでは知らなかった。」
「こう言うのを“灯台下暗し”って言うんでしょうね。」
こらこら、今更こそこそと輪にならない。(苦笑)
「ま、皆がみんな、そう思ってる訳でもないから、まだ安心してていいと思うけれど。」
先程の海賊たちなんて、自分たちの誉れにしか関心がなかったくらいだしね。そう言って“くすすvv”と笑い、
「で。俺としてはサ、親父が言ってたルフィさんには逢えなくても、その息子さんに逢えるのならってことで、それをゴールにグランドラインを渡り歩くことにした訳で。」
いまだ伝説が紡がれ続けてる、破天荒にして気さくで明るかった、希望の星とまで呼ばれているような“海賊王”の子供たち。きっとやっぱり天真爛漫で天衣無縫の、前向きな子たちである筈で。そんな子たちと関われたなら、きっと楽しい想いが出来るだろうなと、ワクワクしもっての旅を続けていたという。………それって、でも。
「もう逢えちゃったじゃん。」
そうだよねぇ。彼の側からは、自分で決めてた“プラン”の結末なのかもしんないが、
「じゃあ、此処がゴールなんか?」
そうと問いながら、船長さんが…ちょこっと眉を下げて見せたのは、それじゃあ残念だようと思ってしまったからだろう。そんな彼の態度を差して“明け透けすぎて不用心だ”と諌めなきゃならない筈の衣音くんもまた、どこか話の行く末を案じるようなお顔をしている。こっちからは今日初めて逢えた人。これから何かが始まるのが“出会い”な筈だってのに、勝手に“これでエンド”とされては堪らないと、何故だかそんなことを感じた坊やたちであり。そしてそんな機微は相手へも伝わったのだろう。
「ん〜〜〜。此処まで来て、じゃあそういうことで…ってのもネ。」
何せ、世間がこうまで囁いていた“秘石”についての最新の情報を、彼らは当事者でありながら全く知らなかった様子だし。
“ホンット、危なっかしいったらないんだもんね。”
腕っ節だけじゃあない、信念を支える覚悟とやらへも。一人前の代物をしっかと抱えてそうな、張りのある眸と力の籠もった面魂をしてはいるけど。恐らくは此処までを、持ち前・自前の膂力だけで渡って来た彼らに違いなく。どんなに柔軟な魂をしていても人間不信に陥りそうな、そんな壮絶な修羅場がこの先に幾らだって襲い来るのだろうにね。それを踏み越えなければ、先へは進めないというような。裏切りという穢れを自らに塗ぬすくらなければ、生き残れないような場面だって出て来るだろうに。こんなにも幼い子らばかりで、果たしてそれを踏破出来るものだろか。
“まあ、そこまでの責任は、ボクにも負いかねるところだけれど。”
おやおや? 結構なお言いようをも構えていらっさるご様子で。幾らなんでも この年齢で、そこまで純粋ピュアな誠実さを保っていたのでは、安穏に生き延びていられませんからってことでしょうか? さりとて…自分の出方を待つかのように、息を詰めての注目をされては、
“…参ったな。”
確かに、彼らへと近づくことは予定のうちだったものの、こんな眼差しを向けられるとは想定外。弱いものが強いものを頼るという眸ではなく、だが、せっかく出会えたのにと惜しむような気配をありありと向けられて、多少は感じる何かもあったのだろう。
「君らもグランドラインの果てを目指しているんだろ?
だったら、ご一緒させてもらえないかな?」
少しくらいならお役に立つと思うしサと、笑ってこっちから申し出た彼だったが………ホントはね?
“契約を持ちかけようと思ったのにね。”
だって自分は彼らのような、物見遊山の旅をするつもりはないのだから。これでも目的ってのがあって、それへと近づくのに一番の近道だと思っての接近で。だからね、いざとなったら彼らを見放すことだってあるかもと、そんな心積もりでいるんだのに。
「やたっ!」
「これで4人組だなっ。」
「頼もしいったらないったらっ♪」
ますます“女性比率”が低くなったのに、ベルちゃんまでもが手放しで喜んでいる辺り。これはこれはと内心で苦々しくも苦笑するしかない、フレイアお兄さんだったりしたらしい。
おまけというか 終章というか 
賊どもを引っ立てていった海軍事務所からは、翌日になっても特に事情聴取というものも言って来ない模様であり、ログが溜まったらそのまま出港してってもいいって事だろうとフレイアは言う。
「海軍にしてみりゃあ、海賊はまずは検挙するのが原則っていう対象だからね。」
この船で年端も行かない少年たちを相手に暴れていた件は“現行犯”だった上に、目撃者にも事欠かないんだし。よって…事件としての成立っていう順番としてはおかしいかもしれないが、君らから話を聞くまでもないってことになるんだろうさと。きっちり説明して下さって。それからそれから、
「そうかい、そうかい。やっぱり坊主たちの騒ぎだったんかい。」
預けてあった船長さんの大太刀は、鍛冶屋の頭領が朝も早い時間帯に直々に船まで届けて下さった。何でも彼らの活躍の話は、昨夜のうちから今朝に至るまで、町のあちこち、行き交う人や顔見知りのほぼ殆どから聞いたそうで。そうまでの腕っ節だったとはとやたらに感銘してくれて、
「その“炎獄”は坊主にやる。」
ウチの床の間で鞘に収まったまんま くすぶってるよか、将来の大物の腰にあって名を残したいだろうからよ…なんていう、勿体ないお言葉つきで、どうしても持ってけと言われ。思わぬお宝を有り難くもいただくこととなってしまった。
「何だか今回は、色々とラッキーなことばかりが続くよなぁ。」
自慢の太刀も見事な出来で仕上げてもらったし、その上にこんな良業物の刀まで頂戴してしまった。なかなか事情に通じた、年長さんのお仲間も増えたし、しかも…その上、
「トマトとバジリコのバランスはこんなもんで良いのかな。」
なんとフレイアのお兄さん。自慢は鮮やかな鞭捌きだけでなく、新鮮な海鮮ものをメインに据えた、ウォーターセブン風ラテン料理がお得意と来て。
「うわぁ〜〜〜♪ 衣音くん、肩の荷が少しは降りたわねぇvv」
仲間入りのお祝いと自己紹介を兼ねてと、テーブルへと並べられた、カラフルな野菜も美味しそうなアクセントになってる見事なお料理の数々に、ベルちゃんは素直に喜んでいるようだったが、
「俺は衣音のメシのが良いんだけどな。」
「…お前ね。」
まだ言うとりますか、この坊ちゃんは。(苦笑) 美味しい朝食をにぎやかに片付けて、さて。埠頭には楽しい活劇を披露してくれてありがとうと、気をつけて行きなという見送りの人だかりも出来ており、そんな中を大手を振りつつの大威張りの出港となった彼らだが、
「でもさ、こんな出港もいつまで出来るかだよな。」
帆の調整も外海へ通じる航路に向けての舵の確保も、こんな少数の頭数でもあっさり済ませられる便利な船だから。そうそうに分担仕事を片付けて、船端に胡座をかいて腰を下ろすと、潮風に明るい緑という色合いの髪をなぶらせながら、船長さんがぽつりと呟く。んん?と聞きとがめたらしく、そのまま立ち止まったフレイアさんへ、
「俺たち海賊になろうって、海賊王を目指そうって海に出たクチだからサ。」
いつかは旗揚げもするつもりだしね。あ、そうなったら、フレイアにはベルと一緒に降りてもらうことになるかも知んないな。乗ったばかりの仲間を掴まえて、そんなことを言い出すところがまた、屈託がないというか…思うところを利口に隠し果おおせない困り者だというか。そんなところが何とも微笑ましいねと苦笑をしつつ、
「俺は別に、海賊を嫌ってはいないよ?」
そりゃあ昨日は対抗したが、それは“海賊が相手だったから”が先に来てのことじゃあないしねと、すぐ傍らに頬杖をつき、そんな心情を穏やかな声音でやんわりと紡ぐフレイアであり、
「だって、ここはグランドラインだからね。」
「?? グランドラインだから?」
それってどういう理屈なの?と。ひょこりと小首を傾げた坊やへ、
「海賊ってのも立派な職業に数えられかねない環境だってことサ。」
モーガニアの悪業ばかりが上げつらわれてしまうけど、冒険が目的のピースメインだって当然のことながら少なかない。補給地になってる港の人たちと諍いもないまま仲良くやってる海賊団だって珍しくはないし、大昔には丸ごと海賊だって民族だっていたらしい。それをまた誇り高く公言して憚らなかったらしいからねと告げてから、
「とはいえ、ああいうのは褒められはしないクチだろけど。」
クスクスと笑いながら視線で示した先の海原に、ありゃりゃ、お邪魔な船影が。
「あれって…。」
見覚えがあるシルエットだなと、身を伸ばしつつ肩越しに見やった船長さんへ、
「仲間を心配して迎えに来たんだろか。」
舵を取ってたキッチンキャビンから出て来た衣音の声が届いて、ああと思い出す。昨日の襲撃をかけてきた海賊たちの、言わば母船じゃああ〜りませんか。港の外で待ち受けていたらしいとは、なかなかしぶといねぇと笑った銀髪のお兄さんが、
「皆それぞれに何かに掴まっててくれるかな?」
笑顔のまんまでそんなことを言い出して、
「?」×@
怪訝そうなお顔になりつつも、船端や手摺り、ベルちゃんに至ってはすぐ傍らにいた衣音くんへと両手で掴まって。それを見届けたフレイアさんが、ひゅ〜い…っと高らかな指笛を吹いたその途端。
「え?」
「わ♪」
「あらvv」
ざっぱ〜んと海面から飛び出して来たのが…それは巨大な大イルカ。グランドラインには珍しい種ではないし、島ほどもある海王類の大きさを思えば、坊やたちのキャラベルと同じくらいかというこの大きさは“小ぶりな方”の大型水棲哺乳動物。そういった理屈を頭の中でパパパッと組み立てた衣音くんが、しみじみと感じたのが、
“………海って広いよなぁ。”
ホンマやねぇ。(苦笑) それはともかく。確かに“呼ばれて”現れたにもかかわらず、こっちの小さなキャラベルにあんまり近づかないでいてくれる辺りからして、相当に仕込まれているらしくって、
「あっちのおじさんたちに遊んでもらっといでvv」
「きゅいぃ〜いvv」
フレイアからの手振りつきの指示に、海上へと出していた大きな頭を愛想のいいお辞儀を思わせる仕草で振って見せてから、
「きゅぅう〜いっ!」
一直線に撥ねてった素早さは大したもの。当然のことながら、そんな“大物”に近づかれて、水の上という不安定なところで浮いている身が無事でいられる筈はなく。
「わぁ〜〜っ!」
「あっち行けっ!」
大波に揺すぶられて退避の操舵も侭ならないところへ、ザバン・パシャンという撥ね上がりのタイミング、撥ねて潜って撥ねて潜っての“撥ねて”の着水点の間近に、丁度 船があったから堪らない。
「うわぁあぁぁあぁぁっっ!!!」
ああまでデカいイルカの作る波紋の、一番大きな波動に直撃されては、戦艦だって無事ではいられなかったろうからね。中規模程度の帆船は、避け切れない横波を食らった格好でそれは呆気なくも“たぱん”と転覆してしまった。
「ありゃりゃ。」
「悪魔の実の能力者がいなきゃあ良いけど。」
それ以外なら、海賊ならまずは泳ぎが達者な筈で。額へ小手をかざして眺めやった先、船の残骸やら積み荷の樽や木箱が波間へ浮いて来るのへと、クルーたちが次々にしがみつくのが見渡せる。港に近い位置だから、さして間もなく巡視船が見つけてくれるに違いなく、
「…凄げぇ〜〜〜。」
これはまた物凄い奥の手があったもんだ。こっちはさほどにも揺れなくて、こんなに静かな海なのにと、ほんの数キロも離れてはいないところでだけ起こった“嵐”の跡を眺めていると、その視野の中へ…海水の藍色を薄めつつ、淡いグレーの大きな物体がゆるゆると浮き上がって来た。
「チャッピーっていうんだよvv」
人懐っこい子だから可愛がっておくれねvvと、相変わらずのはんなりした笑顔で紹介してくれたお兄さんだったが、
「………まさか、あれに乗ってグランドラインを渡り歩いてたんじゃあ。」
「あの懐きようから見て、あり得ないとは言い切れないよな。」
こらこら、坊ちゃんたち。
「だったらあたしも乗ってみたいな〜〜〜vv」
ベルちゃんまで、なんてこと。(苦笑) 少しは驚くとか、あり得ない〜〜〜と慌てるとか…ってのは、彼らには今更なんでしょうかね。何だかとんでもないお仲間が増えたようですが、はてさて、これからどんな冒険が待ち受けている彼らであることやら。………正直言って筆者は不安でございます。おいおい
〜Fine〜 05.4.07.〜4.30.
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あき様 『ロロノア家・外伝 新海賊王伝説ものを』
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*お久し振りの坊やたちのお話でございます。
なかなか仲間が増えませんね、そういえば。
以前に“ビビちゃんの子供を加えたら楽しいんじゃないか”という話が
ちょろりと出たことがあるのですが…どんなもんでしょうね? 実際。
*そしてそして、ドえらい設定の人を加えてしまった訳ですが。
み、皆さ〜ん。ついて来れてますか〜?(苦笑)
『デッドエンドの冒険』は一番好きな劇場版でして、
(次点は『珍獣島のチョッパー王国』)
ゾロが結構美味しかったことと、
シュライアさんのカッコよさが何とも印象的でした。
此処からどんな話に展開するやら、私が一番不安がっておりますが、
よろしかったらお付き合い下さいませです。
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