ロロノア家の人々 Tea timeより
     
温泉に行こう!・U おまけ

    *今回は"R−15"でございます。
      そういう内容・描写がありますので、ご注意ください。
      (間違って来ちゃった人は、プラウザの"戻る"で帰ってね?)
      高校生以上のお嬢さん方オンリーですので、
      中学生以下のお子様と男性は読んじゃダメだよんvv




        


   『お前の"宝"のこの刀、返してほしけりゃ仲間になれ♪』


 始まりは"契約"。大切な刀を"人質"ならぬ"モノ質"に取られて、仕方がないからと仲間になった。


   『約束だ、海賊には なってやる。
    だがな、お前のせいで俺が野望を断念するような事があったら、
    世界一の大剣豪になるのを諦めるようなことになったなら、
    そん時は腹切って俺に詫びろっ!』


 好き勝手やり放題な権勢者の息子に逆らったから野ざらしの磔
はりつけなってた自分。そうだと聞いて、あれほど憤怒した彼だったらしくって。後にそれと聞いたのも、多少は関心を持つ"鍵"になったが、そんな些細なものはすぐにどうでも良くなった。何しろ途轍もないほど忙しい日々が始まったからだ。余計なことに限ってわざわざ首を突っ込む。事態が混迷へ向かう方向かう方を何故だか選ぶ。正直が過ぎて要領が悪い。それらの結果、とんでもない騒動に巻き込まれなければ日を送れないような、何だか騒々しい海賊団になってしまった。(笑)

   ………そんな中。

 事ある毎にお馬鹿な奴だと思いつつ、そしてそのお馬鹿に振り回されつつも、彼と気が合うのが何だか無性に嬉しい自分に気がついた。現実世界では建前に過ぎない"正道"を馬鹿正直に信じて貫く無茶な奴。強い奴が勝った奴が正義だというなら、要は勝ちゃあ良いんだと。言ったそのまま、強大な敵にしゃにむに食いついて。結果、勝ってしまうほど、しっかりと腕っ節も強い奴でもあったがそれはそれ。その心根と信念の、小気味の良さが気に入ってしまった自分だったのだと思う。懸命で何が悪い、一途で何が悪い。どんなに遠くても、本人が諦めない限り、夢は叶うし、望みは届く。そうと胸を張って言い放つ彼に、元は持ってた筈がいつしか忘れていた何かを思い出したような気がして。実は諦めてなんかないくせに、いつしか斜
はすに構えて夢を現実から切り離し、したり顔でいた自分がいるのにも気がついた。悪あがきや遠回りをしても良いじゃないかと、不器用でも構わないんだよと、言ってもらえたような気がして。気がつけば…彼の夢に自分から乗り込んでいた。それぞれの高みへと登るお互いを、叱咤し合うため、見届け合うため。


   ………そして、


   あの屈託のない笑顔を、
   奇跡のような存在を、
   この腕の中、閉じ込めておきたいと思う自分に気がついた。



            


 旅行から戻って来ると、つい口を衝いて出るのが、オズの魔法使いに出て来る呪文と同じ一言だというのはご存知か?

  『やっぱりウチが一番良いvv』

 どんなに楽しかろうと、どんなに骨休めが出来ようと、やっぱり"お家"が一番良い。気を置かないで過ごせる空間。大好きな家族が当たり前のこととして待っていたり帰って来る空間。子供たちには一番最初の自分の居場所であり、大人たちには築いて守る大事な居城。


 一足早い"秋"を堪能出来た温泉への家族旅行は、色々とイベント盛り沢山で楽しかったし、文字通り荷馬車に山盛りのお土産を持って帰れた。子供たちは"初めて"をいっぱい体験し、拙い言葉を精一杯に駆使して、ややもすると興奮気味に留守番していた家人たちに語って聞かせた。明日はきっとお友達へも、身振り手振りを交えてのご披露となることだろう。
「………。」
 帰り着いたのは早いめの夕刻で、お借りした荷馬車を返しがてら、秋の味覚というお土産をおすそ分けにと持って行った『えるど』の女将のサミさんは、粒よりの栗やギンナンや山菜に、
『よ〜し、特製ひろうす作るから食べに来てねvv』
と笑ってた。その他のお土産の整理はツタさんたちに任せて、お風呂に入ってご飯を食べて。興奮疲れした子供たちを寝かしつけつつ、ふと見やった円窓前の座卓の上、大きな花瓶にコスモスの花束が生けられているのへ、ついつい"クスッ"と笑う。摘んでしまうとあまり日保
ちしないよと言っておいたのだが、それでもどうしてもとお嬢ちゃんが気に入って摘んでいた可憐な花々で。秋の透明な空気の中に、鮮やかな濃緋色やピンク、白と咲き誇っていた鮮烈な色合いも、今は有明の光に柔らかく照らされて濃淡しか分からなくなっている。
『何で"秋の桜"なんだ?』
 コスモスの和名だよとシマさんがそう言ってたのへ、帰りの道すがらゾロに訊くと、
『さてなぁ。』
 彼もまた、そういうことには少々不案内だからか小首を傾げていたが、
『春の桜みたいに、どこか華やかだったり寂しかったり。人の目と気持ちを引き寄せるからじゃないのかな。』
 そんな風に言っていた。
"華やかだったり寂しかったり…か。"
 薄暗いからそう見えるというのでなく。どこか乾いた陽射しを浴びて、透き通った秋の空気の中で揺れているコスモスの花は、存在感のあるガーベラに似た姿をしていながらも、どんなに大きな群れになって咲いていても。確かに…何だか寂しげでもある。そして、この村ではそれは見事で見物客もある春の桜もまた、夕暮れ時などに一人で見ていると、日頃明るいルフィでさえ何かしら感じ入ってしまうほど、何だか物寂しい風情があった。
「……………。」
 思えば…生まれ故郷にしてもそこから飛び込んだ海の世界にしても。音もなく巡る四季や、その狭間の時期の移ろいというもの、今ほど感じることの出来る環境ではなかった。音もなくやって来て、気がつくと辺りを染め上げ自分を包み込み、そしてまた、次の季節に音もなく塗り替えられてゆく繰り返し。木枯らしの囁きと雪の無音。幼い野鳥、揚げ雲雀。夕立ちと雷に蝉しぐれ。そして今は、秋のよく通る空気の中、どんな物音も何だか寂しく聞こえてしまい、ついつい人恋しい気分にさせる。
"ゾロが、俺みたいな単純そうに見えて実は何かと奥深くてよく考えてるのは、こういうトコで生まれ育ったからなのかもな。"
 それは大きな野望を胸に、広い海原へ単身飛び出した向こう見ず…であったところは同じ。やること成すこと、どこか破天荒で無茶苦茶で。だというのにも関わらず。まだ若造の分際で…いや若造だったからだろうか。譲れないものとして構えてた、生きざまだとかポリシーだとか、アイデンティティーに直結したそれら大事なことへの破綻もないまま、悠々と生き延びていられたのは、どこか青くて危なっかしい信条を補って余りある、度量と実力の持ち主であったから…なことも似た者同士。けれど、
「………。」
 あの当時もそうだったが、今も時々、しみじみと思う。自分だけならどうなっていただろうかと。それなりの仲間は集まったかもしれないが、今のような充足感は得られなかったのではなかろうか。例えゾロ以外は全く同じ顔触れがきちんと集まったとしても、それでもやはり、何かが足りないと感じた自分なのではなかろうか。何も言わないままにフォローしてくれて。こっちからだって、彼の無言の中の何かをちゃんと心得ていて。そんな"相棒"と…今や掛け替えのない"半身"と、ちゃんと出会えた幸運を、ひょんなところでしみじみと実感してしまう。
「…どした。」
「ん…。」
 とたとたと雨戸を立てた縁側廊下を辿って、一番奥向きの夫婦の部屋へと到着し。枕元から少し離した有明行灯のほわりとした明かりの中、延べられた寝床に胡座をかいて待っていたゾロから掛けられた声へと顔を上げると、
「あんな。ゾロと逢えてホントに良かったなって。」
 自分の胸の中で転がし辿った、そんな想いに至るまでのあれやこれやを、相手は当然知らないのにも関わらず、勝手に省略してのお言いよう。薮から棒にそんなことを突然言われてもと、
「…☆」
 一瞬、かすかに眸を見開いたゾロだったが、
「どうしたよ。お前でも秋は人恋しくなんのか?」
 男臭い顔を苦笑にほころばせてそんなことを言うものだから、
「むむう、失礼だな。俺でもってのは何だよ。」
 柄じゃあなかろうという意味なら失敬だぞと、頬を膨らませて布団の上へぽすんと座る。朝晩の冷え込みから、もう既
とうに綿の厚い夜具に入れ替えられていて、行灯の柔らかな明かりがふかふかな夜具を黄昏の色に染めている。
「………。」
 正座を崩したような、脚の間に尻を落とし込む、いつものルフィの座りよう。パジャマのズボンの裾からはみ出た細っこい足首が、何となく寒そうに見えて、つい。身を寄せると彼の向こう側に襟元を少しだけめくってあった掛け布団を、引っ張って持ち上げて肩から掛けてやる。当然、自分と布団との間にはルフィが居たまま。彼ごと抱えるようにして、まるで…小さい子にお膝に抱えながら綿入れの大きなどてらを着せてやっているような案配であり、何をしたい彼なのかは判っていたらしいルフィもまた、大人しくされるままになっていたが、
「ぱふ〜んvv」
「…おいおい。」
 肩まで引っ張り上げた布団を掛けてやったその途端、布団ごとゾロの胸元へと凭れかかって来た。そんなくらいで押され負けする筈はない頼もしい胸板へ、こしこしと柔らかな頬を擦りつけて、

  「…なあ。」
  「んん?」
  「いい匂いする。」
  「そか。」

 無邪気な様子に小さく笑い、ちょうど鼻先、甘い香りのするねこっ毛のやわらかな髪を無骨な指にからめる。ただ髪を梳くばかりのこちらに焦れたか、
「なあって。」
 眉を少しばかり寄せた幼い顔を上げて来るのへ、くくっと師範殿は笑って見せた。
「どうしたよ。」
 布団を背負ったままでじゃれついて来たことから何となく、察しがなかった訳ではなかったが。彼の方からの仄めかし、というのは珍しいことなので、つい。すぐさま"ぱくん"と食いつくのは何だか、浅ましいというか、がっついているようで、つい。ちょっとばかり"間"を取ってみたゾロだったのだが、
「…もう知らんっ。」
 口許を曲げてそうと言いつつも、ぐりぐりとおでこをこちらの胸板に擦りつけてくる。眠くてむずがる幼い子供の駄々にも似ていて、だが、
"ここで子供扱いすると、たちまちへそを曲げるんだよな。"
 そこは"夫婦"となってもう数年経つ間柄。それより以前の何年かにも、こういうお付き合いは始めていたから、その辺りの呼吸は身についていて、
「ん…。」
 髪をいじっていた手をするりと頭の後ろへとすべらせる。そのまま軽くうなじに添えると、大きな手だからその位置で十分に小さな頭を支えてしまえて。そこへと凭れかかるようにしながら顔を上げて来たルフィの、真っ直ぐに見上げてくる眸が、薄暗がりの中、仄かに潤んで見えた。
「…ん。」
 最初は軽く、前触れに。そして、離れ切らぬ間に薄く開かれたその口唇へ、少ぉしばかり角度をつけて、形が噛み合うようにとこちらの唇を押しつける。さすがに慣れも出て来たらしく、当初は緊張に強ばったままだったものが、今では力を抜いて迎え入れてくれて。肉薄な舌の柔らかな感触を搦め捕り、思うまま吸い上げくすぐってやる。
「…ん、んぅ。」
 温かくて柔らかな小さな舌は、彼なりの懸命さで応えようとしてか、最初"ひくり"と震えたものの後が続かず、されるままに嬲られて。そうしている内にも、体中から力が抜けてゆくのが判る。鼓動が速まるのか呼吸が荒く弾んできて、小鼻から苦しげな息が洩れる。やっと解放された小さな唇は、かすかに濡れた紅に染まって煽情的だった。
「…ルフィ。」
 間近から名を呼ばれて我に返ったのか、ゆるりと顔を上げる。大きめの眸は黒々と、潤みの中に光を集めて。どこか幼いままの面差しは、懸命に何かに応えようとしてか、じっとこちらを見上げてやめない。
「………。」
 やがて。こちらの胸板、鎖骨の辺りに添えた手を、身を伸ばしながらするりと背後へとすべらせる。薄い胸を擦り寄せて、きゅうっとしがみついて来る。
「…ぞろ。」
 声が。熱を帯びた震えに掠れて頼りなく。そんな声音で耳元で囁かれるともういけない。細い背中を抱きすくめ、片方の腕は腰から脚へとすべらせると膝の裏。向かい合っていたものを横向きに抱え、そのまま夜具の上、そぉっと寝かしつけながら身を添わせて体を重ね合う。
「…あ。」
 抵抗はないが、慣れたといっても戸惑いやドキドキはいつだって沸いてくるもの。パジャマの上へ重ねていた…色気はないが暖かな半纏の前合わせの紐をほどいて、脱がせるのに背中を浮かせようと薄手の綿入れの中へ手を入れかかると、
「あ、あのさ。」
 何だか慌てたような、上擦った声がした。
「どした。」
「自分で脱ぐ。」
 パジャマや夜着ならともかくも、これはちょっと大物で。よっこらせと脱がせる手間で、せっかくのムードが壊れるとでも思ったらしいが、
「そうか?」
「うん。」
 急いで身を起こして、ちょろっと慌てもってじたばた脱いでいる様子の幼さは、どっちにしたって"ムード"たらいうものを別なものへと塗り替えてしまっているのだが。
「えと。もう良いぞ。」
 隠れんぼの決まり文句のような言いようをしながらこちらへと上げられたお顔へ、
「そか。」
 何とも微笑ましいなとくつくつ笑いながら。ゾロは愛しい人のあどけない唇を、もう一度、ゆっくりと、味わうことにした。


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