月夜見

    “ハニースノウが降る前に”

        〜月がとっても青いから…後日談 B
  



JRの東○線、快速が停車するQ駅の3駅隣りという、
ちょいと大人しめの静かな住宅街が広がる地域の取っ掛かり。
これでも一応は駅前通りだということか、
小さなコンビニや喫茶店、
ケーキもおいてるパン屋に雑貨屋、
本屋に花屋にスタンドバーなどなどが、
軒を並べておいでの街区があって。
利用者はあくまでも
駅を利用する会社員や学生さんや、地元の方々が大半で。
わざわざ他所から目指して来る人はまずいないような、
そんな小さな町屋並びだが、
それでも当地ではそれぞれに結構はやってもいるようで。
駅の裏手には中華料理店やカラオケボックスもあり、
遅い時間はそちらのほうがにぎやかだが、
明るいうちは断然こちらの人通りが多く、
学校へ向かう途中でパンを買ってく高校生や、
出勤前のモーニングを食べてく会社員。
はたまた お使いもののケーキや花、
贈り物にと輸入雑貨を買うお人もいれば、
学校帰りに新刊は出てないかと本屋へ入ってく女子高生などなどには
こちらが馴染みで気に入りの店々なのであり。
ちょいと小じゃれた店構えと、気の利いたバーテンがいることで
こそりとOLたちに評判のカウンターバー…と来て。

 「このコンビニも重宝がられちゃあいるもんな。」
 「自分チの親父のチェーン店だからって、
  無理からヨイショしなくてもいいぞ。」

没個性の極みかもしれない、24時間営業のコンビニは、
もはや あって当然という御時勢なので、
もっとずっと田舎で、日常品を置く雑貨屋代わりにされてるとか、
逆の意味で特別な土地、
コンサートホールやスタジアムの近隣ででもない限り、
どっかんどっかんと派手に はやることはまずないし、

 「他のチェーンはどうか知らねぇが、
  ここはさほど成績をどうこうと言われねぇしな。」

昼のうちのバイトたちには、
そんなとんでもない方針、さすがに伝えていないけれど、

  目立ってはいけないことを最優先にすること

こっそりとながら、経営陣側で何とも妙な目標が立ってる店。
外聞的にはチーフマネージャーが店長となっているが、
実質は夜中の担当、ちょっと風変わりな青年が仕切っておいでの店であり。
その彼こそ、微妙な事情をもつ身で、
だからこそ“目立ってはいけない”とされているというに。

 『選りにも選って、
  スクータに乗った引ったくりを取っ捕まえるなんて
  ド派手なことをする馬鹿があるか。』

警察から表彰状までいただいたほどの誉れ、だというに。
事情を何も知らぬ人にはちょっぴり微妙な構図、
その店がある地域を任されておいでの責任者さんから、
ひどく叱り飛ばされておいでの“英雄”さんという妙な展開なのへ、
若い子ならば、お手柄なのにどうして叱られてるのかなと、
意味が判らぬと???となるばかりだったろし、
ようよう練れた年配の方でも、
怪我でもしないかと案じられているのかなと、
それでもまずは小首を傾げただろう、
珍妙なお説教の有り様が展開されたのが昨日の話であり。

 「まあ、ベンはシャンクス相手でも
  筋が通ってない話だと、容赦なく怒鳴りつける奴だしな。」

かくいう彼もまた、
夜中に用もなく
電車に乗ってという遠くへの外出をしていい年じゃあなかろと、
同じ人から しょっちゅう叱られておいでの、
ちょっぴりお懐かしいスカジャンに
スリムなジーンズを合わせた恰好のルフィさんが。
外では巻いてたらしいマフラーをクルクルもてあそびつつ、
災難だったなぁと、
カウンターに身を乗り出すよに凭れて呵々と笑って見せるのは。
そんな大捕り物を演じた一人、
緑という珍しい髪なのを短く刈った、それは精悍な青年様が

 「…うっせぇよ。」

やや憮然として立っている、宵のコンビニでだったりし。
これが もちょっと商店街の出入り口なんかにある店ならば、
そろそろ師走の買い出しだの何だのという活気の余波を受け、
クリスマスケーキの予約とか、
おせちの予約とかお飾りや切り餅の予約とか
帰省のお菓子のお取り寄せとか、
そういったポスターやノボリもにぎやかに、
十二月という時節柄を滲ませての活気もあったところだろうが。
駅前の“便利なコンビニ”止まりの店舗ゆえ、
商品やら空調やらに夏か冬かの違いこそあれ、
お客様のカラーや増えたり減ったりにはそれほどの差もなくて。
子供の夕飯どきから少し遅くなった今時分という時間帯は、
着いたばかりの電車から降り立った
大量の学生たちがどっと繰り込んで
目的の買い物を果たしてガヤガヤ出てくと
そのまま潮が引いたような静けさに包まれるのが、
こちらのルフィ坊には面白いらしく。
この時間帯の主にして、
怒らすと怖いし、そうでない時も愛想のない、
ノッポでガタイのいい、年齢不詳の別名“用心棒”、
ゾロというお兄さんしかいないがためのてんてこ舞いを
手伝っているのだという名目で、
暇な宵は必ず、ちゃっかりとお店に居座っておいで。

 「その“用心棒”ってのは、引ったくり騒ぎへの当てこすりか。」
 「ん〜ん、だいぶ前からゾロについてるあだ名だぞ?」

 そんなもん付けて喜んでるのか、お前の親父とか。
 違くって。

 「そう呼んでんのは、さっき来てたような高校生だよ。」

今の3年が1年だった年度に、
目立つワルが万引きしようって悪さを仕掛けたの、
あっさり捕まえて投げ飛ばしてから、
『お代を出すか
 カバンへねじ込んだエロ本を置いてくか、どっちかにしな』って、
そりゃあ通る声で言い放ったのが伝説になってるんだと、と。
カッコいいと称賛してか、それとも
彼もまた最近訊いた話なので、
本人へ教えたかった機会を得られて嬉しいか、

 「それ以来、
  ここでそういう意味合いで暴れても意気がっても
  恥かくだけだってことになってんの。」

やはりやはり、楽しそうに笑うばかりの坊やだったりし。

 「ほほぉ?」

あれはただ、俺なんぞの目に留まったほど
無遠慮というか下手くそだったからで、と言いかかったご当人様、
カウンター台を挟んだ向こう側から、
にこにこご機嫌さんなお顔を向けて来る坊やを見やり
ふと気がついたことがあったよで。

 「…つか、お前、
  期末テストなんじゃないのか? この時期ってのは。」

 「うん。昨日から始まってるぞ。」

明日の科目は英語と古文で、
どっちも姉ちゃんたちからビシバシしごかれてっから楽勝なんだと、
そりゃあ無邪気に笑った坊や。
実は ゾロが自分の予定を知ってたのが嬉しかったけど、
そんなのわざわざ言うのは癪だからと、

 「サンジ兄ちゃんも叱られたんだろ?」
 「まぁな。」

何しろ、それは鮮やかな一幕で。
ここから少しばかり離れた、住宅街へと連なる中通りを、
少し年のいったご婦人が、ゆっくりと歩いておいでだったのを、
二人乗りのスクーターがやかましい爆音立てて近寄ってゆき、
追い抜きざまにバッグの提げ手を力づくで引っ張って
もぎ取っていったものだから、

 『な…っ!』
 『あんのやろっ!』

本来は請け負わないが、
サンジというゾロの知り合い、向かいのカウンターバーのマスターが、
どうしてもとお客さんから頼まれたらしい買い物の配達に付き合わされ、
住宅街の方へ出向いていた彼ら二人。
ちょうど帰って来たところで、彼らからすれば、
そのバイクが向かって来る進行方向にいたのを幸い、
まずはと、
金髪痩躯のサンジというお兄さんが、
行く手を阻むよう道路へ飛び出してゆき、

 『轢いちまうぞっ、どけや、ごらぁ!』

一丁前に恫喝した高校生らしき青二才らを鼻で笑うとそのまま、
どこをどうすればそうなるものか、
よい子は決して真似しちゃダメよの荒技、
前輪を斜めに寄り切る“かかと落とし”を炸裂させたから恐ろしい。

 『うあっ!』
 『なななっ、なんだおいっ!』

途端に制御出来なくなった、
スクータのシートからあっさりと
アスファルトの上へ振り落とされた格好の二人組。
往生際悪く逃げ出そうとしかかったのへ、
今度は緑頭のお兄さんが立ち塞がって見せ、

 “ちょこ〜っと
  お仕置きの拳骨を食らわせただけだったんだがな。”

まあ待ちなとそれぞれの腕を引っ掴み、
そのまま当人同士の、
肩というか頭というかをごつんことぶつけ合わせてやっただけ。
だというに、引ったくりを捕まえた“二人”とされたのが、
こちらのお兄さんには いたく不本意だったようで。
表彰されるほどの新聞沙汰になったことから、
何を考えているのだと、地域マネージャーから一緒くたに叱られるわ、
この天真爛漫坊主からも面白がられるわ。

 「警察の人から“表彰云々”て言われて、
  目立っちゃいかんのは自分でも判ってたサンジが、
  せめて二人掛かりでやったことってカッコにして
  印象を薄めたくて道連れにしたんだろ?」

こんな風に事情通かと思えば、

 「でもさ、俺も話聞いたときはドキドキしたもんな。」

だって、奇跡の身でも怪我はするんだし、と。
やや不満そうに、
心配したんだぞーと不貞て見せたりする可愛げもあって。
白々した明るみに満たされたコンビニの店内には、
音量を落とした有線放送がかかっているが、
よく知らない女の子の細い声が
意味不明な略語ばかりを連ねている歌なので、
二人ともろくに聴いてなんかいなくって。

 「怪我をしたってすぐ治せるって順番なんだ、平気だよ。」
 「そんでも痛いには違いないんだろーがよ。」

それともゾロって神経通ってないんかと、
上目遣いにややこしいことを言い出し、
そんなワケあるかいと言い返せば、

 「だったら大事にすんのが先だぞ。忘れんじゃねっての。」

下唇を突き出すカッコ、不貞腐れたお顔が戻らないままなのへ
おううとゾロが珍しくも怯んでおれば、

 「…でよぉ。」 「そんなん知らねっての。」
 「やぁだぁ、ヨッチってばそれ公式間違えて覚えてない?」

すぐの横手側にあった自動ドアがいきなり開いて、
男女混合、制服も様々に入り交じった、
高校生たちがどっとご入来あそばしたものだから。

 「あ、う…。」

一対一で向かい合ってもおれなくなった。
しかも、

 「あ、やっぱルフィじゃん。」
 「おー、○○じゃんか。なにお前この駅なの?」

その中に、ルフィの知己がいたようで、
お声を掛けられちゃあ返事をしない訳にも行かぬか、
肘で互いを付き合い、
何やら親しげにおしゃべりを始める彼らだったりしたもんで。

 “……あんのやろ。///////”

その筋で“黄金の血統”と呼ばれるゴーディアン、
どんな怪我でも吸い込まれるように治せる奇跡の血を持ち、
黄金に転変しもするという神憑りなところだけに目を付けた
人道無視の奇人種ハンターたちから
狩られ尽くした最後の彼らを保護したのが、
ルフィの父上にあたる、守る側のハンターたちであり。
恩に着る必要はないが、頼むから目立つ真似はせんでくれよと、
言われていた禁をあっさりと破った不手際、
自分たちのみならず、
匿ってくれている彼らにも迷惑がかかるというのも判っているだけに。
その係累のルフィ坊にも、
八つ当たりなんて筋違いなこと、しちゃあいかんハズなのにね。

 “…あんな顔するのは無しだろうがよ。”

心配したんだぞと、こっちへは責めるような顔をしたくせに、
すぐさまけろりとお友達へ朗らかに笑いだしやがってよと。


  …………あれれ? そっちが不満だったの?お兄様。



やはり試験中なればこそで、このまま帰る子が大半らしく、
それでもおやつや飲み物を手に手にレジに並ぶ列が出来れば、
これでも店員、それに目立つ真似はご法度という話をしたばかり。
ここは黙々と職務を片付けることへと切り替えるお兄さんで。

「…ありあとあした〜。」

気のない態度での挨拶も、
こういう店ならいちいちメクジラを立てられるものじゃあなし。
10人近かった一団を見送れば、
カウンターに片肘を乗っけて、
彼らが入ってきた直前と同じ位置取りへ
戻っていたルフィさんだったりし。

「で?」
「んん?」
「何の用で来てんだよ、今日は。」
「ああ。うん。あのな?」

用も告げぬまま長居していた坊やも坊やだが、
今の今まで何の用かと聞かなかった方も方。
わざわざ聞いてくる辺り、いやさ訊かなかったままだった辺り、
何の用もないままでもこうして坊やが此処にいるのが、
彼の中でも当たり前になってたってことかもで。
そして、そんな深読みなんて思いもしない坊やご当人はといえば、

 「あのなあのな、クリスマスはどうすんだ?ゾロ。」

それはワクワクと嬉しそうに、今日はこれを訊きに来ましたと、
すらり言ってのけたルフィだったものだから。

 「……それを訊きに?」
 「あーまあ、それはおまけみたいなもんだけどもな。」

ゾロに逢いに来た方がメインと言い出しかねないルフィの無邪気さには、

「ゾロ?」
「ああ、いやその。」

さしもの一匹狼さんも調子がくるうばかりであったそうでございます。





   〜Fine〜  2013.12.14.


  *キリ番 427、000hit
    ひよ様 『
月がとっても青いから…』の続きを


  *そういやこういうのも書いてましたねぇ。(こらこら)
   高校生ルフィというと“天上の海”
   コンビニじゃありませんがバイトゾロといや“残夏のころ”と
   設定も微妙にかぶっているものだから、
   なかなか思い出す機会もないままでしたが、
   一応は結構な筋書き付きで書いてたんだなぁ…。

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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