月夜見“月がとっても青いから…”
  



          




 壁一面というほどもの大きなガラスで仕切られた店内のすぐ外には、会社帰りのそれだろう、人の行き来がまだまだ絶えない、駅前の大通りが見通せて。通り沿いに居並ぶ店々の明かりが、昼間と変わらないくらいに目映いせいで、ついつい気づかないままでいたのだけれど。此処へと着いたばかりの頃合いは、陽こそ落ちていてもまだ白々と明るかった宵の空が。今あらためて見上げてみれば、何とか夜らしい藍色系へと変わってた。夏の七時代くらいだとまだまだ空の方が明るくて、家並みの屋根の輪郭が空より暗いのがくっきりとよく見えてたりもして。陽が長い道理が判ってる大人はともかく、一応は陽が落ちたからとお家に戻って来たお子様たちは。身の丈と同じく気も短いのか、夕食の後の長い長い暇を持て余しては、まだ相当に明るいうちから花火をしたいだの、野球中継なんて詰まんないからDVDを借りに行こうだのと、母さんやあたしたちを手古摺らせてくれたもんだったなぁ。
『あら、そぉお?』
 感慨深げにそんな言い方をしていたら、ロビンはいつもみたいに“うふふvv”とそれは艶
あでやかに笑ってみせて、
『でも、それをこれ幸いにとダシにして、毎晩のように駅前まで、ルフィの手を引いてったのは誰だったかしら。』
 駅前の広場やロータリーには、路上ライブにっていつだって誰かが出てたのが、本当のお目当てだったようだけれど…と。きっちり見抜かれてたらしいこと、今頃持ち出さなくたっていいじゃないのよ。//////// 今にして思えば、そんなの“若気の至り”ってやつなんだし。第一、それを言ったら、
『ロビンだって、後から“涼みに来たの”なんて言って、ちゃっかりと顔出してたくせに。』
 他人事みたいに言わないでよねと膨れながら反撃に出てみても、
『あら、それはだって。』
 ナミったらルフィがもう帰りたいって愚図っても、まだまだって粘ってたりしていたからじゃないの。とうとうお眠
ネムになってしまったルフィをおぶって帰って来るのは、いくら元気者だったあなたでも大変だったでしょうに…なんて。やんわりとした口調ながら、やっぱりあっさりと言い返されちゃう、さすがは我らがお姉様だったりし。まだ高校生だった頃から持ち合わせていた、そんな落ち着きぶりは、今や立派なポーカーフェイスとその下の揺るぎなき貫禄と化し。どんな難物でもにっこり笑っていなせる鷹揚さから、ウチのお店のある界隈じゃあ“仏のロビンママ”なんて呼ばれているほど。いくらなんでも…本人を前にして“ママ”までつけて呼べるのは、さすがにルフィくらいのものだけれど。ええそうなの、ココナツ横丁の『風車』は、そんなあたしたち美人姉妹でもってるって評判のお店なのよ? 機会があったら寄ってってちょうだいね?…なんて、商売っ気を出してる場合じゃない。ウチみたいな小さなスナックはこんな宵の口あたりも立派に書き入れ時の時間帯だってのに、看板娘のあたしが普段着のまんまで、他所のカウンターバーの窓際あたりに陣取っていたりするのは、決しておサボりでもなければ、ご贔屓さんとの“同伴出勤”とかいう、水商売のお姉様がたの真似ごとのための待ち合わせでもなくってね。昨日と今日と、お店が入ってる雑居ビルで保守点検とやらが執行されてて。それでの臨時休業なのを幸いに、あたしはこの何週間か、気になってたことへの鳧をつけたくての行動に出てる訳。

  『ねぇねぇ、ナミちゃん。ルフィちゃんたら夜遊びしてるのかしら?』

 コトの発端は、同じビルの別のお店に勤めてるお姉様たちからのそんな密告。ウチの横丁はお店のバリエーションがホンっトに多彩なもんだから、お店やお姉様がたの間での常連客の取り合いなんていうよな、無粋で厄介なこともないままに、むしろ和気藹々と隣近所で仲よくしてたりするのだけれど、
『こないだの晩に、ほら、隣町でボヤ騒ぎがあったでしょ?』
『あれってこの子のマンションの近所でサ。お店は休みだったんだけど、常連さんと飲みに行った帰りで、家まで帰るのも面倒だしって、アタシも泊まらせてもらっててね。』
『そいで、消防車まで出た結構な騒ぎだったの、やじ馬に混ざって見てたら、近所のコンビニの中に見慣れた顔がいるじゃない。』
 思わぬことでビックリしたわよぅと、顔の前にて大きな手のひらを扇いでくれた、地階のショーパブに勤めてる、声の野太いお姉様がたは。たまに開店前の店へも来てたことのある、ウチのルフィのこともよくよくご存知で。
『だって可愛いんだもの、あの子vv』
『お尻がこぉ〜んなに小っちゃくて。ねぇ?』
 それでと覚えてた顔だもの間違いないわと、豊満…というか分厚いお胸をどんと叩いて見せてくれたが、人を顔と尻とのワンセットにして覚えてんのかこのお姉様…じゃなくって。
(笑) 人気の若手お笑い芸人にそっくりなお姉様のそのマンションって、ここから随分と遠いから、それはちょっと…あたしたちには意外な話で。
『あら、アタシたちが嘘言ってるって?』
『そうじゃないんだけど、でも…。』
 だってあの子は、あたしたちと違って夜が苦手だ。ロビンが言うには…小さい頃にさんざん怪談話を聞かせた、あたしのせいもあるのらしいんだけど。それはだってしょうがないじゃない。夜の方こそが元気りんりんになっちゃうあたしたちだったってこと、子供だったルフィにはきっちりと教えるなんて早すぎたんだもの。細かいことを言ったってどうせ判らないだろし、だからって中途半端に“夜な夜な出歩く不審人物”みたいに言い触らされても困るから。それで、子供は夜になったらとっとと寝ないかって言う代わり、寝物語に怪談を…ってのは、やっぱ不味かったかなぁ? と、ともかく そんなこんなで、もう高校生になったってのに いまだにお化けや幽霊を信じてるような子だったから。そんな余波から、暗いところや寂しいところも大嫌いだった筈なのに。いつまでも明るい町並みはともかく、そこへと至るまでの道すがら。マンションの妙に静まり返った薄暗い廊下だの、陽が落ちると一気に人通りの少なくなる、大通りに出るまでの小道だの、まだ一人じゃ通れないはずなのにって、だからこそ訝しいってついつい思ってしまったの。で、その話をロビンに持ちかけたらば、
『あら、あなたが気づいてなかっただなんて珍しい。』
 そろそろ夏休み前の期末考査も始まるのにねって、気にかけてはいたんだけれど、ですってよ。ああう、何よ、あたしだけが気づいてなかったの? 小さめのキッチンになってるカウンターの中に立ち、まだ普段着のまま付き出しの切り干し大根の味見をしていたロビンは、やっぱり柔らかく“うふふvv”と笑い、
『このところ湿気の多い蒸し暑さが始まっていたから、気持ちが散漫になっていたのかもしれないわね。』
 そうよ。だってあたし、昼間の長い夏はあんまり好きじゃないもの。この何日か くさくさしてたのも、雨が続いて空気が湿気てるせいなんだし。それにしてもルフィってば、妙なことへ足を突っ込んでないでしょうね。あたしやロビンは夜にならないと活動出来ない人種なんだからね。夜間徘徊で補導された揚げ句、昼間のガッコへ父兄呼び出しなんてことになったらどうすんのよと、ひとしきり唸ってはみたものの、どういうものか本人へと確かめられないままに日は過ぎて。まだ高校生になったばかりっていう我らが弟は、あたしらとは逆でまだまだ陽のあるうちの方が元気でいられるんだものなぁ。お陰様できっちりと入れ違いのすれ違い生活になっちゃって…もう何年目になるんだか。そんなことまで振り返ることになっちゃった、ルフィの“夜間徘徊疑惑”に鳧をつけたくて。あたしたちの住処やお店のある、快速停車の連絡駅、東○線のQ駅からは 3駅ほどお隣りの。小さくて地味な駅前通りの端っこ辺り、全国規模で展開していて画一的なコンビニの、よって…そこだけ見てると何処の商店街なのやら見分けがつかないだろう店内の、煌々とした明かりのついてるその中を、こっちはお向かいのスタンドバーから眺めてる。

  “ここって…。”

 住宅街があるだけの、所謂“ベッドタウン”の取っ掛かりな駅の筈で、他にも遊ぶところがあるような繁華街向けのこんなお洒落なバーなんて、あったって流行らないと思うんだけれどね。間口も店内もそんなに広々とした構えじゃあなくて。止まり木も一応はあるけど“立ち飲み”が基本の、長いめのカウンターだけが据えられたスタンドバー。昼の間はコーヒーショップでもやってんのかなって思ったけれど、シックな調度やディスプレイ、グラスや食器なんかにもそんな面影や雰囲気は微塵もないから、やっぱり夜の間だけの開店って形態みたいで。カウンターには雇われマスターなのか、金髪の若いバーテンさんが立っていて、手慣れた手際で客からの注文や何やをたった一人で起用に捌いてる。街路に向けてのガラス張りっていう拵えだということが、客の側へも多少は逡巡を与える効果があったりするものか。メーターの上がったサラリーマンが、酔っ払っての醜態を晒しつつ飛び込んで来てムードを壊すでなく。はたまた団体の女性客が黄色い声を上げて騒ぐでなく。客層も物静かな人ばかりで、そんなに がやがやとにぎやかなムードのお店じゃないのへ。感心したと同時、もしかして故意にこういう“暇な店”でありたいって意向あっての、妙な場所への出店なんじゃなかろうか…なんて。ついつい余計なお世話の推察なんてしてちゃったあたしだったりしたけれど。

  “…いかんいかん。”

 他所様のお店の経営方針になんて気を取られててどうするか。純白のカフスに映える、品のいい白い手で。指の先まで綺麗にそろえて、堂に入ったポージングのままでシェーカーを振るマスターさんの、それは優雅な所作振る舞いについつい気を取られてしまってからの何秒か。視線を外してた本来の目的へ、大慌てでお顔と視線を戻してみれば。お向かいのコンビニのやっぱり通りに面した側、雑誌スタンドの前辺りに、お目当ての姿は…やっぱり居たから、何となくホッとする。まとまりの悪い真っ黒な猫っ毛をざんばらにし、中学生にだって見えかねない、背丈の小さいひょろっとした男の子。細っこい腕に沿うTシャツと、その上へ重ね着たのはぶっかぶかなロゴ入りの半袖Tシャツで。ローライズを男が履くのはあたしたちが嫌いだからと禁じられてての しょうことなし、濃茶のカーゴパンツに足元はスニーカーという、そんな一丁前のストリートファッションでいるルフィだったけど。いやだ、身内ながら可愛い過ぎて目が離せなくなるじゃないvv タウン誌か何かを胸の前へと広げて視線を落とす、そんな伏し目がちの無心な顔なんかは、ちょっぴりだけれど大人びて来てもいるのかな。でもやっぱり、ドングリみたいに大きな眸といい、まだまだ子供っぽくってやわらかそうな小鼻といい。女の子みたいななめらかな線で縁取られた頬に、表情豊かで喰いしん坊で、でも閉じられてる時だけは形が立っててそりゃあ愛らしい口元だとか。ロビンやあたしにはちっとも似てない、相変わらずの童顔なままなのよねぇ。マキノ母さんに言わせりゃ、父さんの若いころに生き写しなほど似ているそうだけど、船乗り生活が長くって、結構荒くれだった父さんに似てるなんて言われてもねぇ。やっぱ、マキノさんに似てるんだってば、うんうんvv
“……………。”
 それにしても。やっぱり不審だわ、あの子ったら。此処よりウチの近所のコンビニの方が大きいじゃないの。此処にしかない雑誌がほしいならほしいで、本屋さんそのものだって大きい専門店が3つほど、Q駅のステーションモールのあちこちに点在してるっていうのにね。
“ガッコから帰って来る電車でウチんチ通り過ぎて、此処に来てるってのかしら。”
 駅の並びはそういう位置関係になるけれど、いやいや制服姿じゃないし。一応は家へ戻ってからの外出であるらしく、
“…それにしたって。”
 いくら我が家の家風は放任主義派だって言ってもね。まだ未成年だってのに、あたしたちに断りもせぬまま、こんなところにいたなんて。お堅く言ってんじゃあなくて、くどいようだけどそれがあのルフィだからこそ、目一杯 不審な行動なの。まだまだ夜の暗いのがおっかないって言ってた子。トイレに行くのに家中の明かりを点けちゃうようなルフィの筈が、なんでまた。帰って来てもあたしたちが家に居ないのが寂しいのかしら。朝は朝で、一応二人とも帰って来てはいるけれど…熟睡状態じゃあ擦れ違いには違いなく。そんなこんなで直接にはあまり構ってやってないままの数年間ですものね。でもだって、それはしょうがないじゃない。あたしもロビンもそういう人種だ。ルフィみたいに昼間駆け回れる体質じゃあなくなってるし、それはあの子にだって納得出来てるはずじゃあなかったか?
『俺も大っきくなったら、ナミやロビンと一緒になんのか?』
 そうと訊かれて、あのロビンが困ったような顔をしてたのまで、思い出しちゃったじゃないのよ。……………と。

  “……………あれ?”

 何よ、あの子。さっきから何かが訝(おか)しいなって思ってたんだけど、その違和感の原因が今やっと判ったわ。ずっと開いてる雑誌のページを、結構経つのに全然めくってないじゃない。それに、やたらとキョロキョロしてなぁい? ほとんど気もそぞろって感じでいて、顔を上げちゃあ首を伸ばしては、何でもなかったみたいに戻したり。あっ、今みたいに慌てて顔を背けるのは何? 何か見えたのかしら、いや…違う。何かからわざとらしく視線を逸らした? 眸が合いそうになったんで、焦ってそっぽを向いたって感じじゃなかったかしら。眸が合うと不味い相手? そんなのがいるのに、何でずっとそんな店内にいるのよ。因縁でもつけられたらどうすんの? ああでも、そういうのを怖がるような、外見通りの大人しい子じゃあなかったわ。喧嘩っ早いってほどじゃあないけど、売られた喧嘩に怯んだことなんて一度もない。図体ばかりの大人が相手でも、すばしっこさで躱しては、間合いの中へと飛び込んでっての関節技を決めたり。相手が勝手に勢い余って壁に衝突したり素っ転んだりって、そういうパターンで自滅に追い込んでの完全勝利ってのをいつだって収めてた、連戦連勝、常勝が自慢っていう末恐ろしい子だものね。それに、よく見ると、怯えてはいないみたいだしね。慌てて眸を逸らしてそれから、熱でも冷ますみたいにしばらく間をおいて。それから またまたお顔を上げては、同じ方ばかりを見やってるこれって…もしかして。

  ――― これじゃあまるで、
       好きな人のこと、少し遠くからじっと眺めてる
       初恋中の女の子みたいじゃないの。







            ◇



 何とも鬱陶しかった今年の梅雨も、何とかそろそろ終盤に入ったようで。これからは夜中の客筋が増えるって話だったから、暇すぎて眠くなくなんのは助かるかもな。こういう土地柄だから、夜中はあんまり変化のない客層しか来ない界隈だけれど。昨日と今日と、初顔の美人なお嬢さんが来ていてななんて、すっかり緩んだ言いようをしていやがったグル眉だったのを思い出したのは、
“あれがそうなんだろか。”
 ここいらでは見かけぬ若い女が、向かいの『バラティエ』のカウンターの窓際のスツールに腰掛けていて。通りを挟んだこっちをずっとずっと眺めてやがる。カウンターの中にいるサンジの奴からだと、そっぽを向いてる頬や横顔しか見えないだろうから。さぞかしやきもきしながら自分の方を向いてくれんかと、あの手この手で躍起になってもいるんだろうな。連れは居なさそうで、あの若さでああいう店へ独りでってのもなかなかの場慣れっぷりだしな。グル眉め、もてあそばれてんのかも知んねぇぞ?
「…1,045円になります。」
 ハンドチェッカー片手のレジ打ちも、あと2人ほどを捌いたら次の電車まで暇になる。弁当と総菜パンの入れ替えは済んでたしな。今日も今日とて、店長さんの計算通りの売れ行きらしくて、無駄な廃棄
ウェストは出ない模様。飲料冷蔵庫のペットボトルの整頓でもしとっかな。暇んなると眠くなっから厄介なんだよな。かと言って、じゃあずっと気を配ってなきゃなんねぇバーの方は方で、職種が本質的に向いてねぇんで、自然とこういう割り振りになっちまった。
『体力は申し分がなさそうだから、夜間保育室っていうのも考えたんだがな。』
 けどそれだと、隣の駅からとかって預けに来るママさんたちには事欠かんだろうが、預けられる子供らが気の毒でなと。何処まで本気でどっからが冗談なのやら。オーナーが笑いながらそう言っての、田舎町には不似合いなスタンドバーと、こっちは無難ながら同じ出資者が経営していることを誰が信じようかというコンビニとの同時開業であり。
『商売は二の次で良いかんな。』
 せっかくの働き盛りをただ遊ばせとくってのも勿体ないから、それでの営業なんだしよ。夜中の方のシフトに回させたんは、すまねぇ、俺らの体質に合わせてもらった。何か起きてもすぐに直行出来るようにってな。

  ――― あんたらは昼間でも平気なんだろう?

 真昼の陽が堪
こたえる俺らの方がよっぽどに、不摂生な存在かも知れんと。自分らの鋭敏なセンサーを笑い飛ばした赤毛の豪傑は、日頃は代理人の店長を連絡係にと当地に残し、別の土地まで様々な探索に出ている冒険野郎だったりし、
“今頃は何処の空の下やら、だな。”
 人も物も情報も、何かと整備された社会であるがゆえ、繊細で気配りが周到であることが優秀とされがちな今時の経営者には珍しい、豪快で豪胆な行動派。そのくせ、先への見通しや読みは慎重誠実で、それがためにか大きく外したことはなく。人望も厚くて、慕い寄る多くの人間を向こうから惹き寄せたその上で、威張り散らすこともなく、むしろ…しょうがない人だなと世話を焼かれながらという不思議な手綱の取り方にて、きっちり率いている奇妙な親父さん。
“…俺らまで籠絡されてるし。”
 誰かへの関心を寄せるなど、もうどのくらいぶりのことだろか。何ぞあったら、なりふり構わず我が身だけを守り切れと、いつだって大人たちから言われ続けてた。そうと教えた大人たちは、なのに、子供だった自分らを身を投げ出してでもと庇い護り、隠れ里から外界へと逃げるための血路まで切り開いてくれたっけ。そうやって逃げ延びた仲間たちもまた、時が経つにつれ、どんどんと消息が取れなくなり。そうして今の二人ぼっちに至るのだが。
“何でまた、選りにも選ってあのグル眉との二人なんだかな。”
 馬が合う訳でもないし、好みも主義主張もまるきり違うのに。気がつけば、連絡が取れたのは彼奴のみとなっており。まま、それに関しては、向こうからもうんざりされ毒づかれているからお相子かと。ひくりとも動かぬ無表情の下、小さく小さく苦笑をすれば、

  “……………お。”

 ひょいっと眸が合った、少し遠くのお客人が。そそくさと視線を外しつつ、その陰で小さな微笑を口元へと浮かべてる。
“あ〜あ、また見透かされちったよ。”
 どういう加減か、春からこっち、立ち読みをしにと よく来るあのおチビさん。よくよくのこと俺みたいのが珍しいのか、雑誌の立ち読みしている振りをしながら、こっそりこっちを眺めてやがって。しかもその上、結構完璧に隠し通せてる筈の仏頂面が…ほんのわずかに、笑っちまったり呆れちまったりした時を、そりゃあ見事に拾い見してやがってよ。あ、笑ってやがるなんて、珍発見でもしたかのように、面白がってやがるみてぇで。……………まあ、別に いんだけどもよ。

  「…いらっしゃいませぇ。」

 自動ドアが開くと、反射的に口を衝いて出て来る一言。愛想は振らんでいいが、一応のハウ・ツーだけは厳守しなと、そうしてくれんと昼の部のバイト連中への当たりが悪くなりかねんからと。それだけは約束していた成果で、それなりの応対は出来るようになってた俺だったが、

  「レジの金を出せ。」

 周囲や店内をキョロキョロしながら見回しもって近づいて来た二人連れ。バイクのメットは、すいません脱いでもらえませんかと、確かマニュアルにあったなと思い出してたその鼻先へ。果物ナイフじゃあない、鞘のついてた一応は立派なナイフを突き出した兄ちゃんが、そんな言いようをしつつ、カウンターの向こうに立ってたもんだから、
『お弁当は暖めますか?』
 いかん。要らんことを言いそうになった。お釣り銭に2千円札も入りますがよろしいですかってのは、昼の部の女子高生が自分で作ったのと言ってたマニュアルで。何でこういう時に限って、余計なことがボコボコと浮かぶのだろか。



   A;あなたが余裕綽々だからです。









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  *さあさ、コンビニ強盗相手に漫才コントをしかかってるこのお兄さん、
   ルフィの気になる初恋
(?)のお相手は、一体誰なのか?(笑)
   そして、もっと問題なのが、
   これの何処が“ナミさんBD企画”なお話なんでしょうか。
(う〜ん)