月夜見

    “ヘーゼルガナッシュ、溶けるかな?”

        月がとっても青いから… 後日談 C
  


ところでこの冬は、
すぐ前の夏の酷暑と張り合いたいものか、
それとも昨年の極寒と凌ぎを削り合いたいものか、
凄まじい風雪を平野部にまで運び来る底意地の悪さであり。

 「しかも、
  先週に引き続き、今週末もひどく荒れそうな気配だそうでな。」

関西は今夜から、こっちも明日の昼ごろから荒れそうだってよと、
先輩から手隙の他愛ないお喋りへそんな話を振られ、
後輩らしい若いのが、ええ〜っと眉をしかめておいで。

 「うえ〜、それってホントっすか?」

先週末はとにかく凄かった。
最強寒波の襲来で湿った雪が降り積もり、
そこへ低気圧がドカンと発達して爆弾化し、夜陰にかけて突風が吹きすさび。
各局のアナウンサーたちが横殴りの吹雪に飛ばされそうになりつつ実況中継をし、
此処は本当に都心部ですかという様相を呈した凄まじさ。
都内に何十年かぶりで大雪警報が出るわ、
路面凍結で事故が多発し、
高速道路が封鎖され、JRがあちこちで運休し、
その挙句、あの成田空港が陸の孤島と化すわして。
翌日のニュースやワイドショーでは、
開幕したばかりのソチ五輪のニュースを押さえる重篤ぶりで
全国のお茶の間を騒がせまくったほどであり。

 「俺、明日の昼から此処のシフト入ってんスよね。」

コンビニの会計カウンターに立っていた、
高校生だろうか、ニキビ顔のうら若きバイトくん。
随分と本気で“うあ困ったなぁ”という顔をしたのは、
そんなさなかに来るのは大変だと思ったか、
それとも此処から帰れなくなるのは困ると思ったか。
彼らの会話が聞こえたか、
在庫をチェックしていたらしいバックヤードから
ひょこりと姿を現した別の男性店員が口を挟んで来た。

 「吹雪いてたら無理して出て来なくてもいいぞ?」
 「え? あ、いやっ、あのその…っ。」

途端に、困ったと言ってた側のバイトくんが、
愚痴なんか言って、サボりたがりだと思われたかなと焦った辺り、
そちらは正社員の人らしかったが。
特に怒っている風でもないままの淡々とした口調で、

 「怪我なんてしたら洒落にならんし、
  帰れなくなっても此処には泊まるトコないしな。」

そうと続け、JR止まったら連絡して来いな、と。
あくまでも理路整然と判断し、
わざわざ言って下さったらしいとあって、

 「あ、はいっ、すいませんっ。」
 「いや。まだ止まったと決まった訳じゃねぇし。」

前倒しですんません言われてもなと、
そこで初めて、困惑気味なお顔になってしまったゾロだったのが、


 「可笑しかったよなぁ♪」

やっぱりちゃっかりと来ていたらしいルフィに目撃されてたようで、
何度思い出してもウケるとばかり、
うくくvvと口元をほころばせては楽しそうに笑っておいで。

 「悪ぁるかったな。」

つか、店員のバイトにも恐れられてんのか? ゾロと、
そこを訊いたルフィだったのは、
今がそうであるように、
彼が他のバイトと一緒にいる時間帯を知らないからで。
客足が多い日中は一般人のバイトに任せ、
そこまで田舎でもないがため、晩でも客がないではないが、
最寄りのJRの最終が出た後は
さすがにがくんと人が来なくなる時間帯を、
主に専従で担当しておいでの店長さんであるだけに。
それ以外と言えば、
バイトとバイトの切れ目の隙間なんぞにカウンターに立ってる彼で。
その希有な時間帯に、必ず顔を出す坊やなのも
考えてみればなかなか器用なもんではあるが。

 “なんの。此処はこいつの親父の経営するチェーン店だかんな。”

当日にならんと判らぬだろう分刻みの隙間情報だとて、
地域マネージャーさんにおねだりすれば、教えてもらえもすんだろよと、
その辺りのカラクリくらい、今更な話と驚きもせぬお兄さん。
それよりも、

 「お前、出来んなら手ぇ出すんじゃねぇよ。」
 「うう〜。シール貼りは好きなんだけどなぁ。」

客足が途絶えたからと言って、
そのまま手持ち無沙汰になるとも限らない。
特に今週は、バレンタインデーというイベントのある週だけに、
義理チョコ向きのお手頃お値頃な商品は、
前以て包装しておいた方が効率的なので、
中身を間違えないよう、商品別に包装紙の色や柄を変えて、
先んじて包んでいたりするのだが。
ゾロの大きな手が、案外と器用に動いて包む様子が、
ちょっとした折り紙みたいに見えるのか。
俺も俺もとルフィもやってみたものの、
一番簡単だろう、薄手でハガキ大ので敢え無く玉砕してしまい、
やり直ししまくった挙句、折り目だらけという、
無残なブツが出来上がってしまった爲體
(ていたらく)

 「同じのばっか、先に包むのか?」
 「まぁな。」

もっと大きい店では判らぬが、
こんなコンビニへ本命へのチョコを買いにくる女の子もおるまいからと、
本格的な豪華チョコはそもそも置いてない。
高くて 800円そこそこのアソートで、
それにしたところで、
普段売ってるチョコのバレンタインVer.より売れた試しはないと来て。

 「小学生や中学生のお小遣いで買える範囲ってとこだから。
  大人で買う層となると、職場でばらまく義理チョコか、
  お母さんから息子へのお情けチョコくらいのもんだろうさ。」

そんな風に分析するゾロなのへ、

 「おお、ゾロって結構世情を知ってるよな。」

そういうことには関心なさそうなのにと、
ちょっぴり背中を反らすようにして驚きのポーズを取る坊やだったりし。

 関心はなくとも仕入れとか考えにゃあならんだろうが。
 あ、そっか。

そかそか、そっちの分析かぁと、
何が嬉しいのだか“にゃは〜”っと笑ったのがまた、
妙に可愛いのが困りもの。
まだ学校は休みじゃあなかろうに、制服ではなくの普段着姿。
お洒落な姉上が二人もいる身なせいか、
時々ポップないで立ちでいることも多い彼であり。
今も、渋柿色のエア感のあるスカジャン風のコートの下に、
今時珍しいタートルネックのパルキーセーターと、
ダウンのチュニック丈ベストを重ね着ており。
ボトムには赤渋色のフリースパンツ、
ショートカットの髪をくるみ込む、
ボトムと同色のニット帽までかぶっているから、
小柄なことも相俟って、女子高生に見えんこともない取り合わせ。
だというに、

 “一丁前に女連れだったしよ。”

ここいらに住んでいるものが表の通りでルフィと鉢合わせ、
待ち合わせている友達が来るまでと、
店内であーだこーだとお喋りしていた同世代くらいの女の子が、
実はさっきまで此処にいたらしいですのよ、奥様。(こらこら)
会計作業の邪魔にならぬよう、雑誌の置かれた窓辺にいた彼らであり、
お嬢さんの方はこれから都心のデパートへ行くらしい話しっぷりで。
それへと、

 『俺はチョコレートよりケーキのほうが好きだなぁ。』

なんて言い返していた声が聞こえたので、
何とはなく…もじょりと引っ掛かっていたらしい、
大人げないお兄さんだったが、

 「結構貰うほうなんじゃねぇのか、お前。」
 「まぁな。」

そこはまんざらでもないからか、にししっと笑ってすんなり肯定し、

 「こづかい少ないから、
  お返しなんて出来ねぇぞって言うんだけどもな。」

部活の後輩とかは
季節のイベントみたいなもんとして、連名でくれっしよ。
クラスの女子も、
マイチョコだけ買って
誰にも渡さないってのもカッコ悪いしーなんて言って、
妙な義理チョコくれるしよと。
緩く作ったこぶしの先で、鼻の下を擦って見せつつ、
そんな辺りを白状する屈託のなさであり。

 「そいで、今年は金曜だから、
  本気のを渡すトコ見られても、
  2日も休みを挟むから、そうそう冷やかされねぇじゃんか。」

 「お、そう来るか。」

その情報はなかったなぁと、意外そうに眸を大きく見張ったおにいさんだが、

 “ゾロだってモテてるくせに、白々しいよなぁ。”

自分で言ったくらいだから、
この店で本命当てのチョコを買う子は少ないんだろし、
それに加えて、

 “渡す相手に包ませる女の子だっていなかろってもんだしよ。”

さっき一緒だった同級生にしても、
実はこっちの通り側じゃあなくて、駅舎の向こう側に住んでる子だそうで。
自分はケーキが好きだと言った答えの前、
ゾロさんは甘いものは好きだろかと訊かれたまでのことだって、
果たして 気がついているものかどうなのか。
俺なんかダシにされてんだよんと、わざわざ言うのも癪なので、
臆面もない口調で“たくさん貰うし”と包み隠さず言ったけど、

 “いっそ明日は朝から晩まで大荒れになって、
  みんな家から出られなくなればいいのによ。”

なんて罰当たりなことを思ったのは、果てさてどっちの男の子だったものか。

 「…あ、でも俺、ゾロにはやるから楽しみにしてな?」
 「はぁあ?」

 だってよ、
 血が薄くなったり足りなくなっちゃあ困るんだろ? ゴーディアンて。

 人を歩く血液銀行扱いしてんじゃねぇよ

ううう、選りに選って最後の最後にコンセプトを持ち出すか、あんたたち。
甘い甘いチョコレートと愛の告白の日のお話だってのに、
血なまぐさい〆めにしてくれおって〜〜〜っ。


  皆様には、ハッピーな愛の日を過ごされますようにvv


  
HAPPY St.Valentine's day!




     〜Fine〜  14.02.13.


  *今年の聖バレンタインデーものは
   ちょこっと微妙な間柄のゾロルで書いてみましたvv
   もう一個のバイトゾロルはきっと、
   店頭の売り場を二人して任されて
   寒い寒いとぶうたれる先輩くんをまあまあと宥めつつ、
   初売りのときみたく風よけ担当させられる後輩くんなんですよ。
   進歩がないぞ、君ら。(こらこら、誰が書いてんだ。)

めるふぉ 置きましたvv めーるふぉーむvv

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