キミと一緒の秋を迎えに
         〜キミに ××な10のお題より

 “キミの背中”



昨日、ちょっとした鬱憤から お籠もりをしたおりに気がついたのが、
トイレのドア上に設置している棚が微妙に動いたこと。
分厚くて頑丈なコンパネの端材とL字金具とを組み合わせ、
イエスがいわゆる“日曜大工”で取り付けてくれたものであり。
とはいえ、
そんな素人仕事だったから ぐらついたのだというのじゃあなくて、

 『…ごめん、
  奥に押し込んだ詰め替えパックが取れなくて、
  ついつい いつも掴まっていたからだと思う。』

イエスと同じほどの上背があるブッダでも、
壁際の奥へは微妙に手が届き切らなんだ高さであったようで。
危ない体勢になるほどの背伸びをした身を
支えようとしてのこととはいえ、
そんな無理な力を毎回かけていたがゆえ、
とうとう金具を留めていたネジが緩んだらしいと。
ごめんなさい付きで申告されたイエスはといえば、

 『そか。じゃあ奥行きをちょっと浅くしようね?』

コトもなげに笑って見せ、
さっそく工具セットを押し入れから引っ張り出す
フットワークの良さよ。
それのみならず、

 『あ・もしかして、
  ここの手前の縁でいつも手首 擦っちゃってたんでしょ?』

何で赤くしてるのか、気がつかなくて こっちこそごめんねと、
眉をハの字にして彼の側からも謝ってくれたその上で。
取り外した問題の棚板を、
廊下に出て糸ノコで切り分け、三分の二ほどに浅くして。
それを再び、同じ場所へと取り付け直してくれた手際の良さよ。

 「イエス、踏み台要らないの?」
 「うん、大丈夫だよ。」

そもそもの最初も、トイレ自体に登ってつけたのかと、
だったら危ないなぁと思っていたのだが。
開けっ放しのドアから見やったところが、
なんと床に立ったまま、自前の身長だけで、
伸ばした腕で高みへドライバーを掲げ、危なげなく作業をしておいで。

 「うん。これでよしと。」

程なくして完了したか、
ドアの手前へ一旦降ろしておいた詰め替えパックの色々を、
ひょいひょいと元通りに載せ直してもくれており。

 “…確か。”

金具をドア枠の上端の両脇に取り付けて、
下から支えていたんじゃなくて。
上の空間の壁へ取り付けた金具の底へ
棚板を渡す格好で固定されていた棚であり。

 『だって、そんな判りやすい所にネジ跡残せないじゃない。』

敷金が返って来なくなるんでしょう?と、
けろり笑って言っていた彼だが、

 “掃除をするときとか、
  うっかり金具へ手を引っかけることもないんだよね。”

そういうことを考えてくれて、
こういう付け方をしてくれたんだなぁと。
今になってしみじみ感じ入ったブッダとしては、
はい完成〜と出て来たイエスへにっこり笑顔。

 「ありがとうね。」
 「いえいえ、どういたしましてvv」

イエスの方も、いつものお顔で ふふふーvvと微笑うと、

 「そうそう、大丈夫だとは思うけど、一応確かめてみて?」
 「あ、うん。」

言われてドアは開けたまま、棚を見上げて手を延べる。
奥に押し込んで置いたの
取れる?届く?と向かい合ってる位置から聞かれ、
満足そうに目元たわめて笑いつつ応じたブッダで。

 「うん、届くよ。前よりずっと楽。」
 「良かったvv」

ほわりと微笑ったイエスは、
そのまま工具を片付けに押し入れへと向かったけれど。
気づかなかったのかな、
わたし、ちょっぴり背伸びしたのにね…。




    ◇◇



外を並んで歩くときとか、
この家にて卓袱台に座って向かい合っているときなんぞは
まったく気がつかなかったことだけれど。
そういやぁと思い出したのが、

 『こっちでいいの?』

買い物先、随分と高い棚の上段にあった目当ての品を
さてどうやって取ろうかと手をつかねて見上げておれば。
そんな様子に気がついた彼が、
それは軽々と手を伸べ、降ろしてくれたことが何度かあって。
あれれ、そんなに身長差あったかなと、呆気に取られたことがある。

 『もしかしてイエスって、腕 長い方?』
 『何言ってるの』

訊かれた彼が あははと楽しげに笑ったのは、
ブッダ関節外したら私なんかよりずっと伸ばせるじゃない、と。
微妙に斜めなことを、思い出したかららしかったのだけど。

 “あの時ってサ…。”

後ろから寄り添ってのひょいって、
イエスが身を延べたのが背中に感じられた瞬間、
何だか全身をすっぽりとくるみ込まれたような気がして…。

 “〜〜〜。////////”

ヤだなあ、何で今思い出したんだろと、
脈絡が無さ過ぎると ちょっともじもじしながら居間へと戻ったところ、

 「? どうしたの?」

さっそくにも卓袱台へPCを開いて
ブログのチェックに勤しんでいたらしいイエスが
ひょいとお顔を上げたのは、
こちらからの視線に気づいたかららしく。
あれ、そんなに見てたかなと、
そんな声で気づかされた格好の事実へ、ありゃりゃあと鼻白んだものの、

 「うん。イエスってスタイル良いんだなって思ってサ。」
 「はい?」

だって、身長は同じくらいなのに、
実は腕が長いから高いところへ楽勝で届くし。
腰高なのでジーンズの履きようも様になっているし、
痩躯なのが棘々しくは映らずの、むしろバランスよく見えるくらい。
キミがカッコいいのは私にも誉れだとでも言いたいか、
にっこり笑って言うブッダへ、

 「そっかなぁ…。」

褒められているというのは判るか、小さく口元をほころばせたものの、
だがだが、やや視線を逸らしてしまう彼でもあって。

 「でもね、私って相変わらず
  あんまり頼もしい風貌じゃあないじゃない。」

そこはやっぱり不満なんだよねと、
薄い頬から細いあごへかけて手のひらをあてがい、
お顔の半分を隠す勢いの頬杖をついてご不興を表明したイエスとしては。

 “ブッダのやさしい肩とか、まろやかな背中が一番好きだしvv”

こういうのをこそ“眼福”って言うんじゃないかしらと、
意味深にふふんと微笑って、
お向かいへ座ってしまった伴侶様を見やっておれば。
判りやすく明言される“好き好きvv”とは一味違う、
仄めかし系のこういうのも困ってしまうものか、

 「〜〜〜な、何だよ。/////////」

言いたいことあるなら言ってよと、
そういうわけじゃあない、ただ見つめているだけだと
薄々判っていつつも訊いて来る 純情実直な彼であり。
視線はそのまま、え〜何で〜?なぞと はぐらかしておれば。
口許をうにむにたわませ、肩をすぼめかけたそのまま、
乳白色のすべらかな頬がじわじわ真っ赤になってゆき、

 「…っ。///////」
 「あ…ごめんごめん。」

ああしまったと思ったときには もはや手遅れなのはいつものことだが。
会話に入るより前から、微妙に意識していたこともあってだろう、
今日はやけに容易く、その螺髪がほどけてしまったブッダであり。
ふにぃと目許を仄かに潤ませ、
口許も への字にしての下唇をやや咬んで。
つややかな長い髪を肩に背にこぼしておいでの
それだけ素直に“困ったぁ”というお顔を隠さぬブッダであるのも、

 “実はお気に入りだなんて言ったら
  昨日の比じゃなく拗ねられてしまうのだろうねvv”

だからと言って、
いちいちおろおろと畏まって執り成すのじゃあ芸がない。

 “ああイエスを困らせた…なんてな解釈だってしかねぬ君だしね。”

ふふと小さく苦笑いつつ
さあ抱っこして宥めて差し上げましょかと、
卓袱台に前腕を載せ、立ち上がりかかったその出端へ、

 「あっち向いてくれる? イエス。」
 「はい?」

声こそ穏やかなそれだったものの、
お言いようは…何だか疎外的なそれであり。
あれ、やっぱり怒らせた?と何度か瞬きする彼なのにもかまわず、
ほらほらと、彼の側から立って来て促すブッダであり。

 「ね? 後ろ向いて。」
 「うん…。」

何でだろかと納得は行かないけれど、
彼からの“お願いvv”の上目遣い(しかも無自覚)には逆らえず。
座ったまんまで窓のほうへと体を回せば、

 「………。」

だからと言って何をされるでなし、
ただ黙りこくったブッダなのが却って落ち着けぬ。

 “やだ何、これって新手のお仕置き?”

なぞと思っているイエスにお構いなしなので、
ある意味“放置プレイ”というお仕置きには
違いないかも知れないが。(こらこら

 “……。////////”

ブッダはブッダで意味のある沈黙の中に浸っているだけのこと。
正面から向き合っていると、
あの大好きな蠱惑の眼差しに搦め捕られて、
先程同様ついつい丸め込まれてしまうのでと。
ごめんと言わせる代わり、後ろを向かせたまでなのだが。

 “やっぱり男の人っていう背中だよなぁ。”

本人も言うように、筋骨隆々とはさすがに言えないけれど、
それでもかちっとした体躯の基礎である骨格は、
いかにも男性の、というそれであり。
肩の幅広さと同様、背中のかいがら骨の大きさや位置の広さが、
シャツ越しでも浮き上がって見えて。
肩越しのこちらが気になるか、ややお顔を横にするたび、
それらが浮いたりうねったりする
そんな躍動感と直結した生々しさが、何とはなく…色っぽいかも。

 “そういやイエスの背中ってあんまり見たことなかったよね。”

だって、どうしてもあの和やかで無邪気な笑顔が、
まずはと目に入り、そのままこちらの意識を搦め捕る。
この頃ではそのままハグへ持ち込まれるのが常だし、
それに、

 “後ろ向いたままってことがあんまりなかったし…?”

先程がそうであったよに、
すぐにこちらに気づいて振り向き、微笑ってくれるイエスであり。
あらやだ、私ってば、
視野の中の彼をいつもいつもそうまで凝視しているのかなと、
ブッダがついつい小首を傾げてしまっておれば。

 「…ねえ、まだ? ブッダ。」

いつまでも後ろ向きは落ち着けないか、
かくれんぼの鬼さんよろしく、もういいかい?とイエスが訊いてくる。
愛でるような眼差しでとはいえ、
螺髪をほどかせるほどブッダを焦らせ困らせたのは事実なのだし、
反省の正座をさせられているような心境なのかも知れず。
だがだが、彼の抱えたそんな後ろめたさへまでは
さすがに気が回らぬブッダにしてみれば、

 「う〜んとね。」

気もそぞろなままの生返事しか出ぬほど、
見入っていた背中の一体何へ惹き込まれたものか。

 「……♪」

この彼にしては大胆にも、
ぽそんと頬をくっつけると、
そのまま腕を伸べ、ぎゅうと抱き込んでしまったものだから。

 「えっ? な、ちょっと、ブッダ?」

思わぬ展開にも程がある。
ぎゅぎゅうとくっついて来たのは、
柔らかさも温みも間違いなく愛しの君のそれだけど、
こういう体勢にはそういえば覚えがなくて。

 「♪♪♪♪〜♪」

あああ、何か気持ち良さそうなのが肩越しに伝わっては来るけれど。
ちょっと怒らせたかも知れぬことを思えば、
頬を擦りつけるほど機嫌もいいらしい彼なのは重畳じゃあるけれど。

 “何か違うって、これっ。”

手が余ってるよ、ほら私のが両方とも。
それにブッダのお顔とか見えないんですけど。

 「ブッダ、背中なんて気持ち良くないでしょ?
  私ってば肉付き良くないし。ね? こっちおいでよ。」

 「ん〜ん、気持ちいいから此処が良い。」

肩越しに聞くせいか、それとも螺髪が解けている状態だからか、
返って来るお声がやや甘いのが、
ますますと落ち着けないやら何だか口惜しいやら。

 何ですかあなたのその積極性はっ。
 いつものもじもじはどこ行きましたか。
 私の顔が見えない方がいっそ良いってんですか?

 “………そんなの、いやだよぉ〜〜。”

さすが、博愛の主は違うと言いますか、
こういうことへ見栄なんて張ってもしょうがないと、
そこは見切るのも潔い。

 「ブッダぁ〜〜。」
 「ああはいはい、ごめんごめん。」

駄々こねちゃうぞと言わんばかりの声を張れば、
ごめんねと言いつつ身を離した気配がしたのを合図とし。
素早く振り向き、そこにいた如来様をがばりと捕まえ、
ぎゅぎゅうと抱いて懐ろへ閉じ込める。

 “さっきの展開と丁度正反対だなぁ。”

ブッダが先に気づいてこそりと苦笑をこぼしておれば。

 「もうもう、背中なんてどこが良いの。」

イエスがそんな風に“こぼし”始める。
向かい合ってお互いにお互いをぎゅうと抱きしめ合ってこそでしょうに。
こうしてたって背中は抱けるでしょう?と
ムキになって いつも以上にぎゅうときつく抱くものだから、

 「…でも、これではお顔が見えない。」

私、イエスの温みも匂いも好きだけど、
頼もしい肩も胸板も、鎖骨が覗くここの眺めも好きだけど。
同じくらいイエスのきれいな目とか笑顔とかも好きなのにね。
これではイエスの肩と向こうの窓しか見えないよぉと、
合いの手よろしく、ついつい言ってみたならば。

 「………。」

しばらくほどの間があってから、

 「何言ってますか、じいと見つめれば含羞んで視線逸らす人が。」
 「う…。//////」

なんて即妙な切り返しか。
これはこれは、もしかせずとも、
依然としてお怒り…というか不機嫌が冷めてないということか。
ツンとお澄ましして“ふ〜んだ”と拗ねてるお顔が浮かぶ、
他愛ないレベルのそれではあれど、
おっかなかろうが他愛なかろうが、不機嫌は不機嫌に違いなく。

 「〜〜〜〜。/////////」

うわんどうしようと大人しくなったブッダなのを
ちろりと見下ろし。
イエスとしては…そのまま俯いててねと祈りつつ、
必死で笑い出したいのをこらえておいで。

  だって奥様、気がつきませんでした?

 『私、イエスの温みも匂いも好きだけど、
  頼もしい肩も胸板も、鎖骨が覗くここの眺めも好きだけど。
  同じくらいイエスのきれいな目とか笑顔とかも好きなのにね。』

あれほどイエスへの“好き”を言えない含羞み屋さんが、
間接的とは言え“好き”の連呼ですよ、聞きました?
イエスの揚げ足取りへ ありゃまあと鼻白んでるくらいだから、
今はまだ気がついていないに違いなく。

 “今 此処でハッとしてほしいような、
  全然関係ないときに気がついてハッとしてほしいような、だねvv”

そのとき私もいれば良いけれど、いなければ、君 困らない?
遅れて顔を合わせる私に、
もう一回 ハッとかドキッとかすることになるんだものね。

 “今みたいに螺髪が解けてたら、
  ああ思い出したなって、わたし、判っちゃうからね?”

今からくすすと楽しげに笑ってしまいそうになり、
それを何とかこらえておいでの、ヨシュア様だったそうでございます。





   〜Fine〜  13.09.16.


  *バカップル噺の難点は、
   どこで終わらせれば良いかが判らなくなることです。
   あああ、今回もキリがなかったったら。(大笑)
   前回のお題シリーズみたいな
   芯になる“設定”というかメインの流れがないとこうなります。
   ここ、試験に出しますから。(何のだ)

   




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