キミと一緒の 秋を迎えに
         〜キミに ××な10のお題より
 
 

 “キミの コエ”



秋に入ってすぐの通常運転として、
午後からは別々に行動している最聖のお二人で。
行動と言っても、ブッダの側はアパートでのお留守番。
時間があることだしと、何やら手作業に勤しんでおいでのようだったが、
そこへと掛かって来たのが、
商店街の雑貨店へとアルバイトに出ていたイエスからの電話である。

 “え? え?”

まとまりの悪い髪を背中まで伸ばした上にお髭までと、
いかにも“今時の若いの”という掴みどころのない風体をしちゃあいるが。
労働というものへの誠実さは格別で。
だからこそ、非力だろうと少々要領を得なかろうと、
働き盛りの大おとなの皆様に可愛がられておいでのヨシュア様。
もっと根本的なところで、
そんな彼であること重々御存知のブッダ様におかれましては、
仕事中におサボリなんぞ あり得ない話でもあり。
一体何があったのだろかと、
ややドキドキしつつ話しようを聞いておれば、

 【 今日はネ、今から棚卸しっていうのがあるからって。
   だからもう上がっていいって。】

 「…あ、そうなんだ。」

直前に、彼から受け取ったメールたちを眺めていたものだから、
わざわざの電話とあって 何か起きたかとうっすら案じてしまったものの、
本当に逼迫した事態だったなら、それこそ“伝心”で伝えて来ようこと。
まるで楽しい内緒話みたいに、
それは伸びやかな声で伝えて来るイエスなのへ。
ほうと胸を撫で下ろすほど安堵しつつ、
相当に舞い上がってしまったままだったようかもと、
そんな自分へと苦笑しておれば、

 【 ブッダ、今から買い物に来る? なら待ってるけど。
   買うものが判ってるなら、私が買って帰るけど そうしよっか?】

少々要領を得ないよな言い回しも挟みつつ、
屈託のないお声がそうと訊いて来たものだから。
そんな拙さとそれから、
数時間ぶりに聞く声音へのくすぐったさへとに、
ブッダとしては、思わずのこと口許をほころばせてしまう。
何だか小さい子供がお使い先から掛けて来たような、
そんな言いようだなと感じたからで、

 「ううん、今出掛けようと思ってたところだからいい。
  そこで待ってて?」

小さなモバイルは随分と性能もよくて、
彼の周辺のそれだろう雑踏の声もかすかに拾っており。
すれ違った誰かのものらしき、
キャッキャとはしゃぐ笑い声がちらと届いたのと同じよに、
こちらがクススと微笑ったのがよほど鮮明に向こうへも届いたか、

 【 あ〜、もしかして信用してないでしょう。】

そんなことないよと否定したものの、
それではそれこそ信用されなんだものか。

 【 私これでも、
   ブッダがどこのメーカーを
   ご贔屓にしてるかくらいは覚えてるんだよ?】

お醤油は○○で、お味噌は◇◇でしょう?
それからお酢は▲▲で、塩は●●の焼きしおって…と、
並べてくれた範囲のメーカー名は正解だったけれど、

 「じゃあ、コショーは?」
 【 う…。】
 「ゴマ油は?」
 【 えっと…。】

そ、そんなの売り出しのときによって変わっているんじゃあと、
思い切った答えを返して来たのへ、

 「残念でした。
  それはミネラルウォーターとお米だけだよ。」

 【 うう…。///////】

やり込められたと思ったか、
口ごもってしまうイエスだったところへ、
だからね、わたしもそっち行くからと、素早く畳み掛ける。

 「ね、一緒にお買い物しようよ。
  イエスが買い物してくるとなると、
  私、此処でまた待ってなきゃいけないんだよ。
  そんなの私……。」

 【 あ、ごめんっ、そうだよね。
   うんっ。///////】

ごめんね気づかなかったという気色の籠もった、慌ててのお返事が、
幼いがゆえの気遣いの至らなさを責めたようで心苦しかったけれど。

 今の今、話しかけてくれている
 彼からの声を聞いちゃったからには。
 もう待ってなんかいられないと
 思ってしまったのだもの、しょうがないじゃないか。

周囲に聞かせたくないものか、
ちょっとばかり潜められた甘く掠れた彼の声。
お待ち遠さま、もう逢えるよと告げられ、
なのに、もうちょっと待っててなんて言われても
“はい そうですか”じゃいられない。
今すぐ逢いたいくらいなのに、
駆けつけちゃあいけないなんて、そっちの方こそ酷というもの。

 “…こんなの我儘もいいところだよね。”

大人げないし聖人としてもどうかとか、
疚しさのようなもの、ちりりと感じはしたが、
もう言ってしまった一言はなかったことになんて出来なくて。
仄かに、でも目を逸らせぬ形で沸き起こる自己嫌悪に、
こそりと唇を咬んでおれば。
スマホ越しに微かな吐息が拾え、そのままイエスがこそりと囁く。

 【 何かちょっと嬉しいな。】

  ……え?

 【 だって、
   ブッダが甘えてくれるなんて滅多にないことだし。//////】

  あ…。///////

 【 いつだって、
   じゃあしょうがないねって我慢しちゃうでしょ?
   そう構えては、私の言う通りを優先させてくれて。】

ふにゃりという半分照れてる笑顔を思い起こせるような、
そんな甘やかな響きのする声で ふふと微笑ってから、

 【 じゃあ待ってるから、早く来てね。
   あ、シカさんたちを呼ばない程度でいいから。】

彼らにしか通じぬ“最聖ジョーク”を交えたお声は、
打って変わって平生のそれで。
先に自分がウケたかくつくつと喉を鳴らすような笑いようを最後に、
じゃあね、待ってるねと念を押してから切れてしまった通話の余韻に、
だがだが、のんびりと浸っていられる猶予はなくて。

 “ああ、出掛けないと。”

イエスを待たせる訳にはいかない、
どこか機械的な動作で立ち上がったブッダは、だが、
何から手をつければいいのかを、完全に見失っている。

 今のって甘えたことになるの? 我儘じゃなくて?
 というか、わたしそんなに我を殺してた?
 イエスが案じていたほどに?
 というか……

 “ちゃんと見通されてたんだなぁ。”

無邪気で天真爛漫で。
思いやりがないとは言わぬ、ただ、
頼ってくれる彼なのが こちらをいい気持ちにさせてくれる、
そんなタイプの甘え上手だと、
もしかしてどこかで決めつけていたようで。
困っているのと裏返った声しか知らなかった訳じゃあない、
厳かで低い声だって知ってたはずで、

 「〜〜〜。////////」

  大丈夫だからね?
  ずっとずっと、一緒にいようね?
  大切にするからね?

誓うようにそうと囁いてくれた彼だったの、
うん、忘れてなんかなかったけれど。
居住まい正した頑なさなのを、
こんな風にするするっと紐解かれ、
剥き出しのやあらかいところを そおと撫でるよな。
そんな はっとさせられるよな優しさは、
まだ慣れてないから勘弁してよと頬を赤くし、

 “えとえっと、トートバッグとそれから…。”

段取りがいいはずの彼だのに、
珍しくも部屋の中をキョロキョロと見回してしまったブッダ様だったの、
此処だけの内緒にしといてあげて下さいましね?
ああほら、螺髪も解けたままですしvv





      ◇◇



雑貨屋さんの裏手にあたる路地裏で、
通話を切ったばかりなスマホを手のひらへと見下ろして。
それ自体が彼の一部であるかのように、
ついつい愛おしげに見やってしまうイエスだったりし。

 『ね、一緒にお買い物しようよ。
  イエスが買い物してくるとなると、
  私、此処でまた待ってなきゃいけないんだよ。
  そんなの私……。』

ちょっぴり早口だったのは、
ちょっと調子に乗っていた私が
やり込められたとあって萎みそうだったのへ、
沈み込む前にと するする追いすがろうとしたからだろうけど。

  でもね?あのね?

要領を得なくて手間が掛かるとか時間が掛かるとか、
そういうんじゃなくての、あのね?
お留守番の時間が長引くのはイヤだと、
彼のほうからも駆けつけることで早く逢いたいんだと、
切なお声でそんなことを言い出したブッダだったのが。

 イエスには キュンとするほど意外だったし、
 そのまま、ああ可愛いなと思えてならずで。

 “やだ何、お揃い?////////”

黙って帰って驚かすという手もあったのに、
もう逢えるからって
矢も盾もたまらず電話しちゃった自分と同んなじ?
いつもいつも、あの深瑠璃色の瞳ほど涼しいお顔で
“いってらっしゃい”と送り出してくれるのに、
いつもいつも、白い頬ほころばせての ほっとする笑顔で
“おかえり”って出迎えてくれるブッダなのにね。

 あの住み慣れたお部屋は とっても大好きだけど、
 そこへ独りでいるのは、やっぱり何だか
 詰まらなくて…寂しくて。

 「……同んなじ、か。」

ああ危ない、
またまたやらかすとこだったかも。
君はとっても頼もしいから、
とっても強くて真っ直ぐで、
そうそう挫けない人だと決めつけて。
自覚しちゃったばかりの慣れない“好き”につきものな、
愛しい気持ちと対の、寂しいという やあらかいところ、
彼にも芽生えていることを、
ついうっかりと忘れるとこだった。
甘えるばっかじゃいけないと、
ほんのこないだ うんと自覚したはずなのにね。
誰かへと甘えることにさえ不慣れな
それはそれは可愛い人だと思ったからには、
全力で守らなきゃいけないのに、

 “これでは梵天さんから叱られちゃうね。”

おいおい、そこかい。
(苦笑)
勿論のこと、それは照れ隠しのジョークで。

 「……。」

どこかのお店から流れて来る、
いまどき流行
(はやり)の歌じゃあないけれど。
どんなに離れたところにいても
“繋がっているよ大丈夫”って
余裕で微笑っていてほしいからには、

 “頼りがいのある存在にならなきゃあね”と。

何だかやっぱり、
ちょっと斜めなことを思ってしまったらしい、
何だかやっぱり、
こちらさんもまだまだ不慣れなイエス様であるようで。

 “…早く来ないかなvv”

お店とお店の間から、ひょこりと通りへ顔を出し、
愛しい人が駆けつけるの わくわくと待つ“独り”は、
楽しさを堪能出来もする特別な“一人”なのだと、
果たして自覚しておいでかどうか……。





   〜Fine〜  13.09.21.


  *微妙に同じところを行ったり来たり、
   迷走しつつも、お互いの手は離さないんだからと
   何とか頑張っておいでの二人なようで。
   書いてて“イ〜〜〜ッ”て焦れったくなるのも
   ラブコメには付き物と諦めましょう、うん。
   (え”? これってラブコメだったのか?)う〜ん




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