キミと一緒の秋を迎えに 
         〜キミに ××な10のお題より
 
 

 “キミと お散歩”



このところのずっとの毎日、
午後になると真面目にバイト先へ出勤しておいでのイエスだが、
今日はそのバイト先の雑貨屋さんで、今から棚卸しとやらを始めるとのこと。
ちなみに“棚卸し”というのは
今現在の在庫を総ざらえし、仕入れと売り上げとを突き合わせることであり。
大昔 バイトで
某スーパーマーケットでレジ打ちをしていた経験持ちのもーりんも、
四半期毎の棚卸しでは
お店の陳列棚にある商品を数え上げるという
地味な作業の助っ人に駆り出されもしたものです。
その後でその一覧表をレジに打ち込んで、
仕入れと売り上げのデータに突き合わせるんですぜ。
さすがに POSシステムは導入されてましたが、
それでもそういうところは一斉にかかる手作業だったのが何ともはや。


  そ〜れはともかく。


そういう身の上だし、そういうバカンスなので、
行動範囲や地上での知り合いがほぼ重なっているのは当然の話。
なので、お出掛けはたいがい“一緒に”という格好になる彼らであるものの、
今日みたいに、待ち合わせという格好で表で落ち合うことも
この頃では結構、ないではなくて。

 「♪♪♪♪〜♪♪」

ついつい鼻歌が出て来そうになるほどに、
何だかワクワクして嬉しいなと。
お顔がすぐにもほころんで仕方のないものだから、
照れ隠しというか、誤魔化しのため、
スマホから延ばしたイヤホンを耳へと装着して、
何か聴いておりますという素振りを装う。
本日は閉店しましたという札を掲げた雑貨屋さんの、
ワゴンや何やしまってしまったがらんとした軒先の奥、
タイルを張った外壁へ凭れて通りを見ているイエスへは。
早上がりの学校帰りらしき、顔なじみの女子高生らが
気がついての手を振って来たりもするけれど、

 「今日はお店、お休みなのかな。」
 「何か そうみたいだね。」

イヤホンに気づくと“ああ…”と納得するものか、
それとも人待ち顔なの、ありありとしているからか。
近づく気配はないままに、じゃあねと通り過ぎてってくれるのみで。

 「相変わらず可愛いねぇ、イエスさんたらvv」

代わり映えのしない白地のTシャツにブルージーンズ。
何やら片仮名やら英語にて、
意味不明な単語を刷ったシャツばかり着ておいでだけれど、
日本人だって、よく判らないロゴのついたシャツ、
堂々と着ているのだから そこはお相子。
ましてや うら若い層は何でもファッションと受け止めるので、
意味まで訊かれた試しは、そういえばなかったりして。
それが いかにも“日本贔屓のガイジンです”という
素朴の三乗くらいな いで立ちに見えるらしいその上、
そんなに仰々しくはない口ひげや顎髭にまで、
今時の流行(はやり)ものを取り入れてますっぽい軽さを匂わせつつ、
ようよう見やると……実は 端正な目鼻立ちでもあるものだから。

 「カコなんて、
  お顔見たさで毎日此処通って帰ってるしね。」
 「え? あの子 方向違うじゃん。」
 「それでも、ここんとこ欠かしてないよ?
  まあ今日は委員会があったらしいけど。」
 「でも何か判るなぁ。
  カッコいいんだけど、近寄り難さは全然っていうか。」
 「そうそう、
  笑顔が可愛いし、黙ってれば チョーイケメンだし。」

それって褒めてんの? えー、当然じゃん?と。
本人へ聞こえてないのをいいことに、
微妙に残酷な物言いをするのも、ままこの年頃には有りがちだけれど。

 “…そうなんだよね。
  見る人が見りゃ判ることだよね。”

そんなお嬢さんたちの少し後ろから、
商店街の通りへ入って来た格好のブッダとしては。
“今時”に敏感で、時代の舵取り役の筆頭でもある女子高生らの
噂話の種になっちゃうほど、
実はこっそり注目浴びてるらしいイエスなのだということが、
誉れだったり気掛かりだったりと、なかなかに複雑な心境であるようで。

 「♪♪♪〜♪♪」

本当に何か聴いているものか、
和ませた目許は伏し目がちになっていて、おっとりと鷹揚な雰囲気。
細い鼻梁に、薄い頬と細いあごという取り合わせは、
お髭がなければ 文学青年と言って通る繊細さを押し出すに違いなく。
そうでありながらも
すっきりしたおとがいや首元に添う髪の、やや乱暴な撥ね具合が、
思わぬ節に見せる男の人らしさを、さりげない格好で示唆しているよう。


  ……ブッダ様、歩きながら寝言ですか?
  歩きながらスマホより危険ですよ、それ。(苦笑)


 「…あ、ブッダ。」

早速にもこちらへ気づいて手を挙げる彼なのへ、
お待たせと駆け寄れば、

 「急いじゃった? 汗かいてない?」

真っ直ぐな眸が やや気遣いの色となったものの、
でも嬉しさは隠し切れぬか、イヤホンを外す仕草がぞんざいで、

 「ああほら、そんなしたら絡まっちゃうよ。」
 「大丈夫だって、って、ありゃ。」

早速、それも自分の髪へパッド部分をからませていては世話はない。

 「わぁん、どうしよう。」
 「ああ、ほら動かないで。」

焦った拍子、そのまま引っ張ろうとするイエスの手を掴み止め。
その位置のままにしていてねと目顔で訴えてから、
ゆるい癖のあるイエスの髪へ、指先をすべり込ませるブッダであり。
ちょいとコードの中途をつまんで浮かせたり、
ほんの一本の髪にも無理はさせずにくぐらせたりを繰り返し、
イエスへは何の負担も与えぬまま、2つあるパッドを着々と救出しており。

 「はい、まずはこれね。」
 「あ、うん。」

難無く片方を取り外してイエスに持たせ、
残りは もちょっと奥まったところへすべり落ちたのを、
首の間近へ手を差し入れての追いかけてゆく。

 「…っ。///////」
 「あ、ごめん。」

その手の甲が首へと触れたのへ、
思わずのことだろう、イエスの肩がひくりと震えて。
ああ驚かせたねと、ブッダの視線が上がって来たものだから。

 「〜〜〜。///////」

真っ赤になりつつ、ううんダイジョブとかぶりを振って。
続けてという意味から へろりと微笑えば、
いつものことで通じたか、ブッダもふんわり微笑ってくれて。
再びその視線が、手元へ降りてしまったけれど。

 “驚いたというか…。///////”

正確には あのね、ときめいちゃったんだけどもなと。
やや俯く角度になって、イヤホン救出作業に集中している無心なお顔を、
すぐの間近にイエスは見やる。

 ああ、人のことは言えないな。

視線が合うとすぐ逸らすくせにと、
ちょっとばかし拗ねたのはつい先日。
でもね、

 自分の方を見てないお顔って、
 それって何かイヤだけど。
 でもネ、
 んん?って、なぁにって言われずに
 じいっと見続けてられるから…

そこは悪くもなかったりするなと、
お気に入りの端正なお顔へついつい見ほれる。
目許がくっきりしていて睫毛も長くて、
瞬きのたびに音がしそうなほど。
ちょっぴり伏し目がちになってるからか、
何とも言えないやさしい目許なのが、見ていて何でだか嬉しい。
こういうの何て言うんだっけ、えっとそう“眼福”。
酒屋のおじさんから聞いたんだ、目への御馳走のことだって。
なめらかな肌の頬に、ぽってりした口許は やあらかそうで。

 “うん、
  ホントにとっても柔らかいんだけどもね。///////”

キスして確かめてるもんねと、じんわり照れつつ、視線をよそへ。
今は螺髪にまとめられてるから、福耳があらわになってて、
そこもとっても柔らか…なんだけど。

 “耳たぶは触っても平気なのにね。”

ちょっとでも内側になると、
そりゃあ擽ったがるのがまた可愛くて…vv

 「…い、とれたよ。イエス?」
 「え? あ、ああうん。えと、ありがとうvv」

なぁに、ぼんやりしてと、
何にも気づかぬまま、ほっこり微笑った彼の。

  間近になった深瑠璃の瞳に、私が映っていて

ああ、何て顔してるのと、
何でか居たたまれなくなってしまい、
さりげなく視線を泳がせてしまったイエスだった。





      ◇◇◇



イエスが出先から、電話ではなくメールを送るのは、
ブッダも彼なりに独自の交友範囲を広げつつあるからで。
買い物に出た先で頻繁に顔を合わせる奥さんとか、
町内会の活動とは別口の御用で、
男手としてアテにされての駆り出されることもしばしばだそうで。
これまでにも
近所のおばあさんがぎっくり腰になったのを病院まで付き添ったり、
タンスの裏へ印鑑を落としたというのへ、
せぇので軽々と持ち上げ…てはビックリされそうだったので、
傾けるだけにして取り出すお手伝いをしてあげたり。
そんなせいか、

 『聖さんいる? ブッダさんの方。』

なんていう、ご指名のお声掛かりもあるくらい。
とはいえ、それは彼らにしてみれば例外的突発事態のようなもの。
いつも一緒が一番だと、お互いに思っていての疑わず、なのであり。

 「あ、ほらこれ。」

商工会の事務所の外壁に設置された掲示板には、
今日のセールの案内とそれから、
月末の催しの詳細を綴った、大きめのポスターが貼られていて。
売り出しとそれから、
会議所のホールや広場を使った毎年恒例のお祭りも。

 「バザーとフリマ。ねえ、フリマって何?」

後半は お顔を寄せて来て、
ブッダへこそりと訊いたイエスだったところを見ると。
さてはどこかで“知ってるよ”なんてお顔して、
誰かと話を合わせでもしたものか。
相変わらずの子供っぽさと、自分へは隠し事をしない彼なのへ、
胸底に得も言われぬくすぐったさを感じつつ、

 「それぞれのお家にある、
  まだ使えるけど自分はもう要らないものを持ちよって。
  それが要る人へ、安くで売ったり譲ったりする催しのことだよ?」

バザーとはちょっと違ってね、
それぞれでブースを借りてお店を出す格好になるんだ、と。
こちらもこしょこしょと小声で説明。
すると、キョトンとしてからじわじわと、
納得が文字通り 腑に落ちたか、
おおというお顔に塗り変わるイエスであり。

 「あ、じゃあお値打ちの品が手に入るかもしれないんだ。」

蚤の市みたいなもんだね、
そう言ってくれたら判ったのに、何ぁんだと。
ホッとしつつ ほこほこ微笑うのが、何とも無邪気だったので。
つい釣られてこちらまで微笑ってしまったけれど、

 「あ、こっちは流れ星の観測会だって。」

お月見はもう終わって、次はということか。
来月の半ばの某日、深夜にかけて開催予定という
そちらは小さめのチラシが すぐお隣に貼ってある。
子供会へのお知らせらしかったけれど、
参加は自由だよという付け足しが、
まんがの吹き出しみたいに手書きで記されてあって。

 「そういや毎年すごく見れますって話題になるよね。」

しし座とかふたご座とかってと、
ふふと楽しそうに微笑うイエスなのへ。
ちょうどそんな背後を通りすがった、
声も表情も軽やかに弾む、十代だろう女の子らが。
キャッと沸いての離れつつも
こちらをチラチラと
さりげなく見やり続けているものだから。

  ほら ごらん

ちょっぴり謎めきの長い髪に、
すらりとした腰や脚に長い腕。
ひょろりと痩躯で、だというに、
十分男らしい、大きな手をしており。
頼もしい骨格の背中や肩も、
気がついてしまえば、
その姿を捜したくなるに十分な魅力で。

 「…ブッダ?」

 どうしたの?
 ああうん、あのね。

何でもないと言いかかり、でも、
こちらを案じる翳りのかかった、
イエスの玻璃色の双眸には、
誤魔化しを言うことこそ気が引けて。

 「さっき、女の子たちがイエスを見てはしゃいでてね。」
 「え?」

当人は気づかなかったのか、
小首を傾げて“それって何時の話?”というお顔になったのへ。

 「ね? カッコいいでしょう?って、
  私にも自慢な、嬉しいことだと思ってたけれど。」

イエスがお得意な、ふにゃりという笑い方になり、

 「あんまり誉めそやされ過ぎちゃうと、
  そのまま誰かに奪られないかって不安になっちゃうね。」

 「……え?//////////」

だから、流星は一緒に観に行こうねと。
夜更かし頑張るからねって
ブッダとしては、微笑って そうと続けるつもりだったのに。

 「…ほ、ほら、心配になるでしょうがっ。///////」

ちょっぴり言い淀みつつ、頬も赤く染めながら。
ブッダに案じられてしまったイエスが、
ちょみっと偉そうな居丈高を装っての憤慨したのは、
でもでも、照れ隠しのせいではないらしく。

 「私がいつだったかブッダを案じたの、
  全然 大仰じゃあないって、これで判ったでしょ?」

他の人には聞かれたくなかったか、
またまた ずいとお顔を近づけて来て、
こそりと、でも鋭い言いようで、
そんな文言を告げてくるイエスだったりし。
それへ、

 「…………え?」

今度はこちらが、本気で意味が分からぬらしいブッダの、
ささやかな不安からだろ、潤みの増した双眸を。
こちらこそ悩ましげに 口許たわませつつ見やってのそれから、
忘れたの?と焦れたように言い重ね、

 「ブッダこそ綺麗なんだから
  気をつけなきゃって、注意したことあったよね?」

 「え〜っと?」

ますます心当たりがないよぉと、
眉を寄せ、困惑する如来様へ、

  だからぁ、じょ、女性へ転変したのへだよ、と

それこそ世界的に聞かれちゃまずい超極秘事項であるかのように。
周囲へくるんと視線を巡らせながら、
叱るような勢いで…やや咬みつつも素早く言ってのけ、

 「大事な人が奪られちゃうかもっていうのは、
  こんな怖いことなんだから。
  私がどれほど不安だったか、これで判ったでしょう?」

 「う……うん。/////////」

ああ、あれかぁと思い出すと同時、見る見る耳まで赤くなったブッダ様。
螺髪が解けたら大変だと、揃って左右を見回すと、

 「今晩の予定は?」
 「おからのミートボール風甘酢あんかけと、
  ひじき煮に水菜のサラダ、
  茶わん蒸しに、車麩と大根のお味噌汁。
  他に何か食べたい?」

御馳走じゃないよ、早く買い物済ませようね。
うん、と。
今度は極秘作戦に取り掛かるコマンダーよろしく、
さかさかと足早になって
スーパーへ向かう二人であったりし…。

  確かにまあ、
  最聖人というお立場の、
  この世における
  そりゃあ大切なお二方じゃああるけれど。

それとは微妙に違った意味での、
とってもとってもプライヴェートな“大切”を。
世間から隠すため、
今すぐにでもその胸へぎゅうと抱えてたい、
お二人であったようでございます。





   〜Fine〜  13.09.22.


   *相変わらず、何かぐだぐだしたお話ですいません。
    お互いが好きで好きで、誰かが惚れちゃったらどうしようと、
    そんなことをお互いに心配しているお二人でして。
    本誌(というかコミクス)で、
    何だこのいい声、
    これへ惹かれて入信した人がいたかも知れないなんて
    自惚れたこと言ってたのと、いい勝負かも知れませんね。

   *話題の『半沢○樹』、
    最終回を前にしてのダイジェストとやらを
    結局見ちゃいましたよ。
    熱いですねぇ。
    (テンション高いんで、
     最初は“リーガルハイ”の続きかと思ってた)
局が違う

    ただ、私、
    香川さんて『静かなるドン』から入った人なんで
    仇敵役をされると観るのが ちょっとキツイです。

    この分じゃあ最終回も観ちゃうかも?
(う〜ん)
    ブッダ様だと、憤慨しつつ観てそうですね。
    イエス様は、専門用語がよく判らないまま、
    恫喝のシーンとかにドキドキびくびくして、
    ブッダ様に時々しがみついて
    肩の陰あたりから首伸ばして観てそうです。

    「何か難しいお話だったねぇ。」
    「ああ。人の業っていうのは一通りではないからねぇ。」

   なんて、会話もすれ違ってたりしてね。




                      『
キミの寝言』 へ


めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv


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