キミと一緒の秋を迎えに 
         〜キミに ××な10のお題より
 
 

 “キミの寝言”



一雨毎に朝晩の気温も下がり、
陽こそ強いがその角度は少しずつ低まっていて、
夏から秋への季節の交替は、
僅かずつながら それでも着実に進んでいる模様。
西日本ではまだまだ真夏日の昼が続いているそうだが、
こちらでは随分と過ごしやすくなった。
昼の間 体をようよう動かす人には、長袖はまだ早いかもしれないが、
朝早く出掛ける人や、帰りが陽の落ちてからとなる人は、
薄いのでいいから何か上着が要るようになったねとの声もあるほどで。

 「…ブッダ?」

窓からは心地いい風が入り込み、
りぃりぃという虫たちの奏での声も、もはや当たり前の環境音。
11時を前にして、
いつものように卓袱台を片付け、布団こそ敷いたものの、

 『来月の“流れ星を観る会”へ参加するのでしょう?』

だったら夜更かし出来るようにならなきゃと、
明かりも消さぬままで、布団の上へと座り込み、
こちらは定位置の腰高窓の傍でPCを開いていたイエスと
あれこれと何ということもない話をしていたものが。

 “いつもよりかは粘った方だけど。”

とはいえ、まだ日付も変わってはおらずで、
テレビでは 各局微妙にばらばらながらも、
本日最後のニュースとやらが扱われている時間帯。
どうかすりゃあ小学生だって起きていよう頃合いだというに、
うつらうつらなんて誤魔化しの利くものじゃあない、
しっかり身を横たえての目を閉じて、
すっかりと熟睡状態に入っておいでの如来様だったりし。

 “大晦日の夜更かしは何とか頑張ってたんだし、
  そうそう気張らなくても大丈夫だろうに。”

それこそ小さい子供じゃあなし、
目的さえ定まっているのなら、問題はなかろうと思う。
用もないのについつい寝られない、夜型のほうが不自然なのだしねと、
イエスとしては、我が身へのうっすらした自嘲も兼ねての苦笑をし。
お膝のPCを畳の上へ降ろすと、
そっちは空いている自分の布団の側へと立ってゆく。
半分に畳まれてあった夏掛け布団を広げ、
身をかがめると、
心持ち背を柔らかく丸めて眠るブッダへ、
その身をくるみ込むようにして、そおと掛けてやれば、

 「………ん、から…。」

何か呟いたのは、実はまだ微睡み状態だったからか、
だが、長い睫毛はすべらかな頬の縁へ伏せられたままだし、
ぷっくりした口許もほとんど動かずの、薄くぎりぎり合わさったままだ。

  今なら まだ、キスしたら引き留められるかも?

そんな誘惑に駆られないでもなかったけれど。
静かな寝顔はあまりに清楚できれいだったので、
無理強いは良くないないと、かぶりを振って。

 「……。」

瞼が上がらないことをこそ じいと見やって確かめてから、
天井から下がる蛍光灯の紐を引き、
かちかちりと堅い音と共に消してしまえば、
室内はあっと言う間に、いかにもな夜の景色に塗り替えられる。
一瞬、真っ暗になってから、だが、窓からの明るみに浸されて、
押し入れの襖やテレビの角が浮かび上がり、
何ということはない、いつもの夜がイエスを迎える。

 “確か、二十三夜とかいうんだっけ?”

ブッダに詰んでもらった爪の形を思わすように、
左上側へきれいに居残った弓なりの白。
下弦の月と呼ばれる三日月が、
窓の向こう、お向かいの家並みの上に覗けて。
もはや望月からは遠い月齢だが、
その分、こんな夜更けに やっと昇って来たらしい月のお陰様、
漆黒の夜陰の中というほどの暗がりじゃあないけれど。
それでも、つい声を潜めねばと意識してしまうには十分なそれだ。
時折どこのお宅からだろうか、
テレビの、それも効果音だろういかにもな笑い声が届くけれど、
遠いと判るほどささやかなそれであり、却って静けさを強めてくれてもいて。

 「………。」

風を入れたいからと
カーテンを引かないままにしている窓辺は、
どうかすると陽だまりのよう。
元の位置へと戻って肩越しに外を見やってから、
ついと視線を戻した部屋の中。
窓の形のままに落ちた月光の四角は、
寝床のブッダの肩から上へも掛かっており。
寝顔がよく見えることへ頬笑みかかってから、
あ、眩しくないかなと気がついて。
取り上げ掛かったPCから手を放すと、
手をついての四つ這いになって、再びそっと彼へと近づく。

 「………。」

無心に眠るお顔がやはり愛しくて。
さっきは我慢したけれど、
そっと延ばした指先、ついつい唇に這わせると。
敏感なところだけにくすぐったかったか、うにむにと震える。

 「………ん。」

小さく唸って、髪でも張り付いたと思うたか、
頬へと上げた手が もそもそ覚束なく動いたが。
それもすぐに睡魔に流され、はたりとお顔の前の空き地へ落ちる。
衝撃で目を覚まさぬよう、咄嗟に手を出して受け止めれば、
やわらかくて ほわりと温かい手のひらは、そのまま彼の心のようで。
離したくはなかったが、それで起こしては何にもならぬ。
そっと布団の上へと置いて、再び寝顔を眺めておれば、

 「いえ、す…。」

すは、ほぼ聞き取れなんだほどの小声であり、
口の中から出て来なかったけれど。
毎日いつも呼ばれる声だ。聞き間違えようがない。
なぁにと唇の形だけで答えれば、

 「……………………すき。」

言ったそのまま、ふふと小さく、
ブッダの口許が甘い形にほころんだのは。

 “〜〜〜〜〜〜〜〜反則だと思います。////////”

おおうとのけ反り、ざざざっと後ずさりして、壁際の元居たところまで。
物音立てずにようも移動出来たと、自分で自分を褒めたくなった。
だって、まるで部屋一杯に満ちる月光を塗り潰したいかのよに、
彼の深藍色の長い長い髪が、さあっとほどけて広がったから。

  ……ってだけじゃあなくて

たとえば、遅寝のこちらが寝ているところへ、
彼の方がひょいと目を覚ましたというような。
そんなレアな間合いに限り、
こそり囁いてくれる“好き”もそうだけれど。

 なんて甘く、なんて切ない、
 素敵な“好き”をくれる君なのか。

ねえ、口に出さないと伝わってないと思ってない?
私、そこまで鈍感じゃないよ?
目を合わせるのさえ恥ずかしいって、含羞むそんなところもあのね?
好きって言ってる代わりに聞こえるくらいだもの。
こんなにあっさり髪がほどけたなんて、
一体どんな楽しい夢を見ている君なのかな。
知りたいけれど、それはまた明日のお楽しみ

  ……だとして






  「あ。私どこで寝ようか。」





    〜Fine〜 13.09.24.


  *ウチのブッダ様と言えば、
   恥ずかしいと弾けほどける螺髪でございますが。(おい)
   本人が意識してない、寝ている間にだってほどけます。
   イエス様、夜型なだけに何度も目撃しておいでかも知れませんね。
   告白し合ってからだからこその現象ではありましょうが、
   いつぞやみたいに悲しい夢だったらどうしよかと、
   ドキドキ見守っておいでの晩もおありかと。



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