キミと一緒の 秋を迎えに 
         〜キミに ××な10のお題より
 
 

 “キミと二人で”



よくある勘違いと 人の噂の合体技から、
何だか妙な雲行きに陥りかかってしまい、
ついつい熱くなってしまった最聖人のお二人で。
それ自体へはオチもついての決着もついたのだけれど。
相変わらずな勘違いというか、筋違いな自己嫌悪が覗いたり、
微妙な本音が飛び出したりした挙句、
少々ささくれ立った言い合いになってしまった空気を
お父上の十八番の大洪水ではないが、
大技で一気に払拭してしまいたくなったものか、

 『…うん。今から呑もう。』
 『はい?』

そんな唐突なことを言い出したイエスだったりし。
平日のまだ昼のうち。
今日は朝からそりゃあ良いお天気で、
窓の外のみならず部屋の中だって燦々と明るいっていうのに、

 「呑むって、…やっぱりアルコールだよね?」
 「うん。」

だって私、今日は安息日だしと、
わざとらしくお道化てのこと
唇の上のお髭をハの字にし、口許とがらせまでするものだから。
ブッダもついつい吹き出して、
その頬を柔らかな笑みでほころばせてしまったほど。

 “…まあいっか。”

まだちょっと陽盛りは暑いし、
今からの外出となると、そんな遠くまでは出られない。
となると、さっきまでの話に出て来た顔触れとも
どこかで鉢合わせする恐れは大きい。
今更 蒸し返したりはせずとも、
思い出して面白い話でもないから、
今日一日くらいは
このまま蓋をしといた方がいいのかも知れぬ。

 「ライムはあるけどミントがないなぁ。
  あ、トニックソーダがあるから、ジントニックもどきが作れるかな?」

やや腰を落とし、冷蔵庫を覗いて
そこは昼間の酒盛りだけに、ソフトなものをと
飲み物の都合を算段するイエスの後から。

 「氷が足りないかなぁ。
  それに、ご飯食べたばかりだから、重いおつまみもないよね。」

ジャガ芋を線切りにして水にさらしてサッと揚げたのとか、と、
こちらはお供をと考えておいでのブッダだったが、

 「あ……。」

何にか気づいたか、そんな声を出したのへ、
え?どうしたの?と、
手前で屈み込んでたイエスが背後の彼を振り仰げば、

 「いやあの、
  ………ワインを切らしちゃってるなと。/////////」

あまりに有名すぎるイエスの奇跡にまつわる一言であり。
うあ、何か ウチでこれを言う日があろうとはと、
定型過ぎる運びへの、
そういう方向から照れが出たらしい彼なのへ、(悪かったわねっ)

 「…………。えっと。///////」

そうだね、わたくしごとに奇跡なんて以っての外だけどと、
イエスもまた、ぎこちなく立ち上がりつつ もっともらしいことを言う。
彼自身としては、
話運びへの何だかんだまでは思わなかったようだけど。
奇跡はあくまでも、信仰への幸いにもたらされる福音へのおまけであり、
魔法少女がバトンを振れば起きるような気安いものとは訳が違う。

 「うん、そうだよね。」

こちらもそのくらいの道理は判っているブッダだったけれど。
まだ何か続きそうな気配なのへ、
素直な眼差し向けたまま、続くのだろう言を待っておれば。
イエスには珍しい照れ隠しか、
口許へ緩く握ったこぶしを当てての 咳払いの真似っこをしつつ、

 「でもね、大好きな人のためにあふれ出す歓喜の成せる技なら、
  それはもう仕方がないとも思う。」

言い終わりにちらり、切れ長のお眸々でブッダのお顔へ瞬きを一つ。
なので、これは間違いなく“アレ”かと思われ。

 「〜〜〜それってまさか。////////」

言っちゃあ何だが、
心当たりがあればこその、
その素早い反応じゃあないのでしょうかブッダ様。

 「リンゴは食べてないよね、キミ。」
 「え? う、うん。??」

一応は確かめる悪あがきをしてのそれから。
でもまあ、何となく…
歓喜の萌えこそ一番手っ取り早い点火薬だというのへは、
そこはやっぱり予想もついていたらしいブッダ様。
ましてや此処には、彼の一番のお気に入りらしい自分がいるワケで。

 “こ、これは煩悩じゃないからね。
  ましてや、思い上がりとかいう僭越な驕りでもないんだからね。
  ある意味、今 確かめたばかりの
  嬉しい事実に他ならないんだから。//////”

既にぐだぐだです、ブッダ様。(笑)
何ですかそりゃという言いようで気持ちを落ち着け、
大きく息を吸っての呼吸を整えると、

 「どうすればいいのかな?」
 「いやそこはお任せでvv」

だって私がああしてこうしてなんて言っては強要になるし、
そんな程度の感動では、風味や何やにも深みはないかもしれないし、
悪くしてミリ○ダのグレープ味に落ち着くかも……。

 「…………イエスっ、」
 「〜〜〜〜〜っっっ☆☆☆」

お説の途中でしたが、ここで臨時ニュースを…じゃあなくて。
そこはやっぱり、ブッダにはブッダの間合いがあったのだろう。
そちらもやはりぐだぐだな イエスの言い訳なんて、
ほとんど聞いてなかったというのも重なってのこと。
何とも唐突に
がばっと正面から抱き着いたそのうえで、
真っ赤なお顔で、そりゃあ貴重な、
レアなはずのあれを浴びせかけたから、
なんてまあ かわいらしい如来様だったことか。

 「す、すすす、好きだよっ、イエスっ!//////////」

  声と勢いはなかなかの剛の者だったけどね。
(笑)

うあどうしよう、そんなあなた、ワインのために廉売されたよな言いようでこの私が心動かされるとお思いか。甘いアンズの匂いもいっぱいするけど、あのね。そこはほらっ、キミの本気とか真摯な声とか聞き分けられる、一番の理解者だよ見くびらないでほしいなと、

いろいろごしゃごしゃと思っている殆どが、
口から外へもだだ漏れしていたイエスであり。
そんな彼がその手にしていた、
封を切る前の2リットルミネラルウォーターが、

 「あ………。///////」

見る見るうちにも、
深みのあるルビー色に転変しているのだから世話はない。

 「〜〜〜〜〜。///////」

まま、ブッダ様も
その螺髪が一気に解けたほどに本気だったようですし。
真っ赤っ赤になった者同士でお顔見合わせ、
ここは引き分けということでと、吹き出して。
真昼じゃありましたが、秋の呑み会 in 立川が始まります。




      ◇◇◇


傍から見る分には何とも愉快な、
だがだが、ご本人たちには結構な覚悟も要ったのだろう、
奇跡と呼ぶにはドタバタした一幕のお陰様。
それへの ほんのちょっと前の舌戦も、
いつの話ですかというよな遠くへ、蹴り出されてしまったようで。

 「あ、これ、修善寺の旅館の女将さんだ。」
 「うん、人懐っこい人だったよね。」

イエスのPCへ収録されてあった、
下界で撮りためた山ほどの写真を眺めたり。
簡単なゲームをダウンロードして遊んでみたり。
小型テレビほどの画面なものだから、
卓袱台の上へ置いたそれ、左右から覗き込んでいたものが、
お互いの間の距離もどんどんと縮まってゆくのは自然なこと。
不慣れなブッダへ、マウスの操作を教えたりもし、
はしゃいだことで酔いも早く回ったものか。
気がつけば、イエスの懐ろへ、
彼の立てひざを背もたれにする格好で収まっていた、
微妙にほろ酔いでおいでならしいブッダ様だったりし。
お酒のあてにと、お芋の素揚げだの、枝豆だのを
用意していた間は何とか結い直せた螺髪も、
今はまた、すっかりとほどけての下ろし髪状態になっており。

 「何かちょっと暑っつぅい。////////」
 「そうだねぇ。」

そんな風に言いつつも、離れるつもりはさらさらないらしいブッダと、
そんなささやかな不整合にまでは気がつかぬ程度に、
こちらもいい気持ちになっておいでのイエスだったりするようで。
テーブルの上には、露をまとったグラスが二つ、
窓からの明るみを吸い込んで、きれいな透過光を天板にゆらす。
ジンならぬ焼酎をトニックウォーターで割って
氷とライムを浮かべた“もどきトニック”に、
赤ワインをソーダで割ったソフトドリンクは、
ブッダへとイエスが作ったもの。
実はちょっぴりお酒に弱いらしいブッダ様。
仏教では、酒をというより、酔っての醜態をみせぬよう戒めているとかで、
日ごろもさほど口にはしないよう わきまえていたらしい。
なので、この状態に落ち着いている今の今は、
紛れもなく“酔っているから”じゃああるけれど。
こういう格好で やっぱりPCやら、
新聞やら雑誌やらを一緒に覗き込んでいること、

 “最近は、結構あったりするよね♪”

ついつい悪戯ごころから、不意打ちのハグやちうを仕掛ければ、
そこはやっぱりびっくりしてその肩を跳ね上げるブッダだが。
誠意のある“おいで”をした上での ぎゅうには、
彼の側からぽそりと凭れて来てくれるようになったし、

 「♪♪。」
 「? …うん。///////」

そこからの“ねえvv”には、
含羞み半分、時には今みたいに
ふふと小さく微笑って眸を伏せてくれるて、

 “どういう余裕でしょうか。”

わたしのかわいい如来様ったらvvと、
聞きようによっては、
あなたこそ改宗したんでしょうかという
不埒な心持ちを甘く転がしながら。
通年で同じのを提げているカーテンが、
窓からの風に大きく翻ったその陰で、
やわらかな唇をそおと奪えば。
妖冶な角度で仰向いたおとがいが、
深色の髪に縁取られ、いつになく艶めいていて。

 「イエス。」
 「んん?」
 「すき。」
 「あ、酔ってるでしょ。」

無理しちゃダメだよと、グラスを遠ざければ、
うふふと微笑って、
凭れきったこちらの胸元へ
甘く温かな頬をすりすりと擦り寄せる君で。

 「大好きだよ。」

ちょっと間延びした声だが、
全くの酔態からという感じでもないみたい。
だってどんどんとお顔が赤みを増してゆく。
自分の声が確かに紡ぐそれだとは
信じられないから確かめているのだというような。
そんな趣きだったものが、
ふと、ぐりんとお顔を上げたよな気配が感じられ。
んん?と見下ろせば、かちりと音がしたようなほどきっちりかみ合ったのが。
大きな瑠璃色の双眸が真っ直ぐ見つめてくる視線とで。
やや潤んでいるのはやはり酔いのせい?
眸の縁や頬も 仄かに朱を亳いて赤い。
でもその表情は、浮いてはおらずのやや堅いくらいで。

 「どうして普段は言えないのかなぁ。」

はあと吐き出した息は、
本当に苦しそうで切なそうな、遣る瀬ないそれで。
うるうるとした眼差しで見上げていたそのまま、
しっとりとした口許を引き結び、すんと息をつく。

 「おはようとかイエスの名前とかと同じほど、
  ここにいっぱいある気持ちなのに、
  どうして形に出来ないんだろ。」

どうしてと問うているのは、
果たしてイエスへなのか、それともアテなんてないものか。
ここと言いつつ、
ブッダの手が すりと撫でたのはイエスの胸元だったのは、
間違えたのかそれとも、
そこへ注ぎたいという気持ちの表れだったのか。

 「……。/////////」

そのままぽそりと頬をつけ、はぁぁと吐息をついた彼であり。

 キスやハグは、そんな習慣がなくたって、
 その場の盛り上がりで身が動かされてしまう、
 いわば衝動のようなものでもあって。

 でもね、あのね、
 言葉というのは、
 日ごろ秘してる奥ゆかしい人ほど、
 言葉を一杯知ってる人ほど、
 形にした後もその人を縛る。

特に東洋では、言葉にも魂は宿るとされているから。
口約束でもおろそかにはされないし、
大事なことであればあるほど、
一言一言が重くて貴重でもあるのかも。

 「……ねえ、ブッダ。」

座った二人の足元へまで流れるきれいな髪を、
指先にそおと掬い上げながら、
イエスは懐ろでうつらうつらとし始めたブッダへ、
静かな静かなお声をかける。

 「?」
 「私、君が大好きだよ?」

君が言えないなら、私が言えばいいんじゃないのかな。
ちょみっとたわめた、でもでも真摯な眼差しで
真っ直ぐ見やって“判っているよ”と示しつつ、

 「大好きだよ、誰よりもいつまでも。」

耳や目へだけじゃあなく、
頬をつけた胸板からも、低く響いて伝わった睦言へ。

 「……………。/////////」

たちまちというより、ゆるやかに
切なげだった表情をやわらかくほどいた愛しの君は。
長い睫毛の瞬きつきで
うんと頷き、それは嬉しそうに微笑ってくれたのでした。






     ◇◇◇



結局のところ、
軽いソフトドリンクとはいえ、それなりのアルコールのせいだろう、
宵のうちにもならぬうち、まずはブッダがころりと寝オチしてしまい。
一体何に酔いしれたものか、
それは幸せそうに微笑している寝顔に見とれておれば、
ついつい吸い寄せられたのがふっくらした口許で。

 「……。」

そろりと延ばした指先を這わせ、
う〜んと唸って逃れようとするのへ一旦止まったものの、
再び撫で始めると、

  ……お腹空いたのぉ?

何を思ったか、それともまだ酔っているものか、
そんな声を返して来たのが、妙にツボで。

 「ううん、私ももう寝るよ。」

くすくすと笑い、やや雑ながらも卓袱台を部屋の一角へまんま片付けて
一組だけ布団を敷いたそこへ、よいしょと愛しい人を横たえて。
しばらくほど、飽きずに寝顔を見ていたはずが、







  「…あ、起きた。」

まだ黄昏前だったのに、
あれほどあふれていた明るみはどこへやら。
ずっと静かで仄かな明るさが、滲むように灯っている中、
いい匂いがするのへ目を覚ましたイエスだったのへ、

 「おむすびとお茶漬けとどっちがいい?」

ほこりと微笑って訊いて来たブッダの肩の向こう、
カーテンを引き損ねた窓から
姿こそ見えなかったけれど、月のそれだろう青い光が降っているのが、
イエスには優しい後光みたいに見えたのだそうな。




    〜Fine〜 13.09.26.


  *べたべた甘甘なラブストーリーを書くのに
   丁度いいBGMを ようつべで見つけました。
   年齢がいよいよバレますが、うる星やつらのOP&ED集。
   メロディラインも軽快に甘いです、歌詞も絶妙ですvv
   ユーロビートだとリズム取っちゃうし、
   今時のだと歌詞を追ってしまうので、
   おばさんの世代は、
   これが丁度聞き流せるノリなんで助かりますvv



                      『
僕の憂鬱』 へ


めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv


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