“僕の憂鬱”
奥様がたが向こうからいらしたものだから、
スーパーへのお買い物にも行きそびれたが、
ナスが多いめにあったので、乱切りにして甘めの味噌煮にし、
レンコンをおろして片栗粉をつなぎに団子にして揚げたのを、
ショウガをほのかに利かせた甘辛のあんかけでとじて。
シシトウをサッと炒めておかかを振って醤油で仕上げ。
キュウリをじゃばら切りにして塩揉みして箸やすめ。
これへ、タマネギとかき玉子のお味噌汁をつけて、と。
あるもので何とか間に合わせてしまえるところが、
ブッダ様の女子力というか“主夫力”というかの見せどころ。
手際よく仕上げの、ご飯も50分弱で炊けたのをよそって、
何と六時前という早々な夕食になったの美味しく済ませると。
シッダールタせんせえの原稿執筆の時間じゃあないが、
黙々と針仕事へ没頭してしまうブッダの邪魔にならぬよう。
イエスはイエスで、脳内キャッチした電波でテレビを観たり、
PCを開いてブログのチェックなぞしておれば、
「やったぁ、完成〜〜っ。」
最後の糸の始末もそこそこ、
ご本人にも達成感が大きかったのだろう、そんなお声まで上げるブッダで。
ふあ、ちょっと気が急いちゃったなと、
苦笑交じりに凝ったらしい手をふるふると振るものだから、
「ほら、貸して。」
窓辺の定位置から傍まで、お膝でにじって寄って来ていたイエスが、
どらと手を延べたのも実はいつものこと。
時々、突貫原稿の後なぞに、
親指の付け根やら前腕、肩など、
こわばって痛むところを、いつも上手に丁寧に揉んでくれる彼なので。
お願い〜と任せれば、
うんとうなずき、柔らかな手を大事そうに受け取る。
「この辺?」
「あ、うん。そこんとこ。」
「肩は両方でしょ?」
「うん。…あ、気持ちいいよ。」
うっとりお顔をほころばせるブッダなのへ、
イエスもホッとしたように口許でにっこり。
野菜の下ごしらえも、おもしろい漫画へのペン入れも、
イエスの髪への散髪もこなし、
換気扇の掃除から、こんな細かいもののお裁縫までと、
大きに働き者な、なのに柔らかでやさしい手。
母性の象徴のような手を(おいおい)
淑女の御手よろしく そおと扱いつつ、
「ブッダって何でも出来ちゃうんだね。」
イエスが何ともしみじみとした声を出す。
え?と、半ばうっとりしつつブッダがお顔を上げれば、
視線は手へと下ろしたまんまの彼はさらに言を続けて、
「今日の晩ごはんだって
番狂わせだったろうにあんなおいしいの手掛けるし、
一昨日も、お昼からのお酒のせいで随分調子が狂ったろうに、
夜食をちゃんと作ってくれてて。」
動き惜しみしないっていうか、
手際がいいって言うかサと、
落ち着いた声ながら、いつになく賛美を続けるものだから。
「いやそんな。何もしないでいるのが苦手なだけだよ。」
「わたしには真似出来ないなぁ。」
「何言ってるの。キミは奔放で自然体なところがいいんじゃない。
皆だってキミを大好きでしょう?」
「それは…わたしが神の子だから、人を寄せてしまうんだよ。」
「違うったら。
そんなこと言ったらペトロさんとか悲しむよ、いや怒るかもね。」
私もそうだけど、と付け足して、
「皆、君の君らしいところへ惹かれているのに、
そこを君本人が取り違えてどうするの。」
やさしく、でもでも気持ちを逸らさせぬよう、しっかと言い置けば、
「…やっぱりブッダって凄いよね。」
「はい?」
「だから私ずっと心配してるの。」
「えっと?」
心なしか、やや声が単調になったのへ、
キョトンとするブッダなのをよそに。
玻璃の目元をやや伏せると、
口元のおひげをかすかに震わせ、イエスは続けて。
「勉強家で努力家で、物知りで人格者で。
その上、綺麗で気立てがよくて。」
私の大切な人でと、そこはやや照れながら付け足してのそして、
「自分で言うのも情けないことだけど、
私があまりに幼くて放っておけないのは判るとして。
君こそ自覚してほしいんだ。」
幼いからなどという、
謙遜以上、卑下としか思えぬ言い回しへまずは時を取られ、
そんなことないでしょと言いかかったブッダが、
自覚?と、続いた言に違和感を覚えておれば。
そこへと畳み掛けられたのが、
―― それとも、慈愛の人だからしょうがないの?
やさしい力加減で手首や前腕のツボを押さえつつ、
でもその声が紡ぐ言だけは、誰か別人の語りのようで。
「えっと? …イエス?」
窓辺のカーテンが揺れて、外からの街灯の光が一瞬ふさがれる。
そうなってやっと見えたほど小さな、
テレビの主電源を示す小さなランプのように。
何だか、言葉づらの奥に 別の言い分があるらしいイエスだと、
ようやく気づいたブッダだったものの。
こうまで曖昧な言いようはこの彼には初めてで。
常の彼なら、拙くとも も少し判りやすい言い回しをする筈が、
“な、なんか脈絡が…。”
ないと思えるのは私だけだろか。
そんなに疲れちゃってるのかなと、
不安にさえなりつつあったところへ、
「判らない?
女体化していなくとも
“綺麗な女の人”って間違えられたんだよ? キミ。」
話はそこへまで逆上っていたようで。
「あのね、頼もしい反面、
君が好きな立場の者にしたら、むしろ危なっかしいの。」
だって君、全然自覚してないでしょう、と。
説教の口調に入っているイエスだと朧げながら気がついた。
それも、
「先だっては女の子になったブッダへあたふたしちゃったけれど、
そもそもからして キミとっても綺麗なんだよ、判ってる?」
うるうるしてる瑠璃色の目とか、長いまつげとか、
柔らかくてすべすべで、水蜜桃みたいに瑞々しい肌とか、
ほどけたときの髪のつややかさもそうだし。
こうまで気品があって綺麗な人を私は知らないよ?
賢くて我慢強くて、
心が強いのそのまま映して真っ直ぐな眼差しをしていて。
人への気遣いにあふれてる言葉とか、
もうもうどこを取ってもすてきで眸を奪われてしまうのと同時に、
誰かに取られたらどうしようっていつもドキドキしてたんだからね。
「う…。///////」
うぬぼれは浅ましいとか、
謙遜が美徳だとか思っているのかもしれないけれど、と。
まだまだ畳み掛けるつもりなイエスを引き留めたくて、
「あのあの、でもね?
私の容姿はあちこち後づけだから。」
天部が盛った代物ばかりで、
もって生まれた素養ではないのだしと。
何とかそこのところを切り返したものの、
「ただのそれだけだったら人は惹かれないよ?
君を好きだと慕う側を舐めちゃあいけない。」
その慕っている対象相手に、容赦のない言いようをするイエスなのは、
叱る人が叱らなきゃあ、一体誰が窘めるのかと思ったからなのか。
「えっと…。///////」
ただ窘められているのとは微妙に異なる“意見”なのへ、
それを向けてくる相手が他でもない彼だということもあり。
困惑するばかりのブッダに構わず、
「それって天界でも言ってたよね。」
開祖としてふさわしいのをって、
天部が寄ってたかって考えたものばかりだって。
「でもね。」
イエスはそこで言葉を区切ると、
顎を引いての深々とうつむいて…もしょりとした口調で言ったのが。
「そう言って ふふって微笑ったお顔が、
それは可愛かったの。///////」
「……え?///////」
恋をすると人は愚かになるというし、
見えることの効果は一番大きいから、顔かたちっていう姿にも当然惹かれた。
「でもね、それ以上にね、
照れてるときの笑い方とか、何か決心したときの眼差しとか、
人をいたわるときの声や静かに佇む姿とか、
そういうのがすごく素敵で温かくって、
それでどんどん惹き寄せられちゃうんだ。」
「イ、イエス?//////」
叱られていると思いきや。
急に何をまた、矢継ぎ早に自分を褒めたたえる彼なんだろうかと。
気がつき始めたそのまま、
慣れないことにも程があると、
居心地悪そうに真っ赤になったブッダだったのへ、
「私、どれほど君を見てたと思うの。」
「え?」
弁論の方に意識が逸れたか、
預かっていた手から、やや力が抜けたのを幸い、
それを引き取ったブッダへ。
引き留める資格がないかのように、
イエスはただただ見送りつつ、
その視線をそのままやや落とすと、
「意識しだして二年て言ってたのは、見栄張ってたの。」
そんな言いようをしたものだから。
「見栄って…。/////」
そうだ彼は確か、あの“風邪引き騒動”のときから
好きというのを意識しだしたような言い方をしていたはずで。
「知らなかったでしょ、
私天界にいるときから実は君が気になってしょうがなかった。
いつだって君のこと見てたんだよ?」
「……………っ。」
爆弾発言の連続で、もう勘弁してと思いつつ、
それと並行して、
あっ///////と、今やっと判ったことがあったのは、
“そっか、それで…。//////”
私、イエスの背中をあんまり見たことなかったのはそのせいなんだと、
今にしてやっと合点がいったブッダであり。
“いやいや、それはともかく。”
「天界に居たころからって…。」
先の告白のおり、
イエスは私が風邪で倒れたころからと言ってはなかったか?
ああでも、
“そういえば、ちょっと考え込んでもいたよな。”
話しを始めるその前に、
自分の記憶をまさぐるような沈黙をおいた彼ではなかったか?
何と言っても大事な告白をし合った折のこと。
ブッダとしてはあれこれ鮮明に覚えており、
そんな彼からの言及へ、
「あれはね、梵天さんに連れ帰られたらってゾッとしたの。
誰かを好きでいるのって、うきうきと楽しいだけか思ってたのが、
初めて、怖い想いもするんだって自覚したんだな。」
膝に置いた手をぎゅうと掴み締めてから。
だからねあのね、
キミは、
私に誰が寄って来ようとそんなの案じてる場合じゃないの。
動物たちにまで好かれてて、ライバルを上げたらキリがないんだからね。
「もしもムチリンダくんに攫われたらどうしてくれるのっ。
私も頑張るけれど、色んな意味から追っていけないじゃない。」
「いや、私に聞かれても。///////」
素での会話なら大いに笑うところだが、
そうまで限りなく裾野を広げて引き合いに出しちゃうほどに、
実はイエスの側だって、
ブッダがのほほんと無防備でいるのへと
内心でハラハラしていたということであるらしく。
「ブッダが焼きもちもどきに振り回されてたの、
ほらご覧て、いい機会だって思って、ちゃんと言い諭したつもりだったけど。
あれでは、通じてなかったみたいだし。」
「だってあれは、」
そう、そういえば先日、そういう話題になって、
女体化したブッダがどれほどか綺麗で、
それが誉れなのと同時、どれほど恐ろしかったか
どうだ判ったでしょなんて、
ちょっと言い回しがずれてたけれど、そんな会話をしたような…。
「…うん。本気で言ってたんだね。////////」
思い詰めてのこと、
今や上目遣いになってこちらを真っ直ぐ見やるイエスなのへ、
勘弁してくださいと、もうこれは含羞むしかない。
だってだってさ、
この人の朗らかな笑顔がよそを向いていると、いつだって胸苦しくて。
そして、それを浅ましいと苦く感じて、身が竦んでいたことだのに。
そんな自分を、
当のイエスがこうまで深く案じていたなんて言われても…。///////
“それも、天界にいたころからだって?/////////”
ああもう、なんて爆弾を落としてくれるかなキミはっ。
“…でも、そうだったんだ。”
あんなに素敵なキミの頼もしい背中への印象が薄いのは。
最近やっとああ頼もしいなぁってしみじみ感じられてたのは。
キミの側が、いつもいつもこちらばかり見ていたからだったとはね。
長いこと出し惜しみされてたなんてまでは思わないけど、
何かそれってやっぱりその、//////
「イ、イエスこそっ。」
「何サ。」
こんなに好きなんだよ、判ってる?と、
目許冴えさえさせ、口許引き結んでという
それはそれは真摯で、男らしい精悍なお顔で見つめられるのが。
恥ずかしいやら、でもちょっと嬉しいやら、
どっちか判らないほど困惑しているブッダ様が、
それでも何とかお顔を上げて言い放ったのが、
「こ、こんなに好きで大好きで、
こっち向いてないってだけで我を忘れちゃうほどになっちゃう人から。
実はもっとずっと前から好きでしたなんて、
実証つきで、そんなとんでもない告白されたら、
どんなぐちゃぐちゃな気持ちになるかなんて判んないくせにっ 」
「〜〜〜〜〜〜〜っ /////////
そんなの後だしでしょうが、ブッダの強情っ張りっ。」
「後だしはそっちだろっ、大体 何で黙ってられるのっ。
いつだって見たもの片っ端から報告してくれるような人なのに、
私なんて、イエスを好きすぎて目が回っちゃったほどなことをっ。」
「こんな大切なことまで、言い触らしてどうしますかっ。
…………って、ところでブッダ、キミ気がついてる?」
「何がだいっ」
ちょっとタイムと、両手を開いて前へと出して。
熱くなっての舌戦になりかかりなやり取りへ、
待ったという制止を判りやすくかけたイエスであり。
「…………………………あ。/////////」
「ブッダって怒ると大胆になるんだねぇ。///////」
思いがけない“好き”の連呼へ、
イエスとて遅ればせながら気がついたらしく。
「あ、だって…そんなの、夢中になっててそのっ。////////」
矢継ぎ早の本音の応酬。
だったのだからして、
嘘も偽りも誤魔化しも、
普段以上に出る暇なんてないほどの、
真摯な想いのほとばしりでもあって。
そうだったのだと、
他でもないご本人こそようよう判っておいでだったので。
「あ、あ…あの…。//////////////」
ううう〜〜〜っと引き結ぼうとする口許が
合わさり切れずに震えたそのまま、
肩もこぶしも わなわなと震わせたかのへと気がついて。
少しは我に返っていたイエスが、あわわと焦ったがもう遅く、
日ごろ以上の勢いと長さで、
部屋じゅうに流れてあふれたは、
如来様のそれはつややかな髪だったの、
言うまでもなかったりするのでありました。
「イエスの意地悪〜〜〜〜。///////」
「う〜〜〜、今回もそうなっちゃうのかなぁ。////////」
さあさ皆さん、
お手持ちのクッションか座布団を
ぶんと頭上へ振り上げてから、いっせぇのっ。
〜Fine〜 13.09.28.
*そういや昨日の大相撲では
本当に横綱へ座布団が飛んでましたが、
それはさておき。(まったくです・笑)
最聖二人は“ゆりカプ”ぽいというのが定説で、
私もそれはもっともだなぁと常々思っております。
甘くて無邪気で優しくて、ちょっと臆病だったりもして。
どっちがリードするでなし、
かと言ってじゃあリバかというと、
そこはそれ、譲れない派があったりするのですけれど。
そのときどきでお話を誘導する“主観”側が変わっても、
さほど混乱もなく同調しやすく馴染みやすいというか、
感情移入しやすいというか。(あ、これは私だけかなぁ。)
*という訳で、(何がだ)
リア充による痴話ゲンカパート2でした。(大笑)
(知らず聞かされてる Jr.やカンダタさんが気の毒なような…。)
神仏派・仏神派、双方に等しく多いネタですが、
それだけ好き同士なんだもの、これはしょうがないよね、うんっ。
讃え合ったついでに仲良く爆発してくださいってことで。(爆笑)
『どうしてもキミが好き』 へ
めーるふぉーむvv

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