キミじゃないと、ダメなんだ

       〜かぐわしきは 君の… 9

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クリスマスが明けた途端に、
とんでもない極寒が数日ほど襲い来た年末で。
大掃除が遅れていたご家庭では大変だったらしいものの、
こちら、最聖のお二人のお宅では、
イエスがバイトに出ていた間に、
ブッダが段取りよくあれもこれもと手をつけてたお陰様。
畳を上げてという大掛かりな塵払いこそ残っちゃいたが、
それほどきりきり舞いすることもなく、
綺麗に掃除されの、無駄なものが整理されのという
すっきりと片付いたお部屋で年越しを迎えることとなり。

 『あれ?』
 『どうしたの? イエス。』
 『あのその、いや、何でもない。』
 『そう。じゃあこの電器店のチラシは
  次の古紙回収の日に出していいんだね?』
 『…すいません、要ります。』

ブッダに見つかったなら
怒られるかはたまた案じられるか、色々ヤバイからと
イエスなりに一応は隠してたつもりなんでしょうけれど。

 『Jr.の後ろに差し込むカッコで
  何枚も隠してあるんだもの、何事かと思ったよ。』

 『ごめんなさい。/////////』(笑)

点数の芳しくない答案用紙を隠す小学生じゃないんだからと、
くすくすと苦笑するばかりのブッダであり。
他でもない“ヤバさ”の方向が
いかにもといいますか、健全といいますか…。(う〜ん)

 そうこうするうち、極寒の方も何とか緩んでくれて。
 いよいよの大みそかと相成って、

 『イエス、出掛けるよ。急いで。』
 『うんっ。今年こそは、だもんね。』

ご近所のお寺で
今度こそ念願の除夜の鐘を撞かんと張り切っていたブッダ様。
前回の失敗を考慮し、早めに行かなきゃということで、
紅白の途中辺りから家を出て。
街路樹や駅ビル沿いの店を飾るイルミネーションが目映い、
初詣でへの人出だろう、
深夜とは思えぬ賑やかさなJR立川駅前を通過し。
時々スマホで観つつの歌合戦が 白組勝利と決まったのとほぼ同時、
お寺の境内へと到着をした頃にはもう、
最初の人が撞き始めていて。
夜陰に響く重々しい鐘の音が
ちょっぴりわくわくしもする大みそかを
晴れやかな厳かさで彩っている中を、

 『ほら、並びに行こう。』
 『うん♪』

鐘撞き堂の手前、既に結構な長さの行列へ
二人も いそいそと速足になって足を運ぶ。
クリスマス明けの大寒波ほどじゃなかったが、
それでもきんと冷える中、
ブッダは新しいストールを下ろしたし、
イエスは新しいミトンを下ろしての参戦で。

 『耳まで温ったかいよ、イエス。』
 『こっちこそ、
  とっても温ったかいよ、ブッダvv』

大好きな人が贈ってくれたクリスマスのプレゼントに、
それは嬉しそうに微笑い合い、
白い息を吐きながら、他愛ないことを語らいつつ、
そりゃあほかほかと玉砂利の上で待っておれば。
今年は何とか百八つのうちへ入れてのこと、
厳かにゴーンと大きな鐘を撞くことが出来た。
殊に、さすが釈迦如来様の手で鳴らした音色は、
同じ鐘を撞いたのに、1つだけいやに遠くまでよく響いたそうで。
心洗われる音色が、尾を引いての長々と鳴り響いていた間じゅう、
メールを打ってた人も、蕎麦のどんぶりを洗っていた人も、
別の、それも神社のお社前で
お賽銭を投げてから柏手を打っていた人も、
オールナイト2000円ぽっきりだよと
呼び込みの声を上げてたお人も区別なく。
人々は皆、その手を止めると ついつい聞き入ってしまったとか。

 しかもしかも、コトはそれだけに留まらず

留守宅へこそり空き巣に入りかかってた泥棒や、
コンビニへ強盗にと押し入ってた目出し帽の不審者、
むしゃくしゃして放火に走りかけていたお人や、
改造バイクで暴走行為に文字通り走りかけていた若いのが、
心洗われる音色に、片っ端から ふっと我に返ってしまい。
ごめんなさいっと泣きながら交番へ駆けてって自首したり、
百円ライターをポケットにしまって、あるいは改造バイクを手で押して、
何もしないまま大人しく家へ帰ったりしたとかいう
大小の奇跡が幾つも幾つも やっぱり起きてたそうだから、
いやはや恐るべし ホンマものの御仏の覇気の力…ということか。
クリスマスの大売り出しにキリスト様が頑張ってたのといい、
何ともかんとも おめでたいご町内だこと。(う〜ん)
そしてそして、
当然じゃああれ 何も気づかぬままの功労者様はといえば。

 「今年もよろしくね。」
 「こちらこそ、どうぞよろしくvv」

日付が変わったのを周囲の方々のカウントダウンで知ると、
呑気にも 愛する伴侶様と新年のご挨拶を交わし、
知らぬが仏とは正にこのこと、
ご町内やギリギリ市内で何が起きたかも知らぬまま、
そのまま楽しげに、来た道を帰宅なさったのでありました。




     ◇◇◇



そんなこんなで無事に年を越し、
元旦にはアパートの窓からご来光も拝んでの、
清々しくも新しい年を迎えておいでの最聖人のお二人。
とはいえ、特に変わったことをするというワケでもなく、
いつも通りにまったりと、ほのぼの朗らかに過ごしておいで

  ……のはずだったが。

お気に入りのコタツに入り、
みかんなぞ剥きつつ、テレビを観ておいでのイエス様。
普段と何ら変わらぬ様子に見えるながら、
ようよう見やれば、
微妙にその切れ長の目許を眇め気味にしておいでで。
それのみならず、

 「う〜ん。」

何へ向けてか、低く唸ってしまっていたりもし。
今日から3日ほどは テレビ番組がお正月編成なため
3時間も5時間もという大枠取ってばかりで、
そのくせ内容は大味すぎて退屈だと、むずがっておいでか。(おいおい)
いやいや仮にも最聖人のイエス様が
そんな大人げがないことじゃあ唸りはすまい。
ではでは、
ご来光を見たような見なかったような、
すぐにも二度寝をしちゃったんで そこんところが朦朧としていて、
自分的に納得が行かぬと唸っておいでか。
……それにしたって大人げがないでしょうかね。

 “いや、それはブッダが“ちゃんと見ていたよ”って
  太鼓判押すからって言ってくれたから もういいんだけど。”

おお、そっちは一応 葛藤はあったらしい。(笑)
ブッダ様に言い含められたんで納得済みというのが、
何ともイエス様らしい、微笑ましさであったりし。

 …ちなみに、そちらを もちょっと咬み砕くなら

日の出る時刻が随分と遅くなっているとはいえ、
関東地方なら7時前、6時50分頃には顔を出す。
たとえ元日でも日課を欠かす訳には行かぬと、
やはりジョギングに出ていたブッダ様。
ちょっと気を利かせ、陽が出る前にと松田ハイツへ戻ってみれば、

 『…やっぱり。』

寝たままだったイエスの方は、起き出す気配すらなくて。
それは平和に布団の温もりにくるまって、くうすうと眠っているばかり。
これが日頃の朝ならば、
昨夜は夜中に外に出もしたし、
帰ってからも少し話したりしたのだから、
夜更かししたのだ 大目に見ようかと、
放っておいてやりもするところだが、

 『…後になって、見逃したことを残念がらないかなぁ。』

何せ、年の初めという特別な日の日の出だし、
イエスはあれで案外と、そういうレアなものを有り難がる傾向が強い。
理屈の難しいものじゃあない、起きておれば見られたものなだけに、
あとあと、弟子の皆さんとの会話に出て来て残念がるかも知れないなぁと、
そういった辺りをついつい案じたブッダ様。

 『ほら、イエス、起きて。』
 『ん〜?』

布団ごと やや強引に抱えて身を起こさせ、
窓辺の方を向かせたけれど。
こたびは力持ちなことが仇となり、
それは優しく扱ったものだから、
そのくらいでは目を覚まさないイエスだとあって、

 『一瞬でいいから目を開けてよ。////////』

もたもたしておれば、
目の前の家並みの稜線の上へ、今にも朝日が昇ってしまう。
それでは何にもならないと、

 『〜〜〜〜っ。イエス、起きて。///////』

物凄く思い切ってのこと、
こめかみへ小さなちうを落としつつ
照れから掠れてしまったそのせいで
ちょっぴり湿った妖冶なお声で囁くことで、
眠れるメシアを覚醒させた如来様。
(何か、どっかのRPGのキャッチコピーみたいですが…。)

 『…え? なになになに?////////』

何か気持ちのいいものが鼻先をよぎったようなと、
目こそ開けたが
まだ微妙にワケも判らぬままの寝ぼけ半分だった彼なのへ。
ほらイエス、日本の夜明け、
もとえ、ちょうど初日の出だよ?と、
目映いご来光を見せてやり、

 『あー、ほんとだーvv』

にへらと微笑ったことで、よしっと鑑賞を認定。
寒かったね、もうちょっと寝てていいよ、
今朝はお味噌汁じゃなくてお雑煮作るからね、と。
再びお布団に横たえさせ、
しかも ポンポンポンと、
上から慈愛の手のひらで叩いて差し上げた念の入れよう。
もしかしてそのせいで、
イエス様の記憶が曖昧になったとも言えるのじゃあなかろうか?
まま、それはともかくとして。

 「? どうかしたのイエス?」

芸人さんのネタ披露番組も、結構真摯に観ている彼だけど、
それ以上のモードで妙に静まり返ってしまっているのが
さすがに不審だと感じたのだろう。
午後のお茶にとミルクティーを淹れて来たブッダ様、
キッチンからコタツへ戻って来つつ、
案じるような声を掛けたれば。
何にか想いを馳せるよに、不意に遠い眸をしたイエスが、

 「うん。
  何か今朝方、凄っごくレアな想いをしたような気が。」

予言者のような声音になって
いきなり そんな言いよをするものだから。

 「そ、そそそっ、そおなの?/////////」

マグカップを置く手こそ震えなんだものの、
たちまちドキィッと
胸の奥で心臓が躍り上がったブッダ様だったのも
この際は しょうがないのかも。
何せ身に覚えありありですものねぇ。(苦笑)
しかも、時間に押されて焦っていたとはいえ、

 “あんなどさくさに ちうしちゃったし…。///////”

私ったら大胆なと、
相変わらず まだまだ微妙に初心な如来様なのであり、

 「そりゃあ幸せだったんだけど、
  でもでも夢だったのかなぁ。///////」

寝ぼけていてのことなら恥ずかしいのか、
きゃ〜んと頬を押さえつつ、微妙に暈して口にするイエスなだけに。
こちらから“どれが”と指し示すのは薮蛇な気もして、

 「…初日の出は間違いなく観たじゃない。」
 「それはそうなんだけど、起きたって実感が今一つで。」

遠回しな言いようをしちゃったのは自分だのに、
覚えてないって言われるのは、何故だろか、

 “癪だと思うのは筋違いかなぁ…。”

でもじゃあ、
ブッダがキスして起こしてくれたでしょ、嬉しかったよ?なんて、
ずばり言われたなら…それはそれで、

 “ううう〜〜〜。////////”

切羽詰まっていたとはいえ、
選りにも選って、何であんな起こし方しちゃうかなと。
実は私って煩悩の塊なんだろかとか、
そのくせ、そこを暴かれるのが怖いなんてサイテーかもとか。
仏としての反省しきり、
相変わらず堅いところも多々お在りの
仏門開祖、釈迦牟尼様だったりするのであり。

 「…じゃあなくて。」

そっちも気になってはいるんだけど、
今 唸ってたのは別口のでねと。
内心ドギマギしているブッダの気も知らず、
お笑い芸人たるもの、日頃からもボケを心得ておかねばという
ノリツッコミへの導入もどきを発揮したつもりらしきヨシュア様。
うむむと唸っていた真相を、やっとのことで口にする。
いわく、

 「日本人ってマラソンが好きだよねぇって思って。」

芸人さんがやたら張り切っていた番組がさすがに多い中、
サッカーが数試合あったのと張り合うように、
いろんなマラソンの中継があるのが目についたらしく。

 「お正月だっていうのに、しかもこの寒空に、
  何であっちでもこっちでも走ってるのかなぁ。」

どれも全国ネットで中継していて、
しかも“第何十回”なんて謳ってるほど伝統もあるみたいで、

 「そういや年末にも、京都の方で
  学生さんとか企業のマラソンがあったようだしさ。」

 「うんうん、明日は有名な駅伝もあるしねぇ。」

大学生の皆さんでチーム組んで、
2日掛かりで箱根まで行って帰って来る、リレー形式のマラソンで。
出られるだけでも途轍もない栄誉なんだって、と。
スポーツは基本何でもお好きなブッダ様、
秋の予選会とかへ真剣に挑んでたドキュメンタリーを見たよと、
何とか持ち直して、楽しそうな笑顔を見せ、

 「きっと、真夏の暑いさなかに開催だと、
  熱中症で倒れてしまうからじゃないのかなぁ。」

 「あ・そっか。」

何ともあっけない、しかも理屈の通ったブッダからの説明に、
割とあっさり納得しちゃったイエス様。
ばっちり好みな甘さと温度に淹れてもらったミルクティーを
ちょっとだけふうふうしつつ うまうまと堪能してから、
彼にすれば何げなく訊いたのが、

 「ブッダは大会とかには出ないの?」
 「はい?」





       お題 @ “おい、あれ”




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  *至れり尽くせりの“良妻賢母”なブッダ様にあっては、
   ご亭主が子供のようなイエス様であれ、
   特に支障はないらしいです。
   これもまた一種の“夫唱婦随”っていうのかなぁ?

   …というわけで、
   今回は“夫婦な二人へ10のお題”で参ります。
   ただ、微妙ながら 主となるネタが定まってるもんで、
   あんまり“夫婦”ってところは生かされないかも…。
(おいおい)


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