キミじゃないと、ダメなんだ

       〜かぐわしきは 君の… 9


     10




都内とはいえ、都心からはやや距離をおく住宅街、
平和な下町に過ぎない 某ご町内にて、
時ならぬ一大事として巻き起こったは、
刃物携帯の“コンビニ強盗”という物騒な一件で。
マラソン大会の沿道には、
さりげなくにしちゃあ結構な頭数で、
警戒態勢剥き出しの警察官の皆様が顔を出し、
先んじて警察無線を傍受していた とある応援班を
いろんな意味から一気に浮足立たせたものの。(苦笑)
結果から言えば、広く公表される前に、
何と最寄りのJR立川駅の構内にて
逃走中の犯人はその身柄を確保されていたそうで。

 『そうなんだ、警察無線をねぇ。』

他のお部屋で警察関係が出てくるお話を書いておりますため、
盗聴に関する法規が微妙に変わったことも知ってはおりますが。
確かそれは刑事事件に於ける捜査に必要な場合のものであり。
警察無線とか消防関係の無線とかは、
そこいらを裸で飛び交う無線電波である以上、
周波数を捕まえりゃあ聞けてしまうのはしょうがないからでしょう、
傍受すること自体は罪にはならぬ。
但し、それで得た情報を、他へ広めるというのは禁じられているそうで。
警察関係者でもないのに
まだ公表されていなかった強盗事件を知っていた件について、
そんな経緯があってのことと主張したイエスだったの、
お巡りさんがすんなりと受け入れて下さったのは。
パトカーの中での身元確認の最中に、
ラクロスのスティックを貸してくれた
エミちゃんという女子高生がパトカーの傍まで来てくれて、

 『イエスさんたら追っかけるのに必死だったのね。』

だって、あの人、ブッダさんの陰にしきりと隠れてたし、
何か怪しいって、沿道の係の人も散々言ってたし、と、
状況への補足説明という格好で援護射撃をしてくれたせいもあり。
そこへ重ねて、

 『何か物を投げた訳でなし、
  きっとオーバーアクションしないと
  ブッダさんに気づいてもらえないって思ったのよ。』

こちらは、別の位置での見学者だった、
ブッダの知り合いの奥様方がそんな風にも証言して下さり。

 『いやよねぇ、下着泥棒ですって?』

結果的に捕まえるお手伝いになったなんて さすがよねぇと、
すっかり“お手柄”への補足聴取だと思われていたほど。
そしてそして、
とんだ偽物ランナーだった泥棒さんを
直接取り調べていた刑事さんの言うことには、

 『下着泥だとは思ってもなかったイエスという人の方に
  そんなつもりはなかったようですが。
  犯人の方では、
  自転車で追って来た外人さんが
  大きなポーズで“こらー”と
  威嚇して来たように見えたそうでしてね。』

わあ、あの人の奥さんの下着も盗っちゃったのかと思い込み、
何かややこしい裁判になって
言葉が通じなくてとんでもない重罪になるんじゃあって、
勝手に怯んでしまった揚げ句に、
尻餅つくほど足がもつれたんだとか、と。

 「…成程、お話は よっく判りました。」

コンビニ強盗の件を漏れ聞いて、
それで居ても立っても居られなくなってのこと。
参加していたお友達に 妙な近づき方をしている不審者が気になって
伴走しながら“気をつけて”と伝えんとしていただけだと。
状況も整理され、証言者も多数あってのこと、
担当の刑事さんへと速やかに届けられたものだから、

 「まあ、問題の“沿道”を走ってたのは、
  実質 数十mもなかったことだし。」

折り返し地点からの先回りとばかり、
懸命に駆けていたのはほとんど別の小道ばかりで。
横の細い抜け道から飛び出して来て以降のご乱行だったその上、

  そんな彼のオーバーアクションにびっくりした結果

下着泥棒がそれで転んでのあの顛末だというならば、
犯罪の級としては“軽犯罪”だとはいえ、
静かな町を騒がす存在の逮捕の切っ掛けを作ったも同然であり。
あと、これは本来なら別な次元の話となることながら、
もしかして…イエスが危惧したように
強盗犯人がマラソンの方へ乱入していたかも知れず。
そうなっていたならば、
情報伝達が遅かった警察の対処が問われたことは間違いないという
微妙な弱り目も無くは無しと来て。

  そんなこんなを加味した上で、
  まま こたびは大目に見ましょうと

立川警察の捜査課の偉い人から、
ちょっとだけお説教されたのみで済み、
そのまま帰っていいよとイエスは解放されることと相なった。

 「正直なところ、あなたを見て怖いと思うだなんて、
  どれほど疚しいものを抱えていたかだよねぇ。」

捜査課の課長さんとやらから
苦笑交じりにそんな風に言われた辺り、
さすが最聖というところかと。

  ちなみに、
  椿事の立役者として翌日の新聞の地方欄にも載ったほど、
  その行動を目撃していた人が多数あったこともあり。
  マラソンの執行委員会から、
  話題の人だったで賞という
  特別賞をいただいたのは 後日のお話だが。(笑)

お騒がせしましたとお辞儀をし、
署内の2階にあった刑事さんたちのお部屋から出て。
あちらですよと案内された階段を降り、
受付のある入口前のホールを見やれば、

 「いえすっ。」
 「兄貴っ。」

全員が詰め掛けても別口の面倒が起きるだけだと
静子さんがきっぱり言い切ったらしくての少数精鋭。(おいおい)
自転車の持ち主だったのでという竜二さんと愛子ちゃん、
そんな二人の付き添いという静子さんとそれから、

 「…イエス。」

暖房の利いている空間だからか、
色白が祟って鼻の頭がやや赤くなったブッダが、
出掛けて来たおりのコート姿に戻り、
殊更に神妙なお顔になって待ち受けており。
まさかに笑顔で迎えてくれるような状況ではないややこしさなの、
ひしひしと判っているイエスとしては、

 「うっと…色々とごめんなさいっ。」

髪を躍らせるほどのお辞儀とともに、
そうと謝ったのだが、

 「何で先に謝るかな。」

しかも何だか、
まるっと全部引っくるめてという ズボラ感がするんだけどと。
案じるこちらより先んじて、そんな態度を取られたことへ、
機先を制されたからか
ちょっとしたムカッが 立ち上がってしまったらしい釈迦牟尼様で。

 “謝る癖がついてる やんちゃな子供みたいだねぇ。”

しかもそれを受けて立ったブッダの側がまた、
おろおろ狼狽もしないままの
“慣れております”という毅然とした態度に見えていっそ頼もしく。
どこか合いの手っぽかったのが
いかにもいい呼吸で微笑ましいねぇと。
そんな二人へ何とも即妙な把握をした、やはりおサスガな静子さん、

 「まあまあ ともかく外へ出ようじゃないか。」

人目もあるこんなところで内輪もめもなかろうよと、
さらりと口にし、それを聞かせることで、
叱る側なのだろブッダに、さりげなく“我に返れ”と促せば、

 「……はい。」

そこは聡明な彼でもあって、
静子さんの意図に素早く気づくと、
まだ何か言い足りなさそうだったが、
とりあえずはとその口元をぎゅむと引き結び。
その代わりのように、
赤いダウンジャケットを羽織ったままのイエスの腕を取ると、
重いガラス扉を押し開けてくれた竜二さんに続き、
皆さんと共に、まだまだ寒い外へぞろぞろと踏み出すことにする。
ぱっと見、
保護者に引き取られてゆく
いたずら坊主のような体裁だったものの、

 “あ…。”

気のせいでなければ、
ただただ怒っているばかりなブッダではないようで。
イエスの腕を掴んだ手は やんわりと温かく、
そも邪険な所作には縁のない彼だが、
それをおいても強引な気配はまるでなくて。
むしろ…もうどこへも行かないでとすがりついているかのような、
そんな切ない力にて、こちらを捕まえている彼なのが、
イエスの腕へも隠しようなく伝わってくるものだから。

 “…ブッダ?”

今は何も言いませんということか、口をつぐんだままの君、
すぐの傍らから そおと伺い見ておれば、

 「そうそう。
  ブッダの兄貴のゴール、見逃しちまいましたよね。」

寒風吹きすさぶ中、駐車場までを歩みつつ、
ふと、竜二さんがそんなことを言い出したのは、
こちらの二人の微妙な齟齬に気づいていなければこそだろう。
可愛らしいボアの縁取りが、襟と袖口をぐるりと巡る、
ワンピースのような仕立ての真っ赤な長コートを着た、
小さな姫君を大事そうに抱えていた手を片方離し、
自分のライダーズジャケットの内ポケットからスマホを取り出すと、
静子さんへと渡す彼で。
目顔での合図に意を得てのこと
“あいよ”と応じた静子さんが手慣れた様子で操作をすれば、
液晶画面に呼び出されたのは、
ゴール地点の様子を録画したらしい動画で。
あと2キロを切った地点で起きた、
ちょっとしたハプニングに翻弄されもしたろうに、
何がどうしたものかは知らされないままながらも
揺るがぬ集中力で態勢を立て直してのこと、
ゴールインの際にテープを張っていただけた、
上位入賞者のうちの一人となれたブッダだったらしく。
さほど呼吸も乱してはないような、
それは平然としたゴールっぷりが凛々しいったらないのを、
小さな画面にて遅ればせながら見せてもらったイエスへと、

 「ブッダはね、ろくとーしょーだったんだよ?」
 「え?」

愛子ちゃんが はしゃぐように歌うように口にする。
ちょっぴり舌っ足らずだった言いようへ、
ついのこととて聞き返せば、

 「六等だよ。ラストスパートが物凄くてね。」

静子さんが ふふと笑い、
そのまま少しだけ声を潜めて、内緒話みたいに言い足したのが、

 「ゴールのあと、そのまま戻ろうとしかかったのを、
  係の人が待って待ってって 4、5人がかりで引き留めてたほどでね。」

よっぽどのこと、コースを引き返したかったんだろねぇと付け足され。

 「あ…。///////」

今度はイエスの方が、具体的には語られぬ中、
何を言いたい彼女なのかにはっと気づいたようであり。

 とんだハプニングが起きた中、
 だのに、早くゴールへ向かえと追いやられ。
 言われたからにはゴールが先としたものの、
 もはや順位なんて二の次、
 一刻も早くその地点へ戻りたい、
 だからこそのラストスパートでもあったらしいと…。

 「ブッダ。」
 「〜〜〜。///////」

そんなせいだろか、立川の町角のあちこちで、
どこからやって来たものか 随分と大きな鹿の姿が
ちらほらと目撃されもしたとかどうとか…いう話はおいといて。
ゴール後 取り乱していたことまでも、
すっぱ抜かれたせいでか頬がじわじわと赤らむ愛しい人へ、

 「…本当にごめん。」
 「だからっ。」

やっぱり とりあえずっぽく謝るイエスなものだから。
そうじゃないでしょとブッダが言い返すという、
小声でながらも、不器用な二人ならではの繰り返しになりかけたものの。

 「どっかでメシにしやすか?」

そちらはズボンのポケットから車の鍵を取り出し、
今時の遠隔操作でピピッと開錠しつつ。
もう昼もずんと過ぎてるから
お二人とも腹減ったでしょうと言い出す竜二さんへは、

 「いえ、ブッダが作ったお弁当があるんで。」
 「は…?」

いやに晴れやかな、そして
それが至極当然ごとのような口調もて、
イエスがあっけらかんと応じておいで。
どこかで意志疎通が侭ならぬこと、
もうもうもうと歯痒そうに持て余していたブッダもまた、

 “はい?”

あまりに唐突な文言へ、竜二さん同様 虚を突かれたものの、

 「ねvv おウチに置いて来ちゃったね、食べに帰ろ?」
 「あ、う、うん。///////」

すぐ横から振り向けられた屈託のない笑顔がはらむ、
得も言われぬ温かさや まろやかさにあっては。
そういえばそうだったと思い出してた理性を軽々と追い越して、
逆らうなんて出来るものですかという
甘やかでやわらかい感情が、
それはじんわりと胸底へ広がってしまうから手に負えぬ。

 “ああ、これが世に言う“惚れた弱み”って奴なんだろうな……。”

今頃 気がついたのね、ブッダ様。(う〜ん)





     ◇◇◇



 『じゃあ、せめてアパートまで送りますぜ。』

この寒さなんだ、そのくらいは構わんでしょうと押し切られ、
松田ハイツまでを送っていただき。
今日はお疲れでしょうから、積もる話はまた後日として下さり、
それではと手を振り合ってののち、
自宅へ戻ったイエスとブッダだったのだけれど。
部屋の中へは洗濯物が干し回されていて、
多少は乾いたところもあるとはいえ、
結構な寒さだったのでまだまだ取り込むのは無理な様子。
用意していた昼食をコタツまで運んだものの、
お互いに箸を取る気には なれぬままであり。
スイッチを入れたばかりのコタツが何とか暖かくなって来たのへ
ふうと吐息をついたイエスだったのを見計らってか、
まずはとブッダが口を開いて、

 「なんで“ごめんなさい”なの?」
 「…だって。」

そのまま言葉を連ねかかったイエスに先んじて、
なんでと訊いておきながら、ブッダが続けての曰く、

 「ごめんなさいは私のほうなのに。」

それなのに、先に謝られてしまったことからの、
そうじゃないでしょという“何で先に…”発言だったワケで。

 「…。」

すぱりとした言い回しにイエスが口ごもり、
そのまま微妙なお顔になったのからも、彼なりに何かしら拾えたか。
ブッダは小さく息をつくと静かに続けた。

 「イエスは私を守ろうとしてくれたんじゃない。」

走っている間は当然のことながら何の情報も入って来ず、
そんな中でのあの騒ぎと来て、何が何やら動転するばかり。
お巡りさんが殺到しての捕り物騒ぎにまでなった中、
随分と切迫した口調で
“早くゴールへ向かえ”と促したイエスであったれど。
騒動の切っ掛けとなったそもそもの行動、
覇気による光を起こして当該人物へ浴びせるという、
アガペーの申し子にあるまじき級の
攻撃的なことをやらかした彼の意図がまるきり判らず。
静子さんに見抜かれていたその通り、
とりあえずゴールしてしまおう、それから真意を問いただそうと、
つまりは、いち早く引き返すためにと
ぐんぐんとラストスパートをかけただけのこと。
そんなこんなで とっととレースを終わらせたブッダだが、
肝心のイエスは何と警察に連れ去られたというではないか。

 『…そんな。今また迫害を加えるなんて酷すぎる。』
 『いやいや、まだ任意での事情聴取っちゅう段階ですぜ。』

逮捕されたワケやないですと、竜二さんに宥められ、
他の衆から訊いた話を統合したところというの、
静子さんから聞かされて、
やっとのことで何が起きていたかに追いついたのが 署に着いてから。

 「あの人が強盗犯だとしたら、
  すぐ傍にいた私が危ないって思ったんでしょう?」

結果として大きな勘違いじゃああったれど、
そうと判るまでは気が気じゃあなかっただろうし、
だから…というなら、あんな大胆な手を打ったのも頷ける。
ブッダの身が危ないと思えばこそ、
そうまでの行為に走ってくれたイエスなのだということが、
何とも激しい情愛の吐露のようにさえ思えた…のだけれど。

 「…イエスは凄いね。」
 「ブッダ?」

軽く指を組み合わせた自分の両手をお膝に見下ろして、
ブッダがぽつりと呟く。

 「何が大事かを速攻で見いだして、
  迷いもしないで駆け出して、あっと言う間に畳み掛けちゃう。」

それに引き換え、と。
やや投げ出すように続けたのが、

 「私はといや、
  見るからに挙動不審だった人を見誤ってたのにね。」

飛び入りの予定外でマラソンをすることになっちゃったんで、
それで頭の中が真っ白になってただけなのに、
なんて隙がない人かなんて感動してたし。

 「おまけに、キミの無茶の引き金にもなっちゃってたし。」
 「…ブッダ。」

ああやっぱりと、イエスが項垂れていたところからお顔を上げる。
ブッダのお怒りは
どちらかと言えばブッダ本人へと向けられていたようで。
だがそれは、自分に厳しい彼には当然の順番なのであり、
むしろ、

 「あとさき考えないで無茶するんだもん。
  全部が飲み込めたとき、どれだけ胸が痛かったか判るかい?
  君が私を心配したのと同じことだ、
  君に何かあったら…直接的な危険だけじゃなくて、
  こんなことをしでかした廉(かど)で、
  天界へ呼び戻されての審判を受けるようなことにでもなったらとか、
  そりゃあもうもう、いろいろなこと考えちゃったし。」

 「ぶっだ…。」

イエスを責めているようにも聞こえる文言に、
それならまだいいのだが…と、当のイエスは気が気じゃあない。
だって、彼は本当に自分に厳しい人だから、
これがこれで終わるはずもなくて。

 「そんなことになったなら、私は…私はどうしたらいいの?」

怒っているのか困っているのか、
真っ赤に染まった頬はどちらとも取れる顔色で。
震える声音が続けたのは、

 「キミに何かあったらどうしようって、
  それが天界の裁きでも、私…黙ってられないと思う。」
 「ブッダ。」

イエスの声に それはいけないと言い聞かせようという語調を感じたか、
いやだいやだと駄々をこねるようにかぶりを振り

 「君さえ無事ならって順番で、
  物を考える自分が…怖くてしょうがないんだ。」
 「ブッダ…。」

これが人の和子ならば
それもまた有り得べき感情だが、聖人たる彼らだとそうはいかない。
恋情に浮かれていても、そこだけは忽せに出来ぬ物差しであり、
仏門の最聖にして、
他でもない普遍の慈愛をつかさどる立場でもあるブッダへと突き付けられた
これは究極の鬩ぎ合いとも言えて。
それがどれほどつらい抗いか、どれほど罪深いことかもようよう判るし。
事もあろうに自分のやらかした大胆な無茶のせいで、
図らずも そのジレンマと向き合ってしまったブッダなのならば。
それが愛する人の無事を願っての衝動であれ、
どれほどの軽挙だったかと思い知らされてイエスにも辛い。

 “…確かに、ごめん、じゃないよね。”

そんな一言で、全部まとめてって大雑把に謝られて
済むことじゃないよねと。
把握が微妙なことだったからとはいえ、
だからって一括で済まそうだなんてって、
ずぼらに聞こえてむっとしたのも無理ないよねと。
謝ったことへ即座に詰るような声を返したブッダだったのを、
今頃納得している。
そして、ああこれだものなと、そんな事実へも溜息が出る。
それは生真面目で、何でも緻密に着実に積み上げ、
きっちりと対処してゆくブッダに比べ、
自分はそのときそのときの肌合いで対する傾向があり。
判りやすく言えば気分次第のどんぶり勘定なため、
ブッダのようなタイプの人からすれば、誤差も多大だろうし、
それが降り積もれば結構なストレスにもなるかもしれない。
いくら懐ろの広いブッダだとて、
こんないい加減な男に、
そうそういつまでも振り回されていちゃあ くれぬかも。

 “ああでも、さよならなんて言われたら…。”

ゴルゴダの丘に もっかい永遠に晒されるより辛いかもと、
薄い肩をしょんもりと落としてしまっておれば、

 「…これも、大好きにさせた責任のうちなんだからね。」

そんなお声がふと聞こえ、
え?って、はい?ってお顔を上げかけたイエスの胸元で、
ほわりとそれは暖かく存在を主張しだすものがあり。

 「………あ。」

開いた手のひらをあてがえば、
その真ん中、セーターとシャツの下には、
ブッダとお揃いのあのリング。
あらためてお顔を上げれば、

 「聞こえたの? イエス。」

えいって、そりゃあ頑張って言ったのにということか。
口許を少し強気に尖らせて、
でもでも深瑠璃の目許の方は反対に、
困ったように恥ずかしそうに、不安げにたわめておいでの。
イエスにとって何より誰より愛しき如来様が
こちらを上目遣いになって見やっておいで。
怒っているんじゃないっていうのは、そんな表情からようよう知れたし、

 「……大好きに、させた責任。」

何げに繰り返せば、ますますのこと頬を真っ赤にし、
視線がおどおどと揺れ始めてしまい。
あっと、挑発したようでごめんなさいと宥める暇もあらばこそ、

  はさり、と

今日の寒風の中でも微塵も崩れなんだはずの螺髪が、
あっと言う間にほどけてあふれ、
唇を噛みしめ、真っ赤になった彼が、うつむこうとするものだから。

 「ブッダっ。」

そのままもどかしげに立ち上がると、
ていっと…コタツを脇へと押しのける。
お行儀よく正座していたブッダだったので
彼ごと弾き飛ばすというオチにこそならなんだが、

 「…え?」

いきなり目の前から何もなくなったのは結構びっくりする事態。
そんなところへ這うようにしてイエスが進み出て来、
膝に乗せていた白い手を掴み取ると、
真摯なお顔で言いつのる。

 「私、その責任取るからっ。」

ブッダを困らせるほど大好きにさせたのが自分なら、
ええ勿論、責任取らせてもらいますともと。
それはつややかな深色の髪を背に流し、
含羞みからますますの嫋やかさを増した悩ましげなお顔が、
どんな女神様より麗しき伴侶様へ。
そのまろやかな双手を押しいただいて、
誓うように言いつのれば。

 「………。////////」

ああもう、キミってばと。
潤みを増した深瑠璃の双眸、ふるると震わせた如来様。
白皙の頬をますますと赤く染め、
どこか困ったようなお顔して。
それでも…何度も何度も頷いて見せたそうでございます。







        お題 H“さりげない優しさ”



    〜Fine〜  2014.01.04.〜1.24.


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  *このお部屋にはめずらしい、
   活劇を挟んだ興奮 冷めやらずだった余波か、
   〆めで ちょっと理屈に走り過ぎましたかね。
   イエス様からの甘甘なアプローチにほだされ、
   随分と大胆になって来たブッダ様ですが。
   なんの、まだまだ生真面目さは健在ですし、
   自分へ厳しい姿勢も、そう簡単には ほぐせることはないようで。
   イエス様、気を緩めないで頑張れ頑張れvv

  *とて…。
   このシリーズ、
   お題 10 は『死が二人を別つまで』なのですが、
   こちらの二人では、
   帰省の話ですか?
   いやぁ、まだそんな気にはなれないなぁ…って流れになりそうなんで。
   ここまでで終了ということで。
   例によって、後日談とか書くかもですねvv


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

bbs ですvv 掲示板&拍手レス


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