恋でも愛でも 理由なんて あとからでvv

 

     1



満開の華やぎに心浮き立ち、潔い散華の寂寥には心打たれた、
それはそれは綺麗だった桜花の季節も 何とか落ち着いて。
今はといえば、
地面を白く弾くほど降りそそぐ、それは明るい陽の下のそこここに
瑞々しい緑が生き生きと芽生え始めている、
何を見ても目映い頃合いで。

 『アゲハがチロチロ飛んでるようだから、
  しばらくしたらイモムシの季節でもあるんだよねぇ。』

神経質にもいちいち駆除まではしないつもりじゃあるけれど、
昨秋なぞ丹精しているユズが丸裸にされかけたので、
さすがに見苦しいのはかなわぬと。
あれこれ鉢植えや植木を丹精なさっておいでの松田さんが、
やれやれと肩をすくめておいでだったっけ。

 「ホント、気がつかないうちに
  ケヤキやスズカケや、街路樹の若い芽が伸びてたり、
  陽あたりのいいところかと錯覚するほど
  茂みにも明るい緑がいっぱい芽生えてたりするんだよねぇ。」

父なる神の作りたもうた世界が織り成す、
それはそれは初々しい息吹なだけに。
空の青が日々溌剌と濃くなってゆくのや、
若々しい梢の伸びやかな成長ぶりなどへも、
気がつけば おおvvと祝福を感じて
朗らかな笑みを絶やさぬ 神の子様のお言葉へ。
うんうんと同意し、感心して見せはするものの、

 「…でも、コタツはまだまだ手放せないんだよね。」

初夏と見紛う緑目映いシーズンを、何て素晴らしいと歌い上げつつ、
いまだに仕舞えていないコタツにあたっておいでのイエスだと来て。
さすがにスイッチは入れなくなったが
それにしたってという もの申すをしたそうな、
そんなブッダの言いようへは、

 「だって さあ。」

朝晩は油断しているとまだまだ寒いじゃないのよと。
妙にオネェ風の口調を強め、唇とがらせてムキになる辺り、
メシアとしての風格も威厳もどこへやらなのだけれど。(苦笑)
まだ要りようなんだからと強調したいか、
膝を立てると、その周りのこたつ布団を掻き寄せての ポンポンと均しつつ、

 「それに、
  私は風邪引かないからいいけど、
  ブッダが体を冷やしちゃったらどうするの。」

 「…あのねぇ。////////」

それはそれは真剣真摯、
きりりと決め顔になっての上目遣いという。
色んな意味から“狡いなぁ”とブッダへ思わせるよな
逆らい切れないお顔で言いつのるのだもの。

 “無理からの強硬な態度なんて取れないじゃないの。//////”

しかも、そこは天然素直なイエスのすること。
ブッダがたじろぐのを知った上での狡猾なそれ、
意識してのとか、故意でという
俗に言う“計算高さ”からのそれじゃあ なさそうなのでもあって。

 “意識してのことなら、
  もちょっと判りやすく
  わざとらしさや、ぎこちなさが出るものねぇ。”

そのくらいは神通力なぞ使わずとも見通せる。
そして、だからこそ尚更に困りものなんだよなぁと、
ほろ苦いけれど、いやではない、
そんな微妙な感触を、胸の中にて転がしてしまい、

 「…。/////////」

  ふと

  気がつけば彼のことばかり考えているなぁと、
  そんな甘酸っぱい自覚に突き当たる。

二人で降臨して来てのバカンス中なんだからとか、
二人で暮らしているのだからとか、
家族同然なのだからという次元の話じゃあなくて。

 いつから積み上がっていたそれかも
 もはや判然としない“好き”という想いの齎したもの

始まりは朗らかな感情に過ぎなかったはずが、
彼でなくては夜も日も明けぬというほどにまで、
それは急激な加速を見せたのは
ちょうど昨年の 夏に入る前のこと。
すったもんだがあった末、
切なくも恥ずかしい想いを、
思わぬ展開、それこそ奇跡のような幸いで
想うその人に受け止めてもらえたのではあったれど。

 その代償か、
 随分と初心な困惑を抱えもし、
 思わぬ混乱に翻弄されたりもして。

 “それはもう、
  ある程度、しょうがないことなんだよね。/////////”

それが恋なんだからと、
この半年の間に、いろいろと体験も積んだし、
それを足してもまだまだ
不確かなところだって多々あるとも思うわけで。

  それでも

何でもないときに 彼の所作をついつい視線で追っていたり、
出先で別行動になっても、彼の姿をつい探していたり。
彼の声がすると聞き耳を立てていたり、
何を見ているのだろうかと視線を辿ってみたり。
そんな格好で 彼自身のことをばかり意識してしまうという、
過敏なまでの夢中ぶりは、
幾らなんでも落ち着いたと思っていたものの。

 『あ、カスタードケーキとチョコパイのファミリーパック、
  より取り2つで498円か…』

 『あれ? 今日って金曜だよね。
  なんでライダーの特番があるんだろ』

 『菜の花とプチトマトのパスタかぁ。
  でもイエスって、アラビアータは苦手みたいなんだよね。
  トウガラシじゃあなく ニンニク使って、
  ペペロンチーノにしちゃおっかな。』

夕飯の献立しかり、売り出しのチラシの見方しかり。
家計を優先しているつもりだったのが、
気がつけばイエスの好みを先に持ってくるようになっているし。
甘やかしてはダメダメと、
おねだりへは厳しくも揺るがぬ態度を頑張っているのだが、
何てことないひょんな拍子の選択や決断が、
随分と緩くなっているのは否めない。

 “…う〜ん、と。///////////”

今だって、相変わらずにコタツを仕舞えぬままでいるし、
そんな彼のところへいそいそと運んで来たのは、
ひと呼吸待ってちょっぴり冷ますという気遣いつきの、
特に丁寧に淹れたホットミルクティーだったりするし。

 「わあ、ありがとうブッダvv」

一緒に砂糖の壷も持っては来るが、
イエスがそれを開けたためしはないくらい、
甘さも絶妙に彼の好みへと整えられていて。
何の衒いもないまま口をつけるときもあれば、
おっという瞬きをしてから ふわり嬉しそうに微笑うときもあるのが、
ブッダにはこっそりと ときめきの種でもあるくらい。
時には甘やかし過ぎかなと思わぬでもないけれど、

 “ああでもでも、
  新しいPCが欲しいというずっと変わらぬ願望にだけは、
  うんと言わないでいるのだもの。”

それを持って来て、まだまだそれほどなし崩しにされてはないぞと。
白い手をぎゅうと綺麗なこぶしにし、
うんうんと大きく頷いていたりするそうだけれど。
それ以外は全部問題ないってことにするために
そうまで大きな最終関門を構えること自体が既に…って、
思った人は手を上げて。(苦笑)

 「……なぁに?」

ミルクティーをうまうまと堪能しつつ、
お昼前のテレビをまったりと観ていた二人だったが。
さすがに…ちょいと自分の傾向を顧みていたらしいブッダの、
自身の中でという、
ややもすると思案という名の“よそ見”に気がついたものか。
どうかしたの?という案じるようなお声をかけて来た、
他でもない張本人様のイエスだったので、

 「…うん。//////」

ああしまった、案じさせちゃったかと、
そっち向きの反省をしつつ、

 「…あのね?////////」

何をどうと言ったらいいものか、
自分の中でも曖昧模糊としたままなことを、
懐ろへ手を伏せて持て余しつつ。
そうと訊くイエスの落ち着きぶりが
いつもいつも自分の混乱を宥めてくれることに気がついて。
ああ何て頼もしいことかと、
安堵を覚えてやまないのではあるけれど。

 「イエスは どうして、
  そうも泰然としていられるのかなって。」

 「泰然と?」

いつもいつも落ち着いているのはキミの方でしょうにと思うのだろ、
意味を把握出来なんだか、ぱちりと瞬きをして見せた彼だが。
こんな話題の会話をすること自体への、
態度というか様子というかに、既に差異があるのは明白で。
そもそも日頃からも“愛”という言葉を衒いなく口にするところが、
奥ゆかしい節度を尊重して来た自分には
同じトーンにはなかなかなれないなぁとの実感もあったこと。
愛だの恋だのという想い、
秘めなきゃならぬ、でないと浅ましいし淫らだ…とまでは言わないが、
その甘さや熱にどれほど心奪われていても、
悟りを開いた身であるのだ、揺らぐなんてあってはならぬ。
自身を律して毅然としておらねばと、
凛とした態度こそ尊いとするのが当たり前だったので。

 こんなに素敵な人だったかな?と
 弟みたいだという意識しかなかったものが
 少しずつくつがえされていったのが切っ掛けで。
 間近に感じる温みや笑顔、
 響きのいい声や頼もしい存在感へぐいぐいと惹かれ。
 ああどうしようと、ついには立ち尽くすほどとなり。

慣れぬ恋に心持ちがぐらんぐらん揺れた反動は、
そりゃあ凄まじいものだったのに。
いくら長い長い歳月を忍んで来たからといったって、
それはそれ。
口にするのがまだ恥ずかしい、
相思相愛という格好での“両想い”になったことへは、
こないだちょろっと不安をこぼした彼だったように、
ブッダと変わらぬ蓄積しか持たぬ身のはずなのに。
普段のちょっとした眼差しや頬笑みへ乗せられた、
甘くて頼もしい愛情の厚さには、口惜しいけれど太刀打ち出来ぬ。
どんな苦行にも揺るがず冷徹でいられる自分が、
なのに、イエスからの優しい笑みへは、
まるで初心な少女のように、ひどく浮足立ってのそわそわするほどなのであり。

 「泰然とというのがどういうのか、よく判らないんだけど。」

少しは真摯に考えたのか、
玻璃の双眸を静かな趣きに落ち着かせ、
ふ〜むと しばしの間をおいてから、

 「……。//////」
 「〜〜何が可笑しいのー。///////」

イエスが口許をお髭ごと弧にして見せたものだから、
真面目に聞いてるのにぃと
含羞みつつとはいえ、手を挙げるほどにブッダが責め立てれば。
いやいや違くてーvvと、
ぽすんという程度だった拳を
やめてーとわざとらしくも大仰に受け止めたそのまま、
指の長い手の中へと包み込み、

 「だって私、
  ブッダには、まだ名も知らぬときに出会って
  そのまま惹かれた身だからねぇvv」

昇ったばかりの天界で、
身の置き処に困って落ち着けずにいたおりに、
紛れ込んだ格好の広い湖にて、
玲瓏透徹な雰囲気をたたえ、泰然と瞑想していたその姿を眸にし。
何と清らかな人だろかと、あまりの印象的な出会いに心打たれ、
浮ついていた心持ちまでもが すとんと落ち着いたほど。

 “そこまで具体的には言わないけどネvv”

ただの“好き”から始まった訳じゃあないのだものと、
ふふふんvvと余裕を見せて言うイエスなのへ、

 「うう、何か狡いよぉ。/////////」

先達よ兄様よと、
憧れ抱えて一心に懐いて来ていた彼だったのに、
嘘なぞないのだろうけれど。
可愛いなぁ、
頼りないところは守って差し上げなきゃあと思っていたのにネ。
実は もちょっと大人びた思い入れから、
ともすりゃ逆に見守られていただなんて。
慣れない恋情に取り乱してしまう自分を、
根気強く傍らから支えてくれたイエスなのも、
そういった蓄積あってのことなのだろうと思えば、
知らないままでいた無防備だった身が、
癪というより、ただただ恥ずかしくて…切なくて。

 「ブッダは、私に甘えるのって何かイヤなの?」
 「…そうじゃないの。」

事あるごと、その話を蒸し返されては、
さすがにイエスも気になるものか。
そういう具体的な文言は思いつかない彼なのだろけれど、
もしかしたら屈辱なのかくらいは聞きたかったらしいのへ、
違う違うとかぶりを振り、

 「イエスがどれだけ辛かったかを思うとね、
  のうのうと笑ってたんだろ自分が、許せないときがあるの。」

過ぎちゃった過去のことだ、どうにも出来ないのはブッダにも重々判る。
だが、だからこそ 切なくてしょうがない。
それでなくとも心身共に傷だらけだった人。
裏切りや謀略に見舞われ、
そういう生まれだったというだけで苛酷な生き方を強いられて。
そんな中、人へとそそぐ慈愛ではなく、
愛を与えられる側になりたくなる“恋”というものに
捕まってしまった皮肉にも、
心の一番やあらかいところを剥き出しにされつつも、
長い長い歳月を耐え続けた彼なのであり。

 「何にも気づかずのほほんとしていたのかと思うと…。」

こうまで愛しく思う人を、一番苦しめ続けていたかと思うと
何が導く人かと腹立たしくもなるらしく。
苦々しいお顔になったブッダの、
その頬へと乾いた温みがするりと触れて。

 「やだなぁ、
  そうでいてくれなきゃ困ったのにかい?」

それでなくとも察しのいいキミに、
何も拾わせるまいと頑張ったの、無にさせたかったの?
だから〜、そうじゃなくて〜〜、と。
傍から聞いてる分には、やはりやはり惚気にすぎないだろう、
そんな言い合いっこを繰り言のようにぶつけ合う、
それは可愛らしい相思相愛のお二人。
手と手を取り合う格好のままだったと気がついたブッダを、
そのまま引き寄せ、お鼻とお鼻を擦り付け合ってから、
ふふーと悪戯っぽく微笑ったイエスだったの、

 「〜〜〜。/////////」

その笑みに魅せられた身には、
どうして咎め立てなぞ出来ましょか。
やわらかでちょっぴり刺激のある熱をまとった果肉同士、
まずは触れ合うだけの、小鳥たちみたいなキスのあと。
お互いのお背(おせな)をぎゅうを掴みしめるほど、
そのまま一つになりたい気持ちまでお揃いなまま、
深く深く口づけ合って、

 「……あ、ごめん。髪が…。////////」
 「このままでいいから…。//////」

唇や頬、首条の肌越しの、
同じほど熱い身の感触に、
何かしら確かめ合ったお二人だったようでございます。








  お題 1 『恋しちゃったらしょうがない』




NEXT


  *この芽吹きの季節に、
   自覚も覚悟もようよう固まった恋についてを思うブッダ様なようで。
   それでなくとも不思議ちゃんなイエス様が相手だし、
   生真面目なブッダ様にすれば、何かと大変ですよねvv(こらこら)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

掲示板&拍手レス bbs ですvv


戻る