恋でも愛でも 理由なんて あとからでvv

 

     8



季節はぐんぐんと夏寄りになりつつあって、
南国の産だろうビワや夾竹桃の、丈夫そうな葉が緑も濃くなりつつある。
そんな頃合いの日本の“五月五日”という日は、
子供たちの健やかな成長をお祝いする日だそうな。
特に男の子に限っているのはなぜかと言うと、
五月五日というのは“五節句”の一つ、端午の節句という日であり。
一月七日や三月三日、七月七日や九月九日と共に、
季節の節目にあたるこの日には、
邪気を払い天帝へ健やかであることを見せるため、
野に出て薬草を摘んだりしたそうで。
そんな中の五月五日は“端午の節句”といい、
本来は五月最初の午(干支の“うま”)の日を表していたものが、
“ご”という音から5日となったという説が有力だとか。
やはり、邪気を払うためにと、ヨモギや菖蒲の葉を軒に吊るしたり、
菖蒲を浸した酒を飲んだり湯に浸かったりする風習があり、
菖蒲が“尚武(武芸や軍事、それらを重んじること)”に通じるとして
はたまた菖蒲の刃が刀のようなところもあって、
立派な武将になれるようにという男の子の日になったらしく、
武家が男子誕生を知らせる幟を立てたのにあやかり、
一般の民も、天へ昇って龍になるという鯉を幟に仕立てて立てたのが
こいのぼりの始まりだそうな。(こちらは江戸時代になってから)

 とかいう 蘊蓄はともかく。

今年の“子供の日”は、
何がどう巡り合わせたものか、
いきなり地震が起きて叩き起こされた関東の方々だったそうで。

 「えっえっ? 何なに? 終末が来たの?」
 「いや、これは地震だよ。イエス、落ち着いて。」

地震だって結構な災害には違いなく、
しかも一番揺れたところは震度5弱もあったとか。
拙宅へおいでの皆様、大事なかったでしょうか?
そんな格好で
イエスまでもが早くに叩き起こされたから…という訳ではなかったが、
今日は午前中に大役があるのでと、
ブッダもジョギングはいつもの半分で切り上げて戻っておいで。

 「もしかして もの凄いペースで走って来たんじゃないの?」

今やっと お布団上げたばっかだし、ご飯もまだ炊けてないよと、
朝一番にお留守番することと相成ったイエスが、
あまりに早かった帰還へ“おおう”と驚いて訊いたほど。

 「そんなことないよ、コースを切り詰めただけ。」

だってほら、先導役なんて神聖なお務めなんだから、
汗臭くちゃあいけないと思ったしと、
けろりとしたお顔で応じた釈迦牟尼様だが、

 「何 言ってるの。」

トレーニングウェアから普段のいで立ちへと着替えた彼の、
その足元から脱いだジャージを取り上げて、

 「ブッダの汗が臭いわけないでしょうに。」
 「……イエス。////////」

確かに、そこは聖人のお二人なので、
この年頃の一般男性…と比べるまでもなくのこと、
うひゃあと眉を寄せたくなるような級の 異臭悪臭には縁がない。
とはいえ、いくらそれが揺るぎない事実であっても、
普通一般の方々には 推し量ることさえ無理な相談なのであり。
放っておけば そのままジャージへ顔を埋め、
思い切り深呼吸でもしそうな勢いの恋人さんへ。
こらこらと一式を取り上げて、

 「それって微妙な発言だから、表では言わないでね。///////」

一応はクギを刺したのは言うまでもなかったのでありました。(笑)





   ………さてとてvv



連日いいお日和だったのが、今日はちょっぴり雲の多いお天気の下、
それでもご町内の方々から集まった和子たちの
お元気さや愛らしさは格別なそれであり。

 「あ、イエス、ブッダっ!」
 「兄貴たちじゃありやせんか。」
 「おや。じゃあ、あんたたちが先導役なのかい?」

氏子の一人としてだろう、
松田さんチのお孫さんご同様、
学齢でも最年少なら構わないという条件下にて、
竜二さんご一家も参加しており。
小さいその身へ、一丁前に白い小袖と白袴を着付けての。
その白地を透かすことで
“ああ青いんだ、女の子は緋色なんだ”と判るよな、
仄かな色合いが透ける 絽という生地の羽織を重ね着し。
頭の頂には、金色の彫金細工の冠を、
顎まで回してくくった組み紐で留めており。

 「わあ。天乃国に相応しい者がいっぱいvv」

イエスが思わず相好を崩したほど、
小さな和子らが結構な数で集合していた集会場は、だが。
その親御たちも一緒にお越しなせいで、
倍掛けになっての随分な賑わいだったものだから。

 「…まさか、この大人数を私たち二人で捌くのかなぁ。」

それは幼い和子たちを
“こっちこっち、ああ車道に飛び出してはいけないよ”と
ほのぼの導くお仕事かと思っていたものが。
大人も含めて、しかもこの数を…となると、
これは結構な大役なのではと、
最聖のお二人がついつい青ざめかかっておれば、

 「あら、来なさったね。」

宮司さんの奥様が彼らを見つけたらしく。
小屋作りの集会場の庇の代わりのようなそれ、
スズカケの木陰を抜け、朗らかに歩み寄って来られる。
裏方に徹していらっしゃるためか、
ご亭主の神主さんとしての装束からは程遠い、
ブラウスにカーディガンとスカートという
ごくごく普通のいで立ちのご婦人で、

 「はい、これがハッピですよ。」

手に提げていた紙袋から、
クリーニング店の包装用ビニールパックに包まれた、
深みのある濃紺の衣紋を2着、ブッダとイエスへ差し出されたが、

 「あの…。」

ややもすると怖じけづいてでもいるかのように、
周囲をそろりと見回しつつ、何かしら訊きたいらしい二人へと気がついて。
奥様が“???”と小首を傾げたのも束の間のこと、

 「…ああ。
  大丈夫ですよ、心配しなくとも。」

こんな大勢を先導するなんて、自分たち二人で大丈夫かなぁと、
朗らかな彼らしか知らなかった奥様でさえ
“何があったの?”と案じたほどで。
そこから周囲を見回せば…彼らの案じもするすると紐解けたらしく、

 「此処にわざわざおいでの方々は、
  そのほとんどが、
  稚児姿のお子様たちを余すことなく撮影したい、
  ご両親や祖父母様がたばかりですからね。
  神社までの渡御行列もしかりですから、
  補佐こそしてくださっても、手を焼かせることはありませんわ。」

それはあっけらかんと笑いつつ、
ほらほら見てみなさいと示された先をこっそり見やれば、
成程、デジカメやらコンパクトカメラやら、
早速かざして構えておいでの方々が幾たりも。

 「○○ちゃん、こっち向いてほら。」
 「▽▽くん、ジジですよ、こっちこっち。」
 「ああほれ、あんた。
  そこに立ってちゃあ お邪魔だから、こっちこっち。」
 「おっといけねぇ、すいませんね。」

しかも、お互いにフレームに割り込まないようにと、
気を遣い合うところが微笑ましいというか、行き届きすぎというか。

 “そんな呼吸にまで 物慣れてらっしゃるというか。”

本当に仲のいいご町内だなぁと、
苦笑がほやんと浮かび上がって来た二人なのへ。
奥様もまた あらためて笑い返してから、

 「では。神社で主人が待っておりますわ。
  頑張って先導して来てくださいませね?」

ファイトと、こぶしにした両の手を胸の前にて構える
微妙にお茶目な奥様に見送られ。
よくよく見れば、紺ではなく深紫だった羽織を
それぞれの肩へ ばさりと勇ましくまとった最聖二人。
ではとお顔を見合わせて、小さな舞い手の皆さんへ、

 「さあ では、出発致しますよ。」
 「出発致しま…、
  あ、そこの子、羽織の緒がほどけていますよ?」

世話好きお兄さんのお顔を取り戻し、
新緑も目映く、そんな梢を揺らす涼やかな風の吹く中、
神社までを いざゆかんと、仲良くお務めに掛かったのでありました。





     ◇◇◇



あれほど見事に金色だったイチョウも、
この時期ではまだまだ まばらで小さな葉のつきよう。
そんなご神木に護られし、神社の境内までの道程を。
出来るだけ整然と、且つ、
車やバイク、自転車などが飛び出して来たのと
鉢合わせぬよう用心しいしい。
愛らしい稚児装束のお子さんたちの列を率い、
先導するお務めを、
あくまでも朗らかに、だが堂々とこなした最聖のお二人であり。

 “まあ、それほど距離があったわけでなし。”

ほぼ生活道路のような中通りで、
祭日だったことも重なってか、通る車も皆無だったし。
率いていた和子らも、慣れない装束と草履ばきだったからか、
いきなり駆け出すようなやんちゃも出ぬまま、
親御や祖父母様たちのご期待にこたえるかのよに、
それは愛らしい撮影対象でおわしたようで。

 「では皆さん、こちらへ並んで下さいませね。」

鳥居をくぐる格好の石段を登って境内へ上がれば、
ここからは、白小袖に緋袴姿という巫女のお姉さんに導かれ、
10人でこぼこという愛らしい稚児さんたちが
社務所のほうへと連れられてゆく。
まずはお社で宮司によるお祓いを受けてから、
社殿手前の開けた場所にて、
神楽に合わせ、簡単な所作を組み合わせた舞いを奉納するそうで。
前にお手本をしてくれる巫女さんが立っているし、
手を順番に上げたり下ろしたり、その場でぐるっと回ったりと、
至って簡単なことばかりゆえ、これもまた和やかなもの。
時々左右を間違えた子供が出て、
お隣りの子と向かい合わせになるのもまた微笑ましいと、
親御たちの温かな笑い声が立って、
お昼にはもう幕を閉じてしまうような簡単な行事であり。


  ただ、ちょっとばかり…部分的に問題がなくもなく


まずは、神社までの道行きの中。
清かな風に乗っての それはいみじくもはらはらと、
軽やかに宙を舞って来た花びらがあり。
最初のうちは、おや風流なことよと、
めでたい渡御行列へのささやかな祝福のようにさえ感じられ。
粋な巡り合わせだねなんて、微笑ましく思っていたけれど。
庭咲きの桃かな、
それとも遅咲きにも程があるけど八重の桜とかかななんて、
無難なことを思っておれば。
次の角ではいかにもハクモクレンらしき少し大ぶりの花びらが舞い、
その次のT字路では
もしかしてサザンカかなという鮮やかな紅色の花びらが舞い。
次の角を曲がるや否や、
日本では夏ツバキともいう“沙羅”の白い花弁が
はらはらと、花吹雪のように舞い散ったため。

 《 一体 何をしてますか、梵天さん。》
 《 お、これは気づかれましたか?》

不自然極まりない上に、明らかな咒の発動という気配もあってのこと。
気づかいでかと、歯を食いしばってしまったブッダだったのは、
天部からの微妙…というより履き違えもはなはだしい、斜め上の気配りに、
ちりりと胃が痛くなったか、それとも怒り心頭となられたか。

 《 ですが、異教の社への道行きですから、
   威容を添えたほうがよろしいかと。》

 《 何も布教の一環だの、
   協議の場へ赴くだのという それじゃあありませんてばっ

仏門の開祖がお渡りだとあって、
それなりの効果を必要としないかと思ったらしく。

 「お花もきれいだけど、いい香りもしない?」
 「ええ。お香みたいな、でも瑞々しい良い匂い。」

それに加えて、それは澄み渡ったトーンの鳥の声も奏でられ、
居合わせた皆さんが、揃ってうっとりなさったほどで。

 “これまでにも結構あったことだけど…。”

沖縄旅行のおりも、商店街FMへのゲスト出演のときも、と、
イエスがじんわりと思い出したよに、
天部によるプロデュースは、こんな感じで毎回どこかズレているらしく。
釈迦牟尼様の辛抱強い気質は、
持ち前と苦行で培われたものが半分で、
後はこうやってじっくり練られたんじゃなかろうか…と。
ヨシュア様が、そこまで思ってしまったほどだったとか。

 「あ、でもね、ブッダ。」

現場では“華やかで縁起がいいね”で済んだけど、
持ち帰られた映像を観たお人の中に、
季節的に何だか不自然極まりない花びらだと
気づくお人が出たら一体どうしよう…とばかり。
今から青くなってた如来様の手をイエス様が引いて差し上げ、
そそくさと帰途についたその中で、

 「お子さんたちが舞い始めた神楽に交じって聞こえてた
  天界の瑞鳥の声は、
  梵天さんじゃあなくて、ウチのガブリエルが寄越したらしいよ?」

 「……はい?」

 いや、あの子ったら鳥派だからさ、
 梵天さんが感じたように、私の晴れ姿に何かないかと思った挙句、
 それは声のいい、祝福の瑞鳥を降臨させて、
 聖光の代わりに幸いあれと鳴かせたんだって、と

 “…何でそう朗らかに語れるかなぁ。////////”

困っちゃうよねぇと言いつつ、
ふふーっと微笑うお顔が、ちいとも困ってないように見えるのは、
もしかして、私の側がただただ至らないからだろか、
それとも、こういうところが 人としての器の差なんだろか…なんて。
ひとしきり複雑そうなお顔になっておいでの相方様だというに、

 「何か楽しかったねぇvv」

帰りついたアパートにても、
そりゃあ朗らかに、先導の道行きを思い起こしていたイエスであり。

 「花びらが舞ったのはなかなかに風雅で、
  子供たちも“わあvv”って喜んでたのが素直で可愛かったし。」

 「…うん。まあ そこは私もホッとしたけれど…。」

何と言っても今日の主役は彼らなのであり。
そちらへの祝福だったかどうかは定かじゃあないにせよ、
見た目にも華やかで、いかにもお目出度い現象だったのだから、
授かった坊ややお嬢ちゃんたちにしてみれば、
少なくとも 気の悪いことではなかったろう…と。
やっとのこと、肩から張り詰めてた力が抜けて、
ほうという吐息がつけたブッダだったのへ、

 「それに、ブッダはいろんなお顔になるしvv」
 「……っ。/////////」

余計な一言を言ってしまうところが相変わらず。

 「…あのねぇ。」

無いはずの花吹雪だけでも、十分にとんでもないレベルの奇跡であり、
それ以上へエスカレートしないかを警戒してのこと、
気が気じゃあなかったからこその緊迫感や、
それらを寄越した梵天との“伝心”によるやり取りのせいで、
微妙な百面相をしただけだのに。

 「それを“楽しかったこと”へと数えますか。」
 「ご、ごめんなさい〜〜〜。」

うあしまった、仏の顔が一気に減ってると、
その原因や理由も含めて、やらかしてから気づくのもまた相変わらずで。

 「ブッダは困ってたんだったね。」
 「というか、キミが奇跡慣れしすぎなんだよ。///////」

その冠へバラを咲かせまくっても、いちいち何とも取り繕わないしと、
警戒心の薄さ、別名“うっかり”加減のはなはだしさを
やや憤慨気味に指摘されたものの、

 “そういうブッダも 結構、
  思いがけない奇跡は起こしてる方だけどもなぁ。”

怒っても喜んででも しょっちゅう光ってるしと思ったけれど、
ここではさすがに言わないでおいたげるイエスであり。

 「う〜んと、じゃあじゃあサ。」

六畳間の窓辺へ とさんと崩れ落ちるように座り込み、
再び ふしゅんとしおれかかるブッダなのを見かねたものか。
指先で顎のお髭をさりさりと掻く仕草と共に、
何かしら考えを巡らせたらしきヨシュア様。
ややあって、うんとくっきり頷くと、

 「今日はもう、飲もう。うん、そうしようっ。」
 「はいぃ?////////」

祝日なんだもの構わないってと、
陽のあるうちからの酒宴を開こうと。
もしかして、またもや“なし崩し”へ逃げる気かなんて
ちょっぴりとブッダ様を呆れさせた提言が飛び出した、
五月のとある昼下がり前のことでした。




  お題 7 『流動的恋愛論』 前編






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  *しまった、
   道行きへの天界からの割り込みのいろいろが楽しすぎて、(おいおい)
   ついつい書き込み過ぎちゃったので、後半とに分けますね。

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