恋でも愛でも 理由なんて あとからでvv

 

     7



春の到来を知らせるような、
緋色や白、黄色といった可憐な花々の顔見せが落ち着いて、
ぐんぐんとその光が濃くなる陽。
柔らかな若葉が顔を覗かせ始めていたのは知っていたが、
冬の空に色を吸い取られたようだった、
くすんだ緑だった常緑の茂みにも、
そんな葉の隙間からめきめきと
若い緑や梢が伸び始めているのが何だか意外で。

 「一斉に一旦 散りもしないで、入れ替わるんだね。」
 「そうみたいだね。」

サツキやツツジの茂みの緑が
古いのと新しいので微妙な二層になっており、
その新旧の緑の重なりが、
陽の下に見ると何とも言えず健やかで美しい。
玻璃色の双眸をそれはきらきらとさせて見やるイエスなのへ、

 「ひざまづいて“祝福あれ”って讃えたくなっても
  ここは我慢だよ、イエス。」

 「……っ。あ、うんうん、そうだね、ブッダ。//////」

重厚にして おっとりとした悟り顔にて、
それは即妙な助言をしてくれた釈迦牟尼様へ。
ハッとしてから、
あああ今ちょっと危なかったよ、ありがとうと、
周囲の人が慌てるかも知れなかった行為、
間合いよく制してくれたことへと
胸を撫で下ろしたヨシュア様だったけれど。

 “私たちが徒に感動すると、ロクなことにならぬからね。///////”

瑞々しく伸びている樹木の健やかさに拍車が掛かって
文字通り“目に見えて”という早さでの成長を促しかねぬし、
縁のない他の花まで地中から招くよな、桁違いの奇跡も起きかねぬ。
そこへもって来て、
優美な声で祝福の歌を口ずさむよな、
尾の長々とした典雅な鳥でも飛んで来た日には、

 “知らん顔してその場から離れることがどれほど辛いか。//////”

そうまでしみじみと苦衷を思い起こしおいでなあたり、
さては そう遠くはない頃合いにやらかしましたね、ブッダ様。(苦笑)

 ああ、でも本当に気持ちがいいね。
 そうだよね、新緑の季節って感じだよね。

どちらもどちらかといや色白で長身な異邦のお人が二人、
街路樹の木洩れ陽をほのぼの見上げておいでの図は、
そんな風貌を柔らかく引き立てる、
邪気のない朗らかさとが相俟って、
通りすがりの皆様からの注意も引くようで。
殊に数量限定系のお買い得商品がある日だったりした場合なぞ、
擦れ違いつつ丁寧な目礼を交わしてから、

 「あら、もうそんな時間?」
 「あ、ブッダさんたらサラダ油買ってる。」
 「きっとお値打ちなのよ、チラシ見てないけど。」

あら大変、急がなきゃと、
時計とそれから、
お知らせの役割まで果たすほどとなってもいるほど。
それはいい陽気ではあるが、
買い物を提げたままでは、そうそうのんびりとお散歩とも行かぬ。
松田ハイツまでを戻る道すがらにて、
新緑や やや強い陽の照りようを堪能し。
ただいまと自宅へ帰り着くと、
イエスは干し出していた布団の様子を見に行って、
その間にブッダがお買い物を冷蔵庫や戸棚へ整理して。

 「裏表を返して来たよ。」
 「ありがとvv」

大物を干せる物干し場は、住人たちの間で順番で使うこととなっており、
この上天気の今日は、こちら聖さんチが使っていい日となっていた。
それをちゃんと覚えていて、
お買い物へ出る前、他の洗濯物を干したおりに
敷き布団だけでもと2枚を竿に干し出して行ったのはブッダであり。

 「凄っごくフカフカになってたよ、大したもんだよね。」
 「そうなんだvv」

でも、だったら早いめに取り込まないと、
今度は熱が籠もって寝苦しい布団になっちゃうねと。
おおらかそうな苦笑を見せつつ、

 「はい、これ。」

タンブラーよりは大ぶりなグラスへそそがれた、
ちょっぴり濃い琥珀色の飲み物を
畳の上へ長い脚を折りたたみ、腰を下ろしたイエスへと差し出す。
氷も浮かべられたそれは、

 「あ、麦茶だねvv」

開け放たれた窓からそよぎ込む風もなくないが、
その窓の向こうに広がるのが、
目映い陽に隈無く照らされた、溌剌とした風景なせいだろうか、
涼やかながらも どこか落ち着きがなく。
カーテンを揺らして見せるのが、
まるで“そこから出ておいで、遊ぼうよ”と誘っているかのよう。
露をまとったグラスの中、かららんと躍る氷を浮かべた夏のお茶は、
よぉく冷やされた喉越しと、香ばしさが心地いい。

 「うあ、美味し〜いvv」

小汗をかいてた暑さも拭われるようだよと、
ほっとしたように微笑うイエスの嬉しそうな笑顔に、

 「それはよかった♪」

ブッダの側もまた、
それは嬉しそうに目許をたわめて ほっこりと微笑う。
ああほら、首回りとか汗かいてないの?髪は束ねなくていぃい?と、
暑さ寒さに弱い相棒へ、甲斐甲斐しく世話を焼くのも楽しげで、

 「そういや あちこちでこいのぼりが揚がってたね。」

 「うん。松田さんもネ、
  お孫さんが来たらお庭に揚げるんだって言ってたよ?」

日本の初夏の代名詞でもある、ゴールデンウィークの訪れ、
すなわち、小さめのバカンスの到来を、
こちらの神様仏様もワクワクと察しておいでの様子。
新緑麗しい頃合いに、
ちょっとしたお出掛けをするもよし、帰省するもよしという、
お手頃な連休が設けられているなんて、

 「土地によっては、
  この時期にこそ祭りで盛り上がるところも多いそうだしね。」

博多のどんたくもそうだし、
京都の葵祭へ向けて、様々な準備儀礼が進められるのもこの時期だ。
また、東北や北海道ではこの時期こそが桜の満開に沸くと来て、
花見がてらに名所へ向かう観光客も多数。

 「う〜ん。でも、だからこそ込み合いもするんだろうね。」
 「だろうね。」

行楽地に向かう人々の流れを追うように、
新幹線や空港、高速道路のラッシュ情報もニュースなどで報じられており。
いい季節だからという遠出や観光を楽しむなら、
日をずらした方が良さそうだねと、意を合わせておれば、

  ぴぃんぽ〜ん、と

随分とゆっくりとしたテンポでチャイムが鳴り響く。
どうやら来客らしく、
あれれ?誰だろうと顔を見合わせ、ブッダのほうが立ってゆけば、

 「松田だけんど、聖さん居るかね。」
 「あ、はい。」

今も名前を上げていた、このアパートの大家さんがいらしたようで。
だがだが、一体何の御用だろうかと、
予想もつかぬまま小首を傾げてしまうお二人だったが。

 「お邪魔するよ。」

ドアの向こうに立っておいでだったのは、
小柄でやや猫背の、アラウンドご老体ではあるが、
気丈でしっかり者な その上、怒らせれば怖くもある、
此処 松田ハイツのオーナーさんと、

 「…あ。」

もう一人ほど、お連れさんがいる。
そのお人もまた、彼らには見覚えのある人に他ならず。
今日は少し蒸すお日和だからか、
薄い生地のYシャツに麻地のスラックスと、
切り替えのある洒落たベストを合わせた洋装でおいでだが。

 「あなたは…。」

いつぞや落葉かきのお礼だと銀杏を分けてくださった神社の宮司さん、
初老の神主さんが、どうもとおっとり微笑っておいで。
松田さんに連れられて
わざわざお越しになったのは、どうしてかと言えば、

 「あんたらのことを探しておいででね。」

境内で一緒に遊んでた子供らにまで訊いてらしたんだよ?
神主さんなんだ、名前くらい名乗っておきなよと、
まずは松田さんから軽く窘められて、
ああそういえば…と口許へ手を寄せてブッダが恐縮していたり。

 「すすす、すいませんでした。/////////
  あ、お二人ともお上がりくださいな。」

自己紹介なんて仰々しいことと、思いもつかなんだが、
いい大人にしては確かに思慮が足りなかったかも。
そんな反省をしつつ、二人をお部屋へ通す。
部屋の隅においてあった Jr.に
イエスが慌ててシーツをかぶせたのは言うまでもなく。(笑)
では、どうしてまた探しておられたのかと言えば、

 「実は、お二人にお願いがありましてな。」

丁度よかった、麦茶が冷えていますよと、
夏向きのタンブラーにそそいでお出しすれば。
品のある所作にてハンカチで額の汗を拭ってから、
おもむろに持ち出されたお話というのが、

 「端午の節句の稚児舞いに参詣する子供たちの補佐役、
  和子らのエスコートの係をしてもらえぬだろうか。」

 「え?(♪)」

 「ですが、それって…
  もしかせずとも神社の大事な“祭事”なのでしょう?」

何ですと?という聞き返しと同時、
既に大きく乗り気らしい
ワクワクとした気配を覗かせていたイエスを制しつつ、
ブッダが落ち着いた口調で、詳細部分込みにて訊き返す。
曰く、

 「だとすれば、私たちが参加するのは問題がありませんか?」
 「ブッダ?」

私たちほど聖なる存在はいないのに、一体 何を言い出すかなと。
今ひとつ話の核に追いついていないのか、小首を傾げるイエスだが、

 「我々は はっきり言って
  そちら様からすれば部外者に当たります。
  神事に匹敵するよな行事なら、
  あくまでも氏子の方たちが担うのが筋なのではと。」

境内の周縁で縁日の屋台を出すのとはワケが違う。
異教徒が立ち入っていいことじゃあないんじゃないかと、
仄めかすような言いようをしたのが通じたか、

 「ええまあ、原則を言えばそうなりますが。」

いやあ参ったと苦笑なさった宮司さん。
だがだが、その笑い方も朗らかなものであり、

 「なに、そうまで固いことは誰も仰有りませんて。」

例えば 年越しの儀式や 秋の鎮守の例祭のように、
関係者一同が社殿へ籠もり、
心身を清める“禊斎”もして執り行うような、
厳粛にして神聖な祈祷や奉納に、
氏子以外の方が立ち入られては、確かに支障もあるやもでしょうが、

 「軽んじるつもりはありませんが、
  子供たちの稚児舞い奉納は、さほど堅苦しいものではありません。」

それにと、頬笑みを尚のこと濃くした宮司さん、
同じ卓袱台の前へ、ちょこりと座って向かい合う二人を見やると、

 「お二人はご町内でもよう知られておいでのようですし、
  悪く言う人を知りません。」

さすがに目立つ風貌だからか、
しかもその上、あちこちの催しに積極的に顔を出すからか。
そういうつもりはないながら、
あっと言う間にご町内の有名人となってた彼らなのは、
松田さんも うんうんと頷いておいでなほど明らかなことであり。

 “まあ、私たちが人品を疑われるようでは世も末ですが。”

一応、最聖としての光の覇気は抑えちゃいる。
そうでもせねば、
ただ居るだけでもその崇高なオーラが人々の信心を刺激し、
正体を露呈されてしまいかねず、
せっかくのバカンスがお忍びでなくなってしまうからだが。(おいおい)
とはいえ、聖なる存在たる素養は
そうそう簡単には覆い尽くせるものでもなくて。
それぞれの人懐っこさや誠実さから、
周囲へ集まって来た人々が、そのまま居着きの、
誠実な人らしいからと この手の信頼を厚く寄せてくれるのも、
そんな聖気が微かながらあふれ出ているからだと思われて。

 「いかがでしょうか。
  特に難しいことをしていただこうというのじゃありません。
  当日の午前中、子供らが集会場に集まったのを、
  神社まで引率していただくだけで。」

ああそうそう、関係者だという目印に、
神社のハッピを羽織っていただきますがと付け足されたものだから、

 「ハッピというと、祭りのときに着る、
  エキゾチックジャパンな上着のことでしょうか?////////」

イエスのわくわくが勢いよく復活したようで。
ああこれは、お断りするなんて愚の骨頂とか言い出しそうだなと、
ブッダが早くも諦めの境地に至っていたそうな。(苦笑)




     ◇◇◇


集会場も神社もよ〜く知っている場所だし、
当日は子供たちを連れて、父兄の皆さんも集まる。
松田さんもお孫さんを連れて行くとのことなので、
それと一緒に来ればいいと話もまとまり。
では子供の日にあらためてと、
お帰りになられるのを見送って。

 「神社に祀られてる氏神様にまたぞろ呆れられるかな。」
 「どうだろう。」

和子たちのエスコートという護りを受け持つのだから、
ご苦労様と思われる程度じゃなぁい?とブッダが苦笑をし。
どれほど楽しみなものか、
鼻歌交じりになってPCを開くイエスなのへ、
やれやれと思いつつも…和んだ視線を向けずにはいられない。
手元を見やるせいで、やや伏し目がちとなった目許や
小さくほころぶ口許の端正さへ見ほれておれば、

 「? なぁに?」

モニター画面を見ていた玻璃の眸が、
それは自然に上がってこちらを見やるものだから、

 「あっ、や、あの…。///////」

別に用があった訳じゃないのと、かぶりを振るブッダだが、

 “…そういや。///////”

気がついたことがあっての上目遣いをしてしまい。
そんな態度が含羞みもあっての可愛いと受け取られ、
ますますのこと“なぁに?”と見つめられてしまったり。

 「あ、あのね?//////」

いつもの常での正座した膝の上、
白い手をそこでもじもじと組み合わせたり解いたりしつつ、

 「最近、イエスってば
  こっちからの視線にすぐに気がつくなぁって。」

テレビを見ていてもPCを見ていても、
手が空いたこちらがちらりと眺め始めると、
すかさずのようにすぐさま気づかれて、
“なぁに?”と正面から見つめられてしまう。

 「だって、ブッダからの視線だよ?
  気づかないでどうしますか。」

卓袱台に肘をついての頬杖をつき、
涼やかな双眸をやんわりとたわめて、
それはあっけらかんと微笑う神の子様だが、

 「だから、あのね?///////」

ああそんな、
織りたての更紗みたいに清かに微笑わないでよと。
ブッダとしては、
自分の思惑の疚しさを意識しつつ、顔を赤くし、含羞むしかなくて。

 「だから?」
 「…だから。//////」

すぐに気づかれてしまうから、
テレビを観てる横顔とか、
新聞を読んでて少し伏し目がちになってるとことろか、
無心にPCのモニターを見やってるお顔とか、
前ほど堪能できなくなった。

 「そりゃあさ、
  こうして向かい合ってお喋りするのが一番楽しいけれど。」

それと、あのあの。////////
懐ろにすっぽり埋まって、
肌身でこれ以上はないキミを感じる
最高のハグとかしてもらえるのも、勿論すごく嬉しいけれど。

 「…こんな風に?」
 「〜〜〜う、うん。///////」

ひょいと腰を浮かせて傍へ寄り、
瞬く間に手際よく掻い込まれているのが、
いかにもイエスにばかり余裕がありそで小憎らしいやら、
でも…正直なところ嬉しいやら。////////
シャツ越しに伝わる ちょっと堅い肉付きとか、温みや身じろぎ。
ちらりと見上げれば喉元がぐりと動くのも、
微妙に緊張しているものか、
もしかして少しは気が高ぶっているのかなと思えば
何だ同じかぁなんて気がして 少しはホッとしもしたり。

  でもね?

 「少し斜め横を向いてるときの、
  キミのイケメン顔もたまに見たくなるし、
  全身を眺めてたいなって思うこともあるし。」

背中の頼もしさとかもうっとり眺めたいなって思うときもあるのに、
こうやってギュウってされちゃうと、

 「同時には、さすがに無理な相談でしょう?////////」

自分でも無茶を言っているのが判るのか、
お顔は上げぬまま
ほわほわする頬を愛しい懐ろへ埋めて、
遣る瀬ない吐息を ほおとついて見せたれば。

 「…ブッダったら私の背中がいいの?」
 「違くて。」

ああ、こんなやり取りは前にもしたなぁと感じたが、
今の今、ちょっと気がついたのは、
イエスが不思議ちゃんなだけじゃあなくて、
あれってもしかして照れ隠しだったのかもしれないなということで。

 “だって私も…。/////////”

可愛いとか綺麗だとかあんまり続けざまに言われると、
恥ずかしくて居たたまれなくなるもの、と。
他でもない、それを言ってくる張本人様の懐ろに、
むいむいと頬を擦りつけてから、

 「いまだにイエスが
  こそこそと隠し撮りしたくなる気持ちが
  少しは判ったかなって。」

 「またそれを言う〜〜。////////」

もうもうと不平をこぼしたそうな声になったヨシュア様だったが、

 “すぐさま気がつくというのは、微妙に嘘なんだけどもね。”

そりゃあサ、大好きな相手だもの、
ずんと意識しているから、感度も高いというのはホントだけれど。
こちら側からも いまだにちらちらとのぞき見しているから、
それで視線同士がかち合う頻度が高いだけの話なのであり。

 “ブッダも同じこと思ってたんだ。////////”

自分のやってることへ追いついたってことなのかな、
だとしたら、同んなじスリリングなドキドキを、
お邪魔してはいけないのかなぁなんて。
訊くに訊けないくすぐったい想い、
睦まじい抱擁をしつつ、
その同じ胸の内にて こそりと転がしていた、
イエス様だったそうでございます。





  お題 7 『恋をしていると思う瞬間』




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  *GWはのんびり過ごそうと構えてた最聖のお二人でしたが、
   催しが向こうからやって来たようですね。
   ブッダ様の白毫を狙うようなやんちゃは
   年少さんには まだいないと思うので
   安心して頑張ってね。(笑)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

掲示板&拍手レス bbs ですvv


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