恋でも愛でも 理由なんて あとからでvv

 

     6



暑くもなく寒くもない、
暗くはないが さほどには陽も差さぬ曇天の下、
どこなのか判然としない街を歩いていたら、
そんな視線の先に人だかりが出来ていて。
何だろうかとそのまま近づけば、
微妙な遠巻きになった人垣の向こうで、
擦り切れた石畳の続く路上にぺたりと座り込み、
頭上の空へ向けて放り投げるようにし、
いやに上機嫌で花を撒いている娘さんがいる。
一体どうしたのだろうかと案じて話しかけようとしたところ、
通りすがりの人よ およしなさいと、
そんな私を引き留める人がいた。
そちらさんも深くフードをかぶっていて顔や風貌は判然としない。
若いのだか年寄りなのだか判りづらい声を絞り出し、

  そやつはもう、正気ではありませぬゆえ。

触れてはなりませんと肩を掴まれ、遠ざけられてしまい。
え?え?と、ますますワケが判らないままでいると、
どこからか別の人々が現れて。
刑吏らしきその人たちは、互いのお顔を見合わせあうと、

  ああ、これは…
  うむうむ、もう壊れているな

そんな風に意を通じ合わせ、彼女をどこかへ連れ去ってしまった。
特に乱暴な扱いをしてもなかったし、
蔑んでいるような口調や態度でもなかったんだけど。

  どうしてだろうか、
  何にかも判らないけれど

  口惜しくて哀しくて、涙が止まらなくて…






  「…ってゆう夢を見たの。」


今となっては、その娘さんが 人だったか、
それともお人形だったのかも定かではなくて。
沸き上がって来ていた感情のほうも、
自分の力不足が口惜しかったのか、
事情が通じてなかったのがもどかしかったのか、
刻が経つにつれ
何もかもが曖昧になってくばかりで、それもまた切なくて。

 「口惜しいのか哀しいのかも判らなくなっちゃって、
  そんな自分も情けなくて〜〜。///////」

いつもそれは朗らかなキミが、
それは辛いというお顔をしていたものだから。
それでのこと
“一体どうしたの?”と訊いたブッダではあったけれど。
つっかえつっかえ話してくれた一部始終に、
また何か込み上げて来たものか。
声を涙に埋もれさせ、えぐえぐとしゃくり上げ始めてしまった
嗚咽が止まらぬらしい、駄々っ子のようなキミだったのへ


 困ったなぁと思いつつ、
 でもでも、その曇りのない純粋なところが
 それは愛しいと思えてならなくて……。




     ◇◇◇



そもそもからして、
誰それ限定というちょっぴり片寄った“恋”よりも
普遍で無償の愛を説く最聖のお二人なのであり。
とはいえ、だからこその盲点も無くはなく。

  ―― 恋を愛にする3つの方法

少し遠出をした帰り道。
JRの車中で聞こえて来たのは、
心理ゲームか話のネタか、はたまた倫理か何かの宿題か。
隣のブースにいた女子高生らしいグループのお喋りに
そんなお題目が上げられていたのへ、
おやと感じたそのまま、
ほぼ同時にお顔を見合わせてしまっていた彼らであり。

 ちなみに、解答例は“放任と忍耐と諦念”だそうで。

 「ある程度は緩く構えて見逃すこと、
  何があってもしばし耐えること、
  型通りにゆかずとも 多少はしょうがないと諦めること、だって。」

 諦めるはないんじゃない?

 そこまで構えないと、
 恋を愛に変えるのは難しいと言いたいのかなぁ。

 お母さんレベルの愛と同じ次元まで高めようと思ったら
 そのくらいど〜んと構えなさいってことじゃあないの?

 「ああ、でも母性といや、
  家族も始まりは恋人同士からだもんね。」

そうなんだよねぇ、
大昔の政略結婚か何かでもない限り、
少なからず“恋愛”から始まって夫婦になったのが、
お母さんとお父さんなんだものね。

 今じゃあ実のお母さんより気を遣ってない気もするけどなぁ。

 言えてる、遠慮も恥じらいもあったもんじゃないっていうか。

 つか、お父さんなんて、二人お母さんが出来たような感覚?

 子供と一緒に“お母さん”て呼び出したらもう、
 恋人だったことは雲の彼方だよね。

それって言えてる〜なんて言い、
ドッと笑い出すお嬢さんたちであり。
ヒステリックな笑い方じゃあないところは、
そんな親御を滑稽だと思ってはないようだったし、
むしろ“しょうがないなぁもう”と、
照れくささ半分、でもでも幸せそうな捉え方でいるらしく。
家族や親御からの愛から始まって、
最近になって恋を知り、
ああそういえば…なんて遅ればせながら、
今頃そちらへも気づいた彼女らなのだなぁと思えば、

 “微笑ましいのは彼女らのほうでもあるよね。”

こんな開けた場所で
愛だの恋だのあっけらかんと口に出来るなんて。
しかもそれについて自分の思うところを言えるだなんて。
さばさばと頼もしいのか はたまた子供っぽいのか。

 それとも それが今時の風潮なのか…。

そうこうするうちに立川に着いてしまい、
そんな話が聞こえて来た空間とも
さらりとおサラバした格好になったものの、

 “普通はそういう順番なのだろうね。”

嫌われたくはないとか恥かしいとかいう遠慮が挟まる恋人が、
気がついたら父や母と代わらぬ存在、
なりふり構わず安んじて接する“家族”となっている不思議。
恋から始まった微笑ましい絆が、
長い時間を掛けてともに艱難辛苦を乗り越えることで、
深くて堅い愛に変わっている奇跡よ。

 「……。」

愛については それこそ広く深々と知っていたけれど、
恋というものは 最近初めて知った身で。
この、何とも言い難い不安定な感情を、
私たちは果たして“愛”へ昇華させることが出来るのか。

 “……。”

好きな人がいるって幸せだなぁ、
でもでも不安もなくはないし、
そこを満たしてほしいと想い始めればキリがなくて。

 “ああ やっぱり、想像もつかないや。////////”

今 関わっているこの恋を、
揺るがぬ信念をもて、自分自身や大切な人を支えもするよな
しっかとした“愛”に変えるなんて
相当に難しいことだろうな、と
ついつい弱気になってしまい、
気高く結われた螺髪ごと、ゆるゆるとかぶりを振ってしまった
ブッダ様だったのでありました。








好もしい気持ちから始まり、
ちょっとした切っ掛けから恋に育ったこの想い。
常に抱えている普遍の愛と同じほど大きくて大切と、
言ってくれたのはイエスだったけど。
勿論、自分だって
今取り上げられたらどうにかなってしまうだろうほど
虜になっている深い想いだけれど。

 これってまだ“愛”ではないのかな。
 愛にするには何か足りてないのかな。

そういえば、いつぞやもしみじみと痛感したよね。
甘え切る強さがまだ足らぬ、信じる強さがまだ足らぬと。
夢見への歯痒い想いを抱えて、
もどかしげに泣き出しちゃったイエスだったの、
おろおろと宥めたあの日から。
少しも変わってはない私なのかなぁ…。



 「…あのね、ブッダ。」
 「え?え? な、何なに?」

いつの間にかプラットホームからの階段を下りていて、
駅から出る改札も通り過ぎていて。
半分は惰性で、もう半分はきっとイエスが
こっちこっちと手を引いたりしてくれて、
こんなところまでを無事に歩んでいた自分だったらしいと。
自宅へ向かう生活道路へ差し掛かってた周囲の風景へどぎまぎしつつ。
…ここでやっと声をかけてきたイエスだったのへ、
ぼんやりしていて恥かしいと焦りつつ。
何なに?とブッダが訊き返せば。

 いいこと教えてあげる

ロン毛へ茨の冠を巡らせ、
でもでもTシャツにブルージーンズ姿の神の和子様。
玻璃色の双眸を朗らかにたわめ、
少しくすんだブロック塀の続く小道を進みつつ、
お取っときの情報みたいに紡いだのが、

 大好きな人が顔をくしゃくしゃにして大あくびしても、
 だらしないカッコしていても一向に幻滅しないなら、
 それって恋が本物に育ってる証拠なんだって。

 「…っ。////////」

内容よりもお題にドッキリ。
何で判ったんだろうと、真っ赤になってる如来様なのへ、

 「だってブッダって生真面目だからvv」

私も彼女らの話し声は聞こえてたんだし、
そこからのキミのお顔を見ていれば、
何を思い詰めてるのかは一目瞭然で。
それにと自分の胸元へ、ちょっぴり骨ばった手を伏せて、

 「指輪もね、ほんのり温かくなってたし。」
 「えっ。///////」

クリスマスにイエスから貰ったお揃いの指輪。
どういう作用なのか、時々お互いの心持ちを届ける奇跡が働いて。
便利なような、
ああでもこういうセンシティヴなことまで筒抜けは困るような、と。

 「〜〜〜っ。///////」

そんな含羞み交じりの戸惑いに、
福耳まで真っ赤にしちゃった釈迦牟尼様。

 ふふーと微笑って見せるヨシュア様に、
 口惜しいけれど見惚れつつ……

泣き虫はとうに返上したらしきイエス様の頼もしさへ、
やわらかな唇をうにむにと咬みしめ、
ちょっと癪だなぁなんて思ってしまったそうでございます。







   ● おまけ ●


 「…でも、じゃあ。」

含羞みながら
“いやぁん//////”と唇噛みしめておいでだったのも束の間のこと。
はたと何にか気づいたらしく、
いやぁ可愛いなぁと見ほれていたイエスを、
ちろりんと、ちょっぴり斜めからの上目遣いで見やったブッダ様、

 「本気で好きな人相手であれ、
  その人のためにはならぬことへは
  ちゃんとお説教出来るようになれば、それって愛だよね。」

 「う…それはそうだと思うけど?」

やだ、何かそういう話題とは思えない滑舌のよさじゃあありませんかと、
イエスが不吉な予感を覚えたのは大正解で。

 「じゃあ、無駄遣いはだめとか夜更かしは控えなさいとか、
  イエスを叱るのは愛からなんだから構わないよね?」

それは朗らかなお顔で
“うふふん”と微笑って見せた如来様だったのへは、

 「ううう、お手柔らかに…。」

その通りでございますというのと同じ意味合いからだろう、
完全降伏するしかなかったイエス様だったのでありました。








  お題 5 『恋を愛にする3つの方法』




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  *これはどうやって消化しようかなと、
   困ってしまってわんわん・わわんなお題でした。
   何とか盛ってみましたが、
   結局は何か変な話になっちゃったです、すいません。

  *そういえばお題のタイトルを言うの、忘れてましたね。
   恋で10のお題となってましたが、
   そこからウチなりに広げて

   “恋について考えてみた10のお題”

   ということで展開中でございますvv
   いつにも増してイチャイチャし過ぎてる彼らで すいませんvv

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

掲示板&拍手レス bbs ですvv


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