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ひょんな弾みというか、思わぬ成り行きから、
小さなお客様とともに過ごすこととなってしまっていた最聖のお二人。
蒸したての美味しいおやつをうまうまと食べておれば、
やっと御用が済んだらしいお母様がお迎えにとやって来たのだが、
よほどに懐いてしまったものか、
初見もいいところの、しかも外国人の男二人から
なかなか離れようとしなかった坊やだったのが見ものであり。
ありゃまあと大人たちがお顔を見合わせたものの、
ブッダが“どうぞ”とお母様の腕へゆだねてしまえば、
そこはやはりママの温みや匂いを思い出したか、
バイバイと手を振って見せたのが、尚の苦笑を招きもして。
「可愛かったよねぇ。」
お邪魔しましたとお帰りになったの、
名残り惜しく思いつつも見送ってから、
六畳間へと戻って来れば。
卓袱台に着くや否やという間合いで、ブッダへと伸びて来た手があって。
不意なこととて“おやおやおや”と驚かされたことや、
わあこんな明るいうちからとややときめいたのを
だがだがあっさりと凌駕して、
“あ…。/////////”
ぎゅうとしがみついて来た腕の、
やんちゃな頑是なさよりも、その温みの切なさへ、
釈迦牟尼様の口許が小さく小さくほころんで。
どうしたの?
…うん。急に甘えたくなったの。
肩口へと伏せられたお顔は近すぎて見えない。
坊やに触れると痛いだろうからと、
茨の冠は外していたのにね。
イエスのそんな態度は、
不思議とブッダの胸の底をひりひりとさせて。
今になって焼きもちかな?
かも知れない。
誰に何にと言ってはないのにあっさりと通じるところが、
悋気はともかく、
あの小さかった坊やの話だというのへの確たる証しで。
ふふと小さく微笑ったらしくて、目の前の肩がかすかに揺れる。
そうして やっとお顔を上げたイエスは、
だがブッダの肩を両腕の中へと取り込んだままでおり、
「…ブッダの肌って、あの子と同んなじですべすべだよね。」
「え……。/////////」
小さくも愛らしかった坊やとのお別れがちょっぴり寂しいと、
そういう気分へ浸っていたのかと思ったら。
いや、最初はそうだったのだろうに、
今は…その薄い頬を伏せたまろやかな肩の持ち主が、
よしよしと撫でてくれる手や
ややうつむいてくれることで触れる頬のやわらかさに
うっとりしておいでだったようで。
間近から上げられたお顔の、玻璃色の澄んだ瞳に見つめられ、
あ…っ///////と 今になって頬へ熱を感じておれば、
「…vv」
ぱちりと短く瞬いたその双眸が、そのまま ふるりと揺れて。
ああ、そんなの狡いよと思ってももう遅い。
抗えるはずもないまま、
そも そんなつもりなんて浮かびもせぬまま、
ちょっぴり乾いた唇がふわりと重なるの、
怖いはずもないことと、眸を閉じて受け止めている。
「ん…。///////」
重なるという印象の通り、軽く触れてのそれから、
ややもどかしそうに むにむにと、
こちらの唇を食もうとする動きが伝わって来て。
そんな積極性が、そのまま自分への“求め”に通じ、
そうまで“欲しい”と思われている実感が、
こちらの心持ちを否応なしに震わせて、
総身の血脈を騒がせるほどの 罪な熱を呼ぶのであり。
「んぅ…。///////」
イエスの髪を撫でていた手が、甘い陶酔からすべり落ちかかり。
だが、きゅうと抱きしめられたことで
新たなざわめきを感じ、何かへすがりたくなって。
触れていた背中のシャツに掴まり、手の中へぎゅうと握り込む。
切ないドキドキが極まって、
くらくらと躍るよな、ふわふわと浮かぶよな、
そんな心持ちに翻弄されて…。
「あ。」
堅く結われていた螺髪がほどけ、
ぱさりと躍り出したそのまま、座り込む足元へまでこぼれた長い髪に、
やっと離しかけていた唇の隙間から、
イエスが案じるような声を短く洩らした。
短い息を刻むブッダをますますと愛しく思ったか、
不意な束縛で膝立ち半分という危うい格好のままだったもの、
萎えているまま、その腕へ懐ろへ取り込んでしまい、
まろやかな肢体をぎゅうと抱き締めてしまえば、
「…あ。///////」
やっと我に返ったものか、
もがくほどではないながら、それでも
新たな羞恥にどぎまぎと身じろぐ気配が届いて、
そこがまた 得も言われず可愛くて。
「ぶっだvv」
「う…。///////」
だってまだ明るいしと、
そこが気恥ずかしいらしい彼なのへ。
もうもう生真面目なんだから、と、
イエスとしては苦笑が絶えなくて。
「髪がほどけたのは甘えたいからじゃあなかったの?」
「〜〜〜。//////」
観念して落ち着きなさいなと、柔らかな笑顔に見下ろされ。
誰のせいだよという含羞み交じりの憤懣と、
ああでもこのお顔も好きだというときめきとに、
声も出ないで丸め込まれておれば、
「慈愛の如来様だからかな、
こうやって触れてるだけでも
うっとりして来て幸せになれちゃうvv」
シャツ越しの温みは、ちょっぴりくすぐったいまろやかさ。
その向こうで身じろぎする感触も、
照れ臭さ半分のそれなのが判っているから、何とも甘くて愛しいばかり。
これ以上はなくくっついていて、一つになれているのにね、
互いを見つめ合えるのが、意識し合えるのがまた、
胸元がきゅううんと絞めつけられるほど嬉しくて堪らない。
触れてるだけじゃないだろう。///////
そーだね♪
だって、とっても柔らかいし、優しい温かさは格別だし。
恥ずかしいよぉと照れる身じろぎがまた可愛いしvv
「こうまで癒される人、そうそう手放せるはずないでしょうvv」
「うう…。/////////」
余計な一言もくっついてたお言いようだったのへ、
ますますと赤くなった如来様。
“ああでも、///////”
そうと言うイエスの懐ろの中だって、
ブッダには離れ難い空間であるには違いなく。
かすかにオレンジの匂いがする温みといい、
自分と違って堅く、男臭い肉づきの腕による束縛は、
頼もしいと思うと同時、
その力強さややや大雑把なざっかけなさが、
そうまでしてキミが欲しいのだと
偽りない態度で示されているようでドキドキするし。
「〜〜〜〜。//////」
おかしいなぁ。///////
欲しいと思うのはこちらからだったはずなのにね。
そうと思われもするのが、こんなにも嬉しいなんて、
体中が煮えるほど熱くて怖くて、でも甘くって…。///////
ああ、これが煩悩の最たるものなんだなぁ…と
妙なところで得心しちゃったブッダ様、
とはいえ、少しはもの申すしたくなったか、
そろりとお顔を上げて見せると、
「こんなことするのって、
あのその、キミだけなんだから。///////」
あくまでも説法による理解から与える知的な慈愛、
触れただけで癒されるなんて言われようは心外だということか、
上目遣いになって言い重ねれば、
「……あ、」
何へかハッとし、瞬きをした彼なのへ、
少しは崇高な部分への意が通じたかと思いきや、
「じゃあ私だけ特別なんだねvv//////」
「あのねぇ。/////」
低められたままのお声は甘く掠れて艶っぽく。
ああこれは通じてないないと思いはしたが、
すぐさま“くすすvv”と笑い合ってしまう通じ合いさえ、
甘い秘めごとの一つには違いなくて。
恋に落ちること、そうと認めることへ
あれほど怯えていたのが嘘のように、
こんな風に分かち合う、情の微熱さえ愛おしくてたまらない。
戒律からは確かにあちこち逸脱してもいるかもだけれど、
この柔軟な感情を、ふしだらだとか堕落したなんて思えないのはきっと、
頑ななところが多かった自分が、
どんどんと豊かになってゆく実感があるからで。
とはいえ、さすがに
いつもいつも翻弄される側なこと、ちょっぴり癪になったものか、
「…人のこと、生真面目だの苦行好きだの言うくせに。」
「んん?」
奔放なところが時々自分の首を絞めもするくせにと、
いやそこまで言っては言い過ぎかなと思うところが
悪態には縁のない最聖ならではで。
どう言えばいいのかと もにょもにょ考えあぐねたのも寸のこと、
「そういう不器用相手に、
甘い甘い睦言をいっぱい降らせるキミって
困った意地悪さんだよね。」
「ありゃ。///////」
甘い蜂蜜が一杯かかったパンケーキみたいな、
そんな春の陽が満ちてのこと、
朗らかな金色に染まったお部屋の中で。
じゃあお詫びにと、懲りないお人がくれたキスは、
やっぱりあっさりと釈迦牟尼様を翻弄し。
そのお背で震えた長い長い髪が、
それはなまめかしく火照った頬をそっと隠した昼下がり…。
お題 6 『蜂蜜色の恋』
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*寄ると触るとお喋りになるのがご婦人ならば、
寄ると触るといちゃいちゃになだれ込むのが、
このところのウチのお二人なようでございますvv
そろそろ春も通り過ぎようかという
微妙な時期だっていうのにねぇvv
ちょっと蛇足なイチャラブおまけは こちらvv
めーるふぉーむvv
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