恋でも愛でも 理由なんて あとからでvv

 

     4



桜を無情にも毟り去った風雨を齎した寒気が過ぎたその後に、
またぞろ、人々を震え上がらせた強めの寒さが舞い戻って来たものの。
陽射しの健やかさは日に日に張りを増し、
ふと気づけば、大通りのツツジの茂みにも赤や白の蕾がいっぱい。
街路樹の梢にも若々しい青葉が顔を出し、
木洩れ陽の躍る木陰を編むための形を
目を見張るような進捗ぶりで取り始めていて。
相変わらず毎朝のジョギングを欠かさないブッダ様にも、
そのコースのあちこちで、
毎日のように何かしら発見があるのが楽しくてしょうがないのだとか。
朝食の中なぞで そういう話題になるたびに、

 『そういうお話を きらきらしたお顔で話してくれるブッダが、
  毎朝 それは綺麗で可愛いのが、私は一番に嬉しい〜vv』

というような趣旨の言いようを
これでもかという やに下がりようで おっかぶせるイエス様に、

 『な…なに言い出すかな、キミわっ。//////////』

あっと言う間に赤面させられる如来様なところまでが、
毎朝のひとまずのワンセットというところだろうか。

  うんうん、まだまだ春ですねぇvv(おいおい)

そんな のほほんとしたお二人は、
只今 絶賛バカンス中だということもあってか、
日々いろんな楽しいことを見つけるのが そもそもお上手で。
昨夜も、こと座流星群が観られるとの情報を受け、
まだちょっと寒い夜半だったけれど、
いつぞやにも観測会のあった、
四方の夜空が見回せるオニ公園まで出向いて、
幾つか数えることに見事に成功。
ご近所迷惑にならぬよう、
アクションだけの“観た? 観た!”を分かち合い、

 『そういや、流れ星に願いごとを唱えると叶うって言わない?』
 『え? それってどこの管轄なの?』

何せ“祈り”の総本家みたいな方々だけに、
そういう話を聞くとつい、
ジョークでも何でもなくで そういう応じ方になるのは仕方がなくて。
言い出せばキリがないよな伝説のうちの一つなのだろうけれど、
そしてそして、私たちが願い事をするのは本末転倒なのだけれどと、
そんな補足を付け足したブッダ様であり、

 『そんな言い伝えが、何百回かに1回くらいは叶うといいね。』
 『何の、
  そうまでの堅い一念もってあたれば、どんなことでも成就へ至るサ。』

どっちがどっちの言いようなのやら、
堅いのか柔らかいのかも微妙な問答まで飛び出しつつ、
春の夜空を堪能したあとは、
やや冷たくなっちゃったお互いを案じてのこと、

 『おいで〜vv』
 『…うん。//////』

寝苦しいだなんて まだまだずんと先のことですよという睦まじさ。
メシアの長めの腕にくるまれた釈迦牟尼様、
懐ろへ掻い込まれたそのまま、
ふっくらすべすべの頬を愛しい胸板へくっつけて。
大好きなお互いを これ以上はなくの間近に感じつつ、
嬉し恥ずかしな気持ちのまんま
就寝に至ったお二人だったのも、まま いつものお話で。
お互いのことで頭がいっぱいだったせいでしょか、
こと座周辺以外にも、踊るように星が降った晩だったのは、
残念ながらお二人には観ること叶わずだったそうな。(う〜ん)


  「♪♪♪♪〜♪♪♪」


そんな楽しかった晩が明け、昨夜のお話なども弾ませてから、
それじゃあとイエスが向かったのが、
去年の観測会でお友達になった、ご近所の天文ファンのおじさまのところ。
こと座のお話を聞かせてくれたのもその方で、
ご自身は市外の知人と一緒に、
本格的な天文台まで出向くんだよと語っておいでで、
何だったら この時期の星座表と双眼鏡を
貸してあげようと言ってくださった 太っ腹ぶりへ
素直に甘えさせてもらったものだから。
ご本人がお戻りかどうかは不明だが、
大事なものだけに早くお返ししないとねと、
お宅までを一人で向かったイエスであり。
やはりまだお帰りではないらしいこと告げながら
応対に出て来た 優しそうな奥様へ、
結構なものを貸していただいて助かりましたと、
ブッダが焼いたクッキーを一緒に手渡し、
深々と頭を下げてお礼を言って、さて。
それは楽しげに、鼻歌交じりで帰途についたヨシュア様であり。

 “いーいお天気だよねぇ♪”

昨夜の星空のクリアさが、既にこれを約束していたようなもの。
帰り道のあちこちでも、
庭木の先から発色のいい若い葉が伸びているのが目に入り、
それは柔らかそうで瑞々しい趣きなのが
陽を受けて更に生き生きしている目映さとかが覗けて。
あ、こちらのお宅じゃないのかな、
ブッダがヤマブキの蕾を見つけたって言ってたのってとか、
わあ、ツツジの茂みって、こんな眩しい色の葉が出るんだとか。
ほんのちょっとしたお出掛けでも、十分に眼福を拾っておいで。
いつもいつもブッダからの話を聞くほうが多いので、
言われてたの見て来たよーと、報告しなくちゃという張り切りモードも手伝って、
出て来たときより ちょっぴり掛かっての帰宅となってしまったところもご愛嬌。
色々いっぱい咲いてたし、緑も綺麗だったぁと、
無邪気なワクワクを抱えてアパートの階段を駆け上がり、
自分たちのフラットのドアをがちゃりと開ける。

 「ブッダ、ただいま〜♪ あのねあのね……。」

今朝言ってた本山さんチのツツジって…と。
何かしら報告しつつという、相変わらずの落ち着きのなさで
手間取りながらもスニーカを脱ぎ、
まずは手洗いと流しへ向かい、
水道をひねりながら肩越しに見やった六畳間だったのだが。

 「………………………え"?」

ワンルームもいいところ、
注意して上がれば玄関からでも見通せただろう、
唯一の居室の窓辺側に腰を下ろして
ちゃんとお留守番していたブッダ様…ではあったれど。
ここでイエスがハッとしてしまったのは、
部屋で待っていたのが彼一人ではなかったから。

 しかもしかも

ブッダの嫋やかな白き腕を独占するようにし、
まろやかな線を描くその尊い肩口へ、
頬を載せるという親密そうな甘えよう。
しかもその上、

 「あ、イエスお帰り〜vv」

当事者であるブッダに
無理強いされているかのような
“困ったなぁ”という素振りが欠片ほどもなく。
それは朗らかに微笑っておいで。

 「……。」

私が誰かと親しげに話してるだけで
こちらの胸をつねり上げるよな、
それは切ないお顔して泣きそうになるくせに〜〜〜と、
あまりの理不尽さに
ヨシュア様の目が点になっても おかしくはない状況だったのだけれども。

 「…その子。」
 「ああ、うん あのね?」

いつものようにお行儀よく正座している、ジーンズばきのそのお膝へ
ブッダが抱えるようにしておいでのお相手は。
細い質の髪に 青みを帯びたつぶらな瞳、
ほわほわとやわらかそうなお肌が ともすりゃお揃いの、
まだまだ赤ちゃんと呼んでもよさそうなほど 小さな男の子だっただけに、
これへはさすがに、嫉妬もなかろうというもの。
なので、イエスがいちいち目くじらを立てなんだのは判ったとして。

 「さっきイエスが出掛けて すぐくらいに…」

新しいお人が増えたぞと思うたか、
シンプルな丸ネックTシャツの上に
柿色と緑という別々の色を
左右のラグラン袖へ配されたおしゃれなカーディガン、
パイル地だろう柔らか素材のスムースパンツという装いも可愛いまま、
そちらをじいっと見やる坊やをゆるゆる揺すってあやしつつ。
どういう経緯があったかを 話そうとするブッダなのへ、
そのすぐ傍らへ歩みを運び、無言のまま すとんと座り込んだイエス様。
覚えのない小さき和子へ、
ワケが判らず ただただキョトンとしているものかと思いきや。
まずはポンポンとブッダの肩をねぎらうように軽く叩いてから、

 「…ブッダ、私の子だよねvv////////」

それはそれは嬉しそうに 頬を染めて言った一言が、
何と言おうか、
こうまで短いのに突っ込みどころが満載過ぎて。(笑)

 「それって、
  もしかせずとも何段階も途中を素っ飛ばして言ってるよね、キミ。」

どこまで斜めなことを思ったイエスだったか、
何とはなく察したからこそのこと。
お顔をやや引きつらせ、やつれ毛を数本ほど立たせた上で、
ちょっと待って下さいなと、
一旦落ち着いてみようねと構えたブッダだったのへ、

 「だって、
  キミ自身からして マーヤさんの脇から生まれたって言ってたし♪」

なので、出産したばかりの身でありながら
ケロンとしてたって不思議ではないと言いたいのか、
それとも…男性であっても 生めるんじゃあないかと言いたいものか。

 「それに私なら、
  君に触れずとも受胎させられそうな気が……(ムグモガ…)。」

 「〜〜〜〜。///////」

皆まで言わさずとばかり、
福々しき御手にてイエスの口を蓋したブッダ様だったのも、
これまた 無理はない所業だったのでございます。(笑)




     ◇◇◇


相変わらずと引っ括って良いものか、
もしかして子供の作り方を全く知らないんじゃなかろうかと
本気で疑わせるようなことまで言い出した、
無邪気を飛び越しフェアリーみたいな伴侶様へ、

 「あのね、ここいらの氏子さんたちは、
  子供の日に“稚児舞い”を奉納するんだって。」

そこからの説明を始めたブッダ様。
秋に七五三があるのとは別に、
子供の日なのでっていうお祭りみたいなもので。
学齢前の子供らに、巫女さんみたいな白小袖と白袴、
更紗みたいに透ける生地の羽織を着せて。
頭に彫金細工の冠みたいな飾りを乗っけて、
神社の境内で簡単な舞を舞って奉納する催しがあるという。

 「それへ参加するお子様たちの、衣装の採寸が始まっててね。
  松田さんのところのお孫さんも、
  今年は此処で過ごすからってことで特別に参加するんだって。」

 「ふ〜ん。」

……で、
この幼いお子様はどういう関わりの何処の子かというと、

 「その採寸を松田さんチで手掛けてるそうなんだけど、
  同じく今年が初参加の子が何人かいて、
  色んな説明を受けつつ、まとめて一緒に採寸をしている間、
  この子を見ていてくださいませんかって、
  お母さんの一人から頼まれたの。」

 「そうなんだ。」

時々助っ人に駆り出されていたのが縁で、
婦人会で顔見知りになってたお母さんだそうで。
稚児舞とやらに参加するには
ハイハイを卒業し、一人で立って歩けて、
ちょっとしたお遊戯がこなせることというのが最低条件なのだとか。
それにはまだちょっと間に合ってないこの坊や。
秋になったら三歳という幼さなので、
参加はまだながら、さりとて放り出してもおけずで、

 「すぐにも済むって話だったし、
  まあ私も暇だったし。」

イエスが戻ってくるまでかなと思ってたんだけどと、
ここでやや苦笑して見せたブッダだったのは、
階下からの笑いさざめくお声が聞こえたから。
とかくご婦人というものは、
寄ると触るとおしゃべりに花が咲く性分をなさっているもの。
そんなBGMに、イエスの方でも納得したようで、
似たような苦笑を見せてから、
あらためて坊やとブッダをまじまじと見やる。

 「それにしても違和感がなかったよ、うん。」
 「あのねぇ。////////」

お初に近い程しか逢ったこともないブッダに預けられても
むずがったり泣いたりしないままだそうだし、
それどころか初対面のイエスにも
だあだあと手を伸ばしてくる人懐っこさで。

 「かわいいねぇvv」

ふくふくしたマシュマロみたいな頬といい、
寸の足りない四肢をやや覚束なく動かして、
それでも何とか“よいちょ”と立っちすると、
向かい合う格好でいたイエスのお膝へ移ってくる無邪気さといい。
小さき者たちが大好きな彼らでなくとも、
相好崩して骨抜きになりそな愛らしさ。

 「そうそう、小腹が空いてない?」

おととと危なっかしくよろめきかかるのへ、
やぁやられたぁなんて、おどけもって
相手をしているイエスの朗らかさにこそ、こちらも苦笑をこぼしつつ、
ブッダがそうと言い出して、
坊やとそれから…ちょっぴり含羞みつつイエスへも
頬擦りをひとつずつ贈ってから立ち上がる。

 「蒸しパンの用意をネ、途中まで仕掛かってたんだ。」
 「おお、それは嬉しいなvv」

すっかりと自分のお膝へ引き取った坊やのお手々を操って、
パチパチと拍手の真似ごとをさせてやり、
ブッダのお菓子は美味しいんだよと嬉しそうに囁く姿が、何だかあのその、

 “うら若きお父さんみたいじゃないか。////////”

おかしいな、私だって“お父さん”の側なのにね。
ママ頑張れ〜なんて、
エールもらってるみたいな気分になってるよ、と。
計り終えてあった小麦粉やベーキングパウダーを混ぜ、
卵に砂糖を合わせつつ、泡立て器でよーく掻き混ぜておれば、

 「…どうしたの?」

ひょいと坊やを腕へと抱え上げたまま、
イエスがキッチンに立つブッダの傍まで寄って来た。
あやしようが判らないのかなと感じ、
おもちゃなら、そこのマザーズバッグに置いてってくれてるけどと、
卓袱台の陰に置かれた見慣れぬカバンを視線で指したブッダだったが、
ん〜んとかぶりを振って見せ、

 「ブッダの手際を見に来ただけ。」
 「まだ混ぜてるだけだよ?///////」

そういえば、イエスはいつも
隙あらばという感じでブッダの料理の手際を眺めに来る。
退屈なのかなと訊いても、今のように“ん〜ん”とかぶりを振って
興味津々という態で手元を眺める彼であり。

 『だって私、お料理ってあんまり見たことないんだよね。』

しかもブッダが手掛けてくれるなんて、こんな幸いはないのだしと。
まだまだ全然不慣れだった頃からも、見つめに来ており。

 “あれって、実は緊張もしたんだよね。”

なので、包丁や火を使うので危ないからと言っては、
六畳間のほうへと追い払ってたものだったが。
今では、背中から抱きすくめられても動じないから、
色々なことが色々と上達したもので。

 「だあ、おぅあ?」

小さな坊やも、何してるの?とでも訊いているものか、
片方の手ではイエスの着ているシャツを掴みつつ、
やや身を乗り出すようにして、
ボウルの中、しゃかしゃかと掻き回している作業を、
潤みの強い双眸で 食い入るように見つめておいでで。

 「お菓子を作るのには、あんまり危ないものは使わないでしょう?」
 「う〜ん、まあそうかなぁ。」

果物を使うようなものでもなきゃ包丁も使わないし、
焼くという工程はオーブン任せになるので、
キャラメルやカスタードクリームを作るとか、
寒天やゼラチンを煮溶かすとか、
小豆を煮詰めるような段取り以外では、火だってそうは使わない。

 “ウチのはスチームオーブンだから、蒸し器も要らないくらいだしね。”

プレゼントしてくれたイエスのお顔、
あらためて嬉しそうになって まじまじと見やったブッダであり。

 「でも その分、計量とか混ぜる手際がなかなかデリケートでね。」

なめらかになったところで、
振るってあった粉類へ少しずつ混ぜ込みつつ馴染ませてゆき、
紙製の焼き型をオーブンの天板へ並べると、
レーズンをパラリと落としてから、温めておいたオーブンへ。

 「あ、この子アレルギーとかないのかな。」
 「大丈夫だって。
  ぐずったら食べさせてねってクッキーとかも預かってるけど、
  卵や小麦粉や牛乳が特別なのってのはなかったし。」

坊やの頬をちょんちょんとつつき、
すぐに出来まちゅからねと、
ついつい赤ちゃん語が飛び出したブッダだったのへ。
おやまあとイエスまで楽しそうに笑い、

 「おやつはママに任せて、こっちで遊んでようねぇ。」

特に意識もしないまま、
そんな一言言い置いて、六畳間へ戻って行ってしまったのだけど、

 “……マ、ママ?////////”

トッピング用の生クリームを泡立て始めていた如来様の御手が、
何もないところを引っ掻き掛かったほど動揺したのは、
ここだけのナイショvv




  お題 3『恋を形にしてみたら』



to be continued.
( 14.04.15.〜 )




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  *拍手お礼で受胎テロネタを書いたので、
   ちょっと調子に乗って、本当にお子様を引っ張り出してみました。
   二人とも小さい存在には甘いし好かれるので、
   泣かれるとか愚図るという方向では支障はないかと思いましたが、
   ……おむつ替えは出来るのだろうか。
   二歳半というと微妙で、まだトレパンマンじゃない子もいるぞ。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

bbs ですvv 掲示板&拍手レス


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