雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

          〜フォーチュンケーキは 甘甘でvv篇

     6



某女子高の予餞会へのどっきりリクエスト、
ブッダ特製のカップケーキを焼くこととなり。
一応の打ち合わせということで、
予餞会の実行委員だというフミちゃんとレイちゃんへイエスが連絡し。
この寒い中、またぞろコンビニの裏もなかろうと、
こっそりアパートまでお運びいただいて。

 『だって、当日にしても
  まさか私たちが 女子高まで
  持ってくわけには行かないだろうし。』

 『…あ、そっか。』

実際の話、いくら“聖人”であれ、
生徒の父兄でも出入りの業者でもない男性では、
敷地内への入場許可も ほいほいと出されはしないでしょうしね。
その辺りの説明、お相手へも通じたようで、
翌日の午後にでもさっそくお伺いますと話が付いて。
彼女らの側にしても、
仲がよくとも、そのお宅にまでお伺いするなんてことは
思ってもみなかったろうおにいさんチであり、

 「お邪魔します。」
 「…します。」

やや緊張ぎみに訪のうた、制服姿のお嬢さん二人、
入ってすぐのキッチンに立つブッダへ、
“あのあの、この度は突然の図々しいお願いを…”と
初めましてのご挨拶もすっ飛ばし、
ぴょこりと頭を下げて紡ぎ始める緊張ぶりが
何とも微笑ましいたらなく。

 “おや、随分とお行儀のいいお嬢さんたちじゃあないか。”

息子のGF…じゃあないけれど、(笑)
イエスが気の合う子としている娘さんたち。
一体どんなお人たちなんだろと、
やや気になってたブッダへも あっと言う間に好感触を与えた彼女らで。

 「さぁさ、上がってくださいな。」

 「は、はいっ。////////」 × 2

お嬢さんたちが頬を赤くするほどのそれ、
ついつい仏スマイルが飛び出しちゃった…のはともかくとして。(苦笑)
六畳間へ上がっていただいた彼女らに
座布団つきで座ってもらった、テーブル代わりのコタツの上、
お茶と一緒に3つのお皿をことりと並べるブッダであり。

 「カップケーキとだけ聞いたんだけど。」

そうは言っても好みもあろうと、
お試しに3種類ほど焼いてみたのを
彼女らに試食してもらうことにしたらしく。
1つ1つへ手をかざしつつ、

 「これは普通のでしっとり系、
  こっちは少しもちもちさせて、
  こっちはふわりさくさく系にしてみたよ。」

牛乳を生クリームに変えるとか、
砂糖をグラニュー糖にして蜂蜜をさすとか、
そういう違いで結構風味も変わるので、
どれがいぃい?と訊いたところ。
ペコリと頭を下げて目礼をしてから、
いただきますと口へ運んだお嬢さんたち。
たちまち“うわわvv”とお眸々を見開き、

 「うわ、どれも美味しいvv」
 「あたしホットケーキミックスで作ったことあるけど、
  あれって時間を置くとバサバサになるんですよね。」

そんなの比じゃない、お店のケーキですよこれ、と。
やっとのこと、ほっこりとした笑顔になって、
凄い凄いと嬉しそうに食べ比べてから、
普通のしっとりのがイイですと、よい子のお返事をくださって。

 「じゃあ次は段取りだよね。」

穏やかな表情のまま、てきぱきと話を進めるブッダなのへ、
お嬢さんたちもうんと頷き、

 「そうですね。」
 「予餞会の開演は9時からなんですよ。」

会場の準備は朝早くからかかるんですが、
設営は前日に済ましますし、
このリクエストの担当の私たちはこっち優先していいので、

 「どんな早い時間でも受け取りにお伺いしますよ?」

学校は此処からだと20分とかからない近所ですし…。
そうだね、冷ます時間も考えたら…。
前の晩に焼いて下さるなら、それこそ朝一番にでもお伺いしますし…と。
着々と話を詰めてゆく中で、
ああでもと、ブッダが言い足したのが、

 「袋詰めしてから持ってった方がいいでしょう。」

準備するのが、体育館か講堂か教室かは知らないけれど、
バタバタしているところで個別に詰めてたら埃が入りかねないし。
極力空気に晒さないで、且つ、
不特定多数でやたら触り倒さない方が
衛生的だと思うんだけど…と助言をすれば。
あ・そうですよねと、お嬢さんたちも同意する。

 “まあ、お釈迦様が焼いたケーキなんだから
  万に一つも中る(あたる)ってことはなかろうけれど。”

イエスの胸中でのこそりとした呟きをよそに、
当日の、それじゃあ7時半頃に来なさいねと、
早起きなら任せてのブッダがにっこりと微笑い、

 「それと、この寒さだもの、
  もしかして雪になったりするかもしれないから。」

台車は大仰だけれど、両手は空けられる格好で来なさいねと注意をすれば。
二人とも“はい”とお行儀の良いお返事をしてから、

 「材料費は、レシートを貰って取っといて下さいね?」

ご厚意からでも持ち出しはなさらないで下さいね?
それと、お手間のお返しは、あのその委員会で考えて来ますのでと、
打って変わって、いやに大人みたいな物言いをするものだから。
責任のある役目なの、ちゃんと意識しておいでなんだなあと、
最聖の二人からすれば、
まだ子供なのに…という以上の微笑ましさに映りもし。
とはいえ、
よろしくお願いしますと丁寧に頭を下げて、
それではと暇乞いをし、
お部屋をしずしず出てったところまでは ともかくも。
ドアが閉まるとすぐという勢い、
美味しかったね、やったねと、
小声ながらもはしゃぎ声を上げるところは年齢相応で。
当然 聞こえたものだから、
ありゃまあと苦笑が絶えなかった最聖様がただったりもして。(笑)

 「さて。
  それじゃあ、要るものを揃えておかなくちゃねvv」

小さめのを2つずつと言い出したのはこっちから。
お弁当用のアルミカップ大だとしたって、
全部で56個ともなると、結構な生地を作らにゃならぬ。
苦行と呼ぶほどのことじゃあないけれど、
それでもちょっとは大変だぞと、楽しそうに微笑うブッダなのへ、

 「あ、でもブッダ。準備もこっそり構えなきゃ。」

何せご近所の学校なだけに、
リクエストしたお嬢さんたちだって、
こちらの顔とか行動範囲とか、知ってる可能性は大きくて。
それが大量の小麦粉とかバターとか買い求めてると知れたなら、

 「あ・そっか。お楽しみじゃなくなっちゃうね。」

リクエストが叶うかどうかは当日までのお楽しみ。
外部の大学を受験する組のお姉様がたには
今月こそ正念場で、それどころじゃあないかも知れないが。
それでも念には念を入れなきゃねと。
親指を立てての“イイね”のポーズで、
重大なミッション完遂へ、頑張ろうねと意を合わせる、
あくまでも気のいいお二人だったのであった。





     ◇◇◇



そうは言っても、それほど日がある訳でなし。
都心を含めた関東以北が、
東北ですかという地吹雪つきの途轍もない大寒波に襲われた、
とんでもな週末も何とかやり過ごし。
薄力粉にベイキングパウダーに、
生クリームやバター、卵に白砂糖などなど、
要りような材料をしっかと揃えた上で、
当日の早朝を穏やかに迎えた聖さんチであり。
さすがに今朝はジョギングを休んだブッダが、
エプロン姿になってキッチンへと向かえば、

 「……ぶっだ?」

そおっと身支度したにもかかわらず、背後の布団の中から呼ぶ声が。
ありゃと肩をすくめつつ、しょうがないなぁとの苦笑をこぼし、
明かりも灯してないし、カーテンも引いたままの六畳間を振り返る。

 「起こしちゃった?」
 「うん。」

…ってゆうか、私も手伝うって言ったでしょー?と。
掛け布団のカバーがさわさわワシワシと擦れる音が盛んに立つ中から、
やや憤慨気味の声が続き。

 「……わ☆」

毛布か布団に足を取られて転びかかったか、
びっくりしたよな声と共に、ばさりと一際大きな音がしたものだから。
思わず ひやっと肩をすくめたブッダの足元へ、
ああびっくりしたと、スエット姿で這い出して来たイエスであり。
そんな彼の様子が、何とも無邪気で…愛おしくって。

 「…大丈夫?」

ちょうど鼻先へひょいとしゃがんで。
そのまま、かかとは立てての膝をついたブッダなのへ、
そちらも正座に慣れない子供みたいに、
割り座で座る格好、身を起こしたイエスが。
もしゃりとまだまとめていない髪を掻き回してから、

 「手伝って…いいよね?」

邪魔はしないからと暗に含んで訊くのがまた、
いつもと同じお顔でありながら、なのに何とも言えず可愛くて。
まだ茨の冠はつけていないイエスのおでこへ、
白毫は避けたあたりの自分のおでこ、こつんとくっつけたブッダ様。

 「勿論だよ。でも、その前に身支度しなきゃあね。」

顔を洗って、髪も束ねてもらわないと。
それにパジャマのままというのは困るし…と続いたの、
皆まで言わさずという勢いで。
海辺のライフセーバーの フラッグ何とかよろしく、
がばりと立ち上がり、着替えをおいてた枕元へと引き返しかかったイエスが、

 「…わあっ☆」

またまた布団に足を取られたのは…まあお約束だったけれど。(笑)
今度は顔から突っ込んだものか、
なかなか起き上がらぬ気配へ“ありゃまあ”と口許押さえつつ、
暗いからカーテンを開けましょうねと、窓辺へ寄ったブッダであり。
外はほんのり白み始めたばかりの時間帯で、
まだまだ震えが来そうな冴えた寒さに満ちていたけれど。
それでも連日の極寒ぶりはやっと落ち着きそうな気配のする黎明が、
立川の下町の上へ ふわりとその裳裾を広げている最中だったりした。


  ………………とて。


お目覚めというスタートこそ、
通常運転だからこその
何だか危うい雰囲気で始まったものの。(おいおい)
さすがは仏界の至宝、叡知の真珠とされる釈迦牟尼様。
そこもまた織り込み済みだったものか、
不慣れなイエスへの指示も出しつつ、余裕余裕で手順を進める。
分量の薄力粉とベーキングパウダーを合わせ、
篩(ふるい)で2回ほどふるっておき。
溶かしバターに砂糖をよく混ぜ、
そこへ卵、牛乳(or 泡立てた生クリーム)を順に混ぜつつ投入。
バニラエッセンスを加えたら、合わせた粉をさっと混ぜ。
アルミカップへ半分ほど、生地を流し入れたら、
180度に暖めたオーブンで20〜30分ほど焼けば出来上がり。
小さくとも数があるので、
オーブンへ入れて さあ終しまいとはいかなくて。
待ってる間に 第二陣を用意しておれば、
徐々にほわんと甘い香りが立ち込めて来。

 「わvv 美味しそうな匂いだねvv」

結構上背のある、いい大人の男性たちが二人して、
この厳寒の朝も早よから、台所に並んで立っての奮闘し、
その結実が 甘い香りのスィーツというのは、
話を聞いただけでは…ちょっぴり微妙かもしれないが。
和ませた目許も優しげな、
何とも神々しい頬笑みの似合うこのお二方の手になるともなると、
不似合いどころか、
何やら特別な御利益もありそうな…と思えてくるから不思議なもの。

 「うん、いい出来だよ。」
 「わ、わ、良かったぁvv」

料理用の綿入りミトンを嵌めた手で、
ブッダがオーブンから出した天板には、
可愛らしいサイズのカップケーキたちが
淡い茶色の焼き目も程よく、ズラズラと整列しているのが壮観で。
中の一つへ竹串を刺し、火の通りへもOKが出たのを、
布団を片付けた六畳間のコタツの上へ場を移し、
揚げ物用の網つきトレイ、箸を挟んで高さをつけた台に空け、
粗熱を冷ましてやっとの完成。
初めての作品へイエスがわあと感動している間にも、
次の一群をブッダがオーブンへセットしており。
それが焼ければ、さあ次という流れ作業の合間合間に、
生地を作るのに使ったあれこれ、流しでざっと洗っておれば、

 「お、おはようございます。」
 「イエスさん、ブッダさん。」

玄関から控えめな声とノックの音がして、
わあ、もうそんな時間かと、おにいさんたちも ややあたふた。
六畳間から立ってったイエスがドアを開け、

 「おはよう、二人とも早かったね。」

お嬢さんたちを朗らかに迎えたものの。
鼻の頭や頬にお髭にと、小麦粉をうっすらとつけてたお約束には、
おおうと目を見張ったフミちゃんもレイちゃんも、
いかん早朝だと、
吹き出しかかった口許を必死で押さえ込んだ反射も含め、
相変わらず何ともお行儀のよいことよ。
上がっていただき、手も洗っておいでな二人なのへ、

 「あと一回分で終わりだからね。」
 「はい。」

ではと皆で取り掛かったのが封入作業。
お嬢さんたちが用意して来た、ラッピング用のセロファンの袋と、
口を縛るワイヤータイとを、コタツの上に数だけ広げ。
冷めたものから順番に、2個ずつ摘まんでは手際良く封入してゆく。
底のほうに短くレース柄の入った袋に収まったミニケーキは、
それほど嵩張らない、ちょっとしたお土産風で、
金のワイヤータイもマッチして、なかなかに可愛らしく仕上がっており。

 「25、26、27、28っ。出来たっ。」

間違いないかと3回数え、
それでも何かあるやも知れないからと、
余計に作った三袋ほどを足し。
厚手の化粧箱へ収めてから、
持ち出し用にと用意して来たのだろ、
キャリーバッグへ仕舞い込む彼女らの様子も楽しげで。

 「それじゃあ、これが領収書。」
 「はい、確かに。」

後日、ご報告もかねて清算にお伺いしますねと。
わくわくと嬉しそうなの、
隠し切れないまんまの笑顔も目映いのへ、
こちらからも“早く行きなさい”と見送って。
浮足立つとはこのことか、
かかとに羽でも生えてるような軽やかさで、
お邪魔しましたと去ってゆくのの手早さよ。

 「間に合うのかな、もうすぐ9時だけど。」
 「大丈夫だよ、
  演目の一等最初じゃあないって言ってたし。」

案じたのがブッダなら、
だいじょぶだいじょぶと楽観的なのがイエスなのもいつものこと。
起きぬけからこっち、
ただただお菓子作りに取り掛かってたのが、やっと終わったとあって。
ほうと吐息がこぼれたそのまま、
お隣に立ってたイエスがぽつりと呟いたのが、

 「…ぶっだぁ、お腹空いた。」
 「そうだね、もう9時だもんね。」

焼き具合を確かめてと言って、
1個2個ほどケーキを摘まませたけれど。
しっかり目覚めていた身には、そんなの食べた内に入らない。
くすくす微笑ったブッダの背後で、
オーブンがチ〜ンっと涼やかな音を立てる。
え?と振り返ったイエスが、
そちらとブッダとを交互に見やるのが可笑しくて、
ますますとクススという笑いようを続けつつ、

 「キャベツだけって具で悪いけど、
  焼きそばをサッと炒めたのを挟んだホットドッグもどき、
  さっき作って仕込んどいたんだ。」

 「うわぁ〜vv」

総菜パン大好き〜と、
それでもまずはブッダへぎゅうと抱きつくイエスで。
こういうことへの順番を疎かにしないのも、
いい恋人の条件ってやつでしょか?(笑)

 「あやや。////////」

こっそりと朝食を用意しておいたサプライズを上回るほど、
イエスからの唐突なハグにこちらも意表をつかれたか。
愛しいお人のしっかとした懐ろへお顔を埋めたまま、
しばし呆然と硬直していた、相変わらずなブッダ様だったけれど。

 「いっただきま〜すvv」
 「…あ、ミルクティーでいぃい?」

それと、オーブンからじかに食べないの、と。
ハッと素早く我に返って、注意をしつつお皿を取り出す辺り、
少しずつではありながら、
欧米型のスキンシップにも慣れつつある
釈迦牟尼様なのかも知れないです。





       お題 *“こんな愛しさvv”





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  *のんびり構えていたら当日になっちゃってました。
   美味しいのが出来上がって良かったネvv


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