雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

       〜フォーチュンケーキは 甘甘でvv篇

     4



最強寒波 再びで、
ずんと寒くなってしまった今年の立春とその後の数日であり。
直前がまた、お花見のころ並みという暖かさだったものだから、
その落差が大き過ぎてのこと、
皆さんも大きに面食らっておいでのようで。
日本海側や東北の豪雪地帯のみならず、
都内の平野部でも
昼間ひなかから雪が降りしきるという寒さは尋常でなく。
お子様たちは積もればいいなと罪のないことを楽しみにし、
それが耳に入った大人たちは大人たちで、
冗談じゃないとの苦笑をこぼす日々だったりするのだが。

 「……。」

毎日の食事を自炊している聖さんチでは、
食材を揃えるお買い物へも、ほぼ毎日出掛けておいで。
調理担当のブッダ様は肉や魚は扱えない身だが、
それでも豆腐や卵やチーズといった生鮮食品はそうそう買い置きも出来ぬし。
多少は日保ちする野菜だって、
売り出しがあれば その日に少し多めに買った方が
そこはお得だろうという計画性を持って融通していたりもし。
そういうやり繰りもお上手になって来た、
まさにカリスマ主夫のブッダ様。
今日のお買い物は済んだということで、
途中でコンビニへと向かってしまったイエスより先に帰宅したそのまま、
コタツにあたりつつ、DSを開いてパズルゲームなぞ手掛けておいで。
そこへ、

 「ただいま〜。」

ああ寒かったというお声と共に、
がちゃり・がさごそ賑やかに帰ってきた気配が玄関の方で起こり。

 「…。」

一瞬だけタッチペンが液晶画面のうえで止まったものの、
タイムチャレンジでもあるからか、そのままプレイを続行する。
上がって来たイエスも、六畳間の様子を見やると、
ああゲーム中かとすぐさま理解は及んだか。
集中のいる種類のパズルものなら邪魔しちゃいかんと、
殊の外 お口を引き締めて噤み、
出来損ないのパントマイムのように、黙ったまんまのぎこちなく。
コートを脱いで手を洗いといういつものコースを取ってから、
同じコタツのお向かいへと腰を下ろしたものの、

 「………。」
 「………。」

 「……ねえ、ブッダ。」
 「………。」

 「…さっきからずっと同じ面やってない?」
 「………。」

 「手詰まりになってばっかだし。」
 「…っ。」

 「螺髪ごとチカチカ光ってるし。」
 「…っ。/////////」

ご当人はあくまでも冷静を取り繕ってたらしかったものの、
向かい側に座ったイエス様から、
そりゃあ無邪気なお顔でもって、真っ直ぐ見つめられ続けてしまっては、
動揺すること已なしという心情でもあられたようで。
そこへのこの、屈託のないご指摘に、

 「〜〜〜。///////」

実は視線も落ち着かなかったそのお顔を真っ赤に染めると、
口許をうにむにと噛みしめつつ、ゲーム機を天板に置いたまま、
ううと困ったように俯いてしまうものだから。

 「え? ブッダ? どうしたの?」

ごめん、何か難しい面をやってたの?
わたし邪魔しちゃったの?と、
その反応へあわわと慌てるイエスなのへ、

 「…ちがう、違うの。////////」

平気な振りをしたこと自体、
強がりとか取り繕いという“嘘”なんだと。
本当に何てことないと思っておれば、
帰って来たイエスへ、
すぐさま“何してたの?”と
何かのついでみたいに訊けたはずじゃないのと。
どっちつかずで意気地の無い自分が、情けなくって…許せなくって。
ふるると震える口許を噛みしめていたの、
何とか落ち着こうと宥めつつ、

 「…コンビニで女子の人と何か話してたよね。」
 「うん。」
 「それから、急に、回りを見回して、外へって場所を移したじゃない。」
 「あ、うんうん。」

そうだよと、やはり 悪びれもせず、
何で知ってるサのと焦りもしないイエスなのは、
疚しいところも後ろ暗さもないからだろうが。
その端正なお顔を朗らかにほころばせ、
女の子らとそれは気さくに言葉を交わしていたのみならず。
意味深に場所を変えまでしての、何か込み入った話をして来たなんて…。

 「……ねえ、私、隠しごとされると、やっぱり辛いよ。」
 「えっ?」

しっかりして来たでしょって大見得切ったばかりなのにね。
なのに、イエスがササッて 彼女らとどっか行くのを見たら、

 「ここんところがギュッとして、ね?」
 「あ…。」

声がちょっぴりわなないて、
すんと小さくお鼻で息をつく気配がし。
やや俯いたまま、自分の懐ろへと手を伏せる彼なのへ。
やっとコトの深刻さが届いたと同時、
わわわと 大きに焦ってしまったイエス様。
枠に膝をぶつけつつという慌てようでおコタから這い出すと、
縁を回り、その傍らまでをばたばたと大急ぎで這い寄って、

 「ごめんごめん、内緒ごとじゃあないよ?
  ゲーム済んだら話そうと思ってて。
  ごめんね、怖かったんだね、泣かないで。」

平然と戻って来て何事もなかったよという風情でいたのもまた、
そうまで出来るものなのかと堪えたらしかった、
まだまだ恋心は か弱いまんまだったらしい如来様。

 「う…。」

潤みの増した双眸は、瞬かせると涙がぽろりと零れ出そうで。
それでと俯いたままな横顔の、
切なげな稜線なのへ きゅうんと来たイエス様であり。
こんなにも困らせた罪深さとそれから、
何とも言えぬ、か弱くも儚いお顔を見せられたことへ、
自分の胸まで鷲掴みにされてしまったものだから。

 「ブッダ、ごめん。」

ちょっと強引だったけれど、
膝立ちになっての有無をも言わさず肩を掴むと懐ろへ、
ぎゅうっと取り込んで抱きしめる。

 「ごめんね、
  言わなきゃ判らないってちゃんと言われてたのにね。」

言い訳なんて嫌なのか、それとも無理強いが嫌なのか、
ふるふるとかぶりを振ったその拍子、
ブッダの深色の髪が長々と、肩へ背中へ はさりとあふれて流れ落ちる。
嫌というのじゃあないものか、
観念したよにこちらの肩口へと頬を伏せた彼なのへ、

 「あのねあのね、頼まれごとをしたの。」

彼が“判らない”ということ、
まずは明らかにしなきゃと、それをこそ口にしたイエスであり。

 「でもね、知られたらつや消しになる相手があることなんでって、
  それでお店の外に出て、裏手で相談をまとめていたの。」

 「…頼まれごと?」

少し湿ったお声で、ぐすんと息をつきつつ訊かれて、

 「そうなの。」

うんと大きく頷いたイエス様。
まろやかな背中をよしよしとやさしく撫でてあげつつ、

 「しかもね、ブッダへの頼まれごとなの。」
 「………………はい?」

何ですか そりゃと。
言われた文言の意味を把握出来るまで、
ほんの少しながら間が要った、如来様だったようでございます。





     ◇◇◇



イエスがコンビニで出会ったお友達、
女子高生のフミちゃんとレイちゃんは、
とある女子大付属の高校に通ってて。

 「予算会? 予餞会?
  卒業してゆく先輩たちを送り出す会っていうの、
  今度の祭日にあるらしいんだ。」

 「ああ、それは“予餞会”だね。」

涙が零れぬようにと無理したのが却って響いたか、
目元がほんのりと赤くなってしまい、
手で擦ったわけでもないのに、
ちょっぴり腫れたようになったのが痛々しくて。
離れがたいからと、これはイエスが言い張って、
寄り添うようにくっついて座ったまま、
その懐ろへと凭れさせ。
他の人へはともかく、
ブッダへは全然内緒じゃなかった“秘密の相談”を、
ゆっくりと説明することと相成った。

 「そこの高校からは、殆どが付属の女子大か、
  短大?ってところへの内部進学者ばかりなんだけど、
  最近では、外の大学を受ける人も増えてるそうでね。」

結構、模試の成績とか上位者が多い高校なんだってと、
感心してというより、自分で言うかなと思ったらしいイエスが
やんわり微笑って言い足せば。
そうなんだと、そちらは素直に感心してだろう、
ほわんと力なく見上げてくるお顔が。
やや疲れて脱力しちゃっていることもあってか、

 “うあ、ブッダ かあいすぎvv////////”

それでなくとも、
螺髪に戻せぬ長い髪、座っている足元へまで垂らした姿は、
何とも儚げな印象を常より強く加味してしまっているものだから。
表情がちょっぴり浮いたようになっているのがまた、
イエスの胸の中に、
ああ罪深いことをしてしまったよぉという反省と同じほど、
何て綺麗で愛らしいんだろうか、と
困ったなぁという種のときめきも招いているらしく。

 「? イエス?」
 「あ、ごめん。////////」

小首を傾げ、どうしたの?と目顔で問われるのが またまたまた、
何て可憐な様子だろうかと、ドキンと胸を躍らせるのだが、
そこはさすがに何とか押さえ込みながら、

 「その予餞会ではね?
  卒業生から集めたリクエストを
  皆の前で発表するのが恒例なんだって。」

 「リクエスト?」

小首を傾げながら、そのままぽそんと
こちらの胸元へあらためて凭れ掛かってくるなんて。

 “うあぁあぁぁ〜〜、
  何てキュートなことしますか キミわvv//////////”

無自覚だからこそ歯止めなし、
無自覚だからこそだだ漏れな、
甘えというか、凭れちゃうよという頼りなさというか。
枝垂れかかってもいいですか?という“すりすり”が
紛うことなくのイエスにのみ、振り向けられているものだから。

 「……いえす?」
 「ご、ごめんなさい。/////////」

脈絡なく聖痕開いたらどうしようと、(笑)
ぐらんぐらんしつつも、何とか頑張るヨシュア様が言うことにゃ。

 「外部へ進む人には入試の最中って時期だけど、
  だからこそ英気を養って貰おうってことで。
  在校生が応援がてら、願い事を叶えてあげようって企画なんだって。」

勿論、あまりの無茶振りは、
講堂の壇上から“出来ませんでした”って格好で報告されるから、
途轍もない無理難題を言ってくる例は今のところなかったらしいけれど。

 「顧問の先生に色紙へ一筆したためてほしいとか、
  コーラス部の後輩一同で
  今年のコンクールの課題曲をCDに吹き込んでほしいとか、
  そういう無難なものが大半なんだけど。」

年に1つか2つは、ちょっと難ありなお願いもあるそうで。

 「駅前のオープンカフェで一番人気のギャルソンさんの
  蝶ネクタイを卒業記念に貰って来てとか。
  恐持ての男性の先生に、それは綺麗に女装してもらってとか。
  委員会の皆さんが胃を痛くするようなリクエストもなくはないそうでね。」

 「確かにそれは……。」

リクエストが選ばれるかどうかは、
あまりに多い年なんかは くじ引き抽選方式なんだけど。
それが叶うことかどうかは、委員会が判断するのじゃあなくて、
一応は当たって砕けなきゃいけないのが原則らしいのとイエスが付け足し、

 「コトによっては、
  まずはと頼むところで大変そうだよね。」

ブッダも呆れたように呟いて。
で?と小首を傾げるのが、

 “〜〜〜〜vv///////////”

またぞろ、ヨシュア様の胸やらお顔をきゅきゅんと熱くしちゃったものだから。
ちょ、ちょっと待ってと、深呼吸付きインターバルを取ってから、
これこそが本題と、仕切り直したイエスの言うことにゃ、

 「そいでね。
  そんなリクエストの中に、
  ブッダの作るスィーツを食べてみたいっていうのが
  結構あったんだってvv」

 「…………はい?」

何でまたそんな、見ず知らずのお嬢さんがたからご指名が?と、
心底 不思議そうに眉を寄せる釈迦牟尼様。
それへ、ごもっともでございますということか、
ちょっと感慨深げに眸を伏せてから、
あらためて…覚悟を決めたように口を開いたメシア様が言うことには、

 「私が悪いの。」

 コンビニで逢う子たちへ、
 どれが美味しい、あれが美味しいって話をするたび、
 でも、ブッダの作るケーキやお料理が一番美味しいって
 締めくくってばっかいたから…とのことで。

 「な……。//////////」

唖然としたか、お口を真ん丸に開けてしまったブッダなのへ、

 「勝手に名前出してて ごめんなさいっ。」

ぎゅむと眸をつむり、深々と頭を下げる。
懐ろへ抱えたような格好のブッダ相手へという謝罪なので、
変則的な“ピエタ”のような構図でもあったが、
それは…今はともかくとして。

 「でもねでもね、嘘はついてないんだもん。」

いろんなロールケーキもチーズケーキもモンブランも、
クッキーシューもマカロンも、エクレアも、
和菓子シリーズのまめ大福も杏仁豆腐も美味しいけれど、

 「ブッダが作ってくれる蒸しパンやパイや、
  シュークリームやプリンや、
  ゼリー寄せとか水羊羹とか。
  じょうよ饅頭やお団子やの方が、
  凄く凄く美味しいんだものっvv」

 「……いろいろと比較対象を食べたんだねぇ。」

過度の買い食いはいけませんと叱ろうかとも思ったが、
本格パティシェレベルと噂のそれらよりも、
ブッダのお手製スィーツの方が断然上だと言われては、

 “もうもう、怒れるはずがないじゃないかぁ。/////////”

知らないところでそんな勇名を馳せていたとは。
さっきは哀しくてうるうるした双眸が、
今度は恥ずかしくって
うるうるし始めておいでの釈迦牟尼様だったりし。

 「だから、あのね? あの、ブッダ…?」

頼まれたのはイエスだが、実行するのはブッダだというこのリクエスト。
しかもしかも、妙な取っ掛かりになっちゃったから、
ブッダとしては決まりが悪いというか、引き受けにくいかもと、
察しが苦手なイエスでも、ここはそれを案じぬではない流れだったけれど。

 「…一体 何をどのくらいご所望なの?」

事情を紐解かれて納得したその上で、
微妙に呆れ、微妙にコケてから、
微妙に…面映ゆい想いもしちゃったものだから。
怒るとか拒むとかいう抗的な気持ち、
立ち上げるための気力さえ沸かないというのが正直なところ。

 「いくら何でも全校生に配るほどなんてのは無理だし、
  作ったことのないお菓子は無理だよ?/////////」

 「あ…vv」

そうでなければOKと、
そういう意味の譲渡案だというのは、
さすがにイエスにもすぐ判り、

 「えと、あのね?
  同じリクエスト出した子が重なってて、
  28人いたんだって。
  それで、持ち帰る人もいるかもだから、
  カップケーキにしてほしいって。」

 「一人一個でいいの?」

お友達と分けっこ出来るように、
2個ずつ見当で56個、焼いていいよと、
もうすっかりと落ち着きを取り戻したブッダが
慈愛のこもった微笑を見せて。
そんな余裕のお言葉をくださったものだから。

 「ぶっだぁ、ありがとーっvv」
 「わあっ。//////////」

ぎゅむと抱きしめた嫋やかでやわらかな肢体、
びっくりしたのか ひくりと震えたのがまた、
イエスの双腕へ妖冶な響きを伝えたものだから、もういけません。

 「……ぶっだぁ。/////////」

うるりと潤んだ瑠璃色の眼差しに吸い寄せられるまま、
ふわ…っと近づいた愛しきお人の、玻璃の双眸におねだりされて、

 「あ…えと…。/////////」

ああもう、どうして拒めましょうかと。
唐突すぎて真っ赤になりはしたけれど、
まだちょっぴり
目元が腫れぼったいのが恥ずかしかったくらいのもの。
その目許をそろりと伏せてゆき、
愛しいヨシュア様の大甘えな接吻、
うっとりと授かった如来様だったそうでございます。





 ◇ おまけ ◇


柔らかく合わせての一つ、
離れがたくて、もう一つ。
くすくすと微笑い合い、
お鼻同士をこしこしと擦り合わせてから、
軽いめのを一つ。
そんなキスを幾つか交わし合ってから、

 「…さあ、ご飯の下ごしらえするね。」

ホワイトソースを作って、野菜を切り分けて炒めて。
マカロニを茹でて、そうそうポテトフライもだったよねと、
イエスからのリクエストを指折り数え、

 「あとは、レタスとキャベツのドレッシング和えと、
  オニオンスープでいいかな?」

 「うんっ、凄い御馳走じゃないvv」

私も手伝う、ジャガ芋の皮なら剥けるよ?
じゃあお願いしようかな?
ワクワクという笑顔のイエスに手を取られ、
立ち上がったブッダだったが、

 “あのまま怒ったままだったらば、
  食パン刳り貫いた中へグラタン詰め込んだのだけ
  作るとこだったんだから。”

そんなささやかな逆襲を胸に秘めておいでだったことは、
結果、永遠の秘密になって良かったねということで……。





       お題 C“すごく嬉しいvv”





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  *判ってみれば他愛ないこと、
   でもでも判るまでは不安でしょうがないこと。
   まだまだ初心者ですからね、
   ちょっとしたことでも揺らぎます。
   キミを信じてどっしり構えたいとこだけど…まだちょっと怖い。
   ウチのブッダ様、
   恋心は まだまだ過渡期ってところでしょうか。


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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