雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

       〜フォーチュンケーキは 甘甘でvv篇

     3



さてとて、
日本に於ける最強の極寒とされている二月だが、
その始まりは案外と穏やかだった。
節分の日など、三月下旬並みの温かさになり、
九州では何と20度近くまで上がったほどで。

 『豆まきで追い出された鬼たちも、今年は楽勝だっただろうね。』
 『何に勝つんだい?』

何の気なしのツッコミだったろに、

 『〜〜〜。//////』
 『あ、あ、ごめんごめん。
  言ってみただけだよね? うん、そういうことってあるよね?』

ウッと口ごもったイエスがじわじわと涙目になったのへ
ブッダが慌てて執り成してしまったほどで。
…甘やかすのもほどほどにだぞ? ブッダ様。(笑)

  それはともかく

今週のうちに雪祭りとソチ五輪が始まるのが信じられないと
口々に言っていたのもまさに束の間、

 「一月にもなかったっけ、こういう寒さ。」
 「うん。大寒に来たよね、最強寒波。」

ううう〜〜〜〜〜と、微妙なビブラートつきで話すイエスなのへ、
ブッダの方はまだまだ平気か、微笑みつきでお返事するほど。
でもでも、勿論寒さは感じておいでなので、
ビクーニャのストールで福耳を覆っての防寒態勢はきっちりと取っており、

 「外は寒いんだから、お留守番しててもよかったのに。」

暑さ寒さに弱いイエスなのは重々承知。
今日はこうまで寒いんだもの、仕方がない、
コタツでぬくぬくしながら、
暖かいお部屋で待っててくれて良かったんだよと。
吐息を白くけぶらせつつ、ブッダは優しく言ってくれるのだが。

 「う…ん、でもね。」

もこもこダウンの肩をすくめ、
細い顎先を襟元へ巻いたマフラーに埋めたイエス云わく、

 「冬のスーパーの暖かさって、コンビニ以上だしvv」
 「あ、それがお目当てだったの?」

なんだ、ちゃっかりしてるなぁと、
くすすという朗らかな笑みを見せるブッダなのへ、

 “このお顔と離れがたいって方が、勿論 本音なんだけどもね。///////”

潤みの強い深瑠璃色の双眸をたわめ、
ほこり微笑む如来様のそのまろやかな笑顔、
一度でも見逃すなんて人生の大損失だと、
つねづね思ってやまぬヨシュア様…なのですが。
以前、物凄く恥ずかしがられて以降、
まだ明るくて人通りも多いお外でそういうことを言うのは、
ブッダが夜道でありがたいことを言うのに並ぶご法度なので。(……)

 “ホントを言えないのが…ねぇ?”

何とももどかしいなぁとしつつ、
ふふーと微笑うだけに留めておいでのイエス様。
そう、歯が浮くような甘い物言い、
これでも実は随分とセーブしているんですってよ、ブッダ様。(大笑)
寒いねぇ、スズメも鳩も電線で丸まってるもんねぇ、などなどと、
他愛ない話を紡ぎつつ、辿り着いたはお馴染みのスーパーで。
入口脇に積まれたカゴを1つ取り、

 「さて、今日の夕飯は何食べたい?」

何でもかかって来なさいとの余裕を感じさせる、
自信にあふれた名シェフ様のお声へ応じて、

 「う〜んっとねぇ。」

寒いからグラタンが食べたいなぁ、と、
まずはのリクエストを口にするイエスであり。

 「じゃあ、マカロニとタマネギに本シメジ、かな。」

えっと牛乳と小麦粉とコンソメに、
バターもとろけるチーズもまだあったから、
ホワイトソースはそれでいいとして、と。
このくらいの定番ものなら
空(そら)で要るものを思い起こせるレベルの主夫殿。
売り出しの台の上から、丸々したタマネギを選びつつ、
他には?と、小首を傾げて訊く彼へ、

 「う〜んっとねぇ。」

ポテトフライも美味しいよね、
こないだ作ってくれた、
厚切りほくほくスパイシーポテトが美味しかったのなんのvvと、
お髭ごと口許を弧にしてうっとり笑ったイエスだが、

 「?」

傍らの商品棚に擦れた拍子、
ダウンコートのポッケから かさりと妙な音がしたのに気がついて。
あれれ? 何か入れっぱになってるのかな?と確かめたところが、

 「あっ、いけないっ。」
 「え? どうしたの?」

コートのポッケから出て来た大きな手が握っていたのは、
レシートと何か小さなカード。
それを見下ろしたイエスが、妙に落ち着かなくなり、

 「ごめんブッダ、私ちょっとコンビニまで行って来ていぃい?」
 「コンビニ?」

 あのね、スィーツクーポンの締め切りだって忘れてたの。
 スィーツって、あ、イエスもしかしてキミ

 「こっそり買い食いしていたなぁ?」
 「わあ、ごめんなさい〜っ。」

そのままお説教が続きそうだったからだろう、
皆まで聞かず、
逃げ出すような体でスーパーから飛び出してったイエスであり、

 「もうもう無駄遣いして。」

ああいうところは小さい子供と同じなんだからと、
こちらもまたお母さんみたいに眉を寄せて憤然としていたところ、

 「しょうがないわよぉ、ブッダさん。」

周囲に居合わせた奥様がたが苦笑しつつお声をかけて来て、

 「最近はほら、スィーツ男子とかいうの?
  男の人でもケーキとか大好きって照れずに言ってるほどだしねぇ。」
 「コンビニもそういう層向けの商品とか置いてるし。」

甘さ控えめものとか、あとほら大きなエクレアってのもあったでしょう。
そうそう、大きいシリーズ。
あれって実は女子高生も食べてるらしくて。

 「あ、でも豆乳シリーズは、
  私ブッダさんに教わったのの方が好きだなぁ。」
 「アタシもぉvv」
 「プリンがなめらかで、しかも子供らが食べる食べる。」

 「あ、そそ、そうなんですか。///////」

イエスさんも口が肥えちゃってるに違いないわよ。
そうそう、
だからそのスィーツシリーズもきっと物凄く美味しいんだわと、
妙なお褒めをいただいてしまったり。

  ちなみに

イエスと一緒にいるところへは、なぜか遠慮してしまう奥様方だが、
別にイエスが敬遠されている訳でもないそうで。

 『だって、割り込めないほど仲いいんですものvv』
 『そこはお邪魔しちゃあいけないかなって。』

慣れない異国でのシェア友同士なんだもの、
一番気心も知れてる人なんでしょうから、そこはね?と、
こういう気遣いの出来る“ママ友”が集まるのも、
慈愛の如来様だからでしょうか。





     ◇◇



某コンビニのプレミアムスィーツについてたシールを集めて台紙に貼り、
名前や住所を記載して、お店にあるボックスへ投函すると、
小さなマスコット人形が洩れなく貰え、
それとは別に、抽選で

 “特選フルーツギフトが当たるんだものねvv”

あまりに真剣本気で強く願うと、
神の子としての祈りの覇気が届いてのこと、奇跡が働いてしまうかも知れぬ。
なので、そこの加減が要る辺り、人の和子とは逆の苦労もあるのだが、

 “果物はブッダも好きだからvv”

当たるといいなとホクホクしつつ、
来ちゃったからにはと店内をぐるりと散策。
お菓子や飲み物、雑誌のコーナーくらいしか関心はないのだけれど、
今時分だとコスメのコーナーにカラフルな新製品も並ぶ頃合い。
それらにしても、ドラッグストアの方が安いと知ってはいるが、
春向けのシャドーやチーク、乾燥ケアのあれこれが並んでいて、
何とはなし、目線が流れたイエス様。

 「?」

その中の1つへ、ついのこととて目が留まる。
ケアも下地もこれ1本でという謳い文句が、
丸っこい字で書かれたPOPがなかなか華やかで眸を引く商品、
縦長の小箱は素通しで、チューブに入った現品も見える…のだが。

 「???」

 「イエスさん?」
 「どしたの、そこまで首傾げちゃって。」

陳列棚の中程という、
その筋でいう“ゴールデンライン”に置かれた商品との睨めっこ。
それでなくとも、
癖のある黒髪を背中まで流した、
しゅっとした長身の外国人という風貌が目立つその上、
そんな奇異な行動をしていちゃあ、
人の眸を引かぬはずがなく。
たまたま店にいた顔見知りの女子高生が、
あれまあと思ったそのまま、気さくなお声を掛けて来たものだから、

 「あ、フミちゃん、レイちゃん、これなんて読むの?」

上背のある、間違いなく青年男性だというに、
来て来てと手招きする様子が何となく可愛らしいから不思議なもの。

 『手だって大きいし。』
 『うんうんvv』
 『お顔だってジョニデ似のイケメンなのにねぇ。』

なのに何でだろ、頼りなく見えるときが多いから不思議だよねぇと、
だからついつい、警戒心なく寄ってっちゃえるのかなぁと、
ご近所の女子高生らに“不思議ちゃん”扱いで慕われておいでのイエス様。
今も、ねえねえねえという態度が妙にハマっていたものだから、
まずはお顔を見合わせ、ぷふっと吹き出してしまったお嬢さんたち。
そのまま、はいはいと傍まで寄れば、

 「? イエスさん漢字も平仮名もOKじゃなかったっけ?」
 「そだけどね。」

イエスが難解だぁと困り顔で向かい合ってたPOPには、
アルファベットは“CC”という2文字だけ。

 「どういう意味なの? どこで切るの?これ。」

そこには“フレナルービンスタイリー”と書かれてあって、

 「スタイリング剤なら、
  試供品っていうの貰ってこうかなと思ったんだけど。」

 「あ、そかそか。」

商品棚の手前に小さなカゴが出っ張っていて、
1回分のパックだろう、
肉まんのマスタードみたいに小分けされたものが満載になっている。
ああそういうことねと、お嬢さんたちへもやっと合点がいったらしく、

 「これはね、
  フレナ・ルービンスって会社の
  タイリーシリーズの CCクリームなの。」

ああ、そう切るのか。(実はおばさんも困ってました)笑

 「スタイリーじゃないんだ。」
 「うん。これはCCクリーム。」

お化粧する前に塗る下地クリームで、
洗顔した後につければ、保湿クリームや乳液の代わりもするよってところかな。

 「じゃあ男の子は使わない?」

恐らくは自分を指してだろう、男性が使うのはおかしい?と訊かれ、
男の子という言い方に、あはは可愛いvvとの笑いが起こってから、

 「ああでも、髭のお手入れした後に塗るのはアリかもね。」
 「そだね。乾燥を防ぐ成分も入ってるし。」

ダメじゃあないよと薦められたけれど、
普段からもそっちのお手入れはあんまりやらぬイエスであり、
じゃあ使わないかと苦笑したものの、

 「今時の女子高生って凄いねぇ。
  こんなややこしい名前さえ、きっちり覚えてるなんて。」

それもスタイリングとかモイスチャーとかいう、
性能の表現でもなかったのにと、感心してしまうおにいさんなのへ、

 「あははvv
  その代わり英単語はからっきしなんだけどもね。」

 「そうそう。
  あと、洋服や小物のブランドとかは覚えられるけど、
  化学のややこしい塩基とかは全然ダメだしね。」

あっけらかんと笑うところがまた豪気。(こらこら)
陳列棚の一か所を揃って覗き込みながらという微妙な格好で、
ダウンジャケットにGパン姿のロン毛の外人さんと、
丸襟のAラインコートを制服の上へ羽織った女子高生二人とが、
おでこをくっつけ合うようにしていた珍妙な取り合わせは、
ガラス張りで素通しになってる店の外からも注目を集めかかっており。
それへと気がついたからかどうか、
お嬢さんたちが ふとお顔を見合わせると、

 「あのね? イエスさん。」
 「ちょっと頼みたいことがあるんだけど。」

急にお声をひそめて、その分、ややお顔を寄せて来て、
今度は彼女らのほうから“ねえねえ”と言って来たものだから。

 「?? なぁに?」

玻璃色の双眸、ちょっぴり見張って。
またまたキョトンとしつつ、小首を傾げたイエス様だったのでありました。


  そして、そんなやりとりを
  やっぱりガラス窓越しに見てしまった人の中に……





       お題 B“可愛いよvv”




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  *最強寒波の訪のうた立春翌日、
   某NHKの朝のニュースでは、立川の路面凍結が中継されてて、
   地名にドッキリした、よく判らんおばさんでした。

   そして、またまた シッダールタ様のアニメ映画公開だそうで。
   出家したのって大人になってからだのに、随分と若かりし姿だよね、いつも。
   いや、美人さんに描かれてるから、個人的には嬉しいんだけど。
   インドで、しかもかなり昔なんだから、
   もちょっとおじさんな風貌なんでは…?とか
   思ったりなんかする、じつはおじさん好きな おばさんです。

   ※イエス様は没年が若かったから、
    青い話も悟った話も
    その風貌のままで…となるんだろうね。(おいおい)


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