雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

          〜追憶の中の内緒?篇

     7



今年の聖バレンタインデーは金曜日なので、
本気で告白する女の子にはなかなか絶妙な曜日どり。
土曜日曜と2日も休みを挟むので、
万が一 誰ぞに目撃されても、
わざわざ冷やかされるには間が空くのが
ラッキーじゃないですか…と思っていたらば。

 『今時の子は LINEとかで情報のやり取りしてますから、
  その手の噂なんて、直接囁き合わずともあっと言う間に広まりますよ』

とのこと。
何かそういうのって味気無いなぁとおもったおばさんは、
相当に時代遅れなんすかねぇ?






そんな嬉し恥ずかし聖バレンタインデーを前に、
別口のケーキに絡んでの、思わぬドタバタがあった最聖人のお二人で。
まま、勘違いだった部分はあっと言う間に真相で埋められたし、
勘違いさせちゃった側のイエスが、
不安にさせてごめんねと至れり尽くせりで宥めたのが
却って恥ずかしいなぁと感じ入ってしまわれたブッダ様。
おおらかでさりげない、そんな優しい愛情で、
ずっとずっとイエスから見守られて来たことを、
こんな格好で自覚するに至って。
自分も詰まらない意地を張ったりせずにいなくちゃと、

  『ずっとずっと一緒にいてね?』 と

彼なりに うんとうんとと頑張って告白した一言は、
イエスの呼吸を止めかけたほどの熱烈爆弾発言でもあって。
……いやはや、
春は一足先に立川へとやって来ていたようでございましvv(笑)
そんなこんなで、
時に思わぬ波風も立つけれど、
少しくらいの波乱なぞ何のそので 乗り越えられるよになったお二人で。
台所に立っている如来様の、背条の伸びた後ろ姿にきゅんと萌えたり、
伏し目がちになって考えごとをするメシア様の横顔に惚れ惚れしたり、

 『ブッダの唇って果物みたいだよね。』
 『え〜? 食べちゃったりしないでね。』
 『ふふん、どうしよっかなぁvv』
 『なにいって…あ、んぅ…。/////////』

はさりとつややかな髪が寝間の枕元からあふれ出し、
お願いだから早く寝ないかと、
誰とは言わぬが居たたまれぬウォッチャーたちが
真剣に祈ってたりする、通常運転の宵も幾つかあったりし。(大笑)

 「…あ。ブッダさん、こんにちは。」

行きつけの商店街にて不意に呼び止められて、
名指しの割に声が若かったのへ、
え?と微妙に驚きつつも振り返れば、
そこに立っていたのは、
見覚えのある学校指定のコート姿の女子高生の二人連れ。

 「あ、えっと、フミちゃんとレイちゃんだったっけ?」
 「はいっ。」
 「あの節はどうもありがとうございましたっ。」

例の騒ぎの導入部では、
こちらの解脱した身のブッダ様をおろおろと浮足立たせた、
ある意味、現代日本における最強の人種、
女子高生のお嬢さん二人であり、

 『講堂じゅうがどよどよどよって大騒ぎになっちゃってvv』
 『先生がたが静かになさいって静めるのに大変だったんですよぉ?』

まさか本当にブッダからケーキを焼いて貰えようだなんて、
リクエストが通るとは思わなかったクチが大半だったらしく。
でもって、

 『証明書代わりに録画させていただいた動画、
  御利益がありそうだからダビングさせてって
  三年の皆さんから言われたんですけどどうしましょうか。』

 『う、う〜ん、それは何とも…。////////』

このケーキは間違いなく私とイエスが焼きました、
皆さん、受験のほう頑張って下さいねと。
壇上の大きなスクリーンに映し出された、
メッセージを語る姿の何と神々しかったことか。
……実はミッション系の学校だというに、
思わず両手を合わせて拝んでしまった先生がたもいたというから、
その威力は半端じゃあなかったようであり。

 「あのあの、今日は、
  立て替えていただいた材料費をお返しに伺おうと思ってまして。」

 「あ、そうだったね。」

小麦粉や生クリーム、バターに卵に砂糖。
持ち出しはせず、買ってレシートを貰って下さいと言われたものの、

 「でもあのね?
  使った残りが結構あったの、私たちで使っちゃったんだけど。」

だって卵はパックで買ったし、
砂糖も…グラニュー糖ならともかく、上白糖はそれしかなかったので
1キロのをついつい手に取ってしまったし。
バターだって小さいのを買ったのだけど、全部は使い切らなんだ。
バニラエッセンスに至っては…と、
どれもこれも随分と余ってしまっていたその上、
卵は置いとくわけにもいかなんだので…と説明すると、

 「あ・ええ、それはもうもう使って下さい。」
 「というか、いきなりご迷惑をおかけしたんですし…。」

朝も早よから一仕事させてしまったり、
見ず知らずの相手へのメッセージを録画したり、
どれをとっても面倒ごとで、
子供の身勝手とにべなく断ってもいいことばかり。

 「本当は委員会全員でお礼に伺いたかったんですが、
  それだと却ってご迷惑だろうって先生に言われましたので。」

確かに…何人いるやら知らないが、
大勢の女子高生が大挙してあの部屋へとやって来たらば、
今度こそ松田さんから“出てってくれ”と叱られかねぬ。

 「立ち話も何だから、ああでも…。」

男所帯のアパートへ、そうそう連れてくわけにもいかぬ。
ふと、周囲を見回せば、
顔なじみの奥さんなどがまあまあと微笑ましそうなお顔を向けてもいて、

 「ちょ、ちょっと歩こうか。///////」

とりあえず、そう少し先の駅前どおりまで出れば、
大通りに向けてガラス張りになった、スタンドカフェもあったりするので。
細かいことはそちらで話しましょうねと、
ややぎこちない仏スマイルで彼女らを誘導した、
釈迦牟尼様だったりしたのであった。




     ◇◇◇



ちょうど明日は聖バレンタインデーでもあるしということで、
お嬢さんたち女子高生らが
二人のありがたい救世主らへと用意したお礼も、
ちょっとお洒落なブランドチョコレートの、豪華2段重ね詰め合わせ。
レシート分の立て替えへの返金と共に手渡され、
ありゃまあ、これは却って散財させちゃったねぇと、
ブッダも恐縮してしまったほどで。
さすがに当日持ってゆくのは、
お礼という意味がぼやけはせぬかと思っての、
前日の訪問だったそうであり。
お茶とケーキを御馳走しつつ、
予餞会のお話やイエスとの馴れ初めなぞなぞを聞くなかで、
やっぱり案外とお行儀のいい彼女らなのを再確認し、

 『御馳走様でした。』
 『イエスさんにもよろしくお伝え下さいね。』

丁寧に頭を下げる彼女らとは駅前で別れ、
何ともほこほこと胸を温めつつ、
商店街へ戻って夕食への買い物をすると、
機嫌のいいまま帰宅の途についたブッダ様。
思えば最聖人なのだから、
説法を聴きにと自分の周囲へ人や獣らが集まるのと同じよに、
イエスの周りにだって、罪のない小さき子らが集まるのは道理。
それをいちいち案じたり勘ぐったりしてどうするかと、
あらためての反省をしつつ。
小さいけれど愛しの我が家へ、鼻歌交じりに辿り着き、
慈愛の籠もった甘い微笑み、惜しみなく口許へ滲ませたまま、
イエスが待ってる愛しき空間への帰還を、
余すことなく全身で堪能しましょとドアを開けたはよかったが。

 「……。」

小さなワンルームに相応しい、半畳もなかろう上がり口。
そこに置かれてあったのは、
イエスが普段はいているスニーカーとそれから、
品よく光沢の出た、重たげな革靴の一揃いであり。

 「あ、ブッダ、お帰り〜vv」

せっかくの上機嫌を握り潰したブツからの、
あまりのインパクトにあって、
ついつい“ただいま”とさえ言い損ねたというに。
そちらさんはご機嫌ならしいイエスが、
ブッダの帰宅を察して、伸びやかなお声を掛けてくる。
思わず肩が下がってしまうほどの
はぁあという重い吐息をついたブッダの心境は、
指し詰め、一難去ってまた一難、というところかと。
まま、いつまでも此処に立ち尽くしている訳にも行かぬのと、
自信のなさから腰が引けててどうするかと、
そんなことまで一体いつ学んだんでしょかという心得を胸に。
かかとを擦り合わせてスニーカーを脱ぐと、
トートバッグを肩から外しつつ、真っ直ぐ上がれば正面には六畳間。
バッグを途中の壁側に位置する流しの作業台へと置きつつ、

 「いらしてたんですか。あ、イエスただいま。」

冷然とした顔とイエスへの愛想と、
くっきり表情を切り替える小芝居も、
彼へはどこまで効いているものなやら。
コタツの窓側の縁に腰を下ろした雄々しい偉丈夫、
仏界の天部筆頭、梵天氏が、
そちらもにこやかな表情にて、ブッダの帰宅を迎えておいで。
いや、口許がほころんでいるので、
にこやかに なんではなかろかと…。(う〜ん)

 「ほら見て、ブッダvv
  梵天さんが持って来てくれたのっ。
  試作品だけど 私たちにくれるって♪」

小芝居が効いてないといや、そちらさんも気づかなかったものか、
早く上がっておいでよと急かすような調子で
ほらほらと呼び招くイエスであり。
難儀ばかり持ち込む相手だとの警戒から、
梵天へは毅然とした顔を保つにしても、
こうまで屈託ないお声を掛けられては 従わない訳にも行かぬ。
トートバッグから出した卵と牛乳と木綿豆腐を手早く冷蔵庫へしまうと、
はいはいとそちらへ向かったブッダへ、

 「ほらっ、凄く綺麗なんだよ?」

手にしていた塊を“見て見てvv”とイエスが持ち上げた。
もう片やの彼の隣り、つまりは梵天のお向かいへ腰を下ろしたブッダに
早速のように示されたそれは、

 「…スノウドーム、だね。」

透き通ったガラスや樹脂の器の中に、
小さな規模のジオラマを配し、水を充填して密封したもの。
一緒に銀粉も入れてあり、
振って撹拌させると、小さな世界に雪が降ったような景色となる置物で。
雪との連想からだろか、
雪だるまやツリー、サンタといった内容の、
クリスマスものが多いのだが、

 「天乃国の門前の、お土産屋さんに置く新製品なんだって。」
 「お土産?」

極楽浄土のお土産といや、
そういえば以前にも、とんでもないもの持ち込みませんでしたっけ?
代替の札とかいう、お仕置きに使えそうな、
いやいや、何か断つことで願かけをするとかいう、封じの…。

 “あれでは散々な目に遭ったくせに。”

同じ出自の代物に、またぞろ関心を示すとはどういう料簡か、と。
自分も籍を置く浄土を、
気安く手を出しちゃあいけないでしょうにと
真っ向から疑(うたぐ)るのもどうかと、ブッダ様。(苦笑)

 「普通の置物でしょう?」

動く要素があるのでつい手に取ったとしても、
すぐに飽きるのではなかろうかと。
記念の小石やスタンプ帳みたいな、
タンスの肥やし扱いになるのがオチじゃあなかろうかと危ぶみつつ。
こうまで見て見てと進められた以上はと、
しゃかしゃか振ってから中をのぞき込んでみれば、

 「……あ。」

それはさながら、小さな宇宙のような別世界。
スパングルのようにチカキラと煌く銀の粉が、
小さな庭のような風景の中を舞い泳ぎ、
水流が静まるのへ添うてふわふわと舞い降りて来る仕様は
よくあるものと変わらぬが。
そのふわふわと舞っていた銀の破片たちが
不意にくるりと流れに乗って小さな渦をなし、

 “…え?”

雪に見立てられていたそれらが、
淡い緋色のもっとやわらかな、ふわりとした粒の群れへ変わる。
雪景色になるものと思っていた視野の中に展開したそれは、

 「桜…?」
 「でしょでしょvv」

それも、満開から満を持し、名残り惜しげに散るときの様相で。
はらりひらりと舞ってゆくのが、
こんな小さな空間なのに、奥行きもあっての壮大優雅に再現されており。
小さく震えつつ宙をゆっくりと降り落ちる緋色の花弁の儚さは
さながら万華鏡の作り出す模様のように、
どれほど観ていても見飽きることがないから不思議。

 「ね? 素敵でしょう?」

お澄まししておれば冴えた印象の切れ長の目許、
今はそれは楽しそうにたわめつつ、
ずんと幼い子供のように、はしゃいでおいでのイエス様。
花弁が一通り、芝草の敷かれた地面へ舞い落ちると、
淡い色合いも重なれば色濃くなるはずが、白一色になってしまうので、
此処からが初見となるお人には雪景色も同然となり。
まさかに、花吹雪まで展開されようとはという二段仕立てなのが、
成程さすが浄土産で凝っておいで。
イエスもよほど気に入ったのか、
貸して貸してと手を延べて来るものだから。
どうぞと渡せば、長い目の指に挟んでしゃかしゃかと念入りに振り、
随分とお顔を近づけて、中の世界へ見入ってしまう。
銀色の雪片が舞い踊るのへは眸を細め、
それが桜の花弁へ塗り変わると、
わあと双眸を見開くようにし、
陶酔気味になって表情を輝かせるものだから。

 「……。//////////」

ああ、なんて愛しいお顔をするのだろと、
スノウドームのかわいらしい仕掛けよりも、
そちらの方へとその視線が奪われてしまったブッダだったりするのだが。

 「……っ。」

素直な純真さで仕掛けに見ほれるイエスのその様子をこそ、
自分と同様に堪能している視線に気がついた。
常に表情を隠してのことだろか、
ただただ強く見張られているばかりでいる筈の双眸を、
今は…心なしか やんわりとたわめるようにして、
無邪気に喜ぶメシアの笑顔をこそ、
得難い眼福とばかりに見つめておいでの梵天であり。

 “一体いつから此処にいる彼なのだろうか。”

天板に置かれた湯飲みは、どちらも既に湯気さえ立たない上に、
半分以上は減っており。
暖房完備ではないながら、
ストーブもついているのだから、そうまで寒いわけではないことを考慮しても、
結構な長っ尻をしていたに違いなく。

 「…梵天さん、」
 「おっと。」

挑むような強い眼差しつきの呼びかけへ、
ついのこととて意識を逸らしていたところから、
我に返ったと言わんばかりの反応で、
はっとし、お顔を上げた仏教護神殿へ、

 「もしかして、
  イエスが一人で留守居をしていたので帰りづらかったのなら、
  もう私がおります、大丈夫ですよ。」

それはきっぱりとした言いようをする釈迦牟尼様で。
え? 私?と呼ばれたことには気づいたものの、
その言い回しの内実にまでは追いつけなんだイエスが
おややぁ?と キョトンとして見せたの、
苦笑混じりに も一度見やってから、

 「判りました。帰ると致しましょう。」

特に鈍感ぶるでもなく、
さりとて 白々しく“おお”と納得して見せるでもなく、
それは穏便に“お暇を…”と立ち上がる彼であり。

  それは、ある意味 さりげない察し合い

わざわざ言の葉には乗せない部分での洞察は、
互いへの把握があってこそ成り立つもので。
それがいい意味だったなら“阿吽の呼吸”と呼ばれるが、
目顔で鍔ぜり合いをするような間柄の場合は、
売り言葉に買い言葉、もしくは“鞘当て”というのが適当かと。

 「え? もうお帰りですか?」

やっとブッダが戻って来たのにと、
彼への客人という解釈もあってのことだろ、
いかにも意外そうな声を出すイエスだったが、

 「ええ、実はシッダールタ先生と同様に、
  内密に地上におりておいでの とある作家の方へ、
  執筆依頼に向かわねばならぬのですよ。」

はきはきと言い放つ彼だが、聞かされた方はそうはいかない。
わあと驚いたイエス、

 「すす、すいません、引き留めてしまって…。」

やたら恐縮する彼だが、
そんな言さえ遮るように、こちらはにっこりと笑ったシッダールタ先生、

 「そうですか。
  遅れてしまっては礼を失することにもなりかねませんよね。」

何でしたら亜空を跳躍する扉を開ける手助け、
して差し上げましょうかとまで言い出す彼なのを、

 「いやいや、そんなことをすれば
  何事かとの注目を、天界からも集めかねません。」

ウチのガチョウのるいーじくんは、あれで結構速いのですよと、
冗談のつもりかなぁとイエスが怪訝そうな顔をした一言を残し、
それではまたと、去っていかれた偉丈夫様で。
屈強精悍な肢体そのもののみならず、
威風堂々とした存在感も大きなお人ゆえ、
それが去ってしまわれると…微妙な喪失感というか台風一過というか(おいおい)
妙な“間”のようなものを感じもし。
ただ、

 「ブッダ、ああいう態度はよくないよ?」

こたびばかりはイエスにも、
何だか妙な違和感は感じ取れもしたらしく。
行儀がよくて、礼儀作法も完璧なはずのブッダが、
身内とはいえ来客へ、
あのように傲慢に振る舞ったのは らしくないなと思ったらしく。
叱る人が自分しかいないからということか、意見するよな言い方をしたものの、

 「イエスこそ前に私に言ったよね?」
 「? 何を?」

コタツの天板に置かれた、小さなお山みたいなスノウドーム。
その曲線を指先でなぞりつつ、

 「イエスがいなくて私しかいない時に、
  セールスマンを此処へ上げちゃあいけないよって。」

 「えっとぉ…?」

いや、言った覚えはありますが。
あれはあのその、
愛しのブッダに何かあったらいけないから、
身元の怪しい人を引き入れちゃいかんという意味だったのだし。

 「梵天さんってセールスマンなの?」

プロデューサーじゃなかったっけと、
ドキドキしつつ訊くイエスなのへ、

 「時には、みたいなこともするんだよ。」

やや強引だったかなと思わぬではないか、
嘘はご法度なのはブッダ様も同じくなため、
ややもするとドキドキしちゃったようだったけれど。
頭数が少ない事務所の場合、
プロデューサーだって売り込み活動しますしねぇ。(おいおい)

 「お茶、淹れ直すね。」

残り香や残像さえ疎ましいか、
自分もお茶を飲みたいからという素振りで二人分の湯飲みを下げ、
ミルクパンを取り出すと、牛乳を暖めてミルクティーを用意する。
相変わらず手際もいいので不審には思わず、
運ばれて来たマグカップに、
ふふーと嬉しそうな笑みを見せたイエスではあるものの、

 「ブッダだって言ったじゃない。
  梵天さんはきっと、
  私が一人でお留守番してたのを見かねて、
  なかなか腰を上げられずにいたんだよ。」

 「う…。」

先程のやりとりの意味、一応は判っていたのかと、
傲岸さをも指摘されたよで、そこはさすがに怯んだものの、

 「だ、だってさ。
  君が子犬みたいな眸をして
  “もう帰っちゃうの?”なんて
  寂しそうに小首を傾げたりしたら…っ。
  それを見捨てて立ち去れるような鬼が、
  少なくとも天界にいると思うのかいっ?」

 「…ブッダ、落ち着いて。」

何か文脈がおかしいし、子犬みたいってのは何?と、
腰を上げかかったイエスの鼻先へ、すいと差し出されたのが、

 「これ、フミちゃんとレイちゃんと、実行委員会の皆様から。」
 「え? ……うわvv アンダンテのチョコじゃないかvv」

うあ〜、これって限定品で予約してないと手に入らないのにぃvvと、
そういう情報、何で得ていたものだろか、
あっと言う間に相好を崩すところも他愛ないメシア様。(苦笑)
ブッダに早く開けて開けてと急っつきつつ、
わくわくとしていた間は一旦話も途切れたものの、

 わあ、いろんなのがあるvv
 何味が好き?
 えっとねぇ、キャラメルも捨て難いしぃ。
 でも、オレンジピールも美味しいよね?
 うんうんvv 大人の味だもんねvv

どれが何というしおりを見ずとも、
手をかざせば中身が判るというブッダに任せ、
ミルクチョコのガナッシュが封入されたのと、
ヘーゼルナッツのクランチ入りのを選び出してもらい。
んん〜〜vv美味しい〜vvと堪能してから、

 「もしかしてブッダ。」

今になって気がついたのか、
それとも一時休止していただけで、胸に留め置いてたことなのか。
濃厚だったチョコの風味をミルクティーで流しつつ、
いかにも緻密な推理でも持ち出すかのような
鹿爪らしい顔付きとなったイエスがもっともらしく口にしたのは、

 「梵天さんを私に奪られると思って嫉妬してない?」
 「それはない。」

活字に妙を凝らせば不可能でもなかったかもしれないこと、
イエスの指摘するよな言いようが終わらぬうち、
奪られると思っての“て”の音が消えぬうちという素早さで、
かぶさるようにすぐさま否定したブッダだったのは言うまでもなくて。
(大笑)

 「そこまで言い切らなくても。」

せっかくの名推理をたまなしにされて、
ちょっぴり怯んだ名探偵さんが むうとむくれかかったものの、

 「…むしろ逆なんだもの。////////」

しなやかで綺麗な指で、
スノウドームの輪郭を つつつっとなぞるお人。
ほんの数日前に“果物みたい”と例えた妖冶な口許が、
そんな言いようを甘い響きで紡いだものだから。

 はい? と聞き返した イエスの玻璃の双眸を、
 ちらとだけ意味深に見つめ返すは、潤みの強い深瑠璃の双眸

 「キミってば甘えん坊だもの。
  包容力のある人へは、すぐ懐くでしょうが。」

それが心配なのだと、
それは真摯なお顔になって言う如来様なのへ、

 「う、う〜ん。」

そんな言いようが返って来ようとは思わなんだか、
どうかな、そうかな、どうだろかと、一応は考えてみたイエス様。
そんな表情がつと止まり、

 「……………そういえば?」
 「ほらぁ〜〜っ!////////」

思い当たってどうするのっ、
第一、何でそんな嬉しそうな顔するの、と。
そちら様は腹に据えかねるものありありだからこそ、
それら一つ一つへ むかぁっと一気に煽られたのだろう。
激するあまり、
コタツの天板の縁へ手を置き、
正座していたそのまま、身を起こして膝立ちになりかかったところへと、

 「まあまあvv」

ずらりと並んでたアソートチョコの中から、
少しほど流線形にデフォルメされたハート型、
縁にLOVEと彫られたチョコを摘まんで、はいと
愛するお人の口許へすかさず運んだイエスであり。
むにりと押し込まれたチョコと、
それをついと押し込んだ人の指先が
そのまま唇をつんつんとつついた悪戯の甘さとへ、

 「う…。////////」

真っ赤になったブッダの、
彼には珍しいほどの直情さとその愛らしさへ、
眩しいものでも見るように、
目許をたわめ、幸せそうに微笑ったイエス、

 「だって、そこまで焼きもち焼かれたら、
  私としては喜ばずにはいられないというか。////////」

 「うう"…。///////」

キミからそんなに愛されてるなんて、もうもうもうと。
こちらは そういう方向から
嬉しくってしようがないと感じてらしたヨシュア様だったらしく。
咬み合っているのだか いないのだか、
とりあえず、イエスの“嬉しい”の根源は
ブッダからの“熱愛”を察知してのものであったようなので、
ここはひとつ、痛み分けといかないか? お二人さん。

 「もうもう、知らないんだからっ。///////」
 「あ・ごめん、髪がまた……。////////」


  ……やってなさい。
(苦笑)





       お題 E“逢いたかった”




BACK/NEXT


  *女子高生のお二人への疑心暗鬼を思い出してごらんなさい。
   歯牙にもかけないお相手へは、
   そもそも焼き餅なんて焼かないものですよ、ブッダ様。
   (……何様だ、おいおい・笑)

   ここから後半というか、
   別のお話へ寄り切ってうっちゃります。
(おいこら)
   女子高生たちと違って
   何とも手ごわい相手の登場ですぞ、ブッダ様。
   いやさ、シッダールタせんせえ。
(う〜ん)


めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

掲示板&拍手レス bbs ですvv


戻る