雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

          〜追憶の中の内緒?篇

     8



先週末に引き続き、今週末も結構な雪催いとなった日本列島で。
しかもしかも、そののっけとなった金曜は、
日本では愛を込めてのチョコレートが飛び交う、
“聖バレンタインデー”と来たものだから、

 「学校がお休みになっちゃったら困る子も多かろうね。」
 「そうだね。」

先輩に告白をと決意してた子とか、
同級生だもの、学校で会えるからと油断してた子とか。
警報が出て休校にでもなった日にゃ、
下手すりゃ月曜までお相手自体に会えませんものね。
この雪の中を会いに行きますか? それで事故ったら洒落になりませんぜ?

 「でも、私としては雪とか雨だとホッとするなぁ。」
 「?? どうして?」

困る人が多かろうお天気なのに、妙なことを言い出すブッダであり。
おや らしくもないと、イエスが小首を傾げて見せれば、
そんな彼からの視線がさすがに心苦しいか。
潤みの強い目許をちらと泳がせた如来様、
口許へ緩く握った拳をあてつつ、ごにょりと呟いたのが、

 「だって、花粉の飛散が少ないもの。」
 「あ、そっか。」

そういえば、
春が近づけば花粉対策を講じねばならなくなった聖家だったりし。
昨年発症したブッダが、
随分と重い症状が出たその上、イエスだっていつ発症するやらとあって。
本格的な空気清浄機は無理でも、
抗性のある目薬と、マスクにメガネ型ゴーグルに、
衣類用のコロコロや、花粉を舞い上げないスプレーやと、
便利そうなアイデア商品の発掘や検索も怠らぬ、
ブッダとイエスなのであり。

 「そういえば、天気予報でも花粉情報が始まってるしね。」
 「ううう、体質改善っていうのは私には無理だろうしね。」

やれヨーグルトが効くだの、シソ茶がいいだのと、
毎年いろんな情報が取り沙汰されるものの。
アレルゲン物質が限界まで蓄積されての発症というのなら、
2500年という長きにわたってこの世に存在している身のブッダ様におかれましては、
ちょっとやそっとの改善薬なぞ効くとも思えずで。
そうともなれば、花粉との接触を出来るだけ避けるしかなさそうだと、
いわゆるイマドキ、時事の話題に沸いてから、
ふと見やった 雪模様を望める窓辺には、小さな置物が増えており。

 「……。」

他愛ない置物だのに、それがブッダをややしかめっ面にする。
可愛らしいスノウドームに罪はないが、
それを持って来た人がいけないったらで。

 『あの人は、君にちょっかいを出すことで、
  間接的に私をからかっているに違いないんだよ。』

他でもない仏教の守護にして、天部筆頭の実力者、
そもそも宇宙創造の神様を習合した存在でもある梵天を、
相変わらず警戒しまくっておいでの釈迦如来様。

 『えー? そんなに意地悪な人かなぁ。』

時に辺境の地で仏敵と剣戟を交わしもする、
雄々しき神将でもあるその身は、屈強精悍にして威容に包まれ。
つややかな黒髪をたなびかせ、
逞しい神馬を御して空を翔る姿の勇壮さは、
毅然とした面差しと相俟って、
頼もしいったらないじゃあないのと。
イエスとしては特に毛嫌いする要素もないらしいが、

 『それはあくまでも、
  対外的なというか 表向きの態度でしょう?』

元は絶対神だったからという傲慢さの名残りか現れか、
誰をも意のままに出来るという自負が強すぎるんだよねと。
イエスからの見解へ、肩をすくめて見せるブッダであり。

 『自分が見初めて仏教の開祖とした、そんな私であるのにね。
  普段は威風堂々、泰然としているのはいいこととしつつも、
  そんな存在でも
  彼の手にかかれば澄ましていられないんだよって対象に
  しておきたいらしくてね。』

小意地の悪いことを吹っかけては、
こちらが狼狽したり口惜しがったりする反応を見て、
面白がったり楽しんだりしているんだよ、と。
いつもいつも難題ばかり持ち込んでは苦行を課すお人であるがため、
どうあってもそういう先入観が消えないものか、
好意的な解釈は無理な様子のブッダなのもまた いつものことで。
だがだが、

 『…だったら、
  見事に功を奏してるって事にならない?』

 『え?』

コタツにあたり、PCを開いていたイエス、
ブログのチェックは済んだのか、つくもんの電源を落とすと、

 『こうやって憤懣やるかたなしって愚痴をこぼしているのだもの。
  梵天さんの前でってところは叶ってないけれど、
  ブッダの心持ちを引っ掻き回すっていうのは まんまと成功してない?』

 『う…。///////』

いやあの、そういうことを語り合いたいんじゃなくってさ、と。
ちょっぴりお顔を赤くして、
してやられたことを 他でもないイエスから指摘されたのが、
尚のこと堪えるという、どうにも微妙複雑な落ち込みに嵌まったらしい如来様へ。
落ち込まないで〜と イエスが何とか執り成したのが昨日のお話で。

 「さあ、今日はいよいよの聖バレンタインデーだしっ。」

先週末と同様、朝からしんしんと雪が降りしきって寒いけど、
そんなものなぞ何するものぞと、むんと拳を握って見せる。
お寝坊で寒がりのイエスにしては結構早く起き出して、
布団を畳みのコタツを出しのを手掛けてのそれから。
ブッダ様特製、今朝は玉子ぞうすいにお新香とキュウリの浅漬け、
ゆうべのテンプラの残りを
オープンでカリカリに温め直したのという、
ホカホカな朝ご飯をいただくと。
食休みも早めに切り上げ、
その手をぐうに握ってまでして、意欲を見せたヨシュア様であり。

 「うん、フォンダン・ショコラだったよね♪」

楽しいことへのこの積極性が、何で他へは全く向かぬのか。
好奇心も旺盛なのに、間口が狭すぎるんだよねぇと、
子供のようにそれはワクワクと、
お楽しみだよぉvvとお顔へ書いてあるよな様子、
苦笑混じりに見やりつつ。
昨日のうちに買っておいた材料を、
冷蔵庫や戸棚から ほいほいと取り出すブッダ様。
カップケーキやブラウニーのようにシンプルで、
手順としても基本的で簡単な、スポンジケーキの一種ではあるが。
中にとろりと溶ろけるチョコレートソースが入っており、
ほかほかの生地にフォークを入れると、
それがあふれ出すのがまた、嬉しくも美味しい逸品で。

 「ココットに入れたままって作り方もあるけど、
  イエスはお皿にとって さっくり割りたいんでしょう?」

表面をちょっぴり、心持ちカリカリに焼いて、
そこへフォークを入れたなら、
チョコソースもとろりだし、生地の中身もふわふかなという、
それはワクワクな出来のを、いつぞやブッダが焼いたことがあったので。
フォンダン・ショコラといえばアレという、
堅い堅い固定観念というか、イメージが定まっておいでならしく。

 「うん。あのタイプのが食べたいvv」

というご所望なので、
じゃあとブッダが用意したのは、
いつの間にか“よく使うもの”として揃えていたプリン型。
5つ6つくらいペロリと食べちゃうだろうからと、
一応は10個見当で ココットカップも用意して、
それらの内側へバターを塗ると薄力粉をまぶしておく。
(アルミホイルで内側を覆っておくという手もある。)

 「小麦粉とココアパウダーを計って、と。」

それを合わせてから篩(ふるい)でふるって満遍なく混ぜておき、
刻んだチョコとバターを湯煎でゆっくり溶かしてガナッシュを作る。

 「ゴムベラでゆっくりと混ぜながら。」
 「は〜いvv」

甘い香りが立って来て、チョコが固形だった跡形もなくなるの、
まるで魔法でもかけてるような気分になるものか、
やたら勿体振って混ぜてるイエスにそちらは任せておき。
ブッダのほうは卵と砂糖を泡立て器で混ぜ合わせ、
卵が白っぽくクリーミーになって来たら、
ふるっておいたココア風味の小麦粉を投入し、
しっとりよく混ぜれば それで生地の出来上がり。
型にまずは半分ほど流し入れ、
そこへチョコとバターを煮溶かしたガナッシュを大サジ1杯投入し、
その上からまた生地を、八分目になるくらい足して準備はOK。
天板の上に生地を満たしたカップを並べ、
180度から200度に温めておいたオーブンで、
10分から15分ほど焼き。
ペティナイフなどで縁をぐるりとなぞってカップから切り離し、
お皿へそおっと取り出して、
お好みで粉砂糖を振ったら、
ラズベリーやイチゴ、ミントなどを添えて、
温かいうちに、さあどうぞvv

 「うわあ、いい匂いだよぉvv」

時計を見やれば、少し早めのお昼どき。
とはいえ、これとミルクティーだけで
お昼ごはんというのは心許なかろうからと。
ゆで卵と隠し味にラッキョウを刻んだのをマヨネーズで和えたのと、
輪切りのトマトとキュウリにレタスという野菜のと、
2種類のサンドイッチも手早く作り。
そちらへはコーンポタージュを添えての、後追いランチが出来ており。

 「何か順番が逆だけど。」

デザートが先だなんておかしいかなぁと、
出来上がってから はたと気づいたらしいブッダが照れたのへ、

 「だって今日はチョコが主役なんだしvv」

ここまで手際よくって何を謙遜してますかと、
口許をお髭ごと弧にしての、何とも御機嫌なイエス様。
思っていた通りのサクサクとろふわなフォンダンショコラを、
ニコニコと堪能しておいで。

 “キメ顔になると凛々しいのにねぇ…。////////”

甘いものが大好きなのは、欧州系の男性には珍しくもないことで。
食後に甘いクリームケーキをしっかり食べるし、
ブランデーを飲みつつ食べるためにと、
チョコの専門店を贔屓にしている殿方も多数。
とはいえ、イエスのご満悦ぶりは、
どこか可愛らしい朗らかさに満ちており。
傍らで眺める立場のこちらまで、
そうまで幸せにしてあげられたなんてと感じさせられ、
ほくほくと嬉しくなってしょうがなく。

 “…まあね。
  だからこそ、あの梵天さんでさえ、
  見惚れてしまっても しょうがないということなんだろうけれど。”

覇気は元より、知力的な蓄積も、真理への啓蒙度も、
恐らくは体力や咒力も、技巧的な色々も。
絶対的と言っていいほどの“頂点”に立っておいでの存在で。
そんな彼でさえ、心和ませてしまったほどに、
メシアの無邪気な笑顔は、
癒しのオーラに満ちているということなんだろうなと。

 “いくら分析出来たって、
  納得は行かないままなんだけどもねっ

どういう解釈をもってしても、
あの人に心許せる筈はないとまで言い切るブッダなのへ、

 『考え過ぎだよ、それは。』

イエスとしては、何でそこまで相容れられないのかが判らぬらしく。

 『君ってば天界でもそりゃあ生真面目だったでしょ?』

山ほどある様々な経典や書物を読破することに明け暮れたり、
解脱という心理を理解せんとするための数々の修行や苦行も、
ちゃんとこなせるか指導出来るかを
暇さえあれば確かめていたほどの、勉強好きで勤勉家でもあったのは、
イエスにしてみても ようよう記憶していることであり、

 『肩の力を抜いてって言いたくての、
  あの手この手なのかもしれないよ?』

 『そうだろか。』

自分が堅物だったのは、さすがに自覚もしているけれど、

 『でも、キミが私に“苦行好き”って言うのだって、
  あの人がそういう設定の原稿依頼ばかりを持って来るの、
  見てるからじゃあないの?』

 『う…、どうだろか。』

鋭い指摘だと、口許を歪め、
今度はイエスの側が ううと言い淀む他愛のなさに、
またぞろ“可愛いよねぇ”との和みを感じ。
憤然としていたはずが、
気がつけば…まろやかな苦笑を
そのふくよかな口許に浮かべておいでのブッダでもあり。
可愛らしいと言えばの贈り物、
スノウドームを天板の上に見やりつつ、
コタツで隣り合わせに座したまま、

 『私としては、
  私へのちょっかい以上に心配していることもあるし。』

 『え? なになに?』

ふと、口調をしんみりとさせて、
そんなお言いようをなさるものだから。
何だ何だ、キミを苦しめることは私の敵でもあるのだよと、
お顔を上げて表情を引き締めたイエス様なのへ、

 『君を奪られやしないか…とね。/////////』

ついつい零したのがそんな方向のお言葉だったものだから、

 『う…。』

選りにも選って、
キミ自身の去就に心が落ち着かぬと言われたようなもの。
イエスとしては…ぐうの音も出ず、口ごもってしまったものの。

 “だって…ねぇ。//////”

心配症だと笑わば笑え。
包容力のあるお人には、
そこに誠実さを見いだし、ころりと懐く困ったイエス。
そもそも、人を疑うということをしない人だし、
身勝手な権勢者らの利権保持のため、
ほぼでっちあげで磔刑にされたようなものだのに、
それは凄まじい刑に処され、晒されるという辱めを受けたにもかかわらず、
地にあふれる人の子らを恨むことはないまま、
あふれるアガペーをそのまま持ち続けていることだけ見ても。
彼自身が恐るべき級の慈愛を持つ、奇跡の人でもあるワケで。
とはいえ、

 『あ〜、今度は私を信用してないの〜?』

他の部分はともかくも、心変わりしないかとまで疑われちゃあ、
そこはイエスとて黙ってはおれぬようであり。

 『私の君への“アイシテル”は、
  不動にして壮大なものなんだからね。』

甘く見てもらっちゃあ困るとばかり、
ほんの一瞬口ごもったことさえ吹き飛ばし、
打って変わって、お顔も再び凛々しく引き締めて見せ。

 『何たって、普遍のアガペーに匹敵する大きさで、
  キミをこそ優先して愛しい人としている この想いをだね。』

 『あわわ…。/////////』

わあしまった、
ただ怒らせたのみならず、
臆面もなく“愛してる”を連呼出来るヨシュア様の、
求愛方面への導火線へ火を点けちゃったみたいだぞと。
疑ってないよぉ、ごめんなさい〜っと
執り成すように言いかかったブッダの手を捕まえたのが、
惚れ惚れするほど男臭い骨格の、そりゃあ頼もしいイエスの手で。

 『…な〜んてねvv』
 『う"?』

手を捕まえたまま、
よいしょと腰を上げてちょっとだけ身を寄せて来ると、

 『君が大好きだよ。だから私を信じて?』

頬と頬が触れそうなほども近くにて、
耳打ちするよに囁かれたのがそんな一言だったりしたものだから。

 『…っ。///////』

あっと気づいてお顔を上げたれば、
怒ってなんかないないと、玻璃の目許をたわめて微笑う彼であり。

 『わざとにキミをあたふたさせたりしたけれど、怒っちゃやだよ?』
 『う…。//////////』

キミの言う梵天さんの嫌がらせと、同じことしたようなもんでしょうと?
悪戯っぽく微笑うイエスだったのへ、

 『全然 同じじゃないってば。////////』

ちっとも判ってないんだから・もうと、
お顔を真っ赤にしたものの、
同じじゃないからこそ、へそを曲げることも出来なくて。


  …わたしのこと、好き?
  もちろん。

  どのくらい?
  大〜い好きvv

  わたしも、あのね?
  んん?

  あのね? あの…すきだよ?//////
  うん・嬉しいな、とってもvv


内緒話どころじゃあないほど至近の囁き合いは、
お鼻とお鼻を擦り付け合い、
吐息の温かさを互いの舌先に感じつつという、
それはそれは甘いプレ・キスもどき。
ちくちく・さりさりするお髭が気になる、
何の瑞々しい唇こそ気になるからと、
そんな言いようの途中同士で、
薄く開いた唇が絡み合っての…あとはナイショの甘いひとときを、
仲良く堪能したればこその、今日の更なる睦まじさでもあり。

 「雪、まだ降るみたい?」
 「うん。お外に出てる人は大変だろうね。」
 「そだね。」

 女の子たちは、チョコが無事に渡せるといいね。
 男の子たちだって、心待ちにしてると思うよ?なんて、

ほっかほかなお部屋で、甘甘な自家製ケーキを味わいつつ、
最愛の存在と一緒という至高の幸せ堪能中の、
最聖人のお二人だったのでありましたvv





       お題 G“離れちゃヤダ”






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  *やっぱり繰り言になっちゃったかな。
   強大な力をお持ちだからってだけじゃなく、
   色々と自負も強くて、頑迷な自分をも、
   例えば苦行っぽい仕立てにしたりして
   上手に乗せてしまう梵天さんの巧妙さが鼻持ちならなくて、
   何となく気に入らないブッダ様みたいでして。
   こうなるともう、相性の問題ってやつかもですね。

   そんなブッダ様を怒っちゃダメダメと、
   宥めてあげるイエス様の朗らかさが、
   奪われちゃったらどうしようと考えちゃう辺り。
   …ブッダ様、病膏肓っていうんですよ、それ。(苦笑)


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