人恋しき 秋の深まりに
      〜かぐわしきは 君の…

   幕 間



さすがは最聖人たちゆえ…ということか、
何てことのない平日でも、
そこここから色んな“奇跡”がお顔を覗かせるから油断がならぬ。
埠頭の水族館へという楽しいお出掛けの真最中だというに、

 “……。”

乾いた陽差しを一瞬だけさえぎった海鳥の影のよに、
ひょんな隙にも脳裏をふとよぎる事柄へと、
ついつい気持ちが逸れてしまったブッダ様で。

 『いつも うんと焼きもち焼いてるんだからね。』

バカンス中の彼なのを
浄土へ連れ帰ろうとせんばかりだった明王さんの話へ、
そうまで行動派(ある意味“リア充”)な、
手ごわいにも程があろうタイプの恋敵の登場かと。
怯えて見せたか…と思えば さにあらず、
怖いというより心配なだけと言い放ったイエス様。
玻璃の双眸をやや伏せて、
ブッダ様がたくさんの人から慕われてしまうのは仕方がない、
自分が揺るがぬなら問題はないとし、

  ブッダ本人が私を好きだよって言ってくれるから、
  何とか我慢出来てるの

ふふーと笑ったその後で、でもねと。
先の一言、
ちょっぴりほど滾ってもいる本心とやらを滲ませて付け足すという、
口説きの妙を披露されたのへの微熱は、
一夜が明けても到底引かず。

 “うう〜〜〜。///////”

ふとした間合いに その辺りをなぞってしまい、
ついつい忘我状態になってしまったがために、

 太平洋の生態系を模しましたという巨大水槽のお魚さんたちが
 ブッダ様だ、あのブッダ様がお越しだ、と
 彼へと気づいてのこと、
 少しでもお近くへと殺到する事態となってしまった、という次第

落ち着いて考えれば、
別に慌てる必要もないっちゃなかったし、
何かおきましたか?なんて言って、
素っ惚けるスキルくらい、なくはなかった彼らだが。
自分たちへの外聞云々よりも、

 一つところへ ああまでギュウギュウと密集し過ぎて、
 魚たちの酸素が足りなくなっては可哀想だ、というの

咄嗟に優先出来るところが、神や仏たる慈悲深さの現れか。

  (でもね、その前に やっぱり落ち着け)笑

少しでも離れようと、
慌てて逃げ込んだのは、階段に通じているフロアで。
そのまま大急ぎ、人の声のして来ない下の階へと駆け降りた。

 「ああ、びっくりした。」
 「そ、そういえば、
  私たちって、あんまり動物園とか行ったことなかったものね。」

こういうことも起こり得るというの、
初めて身をもって体感しましたと共感し合う。
びっくりしたまま、いきなりの駆けっこを敢行したため、
息が上がってしまった…というよりも、
躍り上がってしまった胸元を、それぞれに押さえる二人だったものの、

 「あ……。」
 「ここって…?」

あれ、しまった、
関係者以外は立ち入り禁止の
バックヤードへ入ってしまったのかなと。
ついついそんな風に思えたのは、
彼らが立っていた場所が、
さっきまでいた陽が燦々と満ちていたフロアとは打って変わって、
随分と薄暗いフロアだったからで。
物置きや職員しか通らぬ通路なら、
常時明かりを灯してはいなかろと思ってのそんな把握だったが、

 「…そか、ここって。」
 「うん。クラゲの…。」

いきなりの暗転、目が慣れずで尚のこと良く見通せなかったが、
そういえばと思い出したのが、地下1階は何のフロアだったのか。
この水族館のイチオシとされてもいた、
そこはクラゲを集めて展示しているフロアであるらしく、
おやまあと気づいたと同時、
その静かな空気に ついのこととて咳払い。
全く無人ということはないけれど、
薄暗い空間だからという自然な反応か、それとも
幻想的な雰囲気を味わいたいか、
居合わせるらしき何人かも静かにしているようであり。

 「…わぁ。」

わざわざ壁も黒塗りにし、照明はLEDでの装飾的なのが少しほど。
後は、壁へ埋め込まれた水槽の狭間に掲げられた
説明文を読み取るためのものが、極力下へと向いて灯されているくらいで。
だが、そうされているのがようよう判る、空間の美しさよ。
水槽内にも特に明々とした明かりは仕込まれてはいない。
だが、それが不要なほどに、
水槽の中、クラゲたちが縁やら触手やらを七色に光らせていて。

 「順番は逆なんだろうけれど、
  何か電飾を仕込んであるような光りようだよね。」

 「うん。」

半透明の笠の上、中心へ向かって集まる線が、
緑や青、赤という蛍光色で次々と光るものがいるかと思えば。
笠の縁や輪郭全体が黄緑色に発光している、
夜中の沖へと浮かばせるブイのようなのもいる。
長い長い触手が、ゆらめきながら
ネオンサインのようにチカチカと細かい間隔で点滅するもの、
光ることはないが、
白く透き通ったその身がゆぅらゆうらと 群れとなってたゆとう様、
いつまで見ていても飽きないような、
愛くるしいお饅頭みたいなのもいて。
暗くしてある空間に、そんなクラゲたちが舞う様は、
成程、ちょっとしたプラネタリウムのようでもあって。
星空みたいなと謳っていたのが頷けるなぁと、
瞬きするのさえ忘れて見入っておれば。

 「…………え?」

そんな幻想的な水槽を、だが、
あんまり熱心には見ていなかった誰かさんの手が、
両方ともがかりで、こちらの頬を包み込もうとするので。

 「私たち、暗がりに乗じるような初心者ではないのでは?」
 「いや、でも、なんかその。///////」

 公共の場でっていうのは、道徳上善いこととは思えないのだけれど。
 こうまで暗いのだから、誰も見てないよvv

こらこら、
それって公園の暗がりで
怪しい情事にふけるのと同じ…いやあの、その。////////

 「……。///////」

 聖人であらせられるヨシュア様の名誉のために言うと。
 何もスリルを味わいたくなったとかいう
 蓮っ葉な好奇心が頭を擡げたとかいうのではなくて。

 “だって、ブッダが…。////////”

何かへ怒っている彼でなし、
カッと激しく光っている訳じゃあないけれど。(…笑)
その白い肌が薄暗がりの中で
それは高貴に、光っているかのように浮かんで見えて。
それでどうしてもぎゅうと抱きしめたくなった。

 独占したくなったような、
 誰にも見せたくなかったような、

 出来ることなら
 この身へと取り込んでしまいたいような。

そんな気がして、思わず伸びた手が腕が
気がついたら 彼を捕まえていたのだもの。

 深瑠璃のきれいな眸と、艶冶な口許と。
 清涼に透く白い肌、嫋やかな腕、
 なだらかな肩に、頼もしい背中。

やさしくて柔らかくて、甘くて良い匂いがして。
眸と眸が合うと、困ったように視線が揺らめく君なのへ、

 “ごめんね、やっぱりわたし我儘だね。”

薄い頬は微笑みを浮かべてもいたけれど、
玻璃の瞳がやや力なく伏せられたのへ、

 “……イエス?”

どこか神妙な顔をする神の子へ、
しょうがないなぁと、やっぱり流されておいでの誰か様。(笑)
せめてものという抵抗に、
背中へと回した腕の先、相手の貝殻骨へ掴まる前に、
指先をちょちょい順番に合わせ、
印を結んで…防犯カメラの角度をずらしたのは、
彼なりのヲトメ心のなせる技か。

 “…だって、さっきから
  誰かに見つめられているよな気配が。/////////”

するんだものと、思ったのごと
大好きな温みと匂いに取り込まれ。
ますますと暗い腕の中、
すがるようにイエスの背を掴みしめれば。
彼の腕の輪が小さくすぼまり、
吐息の熱で唇の在り処が見つかったか。
それでもまずはと、お鼻とお鼻を擦り合わせてから。
優しい口づけが、しっかとした抱擁と共に
初々しい如来様を捕まえてしまったのでありました。


  「 ………っ。あ。////////」

  「ありゃ。ほどけちゃったねvv」







  to be continued. ( 2013.10.27.〜 )



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  *いやなに、インターバルは必要なお二人だったので。
   ……ってのに、
   もっと熱さましが要るようなことをしちゃって
   どうするんだ、イエス様。


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