キミが隣りにいる奇跡

       〜かぐわしきは 君の… 8

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台風並みの暴風雨が暴れまくったのは、
11月も終わりだという名残りを惜しんでのことだったのか。
だとしてもいい迷惑だとしか言いようがない、
相変わらずお騒がせなお日和が多い 本年今年なようで。

 『天気図がまた、台風みたいに渦を巻いてるものねぇ。』
 『ホントだ。』

日本の冬と言えば、西高東低という言い回し。
夏場は ハムエッグみたいな高気圧が
太平洋に のへーと横たわってる構図がお馴染みなように。
冬は冬で、
西にシベリア高気圧が張り出すのを、
千島列島で居座るカムチャッカ低気圧が迎え撃つため。
気圧の差が大きいがゆえの、
隙間の細かい タテ縞の等圧線がぐるんぐるんと渦を巻き。
そこを冷たくて勢いのある風が
北から南へ びゅびゅんと吹き抜ける…という理屈なのだそうで。
渦を巻いた低気圧と来れば、なるほど“台風”と同じこと。
ただでさえ気温が低いところへ、強い突風が吹きつけて、
西ではランチの、東では会社帰りの人々が震え上がった、
11月最終週の頭であり。
そういうお天気になるよという予報を見ていたものだから、
一応の覚悟はあったれど。
夜陰にアパートががたがたと震えたほどの…は大仰ながら、
もう寝入っていた夜更けに
窓が がたがたたっと鳴り響いたのはブッダも覚えていたし。
いつもの習慣から、
ジョギングへと繰り出した早朝のご町内のあちこちにも、
どこかから飛んで来たのだろう、
菜園用か いやに大きなビニールのシートだの、
壊れてしまった傘だのが側溝に落ちていて。
ついつい拾い上げては、ごみ置き場まで運んでしまったほど。

 “雨上がりだからかな、空気は気持ちいいのだけれど。”

ただ、風の強いのはまだ続いているものか、
時折 ひゅぅうんと威嚇的な響きと共に吹きつける風があり。
それへ当たると さすがに、
首や肩をすくめたくなるよな寒さを感じもする。
いつもそこで折り返すお宅の、サザンカの生け垣の根元にも、
赤紫色の花びらが無残にも水たまりの中へ散っており。
諸行無常を説く釈迦如来ではあるが、
この有り様には哀れを感じもし、ちょっぴり眉をひそめてしまう。
だがだが、来週は 12月、師走へと突入するのでもあり、
もっと本格的な寒さもやって来るのだ。
あれこれへ寂寥を感じているようでは まだまだ余裕、
晩秋の余韻に浸っているようなもの。
年が明けてもっと厳しい極寒ともなれば、
福耳がきんきんに冷えきってしまうことへの対策を講じねばならず、

 “……ちょっと待ってくださいな。”

  はい?

 “それではまるで、
  私が自分のことしか考えてないようではありませんか。”

  あ、これは失礼しました。

暑いのに弱いだけじゃあない、寒いのにもすこぶるつきに弱いイエスへの、
暖ったか大作戦も講じねばならずで。
やっぱり呑気に構えてはいられないブッダ様であり。
風邪を引かないにもかかわらず、
随分と寒さに弱いという体質なのは、果たしてお得なのかどうなのか。

 “どうなんでしょうねぇ。”

イエスは 私よりもっと暖かい土地が生まれ故郷ですから、
余計に堪えるのでしょうねと。
こっちの言い直しは 素直に受け入れなさった如来様。
というのも、
朝のジョギングという習慣からして通年で変わらぬ彼と打って変わって、
冬の寒さが深まれば深まるほど、
ちょいと困った習性が現れるヨシュア様だから。
それを思うとちょっぴり気が重くもなるブッダ様であるようで。

 “まあ、最終兵器はこっちにあるのですから、
  それほど途轍もなく難儀ということもないのですけれど。”

せっかく気持ちよく眠っているのにと思うと、
バカンス中でもあるのに、それを妨害しちゃうのはいかがなものかと。

 「………。」

それはそれは安らかで、且つ端正な、
安心しきったお顔で眠る、愛しいお人の無心な寝顔を思い出したか。
ちょっぴり迷いが生じてしまうブッダ様だが、

 「〜〜〜っ。」

いやいやいや、
そのような不摂生は健康にもよくないのだと思い直し。

 “何も この寒風吹きすさぶ中へ
  いきなり放り出そうというのじゃなし。”

うんうん大丈夫、酷い仕打ちにはならぬと、
柔らかい指をギュッと握り込めてつくった“ぐう”の拳に
言い聞かせる彼だったの、だけれども…。

 なぁんか既に
 方向が逸れ始めているような気がするんですけれど、
 ブッダ様ったら。(苦笑)




     ◇◇◇



松田ハイツの二階の東端、
一見、何とも素っ気ないドアを開け、
ただいまぁと小声で呼びかけたが、案の定 返事はない。
外よりはまだまだ暖かく、
寒風に晒されていた頬や耳が じわぁっと温かくなって来て。
指先なぞ、じんじんと痺れているかのようなのを
一気に引き締めるかのように、
冷たい水でざっと手を洗ってから うがいをし。
トレーニングウェアの上下を
普段着にしている厚手のトレーナーとジーンズへと着替えると、
その上へエプロンを着付けつつ、
炊飯器を確かめてから、おみそ汁の段取りをし。
おかずは 昨日の残りものが心許ないからと、
棚から味付け海苔を出そうと仕掛かり、
ああそうだと思い出した、
頂き物の練り天を冷凍庫から出すと、オーブンで解凍し、
ショウガを少しほどおろすとちょんと載せ、
醤油を添えて、さて出来上がり。
それらを終えてから、やっとのこと居室へと向かえば。

 「…う〜ん、やっぱりなぁ。」

自分が寝ていた布団だけ、簡単に畳んで壁際へと寄せた、
ジョギングへ出掛ける前 そのままの光景が目に入り、
ついの苦笑がブッダの口許へと浮かぶ。
おみそ汁の匂いでも効き目はなかったようであり、
頭まで布団をかぶったイエスのお顔は、残念ながら隠れたまんま。
明るくした方が起きやすいかな、
ああでもまだ寒いから引いといてあげようと、
カーテンもそのままだった六畳間だが。
さすがにもう陽も昇っていてのこと、
そのカーテンへ窓の陰が色濃く落ちているくらいであり。
こうなったらむしろ開けた方が暖かいからと、
窓辺へ寄って、容赦なくの勢いよく、えいと開け放ってしまえば。
室内へなだれ込むのは
畳や布団カバーに白く弾ける、目映い明るみ。
黎明の中で見た、朝一番の 矢のようだった暁光は、
もうちょっと濃くて力強い色をしていたが、
さすがに高度が上がったことで拡散されて、
穏やかな色合いに落ち着いたのだろうと思われて。
それでもこれをお初に見る分には十分眩しいか、

 「〜〜〜。」

物音にか眩しさにか、刺激されてのことだろう、
もそそと動いた住人入りの布団。
その襟元に頭頂だけ覗いていた頭が、
わずかずつ引っ込んでゆくものだから、
おやまあと もう一度苦笑をしたブッダ様。

 「イエス、もう朝だよ? ご飯も出来てるよ?」

声をかけたと同時、炊飯器も同調したか
ぴぴーぴぴーとアラームを鳴らして起こす加勢をしてくれて。

 「ほら、炊きたてだぞって、炊飯器も呼んでるよ?」
 「〜〜〜。」

今カーテンを開けた、腰高窓側に頭を向けて寝ている彼らなので、
イエスの枕元は、すぐ足元も同然の位置。
なのでと、そこへそのまま膝をつき、
布団の襟元近く、肩がある辺りに手を置き、
ほらほらと そおと揺すぶると。
起きかかってはいるらしく、
う〜んとも む〜んとも聞こえる声でのお返事はある。
夏場なかなか起きられない彼なのは、
ついつい遅くまで見ているらしきPCのせい、
つまりは夜更かしが原因だったのだが、

 “昨夜も同じくらいの時間に寝たはずなのにねぇ。”

何しろ狭いので、布団を敷くにはコタツを仕舞わねばならぬ。
なので、寒さ除けも兼ねてのこと、
イエスも布団にもぐり込んでのネサフとなるのだが、
すぐ傍らにいるブッダが気になるものか、
このところではPCはいじらぬまま、
他愛ない話なぞしているうち、
同じくらいに寝オチというペースでいたはずなのにねぇと。
決して寝足りない身ではないはずなのにと思いつつ、

 「ねぇ起きてよ。おみそ汁が冷めてしまう。」
 「う〜〜。」

毎度お馴染み、代わり映えのしない文言だが、
話しかけ続けなければ、
またぞろ寝入ってしまうイエスなので。
布団越しでは届かぬかと、
見えている頭のほうへと手を伸ばし、
もさりとした髪へ指を通し、ゆっくりと梳いてやれば、

  …今朝は何ぁに?

まだちょっと覚束ぬ声ながら、そうと訊いて来るのへ、

  「小松菜と油揚げ。」

応じてやれば、
あ・それ好きvvとのお返事が布団越しに聞こえて。

  「それと、せんに頂いた練り天を温めたから、
   ショウガ醤油で食べてね。」

少し深めに指を入れれば、
うん…vvと頷いた動作が伝わって来て。

  「あとは、
   昨夜のゴボウとレンコンのキンピラと。
   高野豆腐の煮染めが少しと、
   ラディッシュの甘酢漬けと…。」

向こうを向いてたイエスが
こちらへぱふりと寝返りを打ったので、
ついのこととて言葉が途切れる。
昨夜ぶりの愛しいお顔は、だが、
まだ眠いからだろうか、
切れ長の目許の上、薄い瞼が
まだしっかりとは持ち上がっておらず。
それでもこちらを じいと見上げて来るので、

 “何か言いたいのかな?”

んん?と、深瑠璃の眸を見張り、
少しほど身を前へと倒して、お顔を近くへと寄せたれば。


  「キスしてくれたら起きるvv」

   ………………………はい?


  さて、ここで問題です。


    1.新妻 Ver.
     そ、そんな恥ずかしいこと出来ないよぉ////////と
     真っ赤になって怯みつつ、
     かと言って、強く撥ねのけも出来ずに困惑するばかり。

    2.恋女房 Ver.
     はいはい、ちゅーだねvvと、
     貫禄の笑顔 プラス仄かな色香つきで、
     それは丁寧に応じて下さるvv

    3.古女房 Ver.
     馬鹿なこと言ってないで
     さっさと起きなさいとにべもないものの、
     起こしてあげようとする甘さがまだあるようなので、
     粘れば何とか、調子に乗ってもうとか言いつつ、
     しかも、こそりと照れつつ……vv


  「………っ

  うあ、いきなりバックライトがカッと閃光を放ちましたっ。
  どうやらブッダ様のお怒りに触れたらしいです
  さようなら、皆さん、さようなら……


  …………という、冗談はともかく。(まったくです


 「え、えっとぉ。///////」

あまりに唐突な申し出なのへ、
頭の中が真っ白くなり、一瞬 固まってしまったブッダ様だったが。
止まってしまった手のひらへ、
イエスの側から頬をすりと押し付けたことで。
はっと我に返っての、それから…あのあの。////////

 い、いつもはそんなコトしてないじゃないか。////////
 うん、してないよね。

悪びれぬまま、むしろ屈託なく イエスは微笑っているばかり。
枕の上の ふふーという笑顔は、
口許の描く弧の形といい、特に悪戯っぽいそれでもなく。
ということは、冗談ごとや からかうつもりでの言ではないらしく。

 「うう……。/////////」

更なる言い足しもしないまま、
ただただ じーっと見やって来るばかりのイエスへ。
すぐ間際の枕元で、真っ赤になって もじもじしつつ、
イヤだのダメだのと強く言えないブッダなことが既に。

  だって好きなんだもの///////、と

だから、
恥ずかしいけど拒めもしないのだと、
その躊躇という態度で言っているようなものだってこと、

 “気がついてはないんだろうなぁ…。////////”

ごめんね、試した訳じゃないの。
私も言ってから気がついたの、そうだって。
今日も今日とて やさしくて可愛いキミが、

 「大好きだよ、ブッダvv」
 「〜〜〜〜〜〜っ。////////」

朝日の明るみの満ちる中、
いつもはそれは清楚で白い頬を
熟れたように真っ赤にしたキミが、


   とってもとっても綺麗で大好きvv








    お題 @ “おはようのちゅーvv”







NEXT


  *懲りてません。(どんなご挨拶だ、おいおい)
   またまたお題に挑戦ものをお届け致します。
   師走を目前にした、
   いやさ 間違いなく食い込むだろう頃合いに、
   何やってんだかなぁ…。(苦笑)

   例によって、テーマはもう少し書き進めてからね?


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

bbs ですvv 掲示板&拍手レス


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