キミが隣りにいる奇跡

       〜かぐわしきは 君の… 8

     2



日本の冬の寒さにはまだ馴染めぬか、
特に明け方の寒気はひとしおなため、
日頃以上に なかなか起き出してくれなくなるイエス様。
各地の紅葉もこれからで、
まだまだ秋のうちだろうと高をくくっていたブッダ様だったものの、
そろそろ“冬”が本気モードに入りつつあるものか、
急な冷え込みもどんどん加速度をつけつつあるようで。
夜更かしをしてはないはずでも、
布団の温もりという魅惑の空間から なかなか剥がれてくれぬ、
困ったヨシュア様だったりし。

  最終兵器というか、切り札というか

コタツが出せないんだけどと言えば、
それは大変と思うものか、何とか起き出してくれはするので、
一頃よりは手が掛からないといや掛からないのだが、

 “それもなあ…。”

無理から起こすこと自体、
バカンスだってのにと思えば、
何だか気の毒なような気がしないでもないし。
いやいや、そこまで怠惰ではいかんと
ぶんぶんとかぶりを振っての割り切ったブッダ様が 次に感じたのが、

 “私の起こす声よりコタツ、なのかなぁ。”

朝ご飯にもなかなか揺るがぬものが、
ころっと起き出されると、それはそれでちょっと…
ぬぁんていう、
無機物への悋気なんてな 不毛なものを構えていたらば

  今朝方のイエス様は 何でだろうか一味違っていて。

 『キスしてくれたら起きるvv』
 『………はい?』

あまりに思わぬ流れだったものか、
その大きな双眸を
朝っぱらから うんと見張ってしまったブッダ様だったのも
見ものといや見ものじゃああって。

 『え、えっとぉ。////////』

そんな習慣なんかないのに何て唐突に…と、
不意打ちにも程があったか、
大きく戸惑ってしまう彼だったものの、

  何を馬鹿なことをと一蹴せず
  悪ふざけは止してと怒りもせず

ただただ含羞んでの、困惑するばかりな彼だったことから、
言った側のイエスもまた そうなってから気づいたのが。
今のブッダは、好きという気持ちを、
それが宿るイエスを、何より優先しているということで。

 “ありゃ…。//////////”

しまったなぁ、困らせるつもりはなかったのにねと。
イエス様にとっては、
愛しき想い人の可愛らしさ、
あらためて再確認させていただいた朝となったのだった。


  ……………………で。


困らせてごめんねと言うつもりで、
やっとのこと、寝床から身を起こしたところ、
そのお膝のすぐ前へ、ずいと彼からもお膝を進めて来たブッダ様。
思いがけない運びだったのへ、
イエスが え"?と、
間近になった愛しき人へその視線を向けたれば。

 「こ、これからの習慣にしちゃうワケじゃあないんだからねっ。」

随分とムキになってのこと、そんな言い訳までわざわざつけると、
こちらの両頬を両手で挟み込むようにして捕まえてから、
息を止めての“いっせぇの”という、
一種 我慢系の心の声が聞こえて来そうな勢いで、

 「……え?////////」
 「〜〜〜〜っ。/////」

  “えええ〜〜〜っ。///////// つか、……わあ。”

前歯が当たるかという強引なキスは、
はっきり言ってスリルが一杯。
微妙に、心持ち、背後へと引くことで、
すんでのところで痛い想いだけは避けられたものの、

 「  あ、ごごごごめん。///////」
 「いやあの、ブッダこそ大丈夫だった?」

新しい種類のドキドキをイエス様へ運んでくれたのでした。





    ◇◇◇



今にして思えば。
じっと見やる眼差しの、張りようや緩めようといった加減だけで
何かしらを酌んでくれてのこと、
含羞みながらも“…うんvv///////”と頷いて、
それは可憐に応じてくれるようになってたキスだというに。

 だからこそ、もう抵抗も薄れたかと思ってしまったは、
 イエスの浅はかさだったということか。

余程に盛り上がってないことには、
実はまだまだ ああまで緊張しちゃうレベルだったらしくって。
覚悟の顔をした上で、息をとめるトコなんて、
青函トンネルじゃないんだから、とツッコミたくなったほど。
(む、むつかしいネタを……)
  ※初夢篇 参照 (あ、息を止める云々はDVDネタだったかな?)

 “まあ、朝っぱらからというのは、
  さすがにムードもへったくれもない話だし。”

混乱を齎した当の本人様だというに、
言うに事欠いて
西欧のモーニンキスの習慣自体を足蹴にしちゃった辺り。
イエス様もまた、愛しいブッダを優先しておいでなのは言うまでもなく。

  ……相変わらずなお二人です、つまりは。(大笑)

布団を上げてコタツを出して、
ブッダの心尽くしの美味しい朝ご飯をいただいて。
その間に洗濯機が頑張って洗った洗濯物を干し出して、さて。
今日は特に予定もなかったので、
キッチン回りをざっと整頓したブッダも、
早々にコタツへ戻って来るとPCを開いていたイエスと目が合って……

  「?」
  「♪」
  「〜〜。//////」
  「……vv」

  てぇ〜い、判るように話せ、判るようにっ(笑)

というか、
さすがは以心伝心…というほどのことでもないような、
視線とお顔の傾けようくらいで互いの意が通じる、
それはそれは些細なやり取りだったまでのこと。
ブッダのコタツでの定位置は、
食事どきなど基本的にはイエスの真正面に当たる対面側だが、
テレビや雑誌、PCなど、
何か一緒に観ようよという構えのときは
すぐの隣りになる辺へ座っての寄り添い合う格好になる。
今朝はちょこっと、甘いめのドタバタがあったせいか、
翻弄された格好のブッダとしては、
その含羞みがなかなか引かないでいたようで。
まだちょっと遠巻きでいようと思ってでもいたものか、
傍らまで戻って来たのに、
お向かいへと腰を下ろそうとしかかった彼だったものだから、

 それをじいっと見やったイエスだったのへ、
 ちゃんと気づいての 「?」 と
 目顔で“なぁに?”と訊けば。

 こっちへおいでよとのお誘いの意から
 それは朗らかに、
 イエスが にっこし 「♪」 と微笑って見せたので。

 まだ熱さましの段階だったブッダとしては、
 いやあの、うっとぉ 「〜〜。//////」 と、
 躊躇と含羞みに 心が たゆたったけれど。

 いいじゃない、ねぇねぇ 「……vv」 と、
 ちゃんと大人の作りをした、
 なのに無垢な透明感をたたえたお顔をほころばせ、
 玻璃の双眸、柔らかくたわめて見上げて来られては、

  「〜〜〜。//////////」

ブッダにとっては
引き寄せられなくてどうするかという魅惑の君だもの、
これはもうもう従ってしまう他はなく。
ただ、やっぱり癪ではあったから、

 「…なぁに?」

呼んだからには話があるのでしょう?なんて、
お隣へと腰を下ろしつつ、
可愛げなくも精一杯の片意地張ってのこと、
平気な振りで毅然としたお顔をする。
そんなブッダだったのへ、

 「うん…。」

まずは顔を見、
こたつへ足を入れた仕草に合わせ、少し傾けた胸元や、
自分の膝へ布団をかぶせる所作の丁寧さを見。
それらの優雅さへ口許が更にほころびかかっていたイエスであり。

 「??」

何の応じもないことへ、率直な不審を覚えたか、
たちまち鎧う気概も緩んでしまったブッダ様、
それは素直ににじり寄る態度を見せたほど案じてしまわれ。

 「イエス?」
 「ああ、えっと…ごめんごめん。」

文言の殊勝さに相反し、
その口許は ふふーvvと隠しようのない笑みをあらわにしていて、

 「用も話もないんだ。
  ただ傍にいてほしかっただけ。」

 「う…。/////////」

何の衒いもなく言ってのけるその態度へ、
ううと口ごもったものの、
そんな言いようがありますかという反発が出る前に、

 “…だよねぇ。//////”

ブッダのなだらかな肩がすとんと落ちる。
そも、用がなくては近寄ってはいかんというよな間柄でもなかろうに。
むしろ、用が出来たら“(それを)片づけるから待っててね”となるのが、
今の彼らには正しい順番であったはずで。

 “意地を張っても詮無い、よね。////////”

そも、妙な悋気というかわだかまりがあったせいで、
思わぬ運びへ柔軟に対せず、
結果、振り回されてしまったわけで。
羞恥に見舞われた反動から、
ともすれば子供っぽい次元でのそれ、
片意地を張って つれない態度を見せてしまったブッダなのに。
そんなの物ともせず、好きだからを優先して
“ごめんね”と擦り寄ってくれた素直なキミで。

 「…………私こそ、ごめんなさい。」

え? 何で君が謝るの?
そもそも私が突拍子もないこと言い出したから…
とか何とか、そこもまた素直ならではな気性からか、
最初から浚おうとするのは ちょっとつや消し。

  だったので

 「…え?」

お隣という微妙な間近から、
まずはと手を延べ、
その人差し指で肉付きの薄いイエスの口許に触れる。
唐突な運び、しかも意味が見えなくてか、
とりあえず言葉を途切らせた彼なのへ、

  ああ、何て言えばいいものか
  こんなときに、イエスはいつも何て言う?

指先が触れている少し乾いたこの唇で、
いつも彼は何て紡ぐ? 私へ何て言ってくれる?
思い出すだけで、甘い含羞みが込み上げて来るから、
今だけはそれに追いつかれる前に、

  「好きだよ、イエス。///////」
  「………っ。////////」

やっぱりドキドキするけど もう平気。
しばし見つめ合ってから、
差し伸べた手を取られ、そのまま自分の頬へと伏せるイエスで。
甘えるようなその仕草が愛おしくてたまらず、
手のひらへと口許を伏せられるのも、
特別なキスのようで心地がいい。

  そう、
  キスしてくれたらの一言へ、
  今更どうして怯んだものか。

そんなつもりはなかったのだろに、
受け流すことすら出来なんだ私を庇う格好、
からかってごめんねという顔になったキミ。
触れられることへまだ慣れぬうち、
いちいちビクビクしていたそのたび、
ごめんね わざとだったのと、お道化てくれたのと一緒だね。
そんなこんなを さらりとこなせるイエスは、
純朴素直でありながら、同時にずっと大人なんだと思えてやまぬ。

 “私のほうこそ…。”

好きと言えず、キスに戸惑うほど物慣れぬままならば、
いっそ素直に甘えればいいのにね。
そう、こんな風に……。

  「………。////////」

そのまま そおと眸を伏せると、イエスが案じるような顔をする。

  「……ぶっだ?/////////」

ああ、いい声だね。
これまで一体どれほど、この名を呼んでくれたのかな。
それを思うだけで面映ゆくなる。
気持ちの高まりに合わせ、心を鎧う鍵をふっと緩めれば、
頬へ肩へ背へ、さぁっとあふれ零れる冷たい感触。

  「…あ。/////////」

意識せずともという等級の集中から、
それは堅く結っていた螺髪を自らほどくのは、

 “あなたへ甘えたい”との意思表示だと。

いつかそっと囁いたことがあったよね?
畳へ手をつき、軽く身を浮かせ、静かににじり寄りつつ、
やや小首を傾げるようにして見せたのは、
甘えてもいい?との了解を得たくって。
そのままますますと近づけば、
キョトンとしていた幼さが、甘やかで鷹揚な大人のお顔へ塗り変わり、

  「ブッダvv」

おいでと迎えてくれての、頼もしい腕の中……。


  ……ねえ
  んん?
  重なった唇って、ハートの形に似ていない?
  そんなこと考えてたんだ。///////
  いやいや、集中してたからこそvv
  うそ。
  聖人の私が嘘なんかつきませんたら。


相手の双眸しか視野に入らぬほどの間近で見つめ合い、
取るに足らぬこと、囁き合ったのも束の間で。
甘い吐息が交じり合うのへ、
どちらからともなく引かれ合い、
ハートの形を確かめたいかのように、
柔らかいところを深く浅く、互いに食み合うお二人で。
いつの間に外したものか、
窓の下へと転がっていた茨の冠には、
輪が保てないほどの大輪の紅ばらが多数、
はち切れんばかりに咲きそろっておりました。








    お題 A“ハートマーク”




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  *いつものノリで書けると思ったら、
   案外と難産です、おかしいな。
   意識すると上手くいかないっていうのはホントだったのね。
   そんな訳で、テーマは…まだちょっと待ってねvv


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