キミが隣りにいる奇跡

       〜かぐわしきは 君の… 8

     3



日本の12月は、いわゆる“歳末”で
今はともかく昔は総決算の月でもあり。
いろんなお店の“掛け取り”という人が
ツケ払いを回収しにと町じゅうを駆け回ったのを先鋒に。
色んなことへの始末をつけねばと、
日頃威容を保って厳然と落ち着いているはずの
師範や師匠まで駆け出すほど忙しい月とされており。
師と言っても今や色んな“せんせえ”がいる時代。
“せんせえと、呼んで吐月峰(はいふき・昔の灰皿のこと)捨てさせる”
じゃあないけれど、
特に何かを弟子へ教えるでもない政治家や金満家まで
そうと呼ばれてちやほやされる中、

 【 シッダールタ先生、急な依頼で申し訳ないのですが。】

  ここにも先生と呼ばれる人が、そういや いましたねぇ。(う〜ん)

確か、少し前にも“年末進行”だという運びで、
情報誌『R-2000』への原稿依頼にと、ブッダの元を訪のうたはずの、
天部であり敏腕プロデューサーの梵天さんで。
(参照;人恋しき 秋の深まりに
      番外編 『
シッダールタ様の秘めごとは』)

 【 ? 珍しいですね、直にではないとは。】

スマホへ掛けて来た電話でというのも珍しいことだし、
しかも、お風呂屋さんに行って、夕食も終えて、
後は寝る頃合いまでを待ちつつ、
まったりとTVを観ていたという随分と遅い時間帯だ。
企画遂行のためならば、
時に礼を失するような運びになっての、
結果として疎まれるような事態になっても構わぬとする、
仏教の守護である“天部”としてそれでいいのか はなはだ疑問なほど、
そりゃあもう強引なお人じゃああるが、

 “だからこそ、
  生真面目なところが災いし、礼儀や義理堅さに弱いわたしには、
  直接 面と向かってという 礼を尽くした格好の、
  断りづらい依頼の仕方を続けていたのだろうに。”

さすがに もうそのくらいの心積もりや基本姿勢は
しっかと読んでおいでだった、シッダールタせんせえ。
だが、だからこそ、
何でまたこんな、親しい相手へでも ちょっと順番のおかしい
唐突すぎる依頼の仕方になっている彼なのかと。
関わるとロクなことにならんぞという先入観よりも、
断って突き放すのはいつでも出来るから、
こうなった事情を聴いてみようという関心を持ってしまった辺りが、
そこは慈愛の如来様だから、やっぱり甘いです、ブッダ様。

 【 それが、新年号の宣伝に“悟れアナンダ”も掲載という旨を…。】
 「チェックしなかったなんて、あなたらしくありませんね。」

それってもしかして確信犯でしょうか、
そうでないというなら尚更に、そんな“事故”を放置した責任者が、
期待した読者へ向けて平に謝る事態であり。
もしかせずとも謝っていただく側の立場のわたしが
駆り出されて帳尻を合わせることではないと思うのですが、と。
そこは“ビジネス”のお話なだけに、
理路整然、すっぱりと言い放つ売れっ子せんせえだったりし。
そこへと返された言い分はというと、

 【 今回は特別に、
   極楽浄土や天乃国以外の遥か遠方、
   上位階層からの引きもあったものですから、
   宣伝部が妙に張り切ってしまったらしいのですよ。】

 「…上位階層?」

天界は微妙に精神世界でもあるので、
それと判らぬ形でところどころが複雑に輻輳しており。
遥か遠い空間だが、特別な咒や力があれば一足飛びに行き来出来るとして、
それが可能な存在が通過した余燼、
神将や高位の天使が身にまとっていた格好で
他所から持って来てしまった風の噂とか気配とかいうものが、
思わぬところで思わぬ間合いにて大きにウケてしまい、
一大ムーブメントにまでなってしまうこともあるそうで。

 【 発生時期も背景も宗教観も、
   各々で大きく異なるにもかかわらず、
   どこの神々もこぞって使い魔に地上の獣を用いるのだって、
   随分と昔のペットブームの名残りなのですから。】

 「仕事を受けさせたいのか、からかってるだけなのか、
  そこだけは はっきりしてくださいな

おおう、ブッダが光っているぞと、
双方の会話までは聞こえぬイエスが、
じわりと激怒しかかっておいでのシッダールタ先生なのへ
コタツで開いていたPCの陰にて ややもすると怯んでおれば、

 【 仏敵との対峙を繰り広げているあちこちの要衝、
   戦地や前線で、異様に評判が集まっているのだそうで。】

……何ですか、そりゃ。
魔王や鬼など手ごわい相手が怒涛のように押し寄せる戦場ばかりで、
一縷の隙さえ許されぬほどの、
緊張感に満ちた厳しい戦地ばかりと聞いてたんですが。
戦域によっては、
雑誌に目を通したり、ほんわか4コマまんがにウケたりする
そんな余裕もありということでしょうか?
(う〜ん)

 「…それって、あなたか帝釈天あたりが
  余計なセールストークをばらまいた結果なんではないのですか?」

何せ、一応は彼らも神将。
平穏な聖域や土地にての ビジネスという格好の戦さのみならず、
本身の武器を手にし、重厚な武装をまとって、
遠方空域や辺境の要衝へ、その身を投じることもある存在。
…というか、そっちがそもそもの本質だろうと判っておればこそのことと。

 “そう簡単には 謀
(たばか)られませんよ。”

そこはそれ、浄土の宝珠、叡知の結晶、
比類なきほど聡明な如来様なだけに。
愛するイエス様以外へは、慎重にも疑念を持ち、探りを入れること
たまには(相手によっては?)辞さないブッダ様であるらしく。
(拍手お礼SS 参照ってでしょうか・笑)

 【 おやおや、私たちは そうまで信用がないのですか。】

何せ相手が相手だし(おいおい・笑)、

 「知略という点では油断が出来ぬということです。」

ごもっともな用心ではあるけれど、
何とも冷酷な言いようなのへ、室内の空気がピンと冴える。
きっと魔王へと対するときは
こんな姿勢で毅然と構えたブッダ様だったのだろう、
そうそうだだ甘くも優しいばかりでもないのですよという一面も
ご披露していた釈迦牟尼様だったのではあるが。

 「……。」

そんなやり取りの片側だけを聞いている格好のイエス様がぽつりと、

 「…ブッダが私の言うこと為すことへ警戒しないのって、
  どうせ複雑な搦め手なんて使えないって思ってるからなの?」

 「………………え"?」

権謀術数というか、腹の探り合いというか。
そんな いかにも高度で熾烈な丁々発止を繰り広げる彼らなのへ。
あまりの迫力へビクビクと竦んでいたものがどこでどう転じたか、
そんな形であれ ただただ感心していたらしいものが、

  ……ややあって

私とのやり取りにこういうスリリングなものってあったかなぁと、
そういう方向へと、その想いが至ってしまった彼なのであるらしく。

 「いやあの、だってイエス、君は争いごとは…。」
 「禁じているのは、君だって同じじゃないか。」

何も相手を完全に否定してのこととか、
凌駕してやろうというものじゃあなくたって。
例えば、考え方の相違があっても、
そうまで強く議論を戦わせたことってあんまりなかったよね。

だって、君の考えようって
私の思うところと重なるものが多かったし。

 「でも、随分と手心を加えてたんじゃあないの?」
 「それは…。」

私、ブッダより500年も後輩だし、
頼りなかったからか、何かと庇われていたし。

いえす……

 【 シッダールタ先生?】

どうされましたか?と、
そちらも大変な事態には違いないらしい梵天が、
途中から 語勢が萎えたどころか
応対そのものがなくなってしまった相手を不審に思ってだろう、
どうしましたかと問いかけてくるのへ、

 「カラーなしの4ページ8本。締め切りは今週いっぱい。
  それ以上は 何をどうとも譲れませんからね。」

そうとだけ告げて、ではと一方的に通話を切ってしまい。
コタツにあたりつつも、寒々しげにその肩を力なく落とし、
やや俯いてお膝を抱えておいでのヨシュア様へとこそ、
真剣真摯に向かい合おうと。
その思考をすっかりきっぱりと切り替えてしまわれた
慈愛の釈迦牟尼様だったのでありました。


  うんうん、これも聖戦よねvv
(こらこら)




     ◇◇



途中から思いも拠らない展開になってしまった晩が、
一体どんな風に鳧がついたかは、

  ……見たいですか? 聞きたいですか?
  だって今更じゃあないですかvv(こらこら・笑)

 『何も君を軽んじていたとか、
  思考根幹が幼いのではと甘く扱っていたとか、
  そんな対し方なんて一度だってしちゃあいない。』

 『本当かな。
  そういえば私、君と大ゲンカとかしたことなかったし。』

 『それは…っ。』

 だって君、すぐに涙目になってしまって

 ほらやっぱり。
 そうなっちゃった相手へは
 論も何も放り出して、一気に同調しちゃうんだもの。

 そんな言いようはそれこそ心外だよ。
 私、曲がったことは嫌いなんだから。

 そのくらい、わざわざ言われなくても知ってるものっ。
 私がどれほど君のことばっかり見てたか。

 じゃあなんで、そんな風に言うの。
 もしかして、私と心底憎み合いたかったのかい?

 そんなはずないでしょーっ!!

 あ、あっあっ、ごめんイエス、
 言い過ぎたごめんね、泣かないで。

 ほらまたーっっ!

どないせいっちゅうねんっと、
ブッダ様キレてもいいぞという 堂々巡りを繰り出すイエス様なのへ。
だがだが、そんなところもまた彼の彼らしさだと
深い慈愛で把握しておいでのブッダ様におかれましては、

 「……だから。
  私にとってのイエスは、
  私が間違ってるかどうか教えてくれる鏡だったから。」

上手く言い尽くせるか、判ってもらえるかに自信がなかったけれど、
どんなに遠回りになっても、途中で耳を塞がれてもいいと、
思うところの中、
一番やらかいところを えいと思い切って語ることにした。

 「かがみ?」

コタツに対しての真っ直ぐを向いたまま、
傍らへ寄ったブッダへは、ずっと横顔しか見せてくれなんだイエスが。
意味を汲み取れなんだからか、
やっとこちらを向いてくれたのへ。

 「そう。」

視線はそのまま、うんと静かにうなずいて、

 「胸を張って君と向かい合える私かどうか。
  歪みや誤魔化しを抱えず、
  例え妥協を必要とされても、
  それが生み出すだろう負を
  いつか補填出来るだけの尋を持っているか。」

 「私が、そのための鏡?」

まだ少々腑に落ちぬか、
その玻璃の双眸に微かな陰を落とすのへ、

 「そうだよ。
  君のその清冽繊細な眼差しと、
  ちゃんと向かい合えないようではいけないと。」

そうと言いかけ、
回りくどいばかりの堅い言いようでは伝わりにくいと気づいたか。

 「ちゃんと君の眸を見て話せないとダメってこと。」

イエスのこちら側の肩先へおでこをぱふりと乗っけると、

 「だって、今にして思えば、
  君から軽蔑されるのが一番怖かったんだもの。」

 「……っ。////////」

それこそ偽りないところというの、
今の自分だから言える、素直で柔らかな言いようで伝えれば。

 「…それってホント?」

その身がこちらを向いたのだろう、
額で触れている肩が動いて…暖かな手が頬へと触れる。
そろりとお顔を上げれば、まだ少々不安げに揺れつつも、
真っ直ぐな視線が ブッダの深色の瞳が放つ眼差しを受け止めていて。
ああ綺麗な眼差しだと、
大好きなその双眸の深みある美しさへ うっとり目許をたわめれば、

 「〜〜〜ずるい。/////////」
 「え? なにが?」
 「ブッダが 今したその笑顔って、
  私には最強の切り札なの。/////////」

  え?え? そんな特別な“仏の顔”があるの?
  教えないもんね♪
  そんなぁ…///////


……とまあ、小半時ほどの応酬の末、
結局は、仲がよかったからこそという、
その筋の専門用語で“痴話ゲンカ”だったものが何とか収まって。

 「私がイエスを軽んじるはずがないでしょう?」
 「うん、判ったvv」

それは嬉しそうに、
イエスの側からの双腕がかり、
ぎゅむと首っ玉へ抱きついたのを受け止めつつ。
ご機嫌な証拠のオレンジの匂いがするのを深々と吸い込んで、
じゃあもう遅いしコタツ片付けて寝ようねと、
通常運転へあっさり戻ったブッダ様だったが。


翌朝、髪もお顔もスーツも革靴も、勿論の姿勢も、
それはきりりと整えた梵天氏の訪問を受け。
豪華なお歳暮つきで、
原稿依頼の受諾を確認されたシッダールタせんせいだったのは
言うまでもなかったのでありました。









    お題 B“とりあえず抱っこ”




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  *おかしいな、
   書きたい予定だった結末じゃあないぞ、これ。
   つか、予定していたオチに
   辿り着けてないというか。(オチって…)笑


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