キミが隣りにいる奇跡

       〜かぐわしきは 君の… 8

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まだギリギリ11月のうちだというに、それは急な寒波が襲い、
全国各地で、観測史上初の早さの初雪とか最低気温更新とか、
夏にさんざん聞いたフレーズをまた、
今度は真逆の事象へだが、聞き倒す羽目となった週末で。

 「冷蔵庫の中にいるみたいだって言ってた子がいてね。」
 「ああ、上手いこと言うよね。」

結構着込んでいても、顔や耳までは覆い切れないから、
凍ったみたいにじんじんと冷たい。
どちらさんもそうまでの寒さには困惑気味なようで、
若い世代はまだ苦笑混じりだが、
準備がなかったクチは、不機嫌顔でさっさかと急ぎ足に帰ってく。
そこを言うとこちら様は、準備こそされてはいたものの、
寒い寒いとついつい口を衝いて出る言いようへ、だが、
それへそうだねと応じてくれる人がいないのは ちと寂しいというところか。

 『あーっ。
  ちゃんとマフラー巻かないとダメだろーっ?』

いくらちょっとそこまでっていうお出掛けでも、
外の寒さは段違いなんだからね。
手套も出しといたはずだよ? どこか判らないなら訊いてよ、と。
常の日常だったならこっちから何か言うより先、
向こうから遺漏なく言われてたろうあれこれを、

 “こういう時ほど思い出しちゃうってのは、どういうものかなぁ。”

クリスマスと歳末を前に、
15日辺りから始まるらしい商店街の大売り出し。
まずは馴染みのある雑貨屋さんから、
クリスマスまでのバイトにというお声が掛かっていたので、
1日4時間という短時間契約でよければと、話を詰めに出掛けていたイエス様。
だって年末は何かと物入りだし…というのは表向き。
そういった御用があるからという“建前”が出来れば、
実家周縁からの天界への帰省を急かされずに済むかもという、
やや弱腰ながら、そういう予防線を張っとこうと思った、
これでも結構含みのある、しかも健気な仕儀なのでもあって。
向こう様からも“それでOK!”と喜んでもらえたものの、

 “ブッダにはまだ相談出来てないのが、ちょっとアレなんだけど。”

またまた“事前に相談しなかったな、話さなかったな”と
性懲りもないところを怒られちゃうかもなぁというのが、
今からちょっぴり気が重く、
ふうという柄にない溜息もついつい出るほどで。
とはいえ、この数日ほどは
そういう話を持ち出せない空気だったのだからしょうがない。
何しろ彼は、
ただ今“シッダールタせんせい モード”で絶賛原稿中。
ちょいとワケありな事情があったとはいえ、
自分で設定しただけに 枚数も締め切りも譲ってはもらえぬし、
むしろその点へはムキになってるようなオーラさえ感じられ、
とてもじゃないが、おいそれと話しかけられる雰囲気じゃあない。
そうなった流れの責任がイエスにも多少はあるだけに、
腫れ物に触るように…ではないが、
室内の空気をなるだけ荒立てぬよう、静かに穏やかにあれと心掛けていて。
この“ちょっとそこまで”の外出も、
3日がかり(内の2日は完徹)の執筆作業が何とか収束しそうとあって、
空っぽの冷蔵庫を補充するべく
ブッダからメモを託されての買い出しにと出て来たそれであり。

 “いつもながら凄いなぁ。”

締め切りまでの日数を見て、
まずはと…イエスの食事への下ごしらえを数時間でこなし、
多めに炊いたご飯をラップで1食ずつに分けてのくるみ、
冷凍庫をぎゅうぎゅうにすると、さてと取り掛かったのが、
4ページ8本という 軽妙なギャグ4コマへの製作作業であり。
ネタを出すのに半日強ほど瞑想してから、
ネームを切るのにやはり半日ほど。
そのあとは一気に、
原稿用紙へと手を下ろしの下絵を描き始め、
主線を入れの、細かいところも描き込みのと、
描く作業のほうは正味1日半でやり遂げた剛の者。
短期間だというのへの挑戦でもあるかの如く、
食事も“イエスに付き合って”という程度の
そそくさとした食べ方しかしておらず。

 “根を詰めるのが…実は好きなんだったりして?”

いやいや いやいや、
原稿の依頼と言われるたびに
悪魔の襲来かと言わんばかりな態度になるのだもの、
そんな筈はあるまいと、かぶりを振り振り家路を急ぐ。
自分とは対極の働き者なブッダ様。
苦行や修行の蓄積も たんとあるお人だとはいえ、
その身は病気にもなれば怪我もするのだからと案じつつ、

 “でもまあ、それもこれも終わったんだし♪”

修羅場が終わったのは善しとばかり。
サザンカの生け垣をざざんと揺らして吹きすさぶ、
強い寒風に 時々押され負けそうになりながらも
背中をやや丸めたまま、アパートまでの道を進んでおれば。

 「あ…。」
 「おや。」

そんなイエスの先を、
やはり松田ハイツ目指して歩んでおいでだったお人があり。

 「3日ぶりですね。お元気でしたか、イエス様。」
 「はい。梵天さんこそ。」

わざわざ訊かずとも壮健なんだろなというのはありありと判る、
仏界最強(でしょう恐らく)の天部様。
この寒風吹きすさぶ中、一応はコートも着てらっしゃるが、
よくあるテイラードタイプのそれだけに、
それでも足りずに寒いと感じるだろうはずが。
意気軒高な強靭さを満たした眼差しや背条、
分厚い胸板などなどからは、
寒気へのたじろぎなぞ、微塵も感じないからおさすがで。

 「あ・そうそう、お歳暮ありがとうございました。」

それはたいそうな桐の箱に収まっていたが、
ご挨拶のおまけのようなものだろと、ブッダは見向きもしなかったそれ。
片づける関係で包みをはがせば、極上の紅茶と緑茶の詰め合わせで、
お茶が好きな聖家にはうってつけのご贈答。
銘柄も天界では有名どころの“御詰(おつめ)”で、
なかなか結構な逸品だったとか。

 「いやなに、眠気覚ましのお役に立てばと思いまして。」

にっこり笑うお顔は、相変わらず目ヂカラが強すぎて、
お愛想なのか本心からなのか、微妙なところ。
とはいえ、すぐ傍らまで ととと…と近づいたイエスが、
不意な突風に うあと首をすくめると、

 「…お。」

肩口からあおられたそのまま、茨の冠へも絡まってしまった長めの髪を
がっしりと頼もしい手で手際よくほどいてくださったその上、

 「失礼。」

そうと言ってのすぐさま、
ブッダに言われ、ややぞんざいに巻き付けていたイエスのマフラーに
ちょんと触れた彼であり。

 「?? あ。」

その手の動きを、幼い仔猫の仕草よろしく、
何だ何だと追っていた視線が あっと止まって、

 「風が…。」

間断無く肌をなぶっていた対流がふっと途絶えてしまい、
だが、見回した周辺では変わらぬ様子で木々の梢が震えているから、
風が止んだという訳ではないようで。

 「ちょっとした磁場障壁ですよ。」
 「あ…☆」

いわゆる“神通力”による代物であるらしく、
強い風が直接当たらないだけでも体感温度が随分違う。

 「結界ほど仰々しいものを張るのはルール違反かも知れませんが、
  この程度のものなら、人の和子でも張っている達人がおりますから。」

そうと言って にっこりと微笑ったお顔は、
意外なくらい人懐っこくて。

 “ありゃ…。”

いつも頑と張り詰めておいでなのは、
相手の邪心を正すためか、
それとも宇宙の創造主としての厳然とした目配りからか。
そんな超然とした理由までありそうと、
ついつい思わせるよな、強い張りようをしておいでの双眸が、
イエスのお顔をみやったそのまま、ふわっと まろやかにたわんだから。
よかった探しの達人でもあるイエスも これにはびっくり。
本当にいつもの梵天さんなのかなぁなぞと、
子供のような感慨を抱いてしまい、

 「〜〜〜。///////」

いやいや いやいや、
何をそんな埒もないことをと
ついのこととて ぶんぶんとかぶりを振ってしまったほど。
片や、

 「どうかなさいましたか?」

何がそんな効果を齎したか、
当のご本人はまるで判っていないらしく。
挙動不審なイエスを案じたらしき、
キョトンとしたお顔はいつものまんまだったが、

 “あああ、勿体ないっ。”

今さっきのお顔で接すれば、
ブッダだってああまで意地を張らないだろうにな。
優しい気遣いの言葉も素直に受け止めるだろうし、
こうも毎度毎度 顔を合わすたび険悪になることもなかろうにと。
まずは無難な見解というの、思い浮かべたイエスだったものの、

 “あ、でもそうなったら…。”

共に過ごした歳月という蓄積も深い彼らだから、
それは親しくも睦まじい間柄となってしまうかも知れぬ。
いやいや、それこそ喜ばしいことじゃあないかと思いはすれど、
胸のどこかがチクンと痛いのも事実で。

 “そんなのヤダって思うのは、
  本来の立場上いけないんだけど…。”

ここが“恋心”を意識した身の辛いところだと、
無意識のうち、胸元へ手を伏せておれば、

 「イエス様?」
 「え? うあっ」

どんと爪先へ衝撃が来て、
進み続けたいらしい体が思い切り前へと倒れ込みかかる。
考えごとに気を取られ、
ぼんやりしたまま歩き続けていたイエスであり。
それでも身に染みついていた経験則で
難無くアパートまでは辿り着けたものの、
ステップを上がる手前に微妙な段差があったのへは
対応し切れずつまずいてしまい。
しかも心持ち俯いていたものだから、
そのまま鉄製の階段へ、顔から倒れ込みかけた…のだが。

 「あれれ?」

ふわんと、その身が浮いてしまっており

 「おっと。」

傍らにいた梵天に腕を取られて、やっとつま先が地についたほど。
お陰でどこもぶつけずに済みはしたけれど、
もしかして…と視線を向ければ、

 「風以外へも抗性はある咒ですから。」
 「あ…。///////」

さっき、風を避けるためにと張ってもらった障壁の作用で、
転びかかったイエスの身まで、
ふわんと浮かせて大事なく保ってくださったらしく。
そこまでの術は
人の和子には体得できないと思いますが、梵天さん。(笑)
その頼もしい手で
淑女へのエスコートよろしく、恭しくイエスの手を取ったまま、
もう片やの手の指先を自分の額へあて、ちょいと念じれば、

 「おお♪///////」

咒が解けたか重力が戻り、
足元からすとんと無事に着地出来たのへ、
ちょっとした手妻のようだと
軽くはしゃいでしまったイエスだったものの、
またまた目許を和ませた壮年様に見つめられ、

 「あ。えと、あの、
  ぼんやりしていて、面目ありません。///////」

うっかりを認め、お騒がせしてすいませんとペコリ。
こんな落ち着きのない存在が、
彼からすれば何より大切なブッダの尊い手を煩わせているなんて、
どうかすると片腹痛いことに違いなく。
しかも、すぐの寸前まで
この人とブッダの仲が
自分との間柄より濃密な親愛で満たされたらヤダと、
我儘なことまで思ってたことが、
途轍もない罰当たりなことのようにさえ思えたほどで。

 だというに、

 「なんの、お怪我がなくて何よりですよ。」

先程 おおとイエスがときめいてしまった柔らかな笑みで、
何を案じておられるかと、気遣ってくれる天部の壮年様であり。

 “神の和子とは こうまで純朴であられるものか。”

おおらかで奔放、無邪気で素直。
そんな無垢な廉直さは、だが、
警戒が薄いことにもつながっていて、
彼からは思いもつかない悪意に触れては
さぞかし傷つきもしただろに。
それでもこうまで 真っ直ぐで居続けられる柔軟さはどうだろう。
争いや諍いを禁じつつも、
帰依を認めず、攻勢を仕掛ける悪魔や鬼という仏敵へは
容赦ない怒りもて、昂然と対峙しもする仏道と異なり、

 “あの瘴気という迷いものさえ、
  この御身で相殺なされたお人だ。”

何物をも許して受け入れ、
傷つくことも恐れぬ尋深き包容力は大したもので。
彼には至上の教祖であるブッダ様に
並んで遜色なき最聖とされておいでなのも頷けるというもの。

 “無理な相談ではあろうが…。”

何なら仏門へ帰依してくださらぬものか…って、
おいおい梵天さん、実はそんな壮大な下心がおありで?(お、お〜い)

 「…梵天さん?」
 「あ、いや失礼。」

さあ参りましょう、ああつま先は痛みませんか?と
もしかして部屋まで誘なってくださるおつもりか、
イエスの手を取ったままで進む彼であり。
大の男が二人して手をつないで歩む図は、
ちょっぴり微妙に異様だったが、
それ以上の意味があるとした存在がいらしたようで…。
2階の廊下へ至り、
ステップからは一番奥向きになる201号室。
ゴールにあたるドアまで近づいたその途端、

  がちゃり、と

手を触れるまでもなく扉が開いたのへは、
わあっと またもや驚いたイエスであったが。

 「……。」
 「…あ、ブッダ。」

ごめんねオーバーな声出してと、
ドアノブに手をかけて立っておいでの、憔悴気味の相棒様へ恐縮しきり。
どこかへ出掛けようという彼だったのと、
間がいいんだか悪いんだか 鉢合わせとなったまでのこと。
すごいタイミングだねぇ、どっか行くの?大丈夫?なんて、
お顔をほころばせ話しかけるイエスは、だが、

 「…えっ?」

そんな相方さんから、
有無をも言わさず肩を掴まれ、
そのまま随分と強引に引き寄せられたものだから。
あれあれ? 私何か叱られるようなことをしたかしらと、
まずはそうと考えてしまう順番て どうよイエス様。(苦笑)

 「どうしました、シッダールタ先生。」

無言のままの彼だが、
静かすぎるその佇まいは、あまりに取っ付きにくく、
ともすればおっかない空気を孕んでおいでにも等しくて。
それでイエスも、“怒らせた?”と思ったくらい。
力づくという扱いをされつつも、
このブッダにはあり得ぬ行為だからこそ、
自分に非があったかのように感じられたのであり、
とはいえ、無言のままでは話が進まぬ。
勢い余ってのこと、どうかすると抱き寄せられてる状態のイエスが、
その懐ろの中から視線だけでこそりと見上げれば、
やや窶れたお顔が 感情を載せない無表情のままなのは疲労のせいだとして、
だが、それにしては視線が強いブッダ様であり。
さっと振り上げた手には…大きめのクラフト紙の封筒。

 「おお、原稿ですね。」

梵天はそのまま受け取ったが、
ただ渡せばいいってものじゃあなかろうことは、イエスも重々承知だ。
汚れや書き損じという不備がないか、
台詞回しや効果や何や、筆が足らぬところはないか。
編集者である梵天に一通り確かめてもらわねば、
天界に戻ってからでは、何か気がついてもすぐには直せぬ。

 「ブッダ、中に入ってもらわないと。」

見上げて訊いたイエスの声を遮ったのは、だが、意外にも梵天のほうで、

 「構いませんよ、イエス様。
  メールで逐一状況は送っていただいてましたから、
  問題がないのは承知です。」

急な依頼でご迷惑をおかけしましたねと、
腰を折っての深々と、きっちりとした一礼を見せてから、

 「それでは。」

二人へという会釈を残すと、
その場でそのままUターンをしてしまわれる。
天界から此処へとなると、
そうそう簡単に運べる距離ではないというのに、
何ともあっけなく戻ってしまわれる梵天で。

 「え?え?え?」

昼間の明るさこそ降りそそぐものの、
それをじわじわと裾から凍らせるよな、
それは冷たい風の吹きすさぶ中。
すぐ此処に、お世辞にも豪奢とは言えないが、
気心が知れたもの同士が同座出来る、
暖かいコタツつきの居室があるというのに。
なのに、彼らのこの態度は どうしたことかと。
何だ何でと
ただただワケが判らぬままなのは、だが、
イエスばかりなのかも知れぬ。

 「……。」

何ら疚しいことなぞないとの証しのように、
壮年天部の真っ直ぐ伸びた背中を見送るブッダにも、
そのくらいは判っておいでだが、
判っていても見過ごせない わだかまりというものはあるもので。

 『…ん?』

やっと執筆が済んだと
散らかったままのコタツに突っ伏して脱力していたブッダ様。
相当に気が緩んでもいたものか、
余計なことで動くのが億劫だったが、
いち早く知りたいことだと、ついつい神通力の念波をゆるく広げておれば。
遠くから戻って来るイエスの気配を感じ、

  ああ寒そうだね、早く帰っておいで、と

憔悴し切っていた気持ちが、幸せな甘さで暖まり始めたその矢先、
それへかぶさったのが、随分と強い存在感の天部の気配で。

 『な…っ。』

しかも、何かしら神通力を用いた咒を
ほどこしまでしたのも感じ取れ。
彼の意志による念咒にくるり包まれてしまった仕儀へ、
わたしのイエスに何をするかと、
ガバと身を起こし、言いようのない不快感にじりじりし続けた。
よほどのこと、
すぐにも飛び出して行って、迎えがてらに攫ってこうかと思ったが。
そこまでするのは
さすがに聖人ともあろう者が大人げないと、
なけなしのプライドが堰を設けていたようで。

 「ブッダ?」
 「ああごめん。入ろうか。」

ダウンジャケットを羽織ったままのイエスに気づき、
室内へと一緒に引っ込む。
腕から離すと着替えや手洗いを待ってのそれから、
ぎゅうと再び捕まえて六畳間へ向かおうというブッダであり。

 「どうしたの?」

急で超強硬日程だった執筆が大変で、
心身共に疲れ切っててという状態なのは判るが、
それでも ぞんざいなことはしない、
呆れるくらいに生真面目で折り目正しい彼のはずなのに。
梵天とちょっと馬が合わないのも知っているが、
ああまでの…無礼と紙一重の態度を取るなんて
礼節を重んじる彼らしくないなと思っておれば。
コタツの傍、押し入れへ仕舞う暇もないと、
畳んで押しやってただけの布団の山へ、
イエスごと座り込んだそのまま、
自堕落にも凭れかかってしまうブッダであり。

 「大丈夫なの?」

そうまでも、日頃の彼らしささえ立ち上げられないほど
限界の疲労に見舞われている彼なのか。
腕を立てて身を起こせば
そこまでぎゅうぎゅうと束縛はされていないようで。
懐ろの中ではあるが、
やや身を離すことでお顔を見下ろせた愛しい人へ、
そおと手を延べたイエスが頬を撫でれば、

  さわ…と 深色の髪がほどけてあふれる。

いつ見ても神秘的な現象で、
しかもあふれ出すのは つややかで長くて豊かな美しい髪。
日頃の清楚壮健な佇まいも好きだけど、
こちらはまた別の魅力が一杯で。
玲瓏で綺麗な姿へ、知らず頬笑みつつ見とれておれば、
いえす…と呼ぶ小さな声がして。

 「…充電。///////」

なぁにと顔を寄せていなければ聞き取れなかったかもしれない、
それはそれは小さなお声だったのは、
それこそ生真面目な彼には精一杯の甘えんぼだったから。
あまりに短い言いようだったが、

 あ・そっかvvと、イエスには即妙に通じたようで。

よしきたと双腕広げると、
ぎゅむとぶっだを二の腕ごと抱きかかえ、
そのまま くるんと変則的な寝返りを打ち、二人の上下を入れ替える。

 「…☆////////」

ここまでもとは望んでなかったか、
イエスの至れり尽くせりへ目が点になりかったブッダだが、
こちらが埋まる格好になったイエスの懐ろは、
ほのかにバラと、それから甘酸っぱいオレンジの香りがして、
それは居心地の良い温もりに満ちていて。

 「あ、でも待って、冷蔵庫にいろいろしまわなきゃ。」

買い物を流しの上へ置いたままだと、
今になって言い出すイエスが身を起こしかけたが、

 「……あ。」

そんな彼の視野の先、
スーパーの袋がもぞもぞと動いたかと思うと、
牛乳のパックと卵がふわんと浮かんで冷蔵庫のドアが開く。
続いて同じ袋に入っていた豆腐屋さんのビニール袋が後を追い、
それら要冷蔵品が収まると、冷蔵庫はやはり自主的にドアを閉じたから、

 「あ〜、神通力は反則。」
 「今だけ。」

もそもそと言いつつ、こちらの懐ろへお顔を埋めるブッダなのへ、
そうまで疲れているのか、随分と甘えられているような気がして、
それがまたイエスには妙に嬉しい。

 「も〜。////////」

しょうがないなぁと言いつつ、にやけてしまう口許は正直で。
髪の隙間から覗いたブッダの額の白毫に、ちょんと唇で触れれば、

 「?」

呼ばれたと思ったか“なぁに?”と、
ちょっぴりとろけたお顔を上げたブッダ様。
それほどの身長差はないものだから、
少しほど首を傾げれば、
とろんとしているせいで薄く開いていた唇へ、
無理をせずともこちらの唇を重ねることは出来て。

 「ん…。////////」

柔らかな感触は、でも、いつもの瑞々しさが少し足らなくて、
その代わり、少し熱っぽい。
眠たいのかなと思ったが、上唇の内縁をちろりと舐めてくすぐると、
ふふと小さく微笑ったものだから。
その弾みに零れた吐息に誘われ、
互いの唇がやや潰れるようなキスをして……。


  ……あ、ブッダ眠気覚ましにガム咬んだ?
  うん。…あ、ごめん、ミント苦手だったね。
  う〜、まあしょうがないけどさ。////////


こちらの返事も聞かぬまま、
くうすうと寝入ってしまう釈迦牟尼様へ、
お疲れ様と囁いて。
毛布を引き寄せると一緒にくるまって、
自分も目を閉じたヨシュア様だったのでありました。






一方、ややお怒りだったブッダの覇気の力を感じ取り、
そそくさと帰還を決めた梵天はといえば、

 “人が悪いはお互い様か…。”

神通力の発動は、そのまま自分の居場所を広めてしまいもする諸刃の剣。
ブッダほどの尊格ならば、感知出来るのみならず、
同じ仏界の力であれば、誰のどういうそれかもあっさりと判るに違いなく。
先程 梵天がイエスへほどこした
磁場障壁の咒を過大な構いつけと踏んで、
それであのように不機嫌だったのだろうなと。

 “そうと察知出来てしまう私も大概だが。”

ああもあからさまに、それこそ初心な少年のように、
わたしの大切な人をどうするつもりかと言わんばかりの

  敵意 丸出しな態度になるとは…。

それが梵天にはちょっと意外だったようで。

 “もっと余裕を見せての、澄まして通すかと思ったのですが。”

過去に妻はあっても、それが政略結婚で得た間柄では、
悶えるような恋情には縁がなかった彼かも知れぬ。
そうか、ならば初心でも致し方なしかと、
苦笑交じりの溜め息一つ。
こうまで長い付き合いの如来様に、
初めて現れた格好のとある感情の波の甘酸っぱさ、
こちらの壮年殿へも、くすぐったい苦笑を齎してしまっているようです。









    お題 C“溜息をつく友人”



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  *呆れる方向では溜息ついてなかった梵天様のようで。
   何とも可愛らしいお二人ではないかと、
   結構判ってて こそりと楽しんでおいでなのかも知れません。


   という訳で、
   今回のお題は 『バカップルな二人へ 10のお題』 ですvv


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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