キミが隣りにいる奇跡

       〜かぐわしきは 君の… 8

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あまりに暑かった酷暑の 余計なお世話な置き土産、
いつまで続くのかというほど長引いた残暑と、
太平洋の海水温が下がらなくてのこと、
幾つも幾つも大型地風がやって来たお陰様。
今年は秋まで散々で、且つ
あっと言う間に過ぎ去った感がある日本列島であり。

 「まあまあ、
  紅葉が綺麗なのを まだ楽しめるのはよかったんじゃあ。」

 「例年だと、
  イチョウが色づくころって、
  楓は全部真っ赤になっているものねぇ。」

土地にもよりますが、緑から黄色を経て赤くなる種の楓は、
1本の木の上で織り成されるそれ、
だんだん染まってゆくグラデーションを
秋の初めから徐々に楽しめるものだのに。
今年はといえば、いつまでも緑だったのが、
今 大慌てで黄色くなってる地域も多いような。
かように、
皆様が口を揃えて“今年は短かったねぇ”と仰有るほど、
いきなり晩秋がやって来て、
畳み掛けるように冬催いとなった観のある11月だった中。
こちら様も、とんだ“突貫”執筆騒動の終焉とともに、
よりきって なだれ込んだ格好で、
いよいよの12月なのを実感しておいでだったりし。

 「おお、サラダ油 1500ccが、
  バターが ジャムが小麦粉が、
  近来稀に見る率でお値打ちではありませんか。」

月初めの一日は、
某大手スーパーチェーンが
“○の市”という大売り出しを始めたのに引っ張られる格好で、
他のスーパーも随分と思い切ったバーゲンをするのがもはや恒例。
生協さんまでが ポイント5倍とか謡ったりするので、
家計へお給料が入ったばかりの主婦としては、
ついつい買い物し過ぎる罠にはまりやすいのでご用心…なのだが。

 「でも、
  同じほどの低価格になかなか巡り会えないと、
  何であのとき買っておかなんだと後悔しそうで。」

詰め替え用洗剤とかラップとか、
砂糖や小麦粉といった、長期備蓄出来るものは特にね。(うんうん)
新聞全紙と同じくらいという大きさの、
しかもカラーのチラシを数枚ほど、
コタツの天板いっぱいに広げると。
ああこれも安い、
こっちも滅多に安くならぬメーカーなのに安いと。
まるで ご贔屓アイドルの新譜リリースやコンサート情報へ
ワクワクと興奮する十代の少女よろしく、
白い頬を桜色に染めまでし、
やや興奮気味になっておいでのブッダなのを、

 “こんなたくさんの品数の
  一番安いときを全部覚えてるなんて凄いなぁ。”

こちら様はまた別の視点から、
主夫って賢くないと務まらないんだ…と
ブッダ様の超記憶へ 感心しきりのイエスだったりするのだが。

 それはちょっと違います、イエス様。
 主婦(主夫)もまた 他の職種と同様に、
 賢くて有能勤勉な人と そうでない人がいるのです。(笑)

  耳の痛い自虐ネタはともかく。(う〜ん)

随分と急な話で しかも強硬だったからか、
まんが原稿の執筆による 疲弊の様相も著しかったブッダが、
一晩ぐっすり寝て元気になったのを見届けてから。
イエスはおもむろに、
クリスマスまでの雑貨屋さんでのアルバイトの件を打ち明けており。
さすがに前振りもなくの唐突なお話だったからか、

 『…え?』

案の定、
夕食後のまったりした空気の中、
ブッダのお顔が…不意を突かれましたという驚きの色を醸したのへ。
怒られるにしても寂しがらせるにしても、どっちも辛いことゆえに、
こちらも あわわと焦りつつ、

 『えとあの、そういう事情だって言えば、
  母さんも皆も、仕方がないなって
  帰省をせっつかないでいてくれるかなって思って…。』

ちょっとあざといかもしれないけど、
このくらいの小細工くらいは罪もないかと思ってと、
内緒の目論みのほうも、包み隠さず ちゃんと告げたところ、

 『…イエス、それって凄いじゃないか。』

その大きな双眸を見開いて、
ブッダが目からうろこが落ちたような顔をする。
微妙に人を欺くような手管だからか、
生真面目で律義な努力家の彼には思いつきもしなかった段取りに違いなく。
帰省しない言い訳にもなって、
その上、物入りな時期への臨時収入にもなるなんて。
何て美味しい仕儀だろかと、
優しいお指を組み合わせ、散々感動してから、

 『そっか、じゃあ私も何か…。』
 『それはダメっ!』

人差し指を立て、宙を見上げて、自分も何かアルバイトを…と
ブッダが言い出しかける空気を読んで、
イエスが“反対っ”と切れよく手を挙げた間合いも これまたお見事。

 『前にも言ったでしょ? ブッダはダメ。』
 『うう、そんなのズルイよぉ。』

此処で一人でお留守番するのって
結構 寂しいんだよと上目遣いで言いつのるブッダ様なのへ、

 『〜〜〜っ、そ、それでもダメっ!』

あまりに切なそうなお顔に、
ついついグラッとしかかったイエス様。
何とか頑張って踏みとどまってから、

 だって、一人で寂しくバイトしてる間も、
 ああブッダが待ってるとか思えば頑張れるんだもの。

彼なりの揺るぎなき主張というのを繰り返し、

 『別のバイト先で、
  美魔女のお友達増やしてるんじゃないかとか、
  生真面目なところを買われて
  正社員にならないかなんてスカウトされてないかとか、
  そういうの断り切れないブッダだから、
  そのままキャリアアップしちゃって、
  美味しいお弁当とか画期的なタウン誌とかの
  何か会社を起業して…
  それが大当たりして遠い人になっちゃうとか…。』

やや大ぶりのぐうに握った拳を胸元に引き寄せ、
何かしら演説の構えに入っての、
随分な架空の将来を懸念しておりますと
もしかして真剣本気で主張しておいでのヨシュア様なのへ。

 『お〜い、帰っておいでイエス。』

口許の両側へ手のひらを立ててメガホンにし、
どこまで遠くへ先走っておいでかと、
苦笑しつつ呼びかけてしまうブッダ様だったのも、
これまたお約束。
(笑)

 『いっそ二人とも雑貨屋さんでお世話になるとか?』
 『それだと私が集中出来ないよぉ。///////』

 すぐ目の届くところに、
 営業用スマイルを惜しみなく振り撒く、
 それは愛想のいいブッダがいるのに。
 そんな君へ いっときでも見ほれてないで、
 お仕事優先しないといかんだなんて。
 そんな地獄のようなお仕置きを何でまた……

 ……おいおい。

奇麗に
(?)オチがついたところで、
やはりブッダ様には
このお家を守ることに専念していただくこととなり。
愛しい如来様の神々しい御手を、両手で恭しくも握りしめると、

 『いいね、怪しいセールスマンを引き入れてはいけないよ?』

 『……他でもない君から、
  そういう注意をされようとは思わなかったよ。』

色んな意味から まったくだ…って、だあもうっ。
キリがないぞ、ロン毛とパンチのご両人。
(笑)

 「…あ。」

何とか了解を得られたバイトも、始まるのは15日から。
今日は売り出しに専念だよと、
チラシに丸を付けた上で、メモへ書き出した
お目当ての特価商品の数々を
それは綿密に再度確認中の敏腕主夫様であったが。
その間は手持ち無沙汰だったイエスが、
不意に…小さな声ではあったが、
何かを見つけたか、気づいたというよな声を出したものだから。

 「? どうしたの?」

何か買い足すものあった?と素早く応じてくださり、
お徳用の小分けカスタードケーキなら、ほらチェックしたよと、
丸をつけたチラシを見せるブッダなのへ。
いやいや いやいやと、
滅相もないというアフレコをしたら
存外どんぴしゃりだったかもしれない勢いで
かぶりを振ったメシア様。

 「何でもないの。
  あ、それ買うんだね、ありがとうvv」

そうと言いつつ見せた、
はにゃ〜という蕩けるような微笑いようが
何とも幸せそうだったため、

 「そ、そう?////////」

何か欲しいのあるのなら教えてね?と、
今度は何故だか そちらも赤くなってのどぎまぎしつつ、(笑)
もぞもぞ応じてチェックに戻ったのを見届けて。

 “そういう日があるんだ…。///////”

イエスが見つけたのは新聞のほうの小さな広告。
ほにゃらら花壇、とあるから、
結構大きめの生花チェーンさんのそれであるらしく、

 《 12月3日は妻の日です。》

という文言を太めの活字で謳っておいで。
日ごろ家事に育児に大変な奥様をねぎらってあげましょうという
メッセージ付き花束のご案内らしかったのだが、

 “妻ねぇ…。////////”

ちらりと見やった愛しき如来様。
すべらかな頬は、丁度 淡緋色の蓮の花のごとしで、
淡雪のような白紗が 内へ封じた明るみを透かしているよな、
何とも清楚な佇まい。
長い睫毛に縁取られた深瑠璃色の双眸は、
しっかりした眼差しを芯に据えておいでだが、
そのくせ潤みも強くって。
含羞みに目許が泳ぐ様は、何とも言えず蠱惑的。
ややぽってりした瑞々しい口許へ、
ちょんちょんとボールペンのノック側を当てておいでの指がまた、
品があって優美な所作がいや映える、
それはそれは嫋やかな柔らかさをたたえていらして。

 「〜〜〜(うあ〜)。/////////」

声にならない声が出ちゃうほど、
なんて麗しい、なんて優雅な人なんだろかと、
特価だと謡ってるPBトレペの m単位の単価を
真剣に計算中の、眉間にしわの寄った横顔へ、
しみじみ惚れ直しておいでのヨシュア様だったりするのだが。

 “いや・あのその、まだ恋人という段階の人なのだっけ。”

というか、彼にこそ“妻”はいるのだし、と、
やや自重気味の苦笑とともに思ったけれど。

 “いやいや、これってそういう意味じゃないのでは?”

無償の愛から 炊事や家事に勤しみ、支えてくれる人というのなら、

 “ブッダもまた、
  わたしの“妻”にあたる人なんじゃないのかなぁ…。///////”

そんな風な連想が唐突に沸いたものだから、
ついつい妙な声が洩れてしまったまでのことで、

 “妻って…。///////
  うひゃあ〜〜〜。//////
  なんか、凄い響きの存在だよね。
  こう、がっちりした絆が半端なくつながってて、
  引き剥がせるものなら引き剥がしてごらんっと、
  居丈高になって世界へ叫んでしまってもいいような
  そんな風格があるというか……。/////////”

   …………って。

イエス様におかれましては、
夫婦ってものを
どういうもんだと把握してらっしゃるんだろうか。(う〜ん)

 「? …いえす?」
 「え? あっ、えとっ、なになにっ?」

何と話しかけられたものか、ごめんね訊いてませんでしたと。
その代わり、微妙に疚しいこと、言えないことを
どっぷり考えておりましたと 言わんばかりの
そりゃあ判りやすい 挙動不審な焦りようで応じるイエスへ、

 “いやまあ、方向性はだだ漏れなんだけど。////////”

呆れ半分、ブッダ様までほんのりと赤くなったのは、

 「カチューシャにバラが満開になってるよ?////////」
 「あっ、いやあの・その、これはっ!////////」

ぼんやりしつつも ずっとこちらを見やっていたイエスだもの。
それがこうまでの…冠がその重みと厚みで自然に落ちかかるほどの
大輪大量の紅バラを咲かせるなんて、
誰へ向けてどんだけ萌えていたかは明白で。
しかも、

 「べ、別にっ、
  ブッダのことを奥さんみたいとか、
  あのその思ってたワケでは…っ。//////」

 「も、もういいって、いえす〜〜。//////」

嘘をつけないにも程がある。
まだバレバレの誤魔化しを並べてくれた方が、
照れて終しまいに出来たものをと。
思わぬ惚気(しかも自分への)を聞かされて、
真っ赤っ赤になってしまったブッダ様。

  …というか、奥さん?
  いやあの、この広告が…。////////

冠のバラをぶちぶちと摘み、
コタツ布団に引っ掛かっていた輪ゴムでまとめると。

 「まだ微妙に早いけど。」

それと、間に合わせでごめんだけれどと、
何ともかわいらしいブーケをどうぞと差し出すヨシュア様なのへ、

 「う…ありがとお。///////」

ちょんと触れちゃった指先がお互いに熱かった、ただそれだけで、

  「あ…。////////」 × 2

紅バラがまたもや吹き出し、
片や様は片や様で ふるるっと肩が震え上がったそのまんま、
麗しい濃色の髪が肩に背にとあふれ出してしまった、
困った方向で初心な、最聖のお二人だったようでございます。








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  *ちなみに、奥様というのは
   本来 武家の世界の妻女へ使っていた言い回しで、
   商家だと お内儀か女将さん。
   お屋敷での、奥向き全般を預かる人でもあったので、
   よその人が敬意を表して“奥様”と呼んだのであり、
   そこから、使用人もいないような浪人さんなどを差して、
   “奥様あって殿様なし”という揶揄があったほどだそうです。

   ※もひとつ ちなみに、
    関西の商家などで使われる“御寮さん”は
    何と 貴族の子女への“御寮人”から転じたものだそうです。


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