キミが隣りにいる奇跡

       〜かぐわしきは 君の… 8

     10



冬場は根っこ野菜が旬で、
ゴボウやレンコン、大根にニンジン、
長芋・里芋、ユリネにカブにと、
ほくほくと温かく煮炊きするものが多い上、
栄養素的にも
ミネラルがたっぷり含まれている
滋養の高いものばかりので、
寒くて体が縮こまる今時分には、
何とも季節にそぐう食べ物と言え。

 「小松菜やホウレン草は年中あるから。」
 「そうそう。
  冬場が旬だって知らない人も多いかもしれないね。」
 「カボチャの旬が夏だって知らない人も多いくらいだしね。」

冬至に食べるといいなんて言うから、
尚更混乱しちゃうんだろうねというご意見へ、
うんうんと頷く横顔が、結構凛々しい“主夫”殿が
女性陣の中にお一人だけ混じっておいでなのも、
当地では もはや当然の風景だったりし。
毎日のように買い物に運ぶ八百屋さんの前で、
女将さんや顔馴染みの奥さんたちとのお話が弾んでいたブッダ様。
雪催いの急な荒れように、
肩をすくめた奥様がたにより始まった、
井戸端会議、のようなものに 堂々と参加しておいで。
平野部でも日に日に寒さも増す中、
家族へ少しでも滋養のあるものをと思う心は
どの奥さんでも同じということか。
根野菜は“ん”で終わる名前のが多いから
“運”が付くって言われてて。
そうそう、だからか おせち料理にもいっぱい使うでしょ?
寒天とキントンは“運”つながりでしょうねvv(※)
シュンギクは血圧を下げるから、漢方にも使われているんですってよ、
それと目の疲れにも効くんですってね、などなどと。
それぞれが持ち寄った蘊蓄や何やが披露されており、

 「そうだ。ブッダさん、片平あかねって知ってる?」

八百屋の女将さんの一言へ、
螺髪という、珍しい“編み込み頭”をしているお兄さん、
意を得たりという笑顔になって大きく頷いて見せ、

 「はい、テレビで観ましたよ、それ。」
 「ああ、私も観た観たvv」

おや、急に話が変わったようで、

 「紹介されていたのは 大和まなってのだったけれどもね。」

どうやら、このメンツにはお馴染みになっている番組のお話らしく。
そうそう そうそうと頷き合ってる皆様の中で、

 「こんな季節だのに、瑞々しそうでしたねぇ。」

それは朗らかに微笑ったブッダ様だったのへ、

 “う…何よそれ。何よ、その褒めよう。”

最近のアイドルって、
そういえばお母さんにもファンが多いって言うよねと。
自分にはさっぱり覚えのない情報へ、
だというに はやばやと悋気を起こしかかっているお人が約一名。
お母さんたちの会話が気になるか、
ついつい立ち止まってしまっており。そして、

 「? あれ、イエスどうしたの?」

確か今は もちょっと離れたところの雑貨屋さんで、
絶賛バイト中でしょうにと。
背後の中通りを通りかかった
いつものダウンジャケットの下に
お店のだろう帆布製のエプロンを掛けたままな人影へ。
そこはさすがに気づくのも早いか、
ブッダが“あれれぇ?”とお声をかければ、

 「…何でもないもの。」

微妙に視線を逸らしつつ、口ではそうと言いながら。
でもでも、こちらもPコート姿のブッダの手を取って
“ちょっと”と話の輪から外させる。
柔らかい手は指先が少し冷たくて、
ああもう、何で手套しないかなぁと
ちょっぴり案じてしまうイエスの背中を見やりつつ。
何なに?急用?と 相変わらず要領を得ないままだからか、
屈託のないお顔のまんま、
小首を傾げているばかりのブッダ様であり。
路地への角を回り込むとそんな彼へとすぐさま向き直り、

 「あんな声高に、何を女の子の話なんてしてるのさ。」
 「………はい?」
 「女将さんとか奥様がたには娘みたいな対象かもだけど、
  ブッダは立派に成人男子なんだから、
  男としての好みを語ってる格好になっちゃうんだよ?」
 「えっとぉ?」

何をまた、真剣に怒り出したイエスなのかが すぐにはピンと来ず、
キョトンとしたまま目を見張ってしまったブッダだったが、

 「…………ああ、さっきの?」

女将さんたちとの会話というところ、
逆上ってみてやっと、はたと気がついたらしく。

 「あれは日本の伝統野菜のお話だよ?」
 「え?」

おややと今度はイエスの方が、
その切れ長の双眸を大きく見張ってしまったのへ、

 「今時分が旬な、根野菜とか菜っ葉のお話を
  先日、テレビで特集していてね。」

私も最初、一つ一つの名前を聞いてて
人名みたいだって笑ってしまったものだから
特に覚えていたのだけれど。
片平あかねというのは大根みたいな形の赤かぶで、
大和まなというのは白菜の一種なんだとか。
変な名前だよねぇとくすくす笑うブッダ様だが、
何と姫路には“桃色吐息”という名前のブランド豚がいるそうな。
……じゃあなくて。

 「………。///////」

訊いてみたれば何でもなかったこと。
でもでも、大袈裟に意見しちゃったこの態度や何やは、
やり直しも消去も出来なくて。
うあ、そうとは知らなんだと言いたげな、
私ったらなんて早とちりなんだろという雰囲気の、
収まりの悪そうな顔になってしまったイエスなのを見やり、

 「…もしかして、
  イエスったら焼き餅焼いてくれたのかな?///////」
 「…っ、///////」

結果としては誤解だったとはいえ、
女の子の名前を楽しげに取り沙汰していたなんて、
もしかしてアイドルのそれであれ、
なんか許せないと感じてしまい、
物申すと意見してしまった イエスだったようであると。
そうと判ってしまった以上、
そのココロは…という部分も判らいでどうするか。
それでも、もしかしてと控えめな口調で訊いてみたれば、
そんな仏心が却って、
イエス様の微妙な“恋する男心”への羞恥を招いたらしく。
目線を泳がせ、ううう…と口ごもってしまったのも刹那のこと、

 「わ…悪い? だって私っ、///////」

やや自暴自棄気味に声を荒げかかったイエスを制して、

 「悪いことな筈ないでしょ。////////」

ブッダ様の側もまた、すべらかな頬を真っ赤にしておいで。
勿論、寒さのせいではないのは歴然としており、

 “焼き餅を焼かれて嬉しいと思うなんて、
  もしかして背徳的なことなのかなぁ。////////”

決して幸せな感情じゃあないのに、
強い固執や執着の現れで、少なからずむっとしちゃうことだのに。
いつだったかイエス自身が言っていたこと、
嫉妬するということは、
それだけ相手が大好きで、深い思い入れがあるからであって。
こんな人目だらけの外でさえ、
気持ちを押さえ切れずにちょっとと意見したくなっただなんて、

 “イエスったら大胆……。/////////”

バイト中だもの、多少は、
そう、日頃よりはわきまえというものも発揮していたろうにね。
なのに、こうまで抑えが利かなかったなんて…と。
彼からそこまで想われている幸いを実感し、
頬が染まってしまった釈迦牟尼様だったようで。

 でもネ、あのその、外ではやっぱり自重しないといけないと思う。
 う、うん、そうだね。ごめんなさい。/////////

大の大人が二人して、
お互いへの想いからのこととはいえ、
おぶおぶと含羞み合いつつ向かい合ってる図だなんて。
事情を知ってりゃあ“まあ可愛いコトvv”で済みますが、(済むか?)
早いとこ定位置へ戻られた方がいいのでは…?

  ※関西風なのか九州風なのか、
   おせちに寒天の水菓子というのが ウチでは恒例です。







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