キミとならいつだって お出かけ日和

 

     1



日本ではその昔から“暑さ寒さも彼岸まで”という言い回しがあって。
どんなに暑い夏のあと、ひどい残暑が続こうとも、
九月の終わり、秋分の日を中日とした秋の彼岸を越せば
秋らしい落ち着いた日和になり、
どんなに寒い冬であり、気まぐれな寒の戻りが来ようとも、
三月の終盤、春分の日を中日とした春のお彼岸を越せば、
何とか春らしい気候へ落ち着くよと


  昔は それで通じたんですけれどもねぇ。
(苦笑)


松田さん曰く、これも温暖化の影響か、
例えば判りやすい例で昨年のあの酷暑の後は、なかなか秋らしくならず、
十月の末になって、いきなりすとんと秋が一気にやって来た感があった。
確かに、九月のうちにも虫の声が聞かれたり、
朝晩は多少涼しくなったような気もしたが、
十月に入ってもいつまでも半袖で十分だったほどだったり、
台風絡みではあったが夏の盛りのそれのような豪雨が多かったりと。
昔ながらのしみじみ寂寥を味わうような晩秋は、それこそずんと短かったワケで。

 「それでなのかなぁ。」

三月に入ってもまだまだ寒いねぇと言ってたものが、
半ばを過ぎると、何だか急に
厳重に着込んでいると蒸すような暖かさがやって来て。

 「部屋の中でジャージを着るなら、
  セーターの下のアンダーウエアは、
  機能性のじゃなくてもいいのかなぁ。」

ぺろんと両手から下げた、
薄手だが暖かさ抜群なアンダーをどうしようと見下ろしておれば。
傍らでやはり着替えていたブッダが、
う〜んと考えつつ、
きれいな人差し指にて自分の口許をちょちょいとつついて。

 「う〜んと どうだろう。
  ジャージは脱ぎ着しやすいからねぇ。」

暑い暑いって脱いでしまいやすいから、
うっかりそのままでいたら、
小汗を冷やすことも重なって風邪をひくかもと。
慎重派のブッダからの見解へ従って、
その日に着るものを見繕う、イエスだったりするくらい。
ちょっぴり古いアパートだとはいえ、
幸いにしてか、それともそこにも最聖人らの奇跡が働くものか、
それほど隙間風がひどい訳でもなく。
しっかと着込んでおれば震え上がるということはなかったのだが、
それに油断していたら、暖かい方向へ戸惑うことになろうとは。

 「去年だって一昨年だって、
  冬の次にやって来た春を迎えたはずなのに、
  どうしていたか、覚えていないもんなんだねぇ。」

あ・いやいや、春に此処へ来たんだから、
迎えたのは まだ2回目なのかなぁ?と。
コタツにあたったまま、それは無邪気に指折り数えるイエスなのへ、
何て微笑ましいことかと目許を細め、
丁寧な仕草で“どうぞ”と、
ミルクティーを満たしたマグカップをブッダが勧める。
2000年紀という世紀越え、
それは繁雑で微妙で大変な、
何が起きてもおかしくはない節目を越えるにあたり、
天界でも様々な事態への対処や処理と並行し、
下界でのその通過を、緊張しつつ見届けていたのであり。
そういう途轍もない重圧を越えたご褒美、
それまでろくに休みらしい休みも取らなかった身なのだからと、
思い切って“有給でバカンスに行く”との大計画を遂行した訳で。

 「桜が咲き始めてて、いい頃合いだったよねぇ。」

何とかこのアパートに落ち着いて、荷をほどき、
日本の風習や決まりごととやらに馴染みつつ、
ちょっとした冒険気分でご町内を探索したり、
銭湯や馴染みのお店を見つけたり。
そんなこんなにドキドキわくわくしつつ、
ただただ和んで過ごした最初の春だったような。

  で、次の春はといえば…

 「ブッダの花粉症が露見したんだよねぇ。」
 「うう…。/////////」

去年は多いほうだったっていうから尚のこと、
それは過激な症状が、あれこれ全部発症したのでもあって。
すぱりと言い切られると、
それなり恥ずかしいというか、辛いものがあるけれど。
神妙そうな顔になり、
やや伺うように上目遣いになってこちらを見やるイエスは、

 大丈夫なの?、と

揶揄したいというのではなく、心から案じてくれているからこその、
心配全開というお顔で訊いてくれていると判るだけに。

 “あ…。////////”

こんな至近からなんて狡い狡いという、
前後の脈絡がつながる間もなくの瞬殺レベル。
同じコタツにて向かい合うブッダの頬が見る見ると赤くなり、
口許が覚束なくなっての震えかけ。
せめてそれを押さえようとし、きゅうと塞いだものの、
合わさったそのまま、むにりとたわんで落ち着かぬ。

 「だ、大丈夫だよ、今のところ。////////」

天気予報を観るたびに、ちゃんと花粉の飛散情報も確認しているし、
不織布のマスクや目薬も、
今年はあの、ゴーグルみたいな縁覆いつきの
アイウェアも用意してあるしと。
イエスの真似じゃあないけれど、
指を折っての一つずつ、装備を数え上げるブッダであり。

 それ以上にどうしてだろか、
 多いめだとの予報が出た日でも、

 「クシャミや眸の痒みが、警戒したほどひどくないような…。」
 「っそ、そうなんだ。」

確たることではないからと、尻すぼみないいようだったというに、
妙にあたふたし出したイエスであり。
さすがに心配しすぎていると、自分でも過剰なとことよと思うていたものか。
とはいえ、

 「でも、それって朝のジョギングのときの感触なんでしょう?」
 「うん…そうなんだけど。」

いつだったか、ブッダ自身がイエスの懸念へ向けて言ったこと。
朝一番の空気の中では、まだ杉も目を覚まさぬか、さほどの刺激はない。
前日に舞った分とやらも地に落ちているので、
顔の高さにはなかなか届かずにいるようで。
それでか、あんまり症状は出ないと、

 “言いはしたけれど…。”

こうまで大丈夫なのは、もしかして。

 「……。」
 「な、何? どうしたの?」

ふと、不意に押し黙ったまま、真っ直ぐにこちらを見やる如来様。
何か思い詰めてでもいるものか、真顔に近い無表情になりかかるのが、
実は微妙な心当たりを抱えている身には、
隠しごとしてるでしょう?という、無言の詰問にも見えてしまうものだから。
嘘が苦手で、内緒ごとはもっと不得手なイエスには、
途端に結構な我慢を強いられる瞬間なのだが、

 「…うん。奇跡だとしたらば喜んでちゃいけない濫用だけど、」

  ギクッ☆

 「でも、それでこうまで助けられているのなら、
  当事者の私が責めるのはお門違いなのかなぁって。」

  ギ・ギクッ☆

何とも微妙、まるで“もう気づいておりますよ”と
言わんばかりな言い回しをされ。
いやあの、それは私とキミとの両方を気遣ってくれた
梵天さんの差し金、いやあの、何て言ったらいいのかなぁと。
モジモジしだしたイエスに先んじて、

 「どうなんだろう。
  これってやっぱり、私の中の白血球とやらいう抵抗力が、
  杉の花粉と判り合えたから起きてる“奇跡”だと思う?」

 「………………え? えええええっ?」

こっちからは想いも拠らないことをば、
それこそ本命と思い至ってたらしいブッダ様の見解へ、
はい?と ついつい眸を点にしかかったイエス様に、
無理もないと同情したくなった人、手を挙げて。(おいおい)




     ◇◇◇


かくの如く。
いい気候になったらなったで、
今度はそれへ呼応して芽吹くあれこれを、
見つけに感じにと表へ出たいところなれど。
その芽吹きの、ある意味 立派なお仲間だろう、
杉や桧の花粉様が空中に飛散するのが、
コントで胡椒を振りかけられるのに さも似たり、
目鼻や喉の粘膜への過度な刺激という
各種の症状を引き起こす人には、苛酷な日々の始まりでもあって。
しかもしかも、此処が今年は微妙なのが、
こういう気候へ入る寸前、ちょっとした経緯があったのでと、
罪滅ぼしというのではないが、気の毒させた穴埋めにということか、
彼らに馴染みの天部様が、あくまでもブッダへは内緒で、
花粉の飛散を避けられるよう、
風で加減してあげましょうという気遣いをしてくださっている。
だがだが、春一番が吹く頃合いともなっては、
さすがにそんな配慮にも限界があろうから、

 “重度の症状とまでは行かずとも、
  これまでみたいに
  “今年はまだ平気vv”ってレベルじゃあいられないだろし。”

予防薬ってブッダにも効くのかな、
CMで“前日に飲めば朝からの鼻水を止められます”なんて言ってる
画期的な鼻炎薬もあるみたいだけど…と。
丁度開いていたPCで、あれこれ関係筋の情報をググッてみておれば、

 「……、?」
 「〜〜〜。////////」

何の気なしに上げた視線が、ブッダの視線と絶妙にかち合う。
しかも、絡まるすんでで、あややと照れつつ逃げるのが、
いかにも不慣れで…可愛くて。
いつもあんなに落ち着いてるのに、
イエスの無駄遣いや好き嫌いへ、大人ぶって意見する人なのにね。

 “私のこと、とっても幼い子犬みたいなんて言うけれど…vv”

きゅうんと小首を傾げたり、
困った困ったと目を潤ませてじいと見つめたり、
誰へでも そんなするのダメなんだからと、
真っ赤になってイエスへ忠告するブッダだが、

 “自分だってこんなに可愛いくせにネ。///////”

ぷっくりした口許を軽く咬み、
ぱっちりした深瑠璃色の双眸を泳がせて。
色白な頬だけじゃなく、
螺髪のせいであらわなお耳の、長い耳朶までもを真っ赤に染めて。
静かに鷹揚に構えると、あれほど透徹冷静で頼もしいはずのお人が、
ここまで愛らしくなってしまうなんて、誰が知っていようかと、

 “いやいや、知られては困るってvv”

世界を愛と真理で支える最聖二人。
だからこそ、
お互いを支えることだって出来るのかも知れぬと思うのは、
それこそ自惚れなのかなぁ。
でもでも、

 “……うん。私、そうなれるように頑張るから。”

懐ろ深くて、どんな我儘も包み込んでくれる愛しいお人。
そんなブッダがそれこそ手放しで凭れてくれるよな、
頼もしい存在にならなきゃと、おっとりはんなり微笑って見せれば、

 「う…、いやあの、えと…。////////」

ヤダな、なんで判ったんだろと。
居心地悪そうにもじもじしちゃうブッダ様だったのは。
PCを見下ろしてた間じゅうのずっと、
無心になってたヨシュア様の冴えたお顔、
意図せぬまま、ずっとずっと見ほれていたからだなんて。

  神様にだって判りゃせぬvv



   お題 1 『従順な』




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  *春が来れば、いろいろ嬉しい反面、
   別口の困りごとがむっくりと頭をもたげるお二人ですが、
   はてさて、一体どんな春が見つかりますかvv

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