キミとならいつだって お出かけ日和

 

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小春日和というのが 春と言いつつ晩秋から冬の初めの季語なように、
実は“三寒四温”というのも、
本来は それと同じく“冬の初め”に使われたものだそうで。
ただ、その発祥というのが中国の東北部の話であり、
日本とは気候が微妙に異なる地の話なので。
違って当然と、日本では春の初め、
暖かい日と寒の戻りが交互になる頃合いへと使われていて。
それを差して、
本来とは違うとか“誤用だ”とは もはや言わないのだそうな。




六畳間の小さなテレビ画面に映し出されたのは、
背景の青空との対比が際立ってのこと、
はちきれそうなという描写がいかにも相応しい健やかさを見せる、
菜の花のそれは鮮やかで濃密な黄色の群れだ。

 「伊豆の方か。
  此処よりずんと南だし、もうすっかりと暖かいんだろうねぇ。」

伊豆といえば 降臨して初めて旅行もしたのが修善寺であり。
なのでというのは やや大雑把かもしれないが、
こちらの最聖二人にも縁がなくはない土地と言え。
そんなせいでもないのだが、
春先の風景を伝える紀行番組も結構お好きな彼ら、
何とはなくチャンネルを合わせたそのまま、
濃緋の花が可憐な 早起きな桜に見入っておいで。
此処の名物となっている“河津桜”は、
ソメイヨシノが1週間で散るのに
早咲きな その上、一カ月も咲いているという話へ、
そうなんだぁと二人して感心しきり。

 「桜かぁ。この辺りだともうちょっと先になるのかなぁ。」
 「そうだね、去年みたいに三月の末に咲き始めるとしても、
  満開はやっぱり四月の話だろうね。」

今日は昼前から雨が降りだしていて、
陽もさほどに顔を出してたわけじゃあないが。
それでも、どうしても暖房が必要だというよな寒さではない。
これもまた春らしい日和のうちだねなんて和みつつ、
まだ曇り空のうちにお買い物に出た以外、
特に予定もないままに日を過ごし、
今は午後のひとときを奥様向けのワイドショーなど観つつ、
コタツ回りでくつろいでいる、イエスとブッダであり。
イエスがいつもの伝でPCを広げながらという身なら、
ブッダは家計簿に今日の献立を書き込みつつと、
正しく“通常運転”の過ごしようをしておいでのお二人で。

 “そろそろ豆ご飯もいいかなぁ。”

イエスはスナップエンドウよりキヌサヤの方が好きだから、
旬の今のうち、また卵とじを作ってあげなきゃね♪などと。
表紙を閉じた家計簿の上で、
3日分のお値打ち予告が印刷された、スーパーのチラシを片手に、
明日やその次の晩の献立も検討しておれば、

 「  …っ。」

そんなブッダの手元がひくりと震え、
眺めていたチラシが天板の上へはらりとすべり落ちる。
テレビからはうるさくはない程度の音量で、
通販コーナーの紹介、
この春イチオシのとアナウンサーさんが
真空パックにされた何かしらお総菜を紹介しており。
窓の外、時折風にあおられているものか、
雨脚がざああっと強まるのに邪魔されてしまうが。
特に聞き逃したくないよな内容でもなしと、
イエスも気にせぬまま、
それよりも…と、キーボードを時折カタカタと叩いておいでなくらい。
熱の入った書き込みというよりも、
ワンフィンガーでこなせるような他愛ない代物らしく。
とはいえ、丁度そんな操作のさなかだったからか、
ブッダの様子には気づかなかったようでもあって。
如来様が好きな やや伏し目がちになって、
モニターを眺めておいでの横顔は至って静かなもの。
そんな室内へ、

  ♪♪♪♪♪〜♪♪

不意に軽やかな電子音がどこからか聞こえて来た。
短い旋律のそれは、どうやらスマホの着信音のようであり。
電話かメールか、いかにも呼び出しですよという同じパターンを繰り返す。
自宅にいるのだからと、手元近くへ置いてはないのに不審はないが。
そんなコール音が2、3度続くのへ、だが、
イエスはちらとブッダを見、そのブッダはといえば、

 「………。」

お顔を伏せると、家計簿の紙面へ視線を落としておいで。
どうやら彼のスマホへのコールであるらしく。

 「…? ブッダ?」

そんな短い訊きようで、
出ないの?と、暗に訊いているイエスらしかったものの。
どうしたことか、ちょっぴり戸惑うような態度を見せ、
それへお顔を上げた途端、コール音の方も切れたので。
反射的に“あっ”と言う代わりのような瞬きをして見せたものの、

 「メールみたいだから、急ぐこともないでしょ?」

文面はスマホに届いているのだ、いつだって読めるのだしと、
やはりやはり立ち上がる気配はないままでいる。

 「でも…。」

そう、でも…とイエスが不審に感じたのは、
自分から打つメールはあんまり得手ではないものか、
それこそいつでも良いよなものへでも、
速攻で折り返しの電話をし、確認を欠かさない彼だのに。
小首を微かに傾げ、そこを問うているらしいイエスなのだと、
こんな態度だけでそこまで通じたのだろうブッダはと言えば、

 「着メロも設定してたのじゃなかったから、
  よくあるスパムメールかもしれないし。」

だからいいのと、目許をたわめて微笑って見せるものだから。
ちょっと引きつっているのが気にならぬでもなかったが、
そうまで言うなら、まあいいかと。
こちらも小さく微笑って返し、
CMが終わった途端、
青々とした海を一望出来る丘からの見晴らしへ、
女優さんが“うわあ、絶景だぁ”と伸びやかな声で言ったのへ
まんま注意を逸らされた二人。
髪やスカーフを潮風にやや強く遊ばれつつ、
何か柑橘の畑なのか、同じ樹の植わった斜面を降りてゆく姿が。
足取りこそパンプスのせいで おっかなびっくりながらも、
何とも心地よさげで微笑ましくもあり。

 「いいねぇ、春の風とかやわらかそうで。」
 「うんうん。
  陽も優しそうだし、何とも伸び伸び出来そうだよね。」

 あれって甘夏かなぁ。
 え? もう夏のミカンなの?
 う〜んと、夏みかんっていうのとは微妙に違うというか…

判らないことはブッダ様に訊いてみよう…でしょうか、イエス様。(笑)
手元に便利なツールがあるんだったと思い起こし、
えっとぉと早速ググってみておいで。
それによれば、

 甘夏は夏みかんの変種で、
 特に品種改良したのではなく
 自然発生したものが見つかったらしく。
 夏みかんより早い時期に収穫されるのと、
 夏みかんほど酸っぱくないので、
 現在ではこちらが主流となったのだとか。

 「日本人て甘いのや柔らかいものが好きだよねぇ。」
 「そういや、リンゴもパンもそうだものねぇ。」

特に、スィーツケーキの類のあの柔らかさと言ったら、
マシュマロやメレンゲと並ぶほどだしィvvと。
食いしん坊の血が騒ぐのか、
イエス様がいかにも嬉しそうなお顔になったそんな間合いへ、

  ♪♪♪♪♪〜♪♪

ほんの先程も聞こえて来たのと全く同じ、
ブッダのスマホかららしい、
メール着信のコール音がまたもや流れて来たものだから、

 「…っ。」

当事者様が肩をふるりと震わせたものの、
どうしたものか、やはり立ち上がろうとはしない。
トートバッグの中らしく、
やっぱり数回だけ鳴るとそのまま沈黙してしまい、
聞こえなくなったことへこそ、
ほおと胸を撫で下ろしているよな彼であるあたり。

 心当たりでもあって、
 しかも気まずい相手からなのかなぁ…と

そういう あらぬ邪推が浮かぶよな、
悪い意味での“察しのよさ”もまた、
絶賛発揮されなんだ(笑)イエス様ではあったようだけれど。

 「そいや、ブッダのスマホって
  設定してないメールは受け取り拒否…とまでは設定してないんだね。」

さっき彼が言ってたとおりなら、
初期設定のコール音が流れるような
相手が判らぬ未設定メールも一応は受け取っているということになる。
こういうのも設定で色々とカスタマイズ出来るのでしょうかね?
もーりんは相変わらず ガラケーもスマホも使っていないので、
そういう細かいことはよく知らないのですけれど。(おいおい)
何事へも慎重な如来様だけに、
煩わされないよう先んじて対処は取ってるものかと思ってたと、
すぐお隣りに座すブッダのほうを向き、
思ったままらしき素直な口調で そうと尋ねるイエスのお言いようへ。
自分でも同じように感じたものか、

 「…うん。
  私のメアドってそんなに捜し当てやすいのかなぁ。」

彼なりに凝ったのにしていたので、
これまではそうそう頻繁に、
スパムや数打ちゃ当たるメールは迷い込まないでいたのにと。
不可思議なことよと小首を傾げるブッダだが、
そうと考え込んでいる割に、
じゃあ確かめよう…と立ち上がるではないままでもあって。

 “………。”

日頃から、極力コタツから離れたくはないとする
天然記念物への認可希望“コタツむり”なイエスと違い、(こらこら)
瑣末なことへでも動き惜しみをしない、
働き者でフットワークも軽いお人なはずが。
謎めいたコール音への、先程からの この対処。
不審だよねぇというお顔をしつつも、
でもでも立っては行かないというのは、
何とも奇妙で矛盾している……と。
またもや案じてしまうかと思や、

 “えっとぉ〜〜〜vv/////////”

今度は微妙に、いやいや判る人には判るだろ、
必死で笑いをこらえておりますとばかり、
口の中を自分で咬みしめておいでのヨシュア様。
決して、滑稽だという笑いが込み上げているのではなくて、

 “どうしようねぇ、まったくもうもう〜〜vv////////”

嬉しいやら照れるやら、
敢えて言うなら、含羞みの最上級という種の笑みが
口元や頬にだだ漏れしそうなのを、
そんな口や頬を内側から咬みしめて、必死懸命に堪えておいでなのであり。

  だって、あのね?

別に深い意味はないけれど、
今日はイエスの右隣に座っている釈迦牟尼様。
さっき何の前触れも目配せもなく、こそりと捕まえて繋いだ手なの、
どうしてだか解かないままでいるんだもの。

 『……vv』

最初はほんの悪戯心からのこと。
家計簿をつけ終わり、
ちょっぴり凝ったか、腕や背中を延ばすように
その両手を座ってるすぐ両側へそれぞれついた彼だったのだが。
右手はチラシに伸びたけど、左手はそのまま
コタツ布団の上へ軽く投げ出されていたもんだから。

 ああ、きれいな手だなぁと

少し濃色の布団に映える色白な手に、
自分のいた側だったこともあり、ついつい見ほれてしまったイエス様。
行儀がいいのの現れか、
ただ投げ出されていても、その指の軽い丸め方がまた端正で。
無意識のうち、伸ばされたり丸められたりするのを、
何とはなし見ほれていたものが、

  それもまた何げなくだろう、
  さっと引かれかけたのが逃げるように思えたか

天板の上へ持ち上げられる前にと、
すかさず捕まえてしまってて。
手のひらに包み込んだ手のおもて、
きめの細かい肌は やっぱり心地よくてうっとりしたし。
自分とさして変わらぬ大きさの、
しっかとした男の人の手に違いないけれど。
ふんわり柔らかな優しい感触なのが、慈愛そのものみたいで。
それより何より、愛するブッダの手だというだけで、
それへ触れること自体に胸が騒いでの、
大きにときめいてしまうったらなくて。
平然として見えたかもだけど、
その胸中では…そのまま蕩けちゃうんじゃないかってほど、
くぅんくぅんっていう切ない声がだだ漏れだったのvv

 『  …っ。』

ブッダもきっと“え?”くらいは思ったんだろうけど、
手を繋ぐ格好になったまま、されど知らん顔をしていたら、
特に意見することでもないと思ったか、何とそのままでいるんだもん。
ただ、ようよう見ると眸が泳いでたし、
唇も合わさったり浮いたりしていたのが、

 “可愛いったらないよねぇvv”

なので…ちょっと調子に乗って、
きゅうと指をからめたのは、でも最初だけ。
びくくっと腕やら肩やら震えた彼だったので、
それ以上は無理から引き留めてなんかなかったの。
指も緩めたし、軽く重ねてただけだったのにね。
なのになのに、そのままずっと、
繋いだ、いやさ重なった手を、
彼からは放そうとはしなかったブッダなのであり。

 “むしろ、スマホに出てくれたら良かったのに。”

あ〜って、からかったなぁって怒ってくれてよかった
他愛ない悪ふざけだったのにねと。
そういう意味でも
“くくく…vv”という吹き出し笑いが
止まりそうになくて大困りなイエス様。
しょうがないかと、もう一度愛しいその手をきゅうと握りしめ、
ちょっぴり強引に、でもでも丁寧に両手で掲げ持って引き寄せて。
結果として本人ごと間近へ引き寄せた格好の、
その麗しい甲へ軽やかな接吻を記す。

 「あ……わ、な、何をっ。///////////」

取り乱すほどではないながら、それでも
思いがけなく手を繋いでいただけで
もう十分ドキドキしていたらしいブッダ。
やや強引な…というか、
悪戯なイエスの態度に わあと再び胸が躍った。
骨組みのしっかとした雄々しい手の感触と力強さに、
乱暴なというよりも、さあおいでという頼もしさを感じ。
その身まで引き寄せられたその先で、
ちょんという軽やかなキスを贈られたものだから。

 「あ、や…。/////////」

柔らかい唇の感触を手の甲へと受けたそのまま、
肩や背中が淡雪みたいな微熱におおわれ、
頬から顔から真っ赤に染まる。
延べたままの手元から
ちらりと見上げるイエスと 目が合ってはもういけません。

 「う…あ…。////////」

含羞みを堪えるのももう限界と、
深瑠璃の双眸、ぎゅむと瞑ったその途端。
慎み深さや芯の強き自制の象徴、
神通力にて結われた螺髪が、あっと言う間にぶわりとほどけ。
しっとりつややかな絹糸のような濃色の髪が、
肩へ背中へ長々とあふれるのと同時、

 「〜〜〜。////////」
 「おっと…。」

ご本人まで…身の置きどころに困った末のように、
はたまた、真っ赤に熟れたそのお顔、
他でもないヨシュア様に見せないように。
イエス本人の懐ろという一番の死角へ伏せてしまわれて。
初々しいのだか大胆なのだか、
どれほど臈たけた姿になっても、
何とも愛らしいというところが相変わらずな
ブッダ様だったようでございます。




   お題 2 『じゃれ合おう』








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  *なんやこれな展開ですいません。(笑)
   毎日が春休みの最聖お二人、雨の日も楽しの巻でしたvv
   もうもうもう//////と真っ赤っ赤のブッダ様、
   何とか落ち着いてから自分のスマホを確認して、

   【 私だよ♪ 驚いた?】

   スマホじゃあなく、
   PCから送られたらしいイエスからのメールへ…。

   さてここで問題です。
   ブッダ様が見せた反応は次のうちのどれでしょう。(おいおい)

    その一、もうもう悪戯は止してよぉと またまた含羞む

    その二、通信費の無駄遣いはやめなさいと叱る

    その三、イエスの名を騙った誰かから
        こんなメールが来ちゃったと、
        イエスの身こそを心から真剣に危ぶむ

   三番目だった日にゃあ、
   イエス様、聖痕が開くほど反省せんといけませんね。(笑)

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掲示板&拍手レス bbs ですvv


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