キミとならいつだって お出かけ日和

 

     10



途中で思わぬ通り雨に見舞われたけれど、
全般的には 暖かくて風も清かな、いいお日和の中でのお出掛けとなり。
ランド・マスコットたちのついたストラップや、
小ぶりなタオルハンカチ、巾着袋も一緒だった
お子様にどうぞという ゆるキャラセット。
チョコ菓子やチーズケーキ、乳製品、ハムやソーセージなどなど
優待券のおまけだった山ほどのお土産を抱え、
立川への帰還と相成ったのが夕刻前。
住宅街では そろそろ夕飯の支度だねぇという空気が流れ始め、
商店街から出て来る人や駅から出て来る人の背中に、
冬場に比べれば随分と遅くなった 夕陽の茜色がほんのりうっすら差してのこと、
ほのかな郷愁とか滲んで見えたりする頃合いでもあって。

 「あー、楽しかったねぇvv」
 「うんうん、いっぱい遊んだよねぇ。」

通り道なのでと、商店街をちらと覗き、
八百関さんでは春キャベツとスナップエンドウ、エノキ茸を、
とうふの吉岡さんでは絹こしと自家製油揚げを買って、

 「買い置きのタケノコがあるから、
  今日はタケノコの炊き込みご飯にしようね。」

それとちょっとした煮物とお澄ましと、と。
帰ったら早速取り掛かるのだろう、晩餐の予定を話すブッダなのへ、

 「うん、それ大好きvv」

イエスも“異議なしvv”との笑顔を向ける。
大川の支流沿い、こちらのはまだ五分咲きの桜並木が、
綿あめみたいになってその輪郭をぼやかしつつも、
春の黄昏に暖かな色合いで照らされている中。
のんびりとした歩調で辿り着いた松田ハイツの佇まいに、

 何とはなし ホッとするから不思議だねぇとは、イエスの弁で。

だって、今日は朝からずっと とっても楽しかったでしょ?
でもって、そんなお出掛けもこれで終しまいっていう
これ以上はない“ゴール”なんだのに。
帰って来たんだなぁっていう別口の感慨が涌いて来て、
こっちもまた嬉しい意味で、ホッとしちゃうんだものと、
まるで遠足から戻って来たばかりの子供のような言いようを連ねてから、

 「もうすっかりと“我が家”なんだねぇ。」

いかにもしみじみと言うものだから。
ドアの錠を開けながら、ブッダもそうだねぇと応じつつ、
くすすとお顔をほころばせてそれは楽しげに微笑ってしまう。

 “そういえば、イエスは“ただいま”がお気に入りだものね。”

独りぼっちが苦手なメシア様。
ブッダが待ってるこのおウチへ“ただいま”と帰って来るのが、
それはそれは幸せなことなんだと、
いつぞや、やっぱりしみじみと語っていたっけね。
今日は誰も待ってはいないおウチだが、
それでもドアが開くと“ただいま〜”とそれは朗らかに口にする彼で。
そんな彼に続きつつ、
ブッダが“お帰り〜”と律義に返すのもいつもの習いだ。
買い物を一旦冷蔵庫へ入れてしまうと、

 「静子さんへのお礼のお土産は、明日にでも渡しに行くとして。」

花粉症への特効薬を差し入れてくれた静子さんや、
大家の松田さんへのお土産は、
さすがにちゃんと自腹で買い求めたため、
それも含めて結構な嵩になった手荷物を開け、
冷蔵庫へ入れねばならぬ要冷蔵品はブッダが引き取れば、
雑貨やお菓子の類は、紙袋へ移してからイエスが六畳間の一角へ片付けて。

 「じゃあ、下ごしらえ始めるね。」
 「うん。」

キッチンへ戻ったブッダは早速、夕ごはんの支度にかかる。
薄い厚揚げ風、少し厚みのある自家製油揚げは、
軽く茹でて油抜きをし、
真横から包丁を入れて器用にも真ん中で水平に開く。
縁を整えて出た余りと
買ってあったボイルタケノコを刻んだのとを、
洗った米の上へ一緒に敷き詰め、
おだしと醤油少々を分量入れて炊飯器へセット。
開いた油揚げには、
あっさり茹でたスナップエンドウをV字にして2本並べ、
その開いた側にヤングコーンを添わせ置いて、
くるりと巻物みたいに巻き込んで。
絞り洗いをしたカンピョウで、
ほどけないよう二か所ほど結び留めたら、
みりんと醤油で味を整えたおだしで煮る。
ちなみに、
ギョウザや つくね団子のタネで薄めにくるんで、
豚の薄切り肉やベーコンで巻いて、
甘辛たれでゆっくりこんがり焼くのもOK。
輪切りにすると あら不思議、
ヒマワリと葉っぱという切り口になるので、
お弁当には可愛いアクセントになるかも…と
TVで紹介されてたメニューですvv

 “あとは 絹ごしとエノキのお澄ましと、それから…。”

何をつけようかと考えもって、視線を巡らせれば、
イエスがコタツにPCを出しており、デジカメを接続しての作業中。
今日撮影して来た写真を早速にも取り込んでいるらしく、

 「あ…私も観たいvv」

画像が小さいままでも、何だったらファイルのままでも出来る作業だが、
ところどころで手が止まるのは、
気に入ったの、PCの大きめ画面に拡大して観ているかららしく。
そうであるという段取りくらいは、ブッダもさすがに覚えたようで、
観たい観たいとコタツへ足を運んでゆく。
勿論、イエスにも否やはなくて、

 「ほら、菜の花の前で撮ったのだよ?」

正確にはランドのお姉さんに撮ってもらった最初の1枚。
よく晴れた空の淡い青と、初々しい黄色のコントラストも鮮やかな、
いかにも春という風景を背に、
パーカーやブルゾンを羽織りつつも
中身はお馴染み、お揃いのTシャツにブルージーンズという、
至ってラフないで立ちで、それは朗らかに笑う二人が収まっており。

  春らしくて綺麗だったよねぇ。
  うん、あの黄色は見事だった。

そこから始まった沿道の並木や花壇には、
ピンクや黄色に、淡緋、白と、
いかにも春めいた色合いの可憐な花々が
どれもこれも瑞々しく咲き誇っていたものだから。
イエスも まさかに全部を網羅せんと張り切ってたつもりはなかったが、
それでも健気な愛らしさについつい惹かれたようで、
結果として随分な量を撮っており。

 「植物図鑑“春の部”が編纂出来そうなほどだねぇ。」
 「えっとぉ…。////////」

ありゃりゃあと含羞むイエスへ、
気持ちは判るよと ブッダが執り成す。
このビオラなんて色違いのがグラデーションを織り成していて
そりゃあ可愛かったものねと、
評した次の写真には、

 「あ…。////////」

ミモザを見上げるブッダが写っており。
それは楽しそうな笑顔の一枚ではあるものの、
だがだが目線も明後日を向いている横顔だということは、

 「…ごめん。あんまり可愛かったから、つい。///////」
 「うう…。/////」

撮るよと声をかけた写真ではない、つまりは隠し撮りらしい。
以降も何枚かに1枚という割合で、
お花よりもブッダが主役のようなスナップが挟まっており。

 「……私ってこんなに隙だらけだったの?」
 「えっとぉ。///////」

そうじゃなくてねと、イエスが言うには、
花を撮るよに見せかけて、でも
ファインダーの中はこういう構図だったという撮り方をしたらしく。

 「ズームや広角機能を駆使しました。」
 「あのねぇ。///////」

いらんところで小技に長けておいでで。
わざわざそうまでの策を弄したことへと照れつつも、

 「写真はそれほど嫌いじゃないし、
  このくらいの頻度でいいなら断りはしなかったと思うよ?」

怒るより ともすれば呆れつつ、
なんで直接“撮るよ”って言ってくれなかったの?と、
今更なことをイエスに問えば、

 「だって、それだと同じ写真になっちゃうでしょう?」
 「? 同じ写真?」

意味が判りかねたらしいブッダなのへ、
その方が手っ取り早いと思ったか、
今日の収穫、彼を隠し撮りしたものをPCの画面へ並べて見せれば。
成程、微妙に目線が違ってて、
それぞれ、いろんな角度の顔や姿のスナップなのであり、

 「勿論、正面からのお顔も綺麗だけど、
  この角度も可愛いし、この角度はドキドキしちゃうし。//////」

 “…それは隠し撮りがばれないかっていうドキドキなんじゃあ。”

生真面目なブッダが ついつい突っ込んだのはともかく。(苦笑)
さすがは“2000年越しのブッダ・フリーク”を自称するだけあって、
お互いに告白し合ってもなお、
遠巻きからこっそり寄せる種の熱も健在だということだろか。

 「こうやって一緒に暮らしていても、
  隠し撮り写真も撮りたいものなの?」

言ってくれれば あっち向いたりこっち向いたりくらいしたよと、
一応は言ってみたブッダだったのへ、

 「隠し撮りなんて言わないでよ。」

そこはさすがに違うのか、
モニターいっぱいに広げた写真を、
それは丁寧に今日の日付のフォルダーへと仕舞いつつ、
お髭まで真っ直ぐにしての、ちょっぴり取り澄ましたイエスが言うには、

 「ついつい色んなお花を山ほど撮りまくってしまったのと同じだよ。
  あんまり可愛いからつい、
  ファインダーに収めてシャッターを押したくなっただけ。」

言って“ふふーvv”と それは満足そうに微笑って見せて、
そのままてきぱきと、
外づけ機器からの写真整理とやらに勤しんでいた彼だったものの、

 「…ホント、好きだって気持ちもこれと同じでキリがないよね。」

ふと。
マウスを操作していた手を止めてしまい、
ちょっぴり考え込むようなトーンで、しみじみとそんな言いようをする。

 「イエス?」

ちょっぴり自慢げだったはずが、
打って変わって 目線も伏せがちという萎えた様子になったイエスであり。
もしかして…今の問答でしょげてしまったのなら、
責めた訳じゃないよと言い足そうとしかかったブッダへと、

 「あのね?」

先んじて話しかけて来て、

 「私、時々おかしいんだ。」

  え?

 「キミに夢中になり過ぎて、思うより先に手や体が動いてしまう。」

丁度 イエスが目にしていた写真は、雨宿りの最中の1枚で。
誰も見てはないのをいいことに、
屋外だというに、結構大胆に何度もキスを交わし合ったし。
そんな雰囲気にすっかりとまろやかに絆されたせいだろか、
ブッダもしばらくほど髪を解いたままでいたのだが。
螺髪がほどけてしまった姿の画像は、
そういえば滅多に撮る機会もなかったから、お初のそれじゃあなかったか。
他でもないイエスを見やっているからだろう、
表情もどこか優しいしどけなさを含み、
深色のしっとりした髪をその身へまとわせた艶姿に視線を留めつつ、

 「ホントは、髪を結い直せるほど落ち着くの、
  待ってほしかったろうにね。
  なのに、可愛いなぁって気持ちが止まらないまま、
  ますます落ち着けなくなるようなことしちゃって。」

 「…いえす。」

こそりと写真を撮ってたのだってそう。
さっきはつい小理屈を言っちゃったけど、
知らないうちに撮るなんてって、え〜って思っちゃったのも判る。
片思いしていた間、こっそり見つめてたもんだから、
私のほうではいつもの事だけど、
ブッダの方はそうはいかないものねと、ややしょんもりして見せて。

 「いけないことをいっぱいして、
  そんな自覚があったからだろう、
  胸のどこかがきゅうきゅうって絞めつけられてて。」

胸元をそっと押さえたのは、その感覚が再び襲ったからか。
どれほど無邪気でも、根本は聖なる存在。
疚しいことだとの自覚があるなら尚更のこと、
その胸だって痛むのももっともな話で。
だが、その手は胸元から離れると、そのまま緩くきゅうと握りしめられて、

 「でもね、
  もっともっとって思う気持ちも同じところにあって。」

 いつだったか、そう、タルトを作った日、
 唐突にキスしちゃったことがあったでしょう?
 それだけじゃなくて、
 ブッダのお顔や頬や口許以外へも、
 やたらと触れたくなったりキスしたくなったりするし、と。

本人の自制が利かぬ、衝動的な行動に出てしまったことの数々を、
気が咎めてのことだろか、彼もまた いちいち覚えていたようで。
切なる訴えを絞り出すように吐露すると、

 「ブッダを大事にしなきゃ、
  優しさで包み込んで守らなきゃいけない私が、
  そんな強引な我儘ばかりしてるなんて、本末転倒じゃないよね。」

 「いえす…。」

ああそれでかなと、朧げながら得心がいったことがブッダにも一つ。

 『もっと欲しくなってもいいのかな。』

チョコレートの工房で体験作業を手掛けていたおりに、
不意に耳に届いた呟きがあって。
微妙な含みがあったような気がしたものの、
こちらの勝手な勘違いかも知れぬと
バツが悪くなりかかったブッダの目に入ったのが、

 それは真摯な眸をしていたイエスであり。

わざと言ってみたんだよ、驚いた?なんておどけるでもなく、
ふいっと目を逸らし、なかったことみたいに触れないままになっちゃって。
それが ますますと気になって気になった挙句、
いっそ心の中を読めたらいいのになんて、
いつぞや振り回された時にも ちらりと欲した罪深いことまでも、
この如来様がついつい思ってしまったほどでもあったのに。

 “……そっか。///////”

なぁんだと思った途端、肩から少しだけ力が抜けた。
隠れていたのは不安だと、
イエスもまた、密かに混迷困惑していたらしいと判ったことで、
だっていうのに…安堵と共に、照れ臭いような気分も押し寄せたのを、
でもでも今は何とか押しとどめ。

 「……。」

自分が抱えているのは過ぎる強欲さではないかと案じ、
ちょっぴりしょげてしまったイエスへ向けて、
肩から力を抜いたまま、その双腕をすっと広げて見せる。

 「イエス、ほら。」
 「?」
 「ほら、おいでよvv」
 「え?///////」

これは明らかに、抱っこしてあげようという“おいで”ではなかろうか。

 「えっと?////////」

でもでも、可愛いブッダを自分がぎゅうするというのが
私たちの間柄の基本じゃなかったですか?と。
そんな前提をつい意識しかけてだろう、戸惑いのお顔をしかかったイエス。
動き出せないまま、困惑しきりという様子でおれば、

 「いえす、ほらvv」

一縷も動じず、ほこりと頬笑むブッダの、
慈愛に満ちたまろやかな笑顔には所詮かなわぬか、

 「………うん。//////」

やっとコタツから膝を出し、ふと思い出したよに茨の冠も外して。
おずおずと身を進めると、
向かい合う格好のブッダの肩へぽそりと頭を乗っけて、
そのまま、やや遠慮がちにその柔らかな肢体へ凭れかかる。
ふわりと甘い香りに包まれながら、

 “ああ、懐かしいなぁ。///////”

頬に触れる肩のまろやかな感触が心地よくって。
天界にいたころ、こうやってよく甘えかかったのを、
ついのこととて思い出しておれば、
優しい腕が背へと伸びて来たのと同時に、

 「イエスも初心者なんだよって思い出してほしいんだ。」

低められても豊かな張りのあるブッダの声が、
くっつけた総身から静かに伝わって来る。
落ち着きのある静かな語りかけは、
説法ではないからか、彼自身の声で紡がれていて、

 「確かに、私がイエスへ恋心を抱くよりずっとずっと前から
  この不思議な情からの試練に耐えて来た、言わば“先達”のキミだけど。」

対象である自分にさえ隠してという、辛い片恋をしていたその長さの分、
先輩には違いないという理屈は判るけれど、と。
ブッダはそう囁いてから、

 でもね? 想いが通じ合った恋って格好では、
 私と変わらない経験値しかないんじゃないの?

 「え?」

意表を突かれたか、思わずという感で顔を上げたイエスへ、

 「こんな風に
  理屈でどうこうと割り切れるものでもないのだろうけれど。」

玻璃の双眸と視線が合ったそのまま、
ブッダはちょっぴり眉を下げて苦笑をし、

 「例えば…そう、私ってば
  慣れない“好き”へのどぎまぎが収まってくるのと入れ替わり、
  今度は余計な焼き餅をやたらと焼くようになったでしょう?」

不安になっては取り乱したり、落ち着きがなくなったり。
いい歳して泣きそうになる私へ、そのたびにイエスはハッとして、
ごめんねごめんねって、気が回らなかったって、そりゃあ いたわってくれて。

 「でもね、それって、
  イエスがうっかりしてたんじゃなくて、
  私が らしくもなく臆病になってたのへ、
  予測が間に合わなかったからじゃないのかな。」

 「あ…。」

他でもない想い人当人へ、あからさまになってしまった思慕。
一番やあらかくて、一番恥ずかしい想いを暴かれて、
でも、大丈夫だよって受け入れられて、両想いになれて。
途轍もない不安が救われてホッとしたけれど。
それどころか、切ない想いが報われた至福へ、
天にも昇るような夢心地になれたけれど。

 それで終わらないで、
 次の“もっと”がやって来るのが人の貪欲さというやつで。

 「感情の向いてるベクトルは逆だけど、
  似てるんじゃないのかな。
  ううん、同じなんだよ、きっと。」

一昨日より昨日より、もっともっと好きになると、
告白したばかりのころにイエスは言ってたよね。
私は逆に、イエスがいなくなったらどうしようって、
まだ来てもない負の未来に怯えるばかりで。

 「…ぶっだぁ。」

このままでは暴走してとんでもないことにならぬかと、
もしかせずともそんなことを案じていたのだろうイエスへ。
それは落ち着いた態度にて、やんわりとした喩えを交え。
他でもない自分の、ちょっぴり辛かった折の言動を、
判りやすいでしょう?と衒いなく取り上げて、説いてくれた釈迦牟尼様で。

 ああ、なんて知的で頼もしい人なのか

慣れない感情へあんなに苦しみ、取り乱してもいたのに、
こうまで落ち着きたたえて、人へと諭せるまでになってたなんて。

 「ごめんね? ごめん。私、ちっともお手本になれなくて。」

あらためて腕を延べ、やさしい肩へとしがみつく。
思えばバカンス中の今だって、甘えてばかりだったよねと、
くん・きゅうぅんと すがりつけば、

 「何言ってるの。」

そんなイエスのお背を“ぽんぽん”と叩いてやってから、
さりげなくも かいがら骨のところに掴まって、
こちらからもやや甘えの態勢を取るブッダ様。

 「ずっと我慢して来たことが、
  キミをちゃんと強くしたのは間違いないんだよ?」

素直で朗らか、嘘や隠しごとは苦手ですという、
イエスといえばの素顔には 偽りなんてないままなのだろうけれど。
本人も意識せずのそれ、
例えば 以前よりもずんと我慢が利くようになったとか、
色々とある“隠しごと”のうち、
暴かれて困るのは自分だけではないことへのガードが固くなったとか。
そんな微妙繊細なことが、いつの間にか備わっていた彼なのに違いなくて。
それらは間違いなく、
守りたいとか大事にしたいとする
“誰か”という対象があっての代物ばかり。
その誰かという重要なキーパーソンこそ、ブッダに他ならないと
そこはこの際 自惚れていいと思うのだけれど。

 “………。”

そんな変化をこんな形で察知すると、
ただただ強くなったネというだけでは済まぬ自分だというの、
改めて自覚しもしたばかり。
あなたをもっと知りたいと思う執心への障壁にもなると、
そんな強欲な解釈をしてしまいそうになり。
そうそう簡単に諦めにくいまま、ああダメなのだと吹っ切れないまま、
何とはなし不安にもなるから恋情というのは恐ろしい。

 “本当にね。/////////”

双方共に、同じよな不安を抱えていたなんてね。
見当違いの焼きもちを焼いたり、よそ見しないでと取り乱しかけたり。
そんな浮わついた自分だったから、イエスからの過ぎる情へも不安は途切れず。
都合のいいように解釈しちゃダメなんて、傷つくことだけ恐れていたものだから、
イエスの内面が見えないなぞという、
新たな不安しか拾えなかったブッダだったのであり。

 “そうまで案じ間違えてたのが
  恥ずかしいたらないよね……。////////”

おウチの中だもの、
誰に遠慮がいるものか…とまで思ったからかどうか。
こちらからもすっかりと凭れるように 愛しい背中へ回した手でしがみつき、
大好きな人の温みに、うっとりと総身で感じ入る。
男の人のそれ、いかにもかっちりとした骨格に守られる感触が
あまりに心地のいい甘さと温かさだったのへ。

 「…………あ、////////」

 「ありゃ。」

ふるるっと震えたそのまま、
品格も気高く、清楚に結い上げられていた螺髪がぶわりとほどけてしまい。
やだもう恥ずかしいと、そこはさすがに羞恥を感じたらしい如来様、
やんやんとお顔を増す増すと伴侶様の懐ろへ埋めてしまわれて。
炊飯器が炊けましたと呼ぶまで、
そのままうっとり、
大好きなオレンジの匂いにくるまれて、
何とも言えぬ 夢心地にひたっていたそうでございます










  ● おまけ ●


この度、GWに『R-2000』の増刊号を出すことになりましてと。
天界名物、阿弥陀二十五菩薩饅頭を持参した、
シッダールタ先生担当編集こと、天部の梵天様。

 「……まあ、春も出費が多いことですし、
  消費税も上がりましたしねぇ。」

 「そうでしたよね。
  勿論、こちらからの原稿料も
  ベースアップという形で上げさせていただきますので、ご安心を。」

特にこちらの足元を見たつもりはないのだろうが、
相変わらずの硬い表情が崩れず、本心をまるきり読めないもんだから、
胡亂な…と、他でもない釈迦如来様から思われてるのは
果たして問題ないのでしょうか、天部最強。(う〜ん)

 「では、このテーマ、この仕様でお受け頂けるということで。」

力作をよろしくお願い致します、と。
四角く座ったまま、深々と頭を下げた梵天氏。
今日の御用はここまでと、
野暮な居座りも今日だけは避けての早々と立ち上がり、
小さなフラットだけに
居室のすぐ間近にある玄関へと向かったまではよかったが、

 「…あ、そうそう。」

こそそと手元で親指と人差し指同士をくっつけて、
ドーム型を作って見せた天部様であり。

 イエス様、花粉よけの風はお出掛け先へも届いておりましたか?
 それと、結界障壁とか張られると、却って気になってしまいます。
 イエス様の手になるものですから、誰であれ中を覗けはしませんが、
 いっそ透けてたほうが、気を回して見ようとしないというものですよ?

 「………。////////」

例のスノウドームへ届いた天界メール。
イエス様があらまあと照れちゃうだけならいいんですが、

 「………。

“何ですか、これは”と、あらぬお人に覗かれて、
仏の顔の残機一気消滅クラスのお怒りが降って来ませんように…。

   (おお怖い……。)




   お題 10 『いつまでも一緒』





     〜Fine〜  14.03.15〜04.06.

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  *わんこと一緒、
   裏テーマは“お外でいちゃいちゃ”篇でしたvv(おいおい)

   書き始めたころは、まだちょっと寒の戻りも警戒しつつ、
   絶賛 花粉飛散中という頃合いで。
   まだ花見には早いかなと思ってたんですが、
   気がつきゃ、東京ではとっくに満開になっちゃってて。
   (例年より3日早くて、去年よりは数日遅かったそうですが。)
   先の突風に荒らされて、千鳥ヶ淵以外 随分と散らされちゃったとか。
   ここ何年かは、油断も隙もありゃしない春だこと。

   こちらの二人もあらためてお花見に出掛けると思われますが、
   竜二さんたちからも誘われそうですし、
   松田さんもご一緒にと運びそうですし、
   出掛けた先で女子高生のお友達とも鉢合わせしそうだし、
   何か 随分と大所帯のお花見になりそうでございます。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

掲示板&拍手レス bbs ですvv


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