キミとならいつだって お出かけ日和

 

     9



気温の高い日が続いたからか、
下調べでは八分咲きとなってた枝垂れ桜が、
実際には何とほぼ満開になっており。
その見事なまでの佇まいに、
イエスもブッダもただただうっとり見惚れるばかり。
ランド自体は昨秋に開園したばかりだが、
桜のほうは元々この地にあった樹であるらしく。
これを残して生かすことが、
ここいらの土地を譲るうえでの条件だったというくらい。
そんなまでの曰くつき大桜、
あえて人間の年齢で換算すれば
働き盛りの壮年に差しかからんというところの樹齢だとか。
それは生き生きと、どの枝へも十分な厚みで花を蓄えつつ、
枝振りや佇まいに重厚な存在感を備えてもいるという、
最も壮健な頃合いといえて。

 「こういう種類の桜って、実物は初めて観るよね。」
 「うん。本当に柳みたいなんだね。」

枝垂れ桜という名前は知っていたし、
写真や紀行番組などでなら何度か観たこともあったけれど。

 「じかに観ると圧巻だよねぇ…。」

八重になってる花種だったこともあり、
柳のように地へ向けて垂れたしなやかな枝の一つ一つに、
たわわについた豊かな花がそれはいっぱいで。
そんな枝々が、上の梢からだんだんに折り重なってゆき、
密度を増しているところは そのまま淡緋色の織物のよう。
雨上がりのクリアな空を背景に、
黒々とした枝や幹がわずかに覗くのが、ますますと
緋白を引き立てつつも、その凄艶な姿を引き締めるようで。

 「……あ。」

少し強めの風が吹き、
それになぶられたか さわわとゆったり枝が揺れる。
まだ咲き揃ったばかりの花は丈夫で
さっき降った雨にも揺るがなかったくらいで、
そうそう簡単には散ることもないけれど。
それでも…その身を風に任せ
ゆったりと たゆとう姿は 何とも言えず印象的で。

 華やかなのに凛と清楚で
 荘厳なのに 間近に見ると可憐。
 毅然としているのに嫋やかで

 「〜〜〜。///////」
 「何て気高い姿なんだろね。」

言葉もなく、ただただ感動していたイエスが、
傍らからブッダがぽつりと呟いたのへ、
そう、それ…っと、何度も何度も頷いて。

 「………。////////」

そのまま視線を向けた先にいたブッダもまた、
同じ桜に見惚れて“ほう…”と陶然としていたのだけれど。
イエスの側は、他でもない そんな彼の横顔へと見惚れてしまい、

 「…そっか。//////」

しみじみした声をこぼすイエスなのに気がついて、
ブッダが“なぁに?”とすぐ傍らへ視線を向ければ。
何への納得からなのか、
玻璃の双眸をやや細めつつ、やんわりと微笑ったヨシュア様、

 「うん。桜ってブッダみたいだなって思ったんだ。」
 「………え?//////////」

だって、と言いかかり、
そこで周囲を見回しつつ“いかんいかん”と口許を押さえた彼だったのは、
この愛しい人の素晴らしさ、
まだ気づいてない誰ぞかに気づかれては困るからに他ならず。

 いかにも派手なきらびやかさでじゃなくて、
 崇高っていうのか、知的な品格からっていう
 奥深いところからの繊細な綺麗さをいっぱいたたえて、
 ハッとさせるところとか。

 《 こんなに…白に近いほど淡い色の花なのに、
   見てると、視線から気持ちから全部、
   吸い込まれそうになってしまうような存在感があるし。》

こんな歯の浮くような賛辞をつらつらと、
臆面もなく並べてしまえる彼だったのへ、

 「〜〜〜〜いえす。/////////」

多くは語らぬが、その内心では恐らく、
もうもう、このガイジンさんわぁ…との含羞みで
いっぱいいっぱいだったろう釈迦如来様。
何とかギリギリで螺髪はほどけなかったものの、
どうしてくれようかと頬から耳から真っ赤になった姿は、
さながら、桜よりも緋の濃さがキュートな、
桃の花のようにも見えたのだったそうなvv




     ◇◇◇



不意に落ちて来た通り雨に中断を余儀なくされたものの、
足元がぬかるむ前に上がってくれて。
再び明るい陽射が降るいいお日和が戻って来たので、
雨宿りをしていた樹下から、
梢に宿った雨粒を浴びないよう そろそろ這い出した二人は、
そのまま園内巡りの散策に戻っており。
雨のせいかますますと瑞々しさが増した、
樹木や花壇の春らしい色彩が映える中、
時々デジカメへ記念写真なぞ収めつつ、
いかにも牧歌的な外観だが、
実は近代的な中身という各々の施設へも足を運んでみており。
ランド内の売店でも販売している色々な製品のうちの幾つかは、
敷地の中の工場や工房で作っておいでなのだそうで。
見学者用のコースが設置されていたチーズ工場を覗いて、
生乳からの製造工程を観つつ、
出来立てのチーズや焼き立てチーズケーキをお味見したし。
チョコレートの工房では、
ベルギー産のチョコでプレートを作って
デコペンでメッセージを描こうという体験教室があったので、
最聖のお二人もそろって参加。
ポニーやアルパカ、様々な種類のウサギがいたミニ牧場では、
相変わらずにブッダが懐かれまくってしまい。

 「お子さんを乗っけたポニーがついて来るのには、
  さすがに焦ったねぇ。」

 「うん。///////」

鹿は居なさそうだと油断した訳じゃあなかったが、
おや可愛いと笑いかけたら、
場内にいたのが片っ端から寄って来たので焦った焦った。
背中の子供が危ないため、速足になって振り切る訳にも行かないし、と。
いい子だからお勤めに集中なさいと
こそりと“仏スマイル”を連射なさったそうで。

 “何だか、段々と
  丸め込む手管ばかり上達してるような気が…。//////”

  気のせい、気のせい(苦笑)

途中に思わぬ雨を挟みこそしたものの、
そんなせいでか やや客足の退いた園内のあちこち、
待たされることもなく存分に回れて楽しかったし。
ランドのシンボルタワーでもあった
大きな風車の真下にあった総合案内所にては、
優待入園記念ということで、
こちらのマスコットたちのお人形がついたストラップに、
チョコやクッキー、チーズの詰め合わせと、
ハムやソーセージのギフトセット、
それから あいにくの雨になってしまったお詫びにと、
ベルギービールもいただいた。
雨と言っても ほんの小半時のことだったし、
上手に雨宿りしたので濡れてもない。
それに、

 《 キスの合間にいっぱい話もしたよねvv》
 《 うん…。//////》

人目が完全になくなったから…というのと、
ちょっぴり陰って来たことで“寒くはなぁい?”と声を掛け、
さりげなく抱き寄せたそのまま、瑠璃の瞳をのぞき込みつつ、
ねえ、もっかい いぃい?と訊くのと同義の瞬きを送って来た罪な人。

 “だよねぇ…。////////”

まあ あのその、私も ヤダと拒絶はしなかったんだから?
あんな開けたところで淫靡な真似を続けた罪を問われたら、
同罪には違いないな…なんて。
開祖として非常に困った事態を想定しつつも、
その口許は 隠し切れてない含羞みからか
ふにうにと無性にたわんでいらしたブッダ様だったようですが。(う〜ん)

  ともあれ

割り引きされていなくとも元は十分取れただろうほど、
緑もお花も、広々と開放的だった空間も、
様々な施設での体験も、それは美味しいスィーツも。
そりゃもうもう堪能しまくった1日を過ごしてののち。
では帰りましょうかと、立川へ向かうJRに乗り込んだ二人。
郊外から戻る路線だったが、
まだまだ明るい中途半端な時間帯だったからか、
来たときとは違って、車内はがらんと空いており。
ボックスタイプの座席へ増えた手荷物ごと余裕で座れ、
ふうと安堵の息をついたそのまんま、
さほどの時間も掛からぬうち、イエスが先にうたた寝し始めて。
気分も高揚していたし、結構歩き回ったし、
途中で思わぬ運びながら結界の咒も使ったので、
さすがに疲れもしたのだろうなと、そこはブッダにも重々頷けて。
線路の継ぎ目を刻むリズムに揺られ、すっかりと気が緩んだのだろうなと、
向かい合わせに座った相棒で伴侶様の、それは屈託のない寝顔に苦笑する。

 “……こういうお顔は どこと言って変わらないのにな。”

先程は ややお調子に乗った言いようをした観があったイエスだったものの、
雨宿りのインターバルでは、確かに色々な話も紡いだお二人で。
イエスが言うには、
ブッダと一緒にいることや、
片恋で通すつもりだった想いが通じたその至福に、
毎日 目が眩みそうなほど嬉しいそうで。
そんなこんなに舞い上がってるだけじゃあいけない
ブッダを守れるよう頑張らなくちゃと、
これでも色々気張ってもいる彼なのだとか。

 例えば、
 セロリはまだ苦手だけれど、
 チャーハンにはタマネギが入ってないと物足らなくなったし。

 なんだい、そりゃ。

 『…っていうか。そっか、苦手だったもんね。』

生のままのサラダ用のスライスオニオンだけかと思ってたよと、
ブッダに気遣いさせないくらい、
それは自然なものとして頑張った末の克服だったのだそうで。

 『……隠しごと、上手なんじゃないか。』

甘え上手なお顔の陰で、そんな我慢を隠せる罪な人。
しかもその上、
さりげなく甘えさせてもくれるのだから、と。
今日は二度もほどけてしまったブッダの長い髪、
愛おしげに指先にて掬い上げては慈しんでくれている凛々しいお顔、
その懐ろという至近からうっとりと見上げつつ、
狡いなぁという含みをやんわりと持たせて言い返せば。

 『周到すぎて可愛げがないタイプの方がいいの?』
 『もうもう、何を言い出すかな。///////』

ああ、そんなやりとりもしたっけね。
ブッダの側からもやや突っ込んだ物言いが多かったからだろうか、
今日は結構、イエスからも意味深な言いようを聞けもしたよね。
えっとえっとあれは……。


  『もっと欲しくなってもいいのかな。』


   あ。///////////


主語も抜け落ちてたような
それは短い、しかも意外な言い回しだった呟きを拾ってしまい、

  『 え?/////////』

ついつい訊き返していたブッダだったのは、
輪郭しか拾えなかった、曖昧なままなのが気になったからじゃあなく。
うなじの付け根をざわつかせるよな、
微妙な含みがあったような気がしたからで。

 “……それに、あれって。////////”

ブッダが困ってしまうよな言い回しや態度を取ったあと、
いつもだったら“何でもないない”とか“ドキッとした?”なんて言い出して、
わざとふざけたんだよとかどうとか、
小さく微笑って視線と話題を逸らす彼だったのにね。

 “今日だけは…。”

今日だけはそうじゃなかったのは、
丁度チョコレートを湯煎していた最中だったからかも。

 でもね

作業に熱中しておればこその呟きにすぎないと、
何だチョコの話かと、
こっちの勝手な勘違いだったと、ばつが悪くなりかかる前に、

 ふと、お顔を上げた彼が、
 それは真摯な眸をしていたものだから

 「…。」

ついのこととて、いやにはっきりした吐息が はあと零れて、
自分でもちょっぴりたじろぐブッダだったりし。
他の人もいた場所だけに、あんまり細かいこと聞き返せるはずもなくて。
イエス自身も、自分の顔に浮かんでた表情の
色合いや緊張感にまでは気づいていなかったものだろか。
次はと手順を説明されると、そちらへ意識を向けてしまったので、
そんなお顔や言い回しに隠れてたのだろ
“続き”や“本心”は、もはや聞けずとなってしまって。


 “……心の中を読めたらいいのに、だなんて。
  そんな罪深いこと、
  ついつい思ってしまったんだからね。///////”


夕暮れが近いのを思わせるよに、
ほんの少し茜の色味が差しつつある陽を浴び、
深色の髪を甘く温められてるイエスの寝顔を見やりつつ。
今は尚更に その胸中も夢の中も覗けぬ無心のお顔へ、
どうしてくりょうかとの目を据える。

 「……。/////////」

触れれば その頬も手のひらも温かいことも、
寄り添えばそれは優しい匂いがして、
ブッダにだけ ほこりと柔らかく微笑ってくれることも、
どれもこれもちゃんと判っているんだのに。

 そのまた奥がある彼なのを知り、
 そこが判らないのが 何とももどかしい。

かたたん・こととん、
静かに響く快速列車の轍の音を聞きながら、
人を好きになるって、ホント、
キリのない無限地獄みたいなんだなぁなんて。
イエスのお膝から落ちかかるバッグを
そおと持ち上げ、丁寧に座席へ避けてやりつつも。
そんな内心では ちょみっと物騒なこと、
ポロリと思ってしまったブッダ様でもありました。







   お題 9 『抱くと温かい』







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  *日帰りハネムーン、何とか帰還にこぎつけましたが、
   お土産はたくさん貰えたものの、
   ブッダ様の胸中には新しい戸惑いが生まれたような気配が…?
   つか、最近のイエス様は、
   不思議ちゃん度がめきめきと上がってて、
   書いてるこちらもドキドキしっぱなしです。(おいおい)

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