月より星より キミに誓うよ


     




今年も結構なお湿りをもたらした梅雨が少し遅めに明けた途端、
今度は 猛暑日が熱中症が水辺での事故がと、
やはり毎日のように
猛烈な暑さやそれによる事故などなどが報じられるようになって。

 『ただ暑いっていうんじゃなくて湿気も多いものね。』
 『うん。』

日本人が根気強いのって、
こういう気候に鍛えられたからじゃないのかななんて。
めげつつも 凄いねぇ偉いねぇなんて、
苦笑半分、それでもほこほこと
和やかに受け止めてしまえるブッダやイエスだったりするのは、
そこはやはり“最聖ならでは”というところか。
東北ではいよいよ夏の四大祭りも始まるそうで、
さすがに“始まったばかり”とは言わないが。
半ばに差しかかったかどうか、という
そんな頃合いの、夏 真っ盛り。
連日の猛暑酷暑じゃああるけれど、
そうかと思えば、ゲリラ豪雨や雷雨に叩かれもしと、
天候に踊らされてばかりもいられない。
そんな隙を縫うようにして、
すっかりお馴染みになって来た植物園へ
あらためて蓮の花も観に行ったし、
町内会の皆さんと海へ海水浴に出掛けもした。
イエスは市民プールで少しずつ泳ぎの練習中で、
何とか頭まで水に浸かれるようになっているのだが、
いかんせん目を開けるのが難しいらしくて、
今年もやはり 渚での水遊びが精一杯で。

 『モーセさんじゃあるまいに、
  本物の海を割る訳にはいかないものね。』

 『あはは…。』

八月といや盆踊りも楽しみだし、
その後には大川の花火大会だってあるし。
何だかんだ言っても、
イベント満載の夏なのが楽しみなお二人で。

 「…あれ?」

夏といえば、季節柄 露出の多くなる季節でもあって。
午前中からぐんぐんと気温が上がってしまう関係から、
Gパンだとさすがに暑さがキツく。
パジャマに履いてるイージーパンツを、
家の中でだけねと、
普段着みたいに履くようになってる二人だったが、

 「イエス、そこどうしたの?」
 「? なにが?」

コーンと刻みニンジンのチャーハンへ、
ちょっぴりコショウを利かせたかき玉コンソメスープをかける格好、
洋風お茶漬けという変わりメニューで
寝ぼすけイエスもしゃっきり目を覚ませたはよかったが。
食器を片付けて戻った六畳間、卓袱台の傍へ先に座っていたイエスの、
イージーパンツの裾からニョッキリ伸びたすねに、
五百円玉ほどもの うっすら青いアザがある。
そこと指差されたものの ピンと来ないか、
どこが何がと自分の身なのに捜し回る彼なのへ、

 「ほらここ。」

すぐのお隣へ座りつつ、
膝をポンポンと叩いてやって。
そのまま身を屈めて覗き込もうとするので、

 「違くて。」

苦笑交じり、間近になった肩へ手を置き、
イエスの膝頭をも一度軽くとんとんと叩いて
足をこっちへ出してごらんなと促すブッダで。
まるでコントみたいなやり取りを挟んでから、
あらためて此処と指されたアザを見て、

 「…ああ、アザになっちゃったか。」

さすがに覚えはあるイエスなようで。
胡座を崩したような格好のまま、自分のすねをごしごし撫で
まいったなぁという口調でそんな言い方をする。
どうしてそんなアザがと訊いたブッダが
答えを待ってか小首を傾げているのに気がつくと、

 「うん昨夜ね、冷風扇でゴツンッてぶつけちゃったの。」
 「え?」

そう言ってイエスが見やったのは、
この夏の猛暑対策に貢献中の、当家の新顔家電くん。
昼間は窓辺近く、Jr.の足元辺りに据えているが、
寝る時間帯は枕元となるため、
それを避けて押し入れ側へと移動させていて。

 「ケットがくしゃくしゃになったのを
  ずぼらして足で直そうとしたらゴツンって。」

 「それって…痛くはなかったの?」

藍色に近い青アザだけに、
結構深い代物でもあろうと案じてブッダが訊けば、

 「痛くはあったけど、アザになるほどとは思わなかった。」

ふふーと微笑いつつ、ちょっと力を入れた指先で押して
“あ、ちょっと痛いや”なんて確かめていて。

 「??」

その昔、それは苛酷な迫害を耐えた身なくせに。
苦行スイッチを常備しているブッダと違って、
此処一番に発揮されるというタイプなのか、
何でもないときほど、
暑いの寒いの痛いのへの我慢が利かないイエスなのに。
すぐ横にいたブッダが気づかなかったほど、
ちいとも騒ぎもしなかったなんてと、
怪訝に思ったか やっぱり小首を傾げるブッダだったのへ、

 「だって、あんまり騒ぐと
  大天使たちが駆けつけちゃうでしょ?」

 「あ…。」

神の子たる“聖なる血”の御加護か、
風邪や病は寄って来ず、
ちょっとした怪我も自力で治ってしまう身なれど。

 「あせもや親知らずは、
  痛かったり痒かったりしたのが順当な手当てで治ったし。」

私の血って、大雑把なんだか繊細過保護なんだか、
怪我への対処は随分とまちまちみたいでと苦笑をし、

 「その代わりみたいに
  あの子たちが飛んで来るのも
  それはそれで剣呑だなぁって思ったんだけど。」

 「…うん。/////////」

そうだった、
ドアノブの静電気相手でも、薄い紙で指先を切ったときも、
イエスへの迫害だと、文字通り飛んで来た彼らであり。
自分の守護の顔触れとは真逆で、
ちょっとしたことへまで気を配っている
天使の皆様だというのはブッダも重々承知。
だからとはいえ、夜中に飛んで来られてもなぁと。
覚えがないということは自分は眠ってた頃合いのこと、
だったら…と お顔が赤らむブッダなのへ、気づいているやらいないやら、

 「冷風扇を“迫害者めっ”なんて誤解されて、
  ウリエルから成敗されて灰にされちゃっても困るしね。」

 「…え?」

ブッダが ついつい眸を点にして
“そっち?///////”と思ったのも無理はない。
昨夜もあのその、
他愛ないことを話しつつ、互いの手を取り眼差しに見ほれ、
頬に触れたり唇をつついたりしたその末に。
相手の肌に触れたくなって、
どちらからともなくシャツを脱ぎ、
互いから互いへと差し出した、素肌の熱の甘やかさよ。
じんわりとした熱を溶かし合うよに触れ合って、
くるみ込まれた腕の中にて、

 ねえ 欲しいと促され

こういうときだけ妙に色香の増す
イエスの口許へと滲んだ男臭い笑みにほだされて。
まだちょっとばかり含羞みがついて回るのごと、
軽く咬みしめた唇を。
そおと眸を伏せたのを“どうぞ”というのの代わりにし、
そこは慣れたか、やや力を抜いて、
しっとりした合わさりを薄く開いて待っておれば。

 ほのかな吐息の先触れを、
 そうだと意識するよりわずかに速く

 触れた温みと 乾いた感触。

合わさったそのまま、
甘く柔く喰まれるのは少し慣れた。
でもね、あのね、
そのままきゅうと抱きしめられて
離さないよと示されることで体温が上がる中、
唇がかすかに離れて、

 『やーらかいvv』

吐息交じりの掠れた声で、うっとり囁くのは反則だ。
口元のお髭が触れてて
くすぐったいのとはちょっと別口のドキドキが、

 『〜〜〜〜っ。////////』

胸元からうなじから、
ざぁっと血が沸いての駆け上がり、
頬や耳が赤くなるのを隠したいかのように
螺髪がふわとほどけて、深色の髪があふれ出す。
もうもうやだやだと、
そんなした原因のイエスの懐ろへお顔を伏せて。
ああごめんねと、
あんまり実の籠もってない、睦言寄りの声とそれから、
さらさらした、こそりと自慢の髪を梳いてくれる手の感触と、
うっとり堪能した昨晩だったので。

 そんなこんなの末に
 イエスの懐ろでぐっすり眠ってたところへと

 “大天使たちが降臨してたらどうなってたか。////////”

てっきりイエスも“そうなってたら…”と案じたかと思いきや、
相変わらずに斜めな感慨が飛び出したものだから。
おいおいおいと内心でコケかかった釈迦牟尼様だったものの、

 “…まあ、イエスらしいっちゃらしいかな。”

本当にそういう事態となったとしても、
寝込みを襲われるのだから、多少は慌てるかもだけど、
疚しいことなんかじゃあなしと、
いっそ開き直る頼もしさを見せてくれるだけかも知れず。
そんなこんなと思い直しての苦笑をしつつ、
お膝を立てて“ありゃまあ”と、
アザを撫でてる彼の手へブッダも自分の手を重ね、

 「でも本当、起こしてくれたらよかったのに。」

打った直後に湿布を貼れば
ここまで痛々しい跡にはならなかったかもしれないと。
よしよしと愛でるように撫でてくれる彼なのへ、

 「それは出来ないって。」

イエスがふんわり微笑って見せる。
なんで?と目顔で問う伴侶様へ、

 「働き者のブッダだもの、たっぷり眠って欲しいし。
  それに…」

自身の膝越しという微妙な距離の向こうから、

  キミの寝顔って 他でもない宝物だしね、と

いわゆる涅槃で有名な、若しくは瞑想中のとか。
やはりまぶたを降ろしておいでの、
ただただ無心なお顔じゃあなくて。

 ちょっぴり甘えの名残りも滲む
 それはそれは幸せそうな、いいお顔をしているのだもの、と

それはまろやかな笑顔で言うイエスなものだから。

 「う〜〜〜。///////」

全くもうもう、
日頃は何かと拙いところもある人なのに、
無邪気で子供みたいな人なのに。
何でそういうことへだけ、
説法みたいに心へ とすんと来るよな言いよう、
難無く紡ぐほど口が回る彼なのかと。
口惜しいけれど言い負かされたよな格好、
うう〜っと唸るばかりで二の句が接げないブッダだったのへ、
してやったり…とまでじゃあないながら、クススと微笑って見せてから、

 「でもアザかぁ。久し振りだなぁ、残ったの。」

妙なことへ感慨深くなっているのが いい気なもの。
そんなイエスへ、
そりゃあそうでしょうよ、
家じゅうの家具の角にクッション材をつけろと言われたほどの
チョー過保護に守られてちゃあ、と。
自分だってその一端なのは棚に上げ、
負け惜しみ半分、胸のうちにて言い返しておれば、

 「あ、でもないか。」

まるでそれが聞こえたような間合いで、
何かしら思い出したような声をだし。
そのままこちらを見やって“ふふーvv”と笑うのが何とも意味深。

 「…な、なにが?」

いやまさか聞こえちゃあいなかろが、
じゃあじゃあ一体何を思い出した彼なのか。
間違いなく自分かかわりなことみたいと、
そこは察しもついたブッダが、
何の話?と こちらから訊いたれば、

 「ほら、いつかブッダがつけてくれたキスマークvv」
 「…っ☆」

あれも 鬱血って言ってたからアザの一種でしょ?
で、消えるのに 4、5日かかったし、と。
アザなれば怪我の一種だというに、
やけに嬉しそうに語るイエスであったりし。


   ……………って、しらじらしいですかねぇvv


困ったもんだねぇなんて言いつつも、
ふふふんとご機嫌なお顔を隠さないイエスに比べ、

 「〜〜〜〜〜。////////」

こちらは口許をうにむにと噛みしめて、
なんて恥ずかしいことまで思い出すかなぁと、
その折のやりとりまでついでに思い出したものか、
照れに照れてる釈迦牟尼様で。

  夏の盛りも相変わらずのお二人であるようで。

蓮のつぼみもかくやという、そのきれいな白い御手にて、
や〜んとお顔を隠したいような心持ちらしいブッダ様だったが、

 「あ、そうだ。」

自覚があるやらないやら、
びっくり箱みたいに不意打ちが得意技の、不思議ちゃん。
そんなイエスが、またぞろ何か思い出したような口調になって。
今度はなんだい?と、それでもお顔を上げたブッダだったのへ、
お髭ごと口許を弧にたわめて微笑った 神の御子様、


  「私、来週 1週間だけバイトに出るから。」

  「………はい?」






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  *何だか週に1回更新になりつつあります、すいません。
   時間が取れんのがもどかしいですね。
   もっと手がちゃっちゃと動けばいいのかなぁ。

   というわけで、今回はお題ものでもありませんで、
   夏の元気なご挨拶ものになればいいかなと。(何やそれ。)

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