“ミックス・ベジタブル”
その胸元へ頬をつけていると、ずんと落ち着くと気がついた。
いや、そうなるまでに やっと慣れたということなのだろう。
意識し始めたばかりの頃は、
掻い込まれるだけで鼓動が苦しくなったし、
それどころか、視線が合うだけで鼓動が速まったし、
彼の手がちょんと頬に触れただけでも
大仰に飛び上がってしまったほどだったのにね。
いい歳をして大人げない、そんな私だったのに、
彼はただただ、その玻璃の光を宿す目許和ませ、
“今のはわざとの悪戯だったの”と、
そんな言いようをしては、
怯んでしまったことで、彼を傷つけたのではないかと感じた
こちらの罪悪感をやさしく薄めてくれたものだった。
◇◇
そんなこんなというフライングつきで始まったことさえ、
今は昔と棚に上げての鍵掛け合って。
今や、大変な世紀越えの激務の後に
地上へのバカンスに行かないかという、
お気楽に聞こえるが実際はとんでもない予定へ誘われるほど、
それは仲のいい親友同士にまでなっていた二人であり。
先日来、いやにすったもんだをしていたものの、
何のことはない、二つの片思いが成就しただけの話だったと判明し、
しかも片やの片恋は、
それこそミレニアムを越える代物だったらしいとも判明。
「ああでも、
それこそ見栄を張ってもしょうがないことかもしれないけれど、
好かれている人には
気を抜いたところなんて見せたくないじゃないかっ。/////////」
友達だからと気を抜きまくりだったあれもこれも、
今にして思えば相当に幻滅させたかも知れない失態の色々だと、
中途半端に背条が凍るブッダであるらしく。
「よっ、人格者っvv」
「キミにだけは言われたくありませんっ 」
何だかんだで はや昼食の時間。
おしゃもじ振りかざして きぃっと怒ったそのまま、
ベジタブルミックスとコンソメの素で炊いたピラフを皿へとよそいつつ、
思わず仏の顔が減りかけたものの、
「冗談はともかく、
話してくれたのは困るどころか正直嬉しいです…。/////////」
はうぅと切なげな吐息をついて、
そこがきゅんと痛むのか、
自分の胸元へ手のひらを伏せるブッダであり。
「前にも言ったけど、
どんなことであれ隠しごとされるのはイヤだもの。」
好きな人へは、
ついつい いいカッコしたり見栄を張りたくなるもの…なんて
ほんのさっき言ったのと矛盾するけれど。
そこはそれこそ恋するヲトメ心の複雑さということで。(誰がヲトメか )
「ただね。
あ、イエスは これかけて食べてね。」
松田さんがくださった鷄のそぼろ煮の瓶詰、と。
まだ封も切ってないのをパフェ用の長スプーンと一緒に差し出すブッダで。
「? なんでこんなスプーンがあるの、ウチに。」
「何 言ってますか。
イエスが買ったんだよ、
つぶ入りジュースをきれいに全部制覇したいがためにとか言ってね。」
え〜?そうだっけと 小首を傾げるヨシュア様に苦笑を向けつつ、
「……。」
この自分が聞くのは滸がましいかとも思ったが、
自分も辛かった我慢に他ならぬこと、
そここそが気になったのだとブッダも敢えて口にしたのが、
「くどいようだけど、どうして言ってくれなかったの?」
だって、それは苦しくて切なくて、
大変な想いだと身をもって知っている。
他でもない自分への想いなんだから、
判っていれば何とかしてあげたのにと思いかけ、
“…あ、でも。///////”
今の自分の思いようは、僭越とかどうとか言う以前に、
そうではなかろうというの、うっすらと判ったブッダでもあって。
ハッとなったお顔から、彼が即妙に何かへ気づいたと、
そこはそれこそイエスにも伝わったものか、
「うん。
凄〜〜〜〜く辛かったし大変だったけど、」
ちょっと堅かった瓶の蓋へ苦戦をしつつ、
ブッダの立場を“僭越なんかじゃあないよ”とするべく、
まずはそんな言いようで軽く茶化してから、
「言えるはずがないでしょう。」
こっちもくどいようだけど、
ブッダの気性を把握しておればこそ、
そのまま受け止めてもらえたかどうかも微妙な代物なのだし。
それに、お互いの周囲には
それこそ人の意を察するのへ敏感な人たちも多かったのだから、
立場というものを考えてとかどうとか、
いろいろな形で先んじて気を回されたかも知れぬ。
「それより何より、
現に抱え込んでしまおうと仕掛かったでしょうが。」
「う…。//////」
実際にはイエスの側の想いが露見した訳じゃなかったので、
彼が案じていたのとは方向性が微妙に違ったものの、
苦しむのは自分だけでいいとし、想いに蓋をしようとしたには違いなく。
よって、そこは異を唱えようにも通じまい。
「これでいいんだよ。」
失恋する可能性の方が高かったんだし、
それに、ブッダはとっても優しかったから、
いっぱい甘やかしてくれて、
仲よくしてくれただけで十分嬉しかったし。
「…本当? それ。」
「ホントvv」
伸び伸びしているキミをたっくさん見れたし♪
「音楽が好きだからか、
どんな曲へでもリズムとるんだもの、可愛いったら…」
「わーわーわーーっ。/////」
だーかーらー、そういうの洩らすの無しっと、
両手をぶんぶんと振りまでしての大仰に、
ムキになっちゃった可愛いお人へ、
「サーリプッタさんからは感謝もされたよ?」
「はい?」
根を詰める人なだけに、
息抜きということを知らないのではと皆して案じておりましたって。
「何もかも抱え込まれてしまわれて、
我らへ任せてもらえないのは未熟な証しと、
寂しくも思っておりましたって。」
「うう…。//////」
いちいち覚えもあることなだけに、
否定もしきれず、
“だから、君の気持ちを…////////”
聞きたいことへの答えはまだで。
でもでも、はぐらかしてズルイとも言えずにおれば、
「これでいいんだって、本当に。」
物事には巡り合わせってものがある。
これって君らの方にもある考え方でしょう?
幸いを“しあわせ”と読むのは、仕合わせが転じたものだって言うし。
「地上へ来て、君が私を何でか見直してくれてvv
それでやっと、成就したんだって順番だっただけのこと。
だからこそ上手くいったんだと思えば、
むしろ長いこと待ってたのも感慨深いってもんだってvv」
そうと言っての、それでこの話は終しまいということか、
カレースプーンを親指で挟んでの合掌し、
いただきますといいお声で唱和すると、
ブッダ様特製、ベジタブルピラフ鷄そぼろのせと、
トマト乱入のふっくらスクランブルエッグ、
ジャガ芋ポタージュというランチ、
美味しくいただく二人だったのでありました。
「ああ、何か胸が一杯だよvv////////」
「大丈夫、
口に入れたらあっと言う間に
スプーンが走る美味しさだからvv」
「何で君が言うかな。////////」
「だって、私こそ
ブッダのご飯の一番のシンパシィだものvv」
はいはい、御馳走様ですvv
〜Fine〜 13.10.09.
*意味不明なタイトルですいません。
(何かお題使えばよかった…。)こらこら
それはともかく、
以上がウチなりの二人の出会い篇でございました。
大人なんだか子供なんだか、という
ウチのイエス様の源流も、この辺りにあるのかも知れません。
『君を中心に世界は回る』 へ
めーるふぉーむvv 

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