キミが望めば 月でも星でも
      〜かぐわしきは 君の…

 “休日の計画”



行きつけのレンタル店だったのが、
いきなり鬼門へ転変したのへも負けないで。
カットサロンの看板娘、パピヨンのメグちゃんに逢いに行ったところが、

 「…あんな小さい子にぶつかり負けするなんて。」
 「いや、いきなりだったからしょうがないよ。」

ブロンズグラスのドアから入って、姿を見せたその途端、
あうんvvと可愛らしく鳴いて、そりゃあ嬉しそうに撥ねて来た子犬ちゃん。
やあ感動の抱擁かと、
ブッダを含む周囲の皆さんで ほのぼのと、そうなろうと思って見ておれば。
狙い違わずその懐ろへばすんと飛び込んで来た、
小さな小さな子犬の勢いに負けて後方へ見事に素っ転ばされたその上。
あわわと抱き起こそうとしたブッダにあっさりと乗り換えたらしく、
メグちゃんたら、ヨシュア様の顔を踏み付けて乗り越えると、
もう一人のお兄さんのほうへばかり、
それはキュンキュンと懐いた懐いたものだから。

  ……色々な意味と方向から、
  そりゃあ落ち込みもするでしょうというもので。

ず〜んと落ち込み、お顔に縦線を降ろしたそのまま、
黙って店を出たイエスを追って。
メグちゃんを引きはがすのに
ちょっと手間取ってから追いついた彼の励ましは
言われなくともようよう承知。それに、

 “まあ、こういうことでブッダと競おうと
  思うほうがどうかしてるんだけれども。”

動物全般に好かれまくりで、ご本人も食傷しておいでのこと、
言えば厭味になるということくらいは、
さすがに心得ておいでのイエス様。
自分も傷つくばかり故、その辺りにはもう触れないでと、
口許を隠すポーズをとり、傷心ぶりを強調すれば、
優しいブッダは大人だから、
さりげなく話題を変えてくれることだろう。

 “…私、結構あざとくなったなぁ。”

これって本当にブッダを庇ってることになるのかな。
私を案じてくれてのことだというに、
その話はもういいと はしょるだなんてね。
メグちゃんに足蹴にされたと、素直に嘆けばよかったのかな。
でも、もう今日はさっき慰められたばっかだし、
選りにも選ってブッダに乗り換えられたなんて展開で、
優しい彼へ追い打ちかけるような流れにはしたくなかったんだもの。


 ―― だから、悲劇に酔ってる振りするの。
    そんな私って、むしろ健気だとは思いませんかvv





秋はいろんなものが収穫を迎える実りの季節で、
色んな根っこ野菜も旬だったりし

 「ゴボウにレンコン、あ、そうそうユリネも旬だよね。」
 「ユリネ? 茶わん蒸しに入ってるあれ?」

そう。
冬場以外のは水煮のだから、食感が微妙だけど、
今から出回る露地ものとかなら、

 「甘辛の卵とじにすると、
  ほくほくした甘さととろり絡まってそりゃあ美味しいんだよ?」
 「うわぁvv」

も少ししたら ギンナンも穫れたてのが出回るから、
それも楽しみだねぇと笑いさざめきながら、
彼らが歩んでいたのは、先程は素通りになった商店街。
しばらくは ちょいとおっかない場所になってしまった(笑)
レンタルDVDの店からの遠回りをし、
こちらへ再び足を運んだ最聖のお二人はというと。
商工会の事務所へ流れ星の会への参加申し込みをしたついで、
夕飯のお買い物もしておこうと、
豆腐屋さんを覗いて売り出しの絹あげを買いの、
八百屋さんを眺めて きんとんの材料の栗とさつまいもを見繕いのと、
何とも まったりしておいでだったけれど。

 「そういえばブッダって
  年齢だけじゃなくて、
  結婚してたりするところも先達なんだよね。」

 「あ、いや、うん…まあ、ね。//////」

何をどう思い出しての“そういえば”なのやら、
今頃 何を訊いて来ますかと思ったものの、
やや言葉を濁しての、何とか照れるだけでとどめたブッダ様。
いちいち含羞むなんて大人げないかなと思わないでもなかったものの、
さすがに人の多い中での話題にはしたくないか、
少しずつ歩調が早まったような気が。(笑)

 「スーパーには寄らないの?」
 「き、今日は要りような特売品もないから寄りません。」

あれ?そうだっけ。
玉子としめじってメモしてなかったかなと思いつつ、
まあ台所担当のブッダの言うことだけに、と。
そこは素直に思い直して、帰途につくらしい彼を追う。

 “天界にいたころにも訊いたことじゃああったけど…。”

そう。
何も恋仲になったからと遠慮がなくなって訊いたって訳じゃあなくて。
ミレニアムを二つ分も、一緒に越えた間柄なのだから、
そのくらいのプロフィールはイエスもとうに知ってはいる。
それも、他でもないご本人へ訊いてという格好で、だ。
お友達という間柄、
だからこそ何を取り繕うでもなくの
自然体で伸び伸びしてらしたブッダ様であり、

 “今は ちょっとだけ、
  私を意識してか、
  何かとわたわたするところがまた可愛いのだけれどvv”

じゃあなくて。
(苦笑)
イエスへばかりも言えぬ、ブッダ様とて天真爛漫なところがなくはなし。
その天然さからか、
五百年ほど年下のこちらの後輩聖人へは
ちょっと内気な弟のようにと接してくれていたものだから。
時には 興味本位から
色々なことを訊いてしまうこともなくはなかったイエス様でもあったらしいが。

 とはいえ、生前の話や個人的なことへは
 訊ける範囲にも制限があるというのが、さすがに徐々に判っても来て。

見た目は自分とそう変わらなく見えても、
実際は自分の倍も 人としての生を歩んだ人であり。
その間には色々な経験だって積まれておいでのブッダ様。
特に、恋愛観だの結婚観だのという話題は、
愛別離苦という“八苦”の内の1つ…と持ってかれそうで。
そんな憶測もあってのこと、
だんだんと訊くに訊けないことになっちゃったのであり。

 “こうまで距離が縮まっても、
  そうされちゃうのがオチ、なのかなぁ?”




     ◇◇◇



イエス様よりも500年ほど昔の人だというだけでなく、
80代まで永らえたという、当時にはなかなかない長生きだったという形でも、
結構な先達だったこととなるのだけれど。
このお話に限った話じゃあなく、
例えば仏像という形で表されているブッダ様の外見や風貌はというと、
天部が“開祖として相応しいものとしましょう”と色々盛った、
ややもすると“ちょっと不思議”な部分をさておいても(苦笑)
年齢的な風貌は、悟りを開いた辺りで定着されているものと思われる。
ということは、
29で出家して6年後に悟りを開いたとされているから35歳くらいだろうか。

  そんなせいもあってか

自分の側が召された姿そのままという身だったこともあり、
実際の出会いから しばらくほどは、
あまり年の差はないのかなぁという仄かな誤解もなくはなかったものの。
初対面同士、しかも先達には違いない相手だという遠慮も挟まり、
淑々としていたその間に、天乃国の聖人たちとの交流や何やで
“あ・そうか、そうじゃないんだ”と、そこのところだけは悟ったようで。

 『そっか、そういやウリエルが言っていたね。』

あの人は仏門の開祖だと。
その後で訊いて回って知ったのが、
仏教というのは およそ五百年前に生まれた宗教なのだそうで。
ということは…なぞと わざわざ換算せずとも、
相手の履歴の輪郭もようやっと伺えてのこと、

 素晴らしい人だなぁとの畏敬の念も、ますますと深まりて

二つの天界の境目にある“端境の庭”で
間がよければのこととはいえ
彼とお顔を合わせるのが何よりの楽しみになったイエスであり。
お互いにそれほど潤沢に時間が自由となる身でなし、
ましてや、どちらもが
本来 身を置く居場所から
かなりの遠隔地まで身を運んでというところまでお揃いな
色々と無理の多い逢瀬だったので。
ご挨拶を交わしの、何か語れるのも稀なこと、
お顔や姿を見れたなら重畳という日もあったほど、
今から思えば随分と切なくも可愛らしい逢い方をしていたものだったが。

 「…え? 通達の係がいないの?」

教えの根源や基盤、土台が違うとはいえ、
同じ雲上の天界同士、
天乃国と極楽浄土では連携していることも少なくはなく。
そういったことを統括している
“総合あの世連合”という組織まであったりするのだが、
極めて物理的な問題として、
口頭伝達では済ませられない大切な打ち合わせには、
それへ添う文書を携えて、
主幹のおわす宮や神殿までを互いの使者が運ばねばならず。

 「はい。使者運用の計画上でのミスと、
  先だって地上で大混乱が生じたのへ、
  主立った天使の方々が突発で降臨なさったこととが重なりまして。」

 「ああ、そういえば…。」

あれは天使たち大車輪だったものね、
イエス様も初めての異界への降臨で大変でしたねぇと。
天界までもが昼夜の別さえなくなったほどの
とんでもない大混乱をちょっとしみじみ思い出してから、
(一体何があったんだ、地上で…)

 「なら、私が行こうか?」
 「え? よろしいのですかっ?!」

  というか、

時には畏れ多くも父君様が、
その尊きお声だけをお寄越しになられる
“語らいの丘”にいたところへまで。
わざわざイエスをと訪ねて来ている時点で
頼みたいつもり満々じゃあなかろうかと、
そこはおっとりしている御子様にも判らいでかという運び。
尊いお方へこのような
前触れもなきお務めをお願いするのは心苦しいのですが、
申し訳ございません、どうかよろしくお願いしますと。
伝達書簡が入っているらしい、封印がされた証書管筒を差し出され、
こちらから今日伺うことになっているのは一人ですから、
向こうからの迎えもありましょう。
◎◎殿の官吏長様へ、
▽▽▽尚書庁の◇◇◇に関する報告書ですと伝えれば通じます、と。
こちらはそういう“運び”を記したメモを渡され、

 「失礼、」

濃青のストールを連れの小者に出させると、それをイエスの肩へ。
それから おもむろに立ち上がり、
天を見上げてゆったりと手を振れば、
どこからか軽やかな蹄の音がして、
颯爽と現れたのが、白馬の牽く車輪つきの輿だったりし。

 「ちょっと待って。
  一応は礼儀とかあって、
  こういうので鷹揚に伺っては先様へ失礼に当たるのじゃあ…。」

 「ああ大丈夫っす。手前で降りてくだされば。」

ほらほら時間にルーズなのが一番の失礼ですよと、
やや有無をも言わさずにという観もあったが、
それは見事な手際で、
畏れ多くも神の子の尻を押し上げて輿へと乗り込ませる彼こそは。
天国の門を任されることとなったイエスの使徒、
ほんの最近 再会を果たした折に、
どっちが指導者なのやら、
イエスの側が感極まってその懐ろへ飛び込んだことで
周囲の皆様についつい貰い泣きをさせたことで名が広まってしまった
元は漁師のペトロさんだったりするのである。









《 ちょっと長い言い訳というか付記というか。》

イエス様の弟子たちもまた、布教の道を進み始めたその中で、
ウチの彼がああまで案じたほどの激しい迫害を受けており。
特に弟子たちの代表で、のちに初代法王とされもしたペトロは、
その堂々とした宣教ぶりと並行し、
イエスと同じく病を癒す奇跡も起こしたため、
あっと言う間に多数の信者を得、
それと同時に危険分子とのマークもされたようで。
支持者たちから一旦ローマから離れたほうがいいと勧められるも、
夜明けの町角で、復活をなしたイエスとすれ違い、
君が見捨てるローマへ磔にされるために向かうのですよとの御詞を受け、
ああ逃げてはいけないのだと、殉教への腹をくくったとされている。

ということは、
イエス様が復活されて地上におわしたとされるのが40日と言われているので、
その後という短さで、
すぐにも聖人として雲上へ召された彼だということになるのでは?
(それともその“復活”とは別口の“降臨”で交わされた会話だったのかなぁ?)

…と思ったものだから、
ウチのペトロさんは、比較的早く もう天国の門においでだということで。

 *え? 60代で没したんですか? ありゃ、やっちゃったかな?





    〜Fine〜 13.10.13.


  *ちょいと大掃除&模様替えの助っ人などなどでリアルに忙しく、
   こちらへのお休みをいただいている間に
   ある意味で現実逃避か、学生時代の試験期間中のように、
   何となく面白い(?)ネタが降って来ましたので、
   本来なかった方向へちょっと逸れます、悪しからず。
   (言わなきゃ判らんことですが、
    あんまり遊んでるネタなもんでつい言い訳したくなっ…)



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笑顔で不意打ち』 へ


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