キミが望めば 月でも星でも
      〜かぐわしきは 君の…

 “笑顔で不意打ち”  



実はもーりん、
本誌にちょっぴり出てくる限りでしか
皆さんの雲上での基本的ないで立ちを知らなくて。
エルサレムの方々の装いは何とかググッて把握しましたが、
仏門の方々の、天界でのお衣装というのが これまたなかなか判らない。
天界のお話を書くにあたり、それじゃいかんだろと思いまして。
そこで何とかググッてみますと…
あくまでも仏像の装いからの判断になりますが、
少しほど拾えたので参考までに。
そんなのなくても脳内へパッと展開出来るという、
素晴らしいあなたは… 
から先へ一気に飛んでってくださいませ。
(いやホントに、あんまり内容には関係ないもんで。)


如来像は悟りを開いた釈迦の姿なので、
何もかも捨てた身こそ崇高ということか、装飾は極めて少なく、
衲衣
(のうえ)という大きな一枚布にくるまれているような格好。
腰から下へは裙
(くん)という裳をはいている。
この衲衣、
瞑想中などは両肩へ通す“通方
(つうげん)”という着方が一般的だが、
人から教えを請うときなどは
右側の肩を見せる格好で胴に巻いた余りを左肩から降ろす
“偏袒右肩
(へんげんうけん)”というスタイルが基本だったとか。
本誌での回想シーンなどでの、ブッダ様やアナンダくんの僧衣姿がこれですね。
肩を見せることが相手への敬意の現れになるそうです。
*左手は隠すのが昔のインドでは常識だったそうで、
 まあなんだ、とある習慣があった名残りでしょうか。

これが菩薩像になると、
悟りを開く前の釈迦、シッダールタの姿を象っているため、
インドの王族や貴族の装いを模しており、
上半身は薄い条帛
(じょうはく)を肩から斜めにまとい、
天衣
(てんね)と呼ばれる領布(ひれ)のような布を両肩から提げて、
胸や腰の前で結んでいたりし。
そこへ、腰から足元まである長々した裳をはいているというお洒落ぶり。
耳飾りや腕輪など、様々な宝飾品も身にまとうという、
結構きらびやかな装いなのが特徴だそうです。
衣装一式、きっとカーシーブランドだったんでしょうね。
(苦笑)
*ただ例外もあって、
 大日如来像だけは如来のなかの王様なので、
 色々と宝飾品もつけている、こちらの菩薩スタイルなのだとか。

仏像でと言えば、神将と呼ばれるのが武装天部で、
梵天さんはまちまちですが、帝釈天さんは大概がこちらですね。
釈迦の守護神として、勇ましくも籠手や甲冑をまとっており、
インドの武装だったり中国の武装だったりと
そこは作られた時代や地方によって多種多様だそうですが。

あと、明王というおっかない像もありますが、
こちらは、実は如来や菩薩であるものの、
そのままのお姿では救い難い、手ごわい衆生を帰依させるためにと
このように変化
(へんげ)なされしお姿なのだそうで。
それでなのか、忿怒の表情をしておいでで、
それは雄々しく逞しい身へ、衣紋も裙のみという激しさになられておいで。
髪も逆立ち、炎を背負い…という、
いかにも恐ろしげな姿で、困り者な手合いを調伏教化するのだそうな。





イエスが託された書簡は、いわゆる定例の連絡事項だったらしく。
言われた通り、浄土の周縁の森陰に降り立った輿から降りて、
方向的なあたりを何となくつけて歩き出せば。
彼が神の子だったからか、それともそういう段取りも組まれていたものか。
足元にいた小さな草花たちが
“こっちですよ”と示すよに花の向きを一斉に傾けてくれたし、
風も優しく誘なってくれて。
迷いようがなかろうほど判りやすく、
主門にあたる入口までを辿れたイエスであり。
そこに待っていらした、
使いの方なのだろう うら若き天人、
いやさ僧侶だろうか、
剃髪し柿色の衲衣を偏袒右肩にまとった聖人の方が、
主幹のおわす宮までを案内してくださると申し出てくださった。
なだらかな道は、昇ったり下ったりをゆるやかに続け、
瑞々しい緑の木立に続くは、あっけらかんと広がる雄渾な瀑布に縁取られた泉。
爽やかな風の中にも飛沫が交じっていたが、
肌へ届いても冷たいそれではなく、天穹を急いで来た身にはむしろ心地いい。
そんな雄大な風景の中、泉から伝うよに流れてゆく川を辿ることで、
今度は奇岩が居並ぶ渓谷のような風景へと下ってゆく。
荘厳な光景からは、だが、
荒涼とか寂寥とかいった侘しさも感じられなくはなかったものの、
ようよう耳を澄ますと、
遠く近くに微かに聞こえる、玻璃を弾くような響きが何とも清涼で。
ああここは、磨けば輝く玉石の源となる岩たちが
しばし眠っている谷なのだとすぐにも悟れたイエスであり。
天乃国にも絶景や奇景は数あるが、
こちらの風景はただただ広大膨大なものばかりではなくの、
しっとり落ち着いていて、
そこへこそりと何かが秘められている気の利いたものが多いのだなと恐れ入る。
髪を梳くように流れる優しい風に、つい口許をほころばせたけれど、
いかんいかんと気を取り直し、

 「急な変更で済みません。」

本来ならば、もっと手慣れたものが来ましたところ、
何も判らぬも同然の自分が来てしまい、
さぞかし手数を増やさせたのでしょうねと恐縮すれば。

 「何を仰せですか。」

まだ少年と言っても通りそうな幼い笑顔が柔和な彼は、

 「イエス様と言えば、
  我々、浄土の仏門衆に於いても、知らぬ者はなき崇高なお方。」

含羞みの笑みだったものか、小さな肩をひょこりとすくめ、

 「こんなにお傍でお逢い出来るなんて、
  光栄で胸がどきどきして止まりませんもの。」

何とも無垢な笑顔と、胸元をそおと押さえる無邪気な所作にて、
ヨシュア様の心持ちをまで“ときん”と跳ねさせる愛らしさ。
ああいや、あのその/////////と、
あまり慣れない賛辞へか、こちらもどぎまぎした辺りはいい勝負だったが。
そこからも様々な風景が現れる中を進み、
何とか目的の宮の主幹様がおわす房までを辿りつくと、
そこはきっちり、使者のお役目を堂々と果たして見せて。
書簡を取り交わし、次回の会見までに確認をという事項を刷り合わせ、
では、そちらの担当主幹様へもよろしくとのご挨拶をいただいて。
恭しく辞去して退出した先のお廊下で、はあ緊張したとの吐息をついておれば、

 「おや、そこにおいではイエス様ではありませぬか。」

統括のための宮なせいか、
丹赤や鬱金の支柱が連なり、つややかな石板を精緻に敷き詰めた回廊は広く。
そこをしずしずと通る天人や聖人らの姿も、少なくはなく見受けられる中。
遠い角の、神々しくも金で象眼された柱から、
ひょこりと折れて来られた人影が、
まだ遠いというにこちらを見極めてのお声をかけてくださって。
すると、周囲の人々もまた、

 「…っ。」
 「お。」
 「まあ。」

それまでは知らぬ顔で通していた視線、
それを合図としたかのように、
ささと向けてくるのがイエスにはやや驚きだったものの、

  先程の、案内の少年が言ったのは
  決して大仰なお追従などではなくのこと

先だって、いきなりの、それも地獄の最下層への
掟破りの亜空転移なぞという騒動を起こした彼はだが、
哀しき事情を汲まれたのと、
途轍もなく強靭な飛翔を披露したことで、
こちら浄土の住人たちからも関心の的となっているようで。

 「拝しましたか、ご尊顔を。」
 「ええ、何という繊細な風貌でおわすか。」
 「お髭をたくわえておいでなのは、
  あの線の細さを隠すためでしょうかしら?」
 「崇高知的、だというに、
  あの一件でばらまかれた躍動はどうでしょう。」
 「天界のどこにいても拾えたほどの凄まじさでしたものね。」
 「嫋やかというか、いや清涼な秋冷のような。」

どれほど屈強な、若しくは精悍な方かと思えば、
何とも大人しげなお人だというに。
ええ、とても気品に満ちた、玲瓏なお方だというに、と。
悟りを得た聖人や如来といった方々でも、噂話はお好みか、
こそりこそりとさざめく声やらこちらへ向けられる視線へと、
ややもすれば うううと竦んでしまっておれば、

 「お務めは終わられたのでしょう? お時間をいただけませんか。」

この空気の切っ掛けとなった
伸びやかなお声をかけた張本人様が、いつの間にかすぐ傍らまでいらしており、
使いの印、青のストールをかけた肩へ、頼もしい手を置いてくださって。

 「あ…梵天さん。」

黒髪を頭頂で堅く結い、
かっちりとした上背に、鷹揚精悍な自信にあふれた仏門の守護神殿。
最高守護というお立場だということで、
いつだったか、
使いの方と共に天乃国へおいでになったことがあり、
その折にイエスも彼とは ご挨拶を交わしている。
それは鷹揚で自信に満ちておいでの、やたら頼もしい壮年様で、
ああ知ってる人がいたと、
今度ははっきりと安堵の吐息を洩らしたイエスだったのを、
微笑ましいとの笑みで見やってから。

 「せっかくいらしたのだ、
  シッダールタにも逢ってお行きになられては?」

知らせぬまま帰したとあっては、私が叱られてしまいますと。
どこまで本気で冗談か、
相変わらずに目元が難いお方なので計り知れなんだお言いようだったが、

 「あ…。//////」

実を言えば、時間が許す範囲で探してみようかなんて
ここの広さを思えば何とも無謀なこと、こっそりと考えていたものだから。
わあ、心を読めてしまえるのかしら、天部ともなるとと、
何とも判りやすく頬を染め、
薄い肩をますますと竦めてしまわれたその可憐な態度へと、

 「ま…。//////」
 「何と清楚な…。//////」

周囲へ居合わせた仏門の関係者の皆様が、
揃って“ほおぉ…”と甘い溜息をつかれたとか…。


  知らない幸せってありますよねぇ。
(こらこら)





     ◇◇



当然のことながら、
こちらの皆様の装束とは微妙に異なる衣紋をまとい、
風貌も西域風の彫深きそれでおわすイエスは。
そんな特異な外見やら、噂のお人という先行情報のせいのみならず、
天部の最高守護である梵天に案内をさせて、というか
引き回されていることもあり、
通る先々の天人や聖人の皆様の注目を惹きまくっており。

 “ああ、もしかしてえらい人に案内を頼んでしまったような。”

イエスとしてはそのせいでの注目と思い込んでいたようだったが、

 「なあ、あれ、」
 「お…。」
 「わあ、これは嬉しやvv」

さわさわと周囲の空気が落ち着かなくなることで
何だなんだと次の一団が気づくという連鎖が広がり、
それは選りにも選って、厳粛な修養の場であるらしき、
それは広々した岩場の上へ開かれた鍛練場へも伝播を遂げていて。

 「あれは?」
 「鍛練の場です。」

自堕落や奢侈という煩悩を寄せ付けぬよう、
心身共に強かに打たれ強くあらねば…との主旨の下、
様々な競技にて総身を鍛えている場なのだそうで。
主には神将と呼ばれる天部らの独壇場だが、

 「気概闊達な如来や菩薩にも参加する者は少なくありません。」

ほらと、視線で示された先、今日はそれへと挑むものか、
広場の中央にそそり立つ、
目も眩むような高さの数本の支柱を皆で取り囲んでおいで。
装飾なのか足掛かりか、
くびれたり出っ張ったりという彫刻がなされている仕様となった棒状のそれは、
だが、最初の組みが手をかけると何本かがぐらりと倒れかかったから、

 「え? 根元が埋められてはないのですか?」
 「はい。ただの長い長い丸太です。」

他の人が支えるでもないそれを、
飛びついたそのままわしわしと登ってゆくから物凄い。
膂力や脚力は勿論のこと、
柱が倒れぬようにというバランス感覚まで要りような苛酷さで。
ああ、倒れそうな、ああ危ないと、
遠く離れている場だというに、
そしてほぼ見知らぬ仏門の和子らの為すことだのに。
我が身内の難儀ででもあるかのように、
口許へ表情をおおう手を寄せてまで、ハラハラと見守るイエスであるものを。
その姿が向こうからも見通せるものか、

 「おお、あれは天乃国の。」
 「メシア様では。」
 「何と、初めてお目にかかるぞ。」
 「可憐なお方だ。」
 「うむ。鬼のような亜空転移をこなされたとは到底思えぬが。」

ざわざわと集中がなくなった場なのへ、
何だなんだと一番の奥向きにいたお顔が最後に振り向いて、

 “あ…。///////”

その途端、わあと双眸を見開いてしまった自分の現金さへも、
胸が痛いほど張り詰め、かあとそのお顔が赤くなるイエスであり。
長いまつげに縁取られたくっきりした双眸には深瑠璃色の瞳。
螺髪という変わった髪形をした彼は、だが、
振り返るまではどこにいるのか判らぬほどに、
こちらへの注意を全く払ってくれなんだまま、その鍛練へと集中しておいでで。
どんな楼閣へのハシゴのつもりか、
ずんと高さのある頂上まで上り詰めるのはさすがに難しいか、
途中で脱落する者ばかりが続く中。
順番が回って来たと、支柱に取り付くや否や、
簡素な甲冑風、籠手やすね当ても揃えた衣紋装束をまとった
案外とかっちりとしていなさるその肢体、
鮮やかなまでに軽快にさばき、
するするっと頂上まで上り詰めてしまった最初の勇者になってしまう。

 「あ、わあ…。////////」

はらはらする間のないくらいの見事さへ、ただただ驚嘆しておれば、
そんな頂上という高みから、
何と支柱を後方へとゆらり蹴り押す格好で、その身を宙へと躍らせた彼であり。

 「な…っ。/////」

何と危ない、まさか均衡を崩してしまった彼なのだろか、
真っ赤だったお顔を今度は真っ青にしかかり、
傍らでやはり見物と洒落込んでいた梵天の衣紋、
肩から提げられた領布(ヒレ)のような条帛を
思わずのこと握り込んでしまったイエスなのへ、

 「気分が優れませぬか?」

このように荒々しいもの、御心には毒だったかも知れませんかと、
響きのいいお声で今頃そんなことを訊く、素っ惚けた梵天氏だったのは、

 「だったら最初から、お連れしなければいいでしょうに。」

そんな合いの手が入ること、予測しておいでだったからに他ならず。
こちらは意表を衝かれてのこと、え?と思わずの声を上げ、
うつむきかけていたイエスが、長い髪の陰からそのお顔を上げたれば。
ほんのついさっきまで、それは遠くの岩場にいたはずの、
しかも、天乃国でも屈指の高さを誇る宮殿の、
一番高いテラスにやすやす届きそうなほどの支柱の上から
それは無造作に飛び降りて見せた、

 「ブッダさんっ。」
 「お久し振りですね、イエスさん。」

一応はそれなりの活劇ではあったか、
額や首元なぞへ汗をにじませたのを、
籠手に覆われた腕の手首や甲で軽やかに拭う。
いかにも爽快な一運動して来ましたという風情の釈迦如来、
イエスが逢いたいという下心ありありでこちらへ運んだその目的の人、
シッダールタさんこと、ブッダさんが、
それは朗らかに微笑って、すぐの真正面へ立っておわしたのでありまして。

 「珍しいですね、あなたがこちらへお越しだなんて。」

お知らせくださったなら、わたしがお出迎えに参りましたのにと、
忙しい身なお人が、そんな彼ならではな冗談を口にするので。

 「いやですよ、何を言われるやら…。/////」

からかわないで下さいなと、ようやく笑える余裕も出来たか、
玻璃の目許をたわめたイエスだったのだけれども。
そんな彼の甘やかな安堵の笑顔に、
こちらはこちらで、日頃は堅物で通っているものが、
心からの喜色を覚えての笑顔を返していたブッダであり。
そして、
おおお、なんて可憐な清楚なと、やはり沸いた周囲の空気だったこと、
気づいていないのは、当のご本人ばかりなり……。








    〜Fine〜 13.10.13.


  *ブッダ様が参加しておられた競技会風の鍛練の場面ですが、
   はっきりくっきり捏造です。
   あくまでも鍛練として、
   切磋琢磨自体は認められるのでしょうし、
   スポーツぽい競い合いもあるかもですが、
   戦いとか争いとかに通じるような
   技の競い合いは、ちょっと無理が…。

   回顧編、もうちょっと続きます。
   長々続く割に、
   完全に書いてる私だけ楽しんでるよなネタになりそうです。




                      『
腕の中』 へ


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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