キミが望めば 月でも星でも
      〜かぐわしきは 君の…

 “僕が追いつくまで”  



久し振りに週末が良いお天気になった3連休は、
近所の小学校で運動会があり。
因縁の障害物走に再び駆り出された彼らは、
今度こそは一等賞をもぎとって、
面目を保った…という下りを書こうとして、
あの時に初対面だった静子さんは、
愛子に金メダルを取ってやるのだと
息巻いておいでだったのを思い出しましてね。

  愛子ちゃん、小学生だったんだ…。

もっと小さいかと思って、
保育園へのお試しとか書いちゃいましたがな。
ペトロさんの没年といい、相変わらずのもーりんで、
ある意味 絶好調かもですネ。
(こらこら)




     ◇◇◇



 「あ……そこは、やだブッダ…。////////」
 「どうしてだい?」

嫋やかな声は間違いなくブッダのそれだのに、
掠れるほど低められているせいか 妙に艶冶で。
そのせいか、仄かに意地悪な響きを含んでも聞こえて。

 「だって、あ、…ん、だから、それ以上は。///////」
 「聞こえない。」

すがるように甘えてみたけど、
すげなく振り払うような言い方をして。
彼の優しい指がすべるようにそこへと触れる。

 「あっ、……意地悪。//////」

待ってくれると思った油断もあったところへ、
不意を突かれたせいだろう。
自分でもアッとたじろいだほどの高い声が飛び出してしまい、
口元を思わず手の甲で塞げば、

 「イエスったら可愛いな。////」

ブッダが甘い潤みをたたえた双眸をたわめて微笑う。
ああ、いつもの暖かい笑い方。
でもネ、こんなときにそれは狡いと思えて、
ついのこととて、かぶりを振るイエスで。

 「ん〜、そんなこと言わないのっ。/////」
 「だって、………ねえ、ここは?」
 「あっ、だめっ。
  それ以上はもう、壊れちゃうよぉ…っ。/////////」

ハッとし、直接ブッダの手を停めようと、
腕を延べたが微妙に遅く、

 「あ、ああ〜〜〜っ。////////」
 「ふふ〜ん、これで 二十戦十七勝、かな?」

それは微妙な位置の棟木を引き抜いたブッダだったのに、
やぐらのように積み上げられてた基礎は何とか持ちこたえていて。
そこへ、咄嗟に突き出したイエスの手が掠め、
そのまま あっと言う間に崩れ去ったので、
それで勝敗がついてしまった訳で。

 「もう〜〜〜。ブッダ、ホントに初めてなの?」

PCのミニゲームもいいけど、
テーブルゲームも色々あるという話になり。
そういや以前に何かの景品として貰ったのがと、
イエスがそういった瓦落多…もとえ、おもちゃを仕舞っている
雑嚢代わりのマガジンラックから取り出したのが、
封を切ってもなかったこのゲーム。
ブッダが“やったことがない”というから教えながら始めた、
大人向けの積み木遊び、一種の棒倒しのようなもので。
崩れ落ちた直前の棒を引き抜いた方が負けとなる、
相手あってのバランスゲームなのだが。
イエスが勝てたのは最初の三戦だけで、
あとはずっとずっとブッダの連勝。
とてもじゃないが初心者とは思えぬと、
恨めしげに訊くイエスがついつい上目遣いになったれば、

 「うん。将棋崩しだっけ? あれならやったこともあるけれど。」

将棋でやるほうは、同じ積み上げ方ってなかなか出来ないから
結果には多分に運も関わったりするんだけどね、と。
悪びれぬまま苦笑をしたブッダも
卓袱台の上、散らばった木片を拾い集めたけれど。
イエスの手はそれを積み上げようとしないままなので、
もう辞めたいらしいのが察せられて。

 「やっぱりパズル系だとブッダには全然敵わないなぁ。」
 「何 言ってるの。」

ほら、地雷が埋まってる場所を推量するゲーム、
あれだとイエスの一人勝ちだったじゃないかと、
先日二人で遊んだおりのことをブッダが指摘したけれど。

 「だって、あれは私の側に慣れがあったし。」

煮え切らない口調になり、
何とはなく口許を尖らせている辺り。
一から教える側だったのに、
それがここまで歯が立たなかったのが
相当にこたえているらしい。
とはいえ、ただのゲームだという割り切りはさすがにあるようで、

 「……ま・いっかvv」

ふふーといつもの笑顔がすぐにも戻ったので、
ブッダもまた、つられてほこりと微笑う。
まるで、お気に入りになってしまったブッダ特製のきんとんを
美味しい美味しいと堪能しているときのお顔そのままであり。
また作ってあげなきゃねと、
目許和ませ、ついつい思ってしまった釈迦牟尼様。
そんな彼らのいるお部屋の窓の外では、
時折吹きすぐ強い風に、
お向かいの生け垣がなぶられては さざ波のような音を立てており。
さすがにもう、半袖では寒くていられぬ気候となっている今日このごろ。
随分と勢力のあった台風が襲い来た余波で雨の日が続いたお陰様、
二人が楽しみにしていた“流れ星の会”も
あえなく雨天順延となってしまっていて。

 『そうですね、
  11月に入ってからとなると、随分と冷え込みますからねぇ。』

暗くなるのも早いし、風邪を引きかねないとあって、
子供たちを参加させられる催しとしては無理があるものの、

 『ただ、思っていたより参加者が集まっていましたので。』

ハロウィンの催しが落ち着いてから、
概要が決まり次第、掲示板へ告知しますとのお話なのへ、
まあしょうがないかと、
彼らも肩をすくめて納得したのがつい先週末のこと。
ほんの先日まではいつまで続く真夏日かとうんざりしていたものが、
駆け足でやって来た秋催いには、大人たちとて驚かされたし。
まま、これで秋の装いというのを堪能も出来ようと、
枯れ葉の似合う、夕映えに映える、
ちょっぴり人恋しいコートだブーツだをまとった
お洒落なお嬢さんたちも増えるかと思いきや、

 『これがね、動き回るとまだまだ暑くて。』

ブレザーなんてまともに着てらんないと、袖口まくってる勇ましさ。
学園祭の準備でと、
スーパーや八百屋さんから
大量の段ボール箱を譲って貰ってる子たちもいれば。
ブッダが見かけた子たちは、
画材屋さんで模造紙を丸めた筒を抱え、
ポスターカラーやアクリル絵の具の箱買いをしていたそうで。

 『ウチはハロウィンが前夜祭で、1、2、3日開催なんですよ。』

よかったらどうぞと、
通行証を兼ねたチケットをいただいてしまったと、
帰宅したブッダが報告すれば、
イエスもまた、同じチケットを出して見せ、

 『私は、あのその…あのお姉さんと どうぞって。///////』
 『あ…。//////』

皆さんすっかりと女性だと思っているらしき、
実は螺髪が解けた姿のブッダこと、
イエスの謎の恋人を、誘って来てねと言われたそうで。(笑)

  来たる十一月も 何だかんだと楽しい月になりそうな気配。

まだ角の折り目も甘いほどに新品の、ボール紙の箱へ
中に入ってた沢山の棒、やや乱暴にザザーと一気に入れようとして、
だが、それでは仕舞えないらしく。
あれれぇと無理矢理に蓋をしかかるイエスから、
やんわり箱ごと取り上げたブッダが、
ゲームの初めのセットアップよろしく、
きっちりと積み上げてから箱へとすべり込ませてしまうのもまた、
彼らにはお馴染みな呼吸であり。
ありがとうとそれを受け取ったイエスが、

 「じゃ、何か一つ言うこと聞いたげる。」
 「はい?」

玻璃の目許を細くたわめ、
にかーっと楽しげに笑ってそんなことを言い出す彼なのへ、
だが、ブッダはぱっちりとした双眸をますますと見張るばかり。
だって、

 「そんな約束なんてしてないじゃないか。」

始めるときにも、途中からでも、
勝ったら負けたらなんて条件、出してた覚えはないよと。
そこはさほど熱くなってもいなかったからこそ、
そうとはっきり断言する釈迦牟尼様だったが、

 「こういうことに、罰ゲームは付き物でしょう?」
 「あのねぇ…。」

悪びれぬイエスに、そういえばとブッダも思い出す。
イエスと弟子たちの間ではそういうノリが通例なのらしく、
いつぞやも それでとんでもない目に遭っていたイエスではなかったか。
負けた側なのにわざわざ言い出すなんて、
よほどにそれが当たり前となっている彼らなのだろうことを忍ばせて。

 “そういうのって、射幸的っていわないのかな。”

偶然をアテにして利益を得ようとすることで、
賭博への傾倒、如いては怠惰の温床になりえん思考とされ、
早い話があんまり褒められたことじゃあないのではなかろうか。
卓袱台の縁へ肘をつき、緩く握ったこぶしに頬を乗せ、
お隣からワクワクという視線をくれるイエスを
困った人だなぁと、
こちらはやれやれという苦笑半分に見やっていたブッダだったが、

 「……うん、それじゃあ。」

やっとのこと、何か思いついたらしく。
頬杖からお顔を上げてにっこりと笑う彼なのへ、
イエスの方でも さあ来いと待ち構えておれば。

 「明日の朝、一緒にジョギングに付き合ってよ。」
 「……っ☆」

何でもいいんでしょう?と、かっくりこと小首を傾げる如来様は、
それはそれは優しくも臈たけた微笑い方をなさるのが、
霞がかかって見えるほどに麗しくて。
あああ、この人からの期待をどうして裏切れましょうかと、
神の子にさえ思わす威力の凄まじさよ。

 「う、うん。頑張ってみるよ……。」

何故だか異様にドキドキするのは、
目指すことと出来ることとの各差というの、
今から思い知っている 自信のなさの現れか。
そのうち聖痕も開くんじゃなかろかというほど
悲痛な笑顔になってゆくの、
真っ向から見やっていたブッダ様としては、

 「なぁんてねvv」

くつくつと喉を鳴らして苦笑をこぼし、
精一杯に頑張ったイエス様のワイルドに跳ねてる髪、
柔らかな指で そおと梳いてさしあげて。

 「それだと、まずはの起こす段で相当に苦労しそうだから、
  やっぱり無しにしとこうネvv」

 「あ…。////////」

ああ、何て神々しいことか。
いやいや、
ジョギングという苦行から救ってくれたから言うんじゃなくて。
殺風景でさえある何もない六畳間の、
小さな卓袱台前に座している、
そりゃあ地味なTシャツ姿の彼だのに。
まろやかな笑みといい、柔らかな印象の滲む肢体といい、
温かで甘い声といい所作といい…、

 「その代わり、というか、う〜んとね。」

本当に何も思いつけないでいるらしいものが。
だが、イエスの表情にふと視線を虜らえられたそのまま、
ふと言葉を失い、身のうちに仄かに灯った熱を知る。

 “……狡いなぁ。//////”

いやいや、彼とて意識してはないのかも知れぬ。
ただ何となく見とれてしまっただけなのかも。
そして、その真摯で真っ直ぐな視線へ、
こちらが勝手に心騒がせてしまっただけ。
イエスはよく、私の眼差しを、
強くて揺るがぬ真っ直ぐな視線と褒めてくれるけれど。
そうと言う彼の眼差しこそ、
それは透き通っての歪まぬ、真っ直ぐ冴えた眼差しだのにね。
搦め捕られたらもう、逸らすことなぞ敵わない。

 「……これじゃあダメかな。」

すいと近づいて来た顔が、まずは耳元へと逸れて、
そんな囁きを紡いでくる小癪さよ。
ハッとしてそちらを向けば、
間近になった玻璃の眼差しが、柔らかくたわめられ、
意識ごと吸い込まれての、もう何も考えられなくなって。

 そおと重なる唇は、少し乾いた、でも温かな感触。
 少し斜めに合わさって、まずはゆるりと密着してから。

やわらかな同士のもどかしさ、
ちょっぴり歯を立て、引っ掻くような咬みつくような、
そんな悪戯を仕掛ける彼で。
前歯の先が触れたのか、
唇にやや堅い感触が触れたのが、何故だか妙に印象的で。

 とくんと胸の奥で何かが撥ねたそのまま、
 総身の血脈がぞわりと煮える。

うなじのちりけもとを駆け上がった震えが撥ねて、
螺髪が解けたそのまま、
意識せぬ双の腕が彼の背中、
かいがら骨のところへ回ってすがりついており。

 「…ブッダ?」

どうしたのと案じる声にかぶりを振って、
なかなか出ない声を振り絞る。

 「………………ぇす、好きだよ?」

このまま一つになれたらいいのにと。
そうと伝えるにはどう言えばいいのかが判らぬ、
もっとずっとずっと幼い子のように。
ただただ ぎゅうぎゅうとすがりつくブッダなのへ、

 「……………………あ。/////////」

しばしポカンとしていたイエス様。
頬にじわじわと昇る歓喜の笑みを噛みしめると、
愛しい人をぎゅうと懐ろ深くへ抱き込めて、

 「愛してるよ、」
 「……っ。///////」

とっときの真実、心からの想いを
彼の人へ惜しみなく捧げたのでありました。





    〜Fine〜 13.10.21.


  *何でしょうか、この人たちったら。
   ジェ○ガひとつで、
   ここまで盛り上がれるもんなのでしょうか。
   これがリア充の怖さですね、
   本誌のイエス様のお気持ちが
   やや判ったような気がします。(おいおい)



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