でもネ やっぱりキミが好き♪
      〜かぐわしきは 君の… 7

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結局、半日掛かりの落ち葉かきに勤しんだ最聖のお二人で。
途中で宮司さんたちから おむすびとおみそ汁の差し入れもあり、
頑張った甲斐はあってのこと、
石畳部分はすっかり綺麗にその誘導路を表すまで露になった。
お片付けの最中にも、
ちらりほらりと止めどなく落ちる、逆三角の黄色い木の葉だったが、

 『まま、この時期は毎日おっかけっこになるもんだ。』

それでも一気に落ちたのへと四苦八苦なさっていたそうなので、
本当に助かりましたよと、
白い小袖に袴という姿の宮司さんからお礼を言われ、
いえいえこのくらいはと、
お辞儀を返して帰途についた、大人のお手伝い組二人であり。

 「ついでにお買い物して帰ろうか。」

そこも想定のうちだったか、
折り畳めるトートバッグ持参だったブッダなのへ、

 「うあ、凄いねぇ。」

先見の明?と、やたら感心するイエスの無邪気さの方が、
ブッダにしてみれば、何とも得難くて くすぐったい。
さっきまでのお掃除の最中だって、
飽き始めたクチの男の子が、皆で掻き集めた落ち葉の山を蹴散らしたのへ、

 『気持ちは分かるけどダメだぞ?』
 『……イエス、それでは叱れてない。』

大きな手でむんずと掴んだ乾いた木の葉を、
ぱあっと秋のお空へ高々撒いて見せつつでは、
反省のしどころがその子にも判らないでしょうがと。
結局、イエスまで軽く叱られたことで、
場が妙に沸いてしまい。
じゃあ皆も一回ずつねと、
落ち葉かきならぬ“落ち葉撒き”の一幕が始まっちゃったほど。
そんなお茶目さも、もしかすると猫っぽいかもねとこそりと告げれば、

 「猫ねぇ。でも私の象徴は“魚”だしなぁ。」

それに父さんは鳩だから、と来て。
じゃあ迷惑な比喩かと思や、

 「なかなか笑える相性になるねvv」

目許をたわめ、あっはーと朗らかに笑うあたり、
剛毅なんだか脳天気なんだか…ああいやその、失礼しました。(う〜ん)

 「さぁさ安いよ、寄ってって。」
 「ああ、ブッダさんにイエスさん。
  長いもの新鮮なのが入ったよ。見てって見てって。」

通り道だからと立ち寄った商店街では、
そろそろ夕食へのお買い物客が立て込み始める時間帯なのか、
お店の人の売り声も張りがあってにぎやか。
魚屋さんでは ブリやタラという旬のもの、
八百屋さんにも
カボチャに栗に里芋にレンコン、
瑞々しいハクサイに、ユリネや柚子も並んでいて、
そろそろ冬だねぇという感慨もひとしお。

 「ハクサイや白ネギがまだお安くないから鍋は早いかなぁ。」
 「そうだねぇ、今はちょっとねぇ。」

でも、煮えたハクサイの
瑞々しいけど さくとも来る歯ごたえとか美味しいし暖かいよねと、
イエスがうっとり語るものだから、

 「じゃあ、ハクサイの煮込みにしようか?」
 「え?」

八宝菜風っていうのかな、
ハクサイとボイルたけのこと、ニンジンとか椎茸とか、
ウチはお肉じゃなくの絹あげの小口切りとか入れて、
甘辛に煮てから片栗粉でとろみつけて。
モヤシと青ネギを仕上げにさっと入れたら歯ごたえもいいし、
そうそう、ウズラのゆで卵も入れようね?
……と、いかにも暖まりそうなメニューを並べるブッダ様なのへは、

 “そっか、それがあったか”
 “だったら鍋ほどハクサイは要らないわよね”
 “豚バラでもいいけど、
  鷄そぼろでもバランスはいいかも”などなどと

即妙絶妙なお献立を教えてもらえると、
DJたっちぃと並ぶほどの 奥様がたという信者もこそりと増加中。
だというに、

 「…なんか私、
  すぐに食べるものや食事に結びつけちゃうよね。」

 「え?」

あ、このカットはくさいとボイルたけのこと、
そっちのキヌサヤくださいな、と。
一応はお買い物もしてから、
小さく微笑って歩きだすブッダだが、

 「ブッダ?」

ちょっぴり感慨深いお顔をしたの、
さすがに見逃さなかったイエスが追いすがれば。
彼が何か聞きたそうな気配なのを察してのこと、
案じさせてごめんねという視線をちらと向けてくれて。

 「イエスみたいに、
  イチョウの絨毯へ素直に感動するのとは
  なんか次元が違うかなぁって。」

食事も大切、それは判っている。
花より団子で何が悪いか、
随分と腕も上げたことは誇ってもいいほど。

 でもね、何だか

一幅の絵のような美しい風景に接し、
これを見せてあげたかったのなんて電話してくるような、
そんなイエスの清らかで無邪気な感受性の前にあっては、
何とも泥臭いかななんて、つい思ってしまったブッダ様。
現実的なのを下に見てしまう、
そんな自分にも切なさが込み上げるようで。
少し足早に帰り道をと急ぐ彼なのへ、

 「…?」

やや眉を寄せて小首を傾げていたのも束の間、
そんな彼の提げているバッグから、
ポケットティッシュほどの大きさのパックに詰められた、
この時期に緑鮮やかなキヌサヤをひょいと取り上げると、

 「季節のものが、
  食べる物につながるなんて凄いことじゃない。」

そうと言い出すイエスであり。

 「私、これを見ても、
  何のお料理に入ってたか、
  全部となるとなかなか思い出せないんだよ?」

カボチャを見ても
黄色いな堅いなってくらいしか感じはしなかったしね、と。
それこそ真顔になってそうと呟く。

 「ブッダが作ってくれる色々を見て、
  何が入ってるかを当てるのは出来ても、
  素材を見て、
  じゃあ何が出来るかなっていう色々を考えるのは無理。」

慈しむようにキヌサヤを見やると、

 「そんな風に想像力が私なんかの何倍も豊かなのに、
  その上、実際に何でも作れちゃうのに。
  何でそんな詰まらないことみたいに言うのさ。」

 「う…。」

じゃあ何も出来ない私は、
もっと詰まらない存在じゃないのサと、
肉付きの薄い口許をちょっぴり尖らせる様子は。
ブッダの言いようで傷つきましたと、
言わんばかりの拗ねようでもあって。

 「う…と、ごめん。///////」

何で私のほうが謝ってるかなと思ったものの、
それでもご機嫌なお顔には戻ってくれないヨシュア様からの、

 「ホントなんだからね。
  何でも出来る人は気をつけてくれないと。」

  罰として、今日のおやつは蒸しパンのケーキvv
  え〜、今から作るの?

なんていう、無邪気なリクエストに応じる羽目となっており。
え?ダメなの?と、
ここでやっとこちらのご機嫌を伺うようはお顔になって、
態度が一気に軟化するなんて。

 “もうもう、狡いんだからなぁ、もうっ。////////”

しょうがないかとわざとらしくも言い返し、
やったぁと、そちらこそやっと笑ってくれたのが、
どれほどのパワーをくれるものか、

  判っているのかなぁ、と

ますますのこと愛しさが込み上げてしまう、ブッダ様なのでありました。




     ◇◇◇



そういえばと思い出すのは、
天界にいた頃、それは足繁く通っていた“端境の庭”という場所で。
極楽浄土と天乃国の、
文字通りの端境辺りに位置する開放的な森の真ん中、
聖なる泉や草原、木洩れ陽のきれいな木陰、
優美な橋が架かっているせせらぎなどが点在し、
どちらの領という取り決めもないままに、
だからこそ、ある意味 憩いの地として扱われていた空間であり。
自領ならいざ知らず、お隣の庭まで神通力で覗いていい筈はなく、
そんな大人の遠慮や融通も働いてのこと、
境目であり、何より国境のようなものでもあるというに。
なんの、壮大な影響力が双方から重なり合ってる場所だ、
その身への被害甚大となるのは明白、
邪悪な妖異なぞ好きこのんで入り込もうはずもないとの理屈から、
お互いへの監視も緩く、よって警戒も薄かった地だったそこへは。
特に約束もしちゃあいなかったのに、
それでも暇さえあれば“ちょっとそこまで”というノリで、
結構 頻繁に足を運んでいたブッダであり。
そちらもまた息抜きにと運んでいたらしいイエスには
たまさか逢えれば重畳だったし、
姿を見つけられねば見つけられないで
“忙しいんだろうな”とちょっぴり残念な気持ちで、
やはり君を想った場所だったこと、
地上へのバカンスへと降り立つ相談の中で、
ちらりと零したところが、

 『え〜、それって私と同じだ。///////』

それは驚いたそのまま、
なんでどうしてと身を乗り出したイエスだったっけ。

 『だって、そこへと向かうのが楽しくてしょうがなくて。』

彼の言うには、
双方の顔触れが居合わせる場所だからか、
一応の礼儀のご挨拶以上は、誰にも仰々しく扱われない
気安く伸び伸びしていられる安息の場所だったし、

 『運がよければ、ブッダにも逢えたし…。//////』

だから、
のんびり出来るっていうお楽しみが半分と、
それとは微妙に反対の、
逢えるかなダメかなっていうドキドキが半分のお出掛けだったと、
彼もまた言い出して。

 『なんて言うのかな、
  確実に会いたいなら先に連絡しておけばよろしいのにって、
  アンデレやトマスによく言われたけれど。』

でもね、そうしてあったにもかかわらず、急な御用が出来たら?
ブッダはそれはそれは忙しい身なんだから、そっちの恐れだって大きい。
そうなった時のがっかりは、そりゃあもう深すぎて。
しょうがないって判っていても、
そのまま落ち込んじゃったら誰にも支え切れないくらいかも。

 『だから。
  実はそんな下心満々な気持ちでいたくせに、
  逢えたら“あれ? 奇遇だね”なんて白々しい顔してたの。』

 『下心って。』

何かそれ、使い方がおかしいと、
くすくす微笑ったブッダだったけれど、

 “……使い方は間違えちゃいなかったんだね。///////”

というか、うっかりと本心を吐露しちゃったと言うべきか。

 『そっか、同じこと思ってたんだ。///////』

なぁんだ、気がつかなかったなぁ。
でもそれって凄く嬉しいなぁと、
無邪気に笑ってたイエスだったけれど。

 “……。///////”

初心で可愛かったのは果たしてどっちかなぁなんて、
今は今で色々と判明したればこそ、
そんなことをあらためて思ってしまうよな感慨もなくはなく。

 イエスは自身の身のうちに灯した恋心への
 確たる充実をひとつ拾ってのこと。
 嬉しいなぁと心から思い、その頬を染めていたに違いなくて。

でもその真実には封をしたまま、
下心だなんて言い回しはおかしいと
想い人本人から指摘されても、
えへへぇなんて、いつもと同じに微笑って見せて。

 “…やっぱり敵わないなぁ。///////”

辛かったろうね切なかったろうねと、
でも、選りにも選って、
それを私が言うのは順番がおかしくて、と。
そこもまた、ブッダには歯痒いことで。


  ―― あ・ブッダ、今日もお散歩なの?


瑞々しい新緑や、
ちょうど今頃の季節を思わす、錦に彩られた樹木の中。
深色の髪、陽に甘く温めて、
いつもの場所で、朗らかに手を振ったキミを思い出し、

 何も告げないでいたキミと、
 何も知らないでいた自分への、

切ないまでの歯痒さに、
ついのこと、胸を押さえた晩秋の午後……。








    お題 D “いつもの場所”



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  *ありゃ、何か切ない系になっちゃいましたね。
   晩秋という季節は何を想っても切ないね、ということで。


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