でもネ やっぱりキミが好き♪
      〜かぐわしきは 君の… 7

     3



冬場のイエスはあんまり夜更かしをしない。
というか、ブッダがさせぬよう頑張っておいで。
いくら風邪を引かないと言っても、
その寸前、若しくは引いておかしくないような寒い目には
相応の辛さを感じる彼なのだろうから。
そんな想いをさせる訳には やはり行かない。
そして、その
“寝かせよう大作戦”への大障害になりかねないのが、
この時期限定ながら、
ともすりゃブッダと並ぶほどの級でのイエスの愛すべき相棒、

  そう、他でもない“こたつ”なのだ。




陽のあるうちは まだそれほど、
震え上がるほどの寒さじゃあないが、
だんだんと寒さが増せば、
他に大した暖房器具もない聖家では、
コタツに入る態勢は正に至福。
なので、座り込んだまま動かないという状態が長くなり、
余計に実は大した気温でもない日でも
寒い寒いと背中を丸めるような、
体感温度の基準がやや低い身になってしまう。
しかもその上、

 「そういやキミ、時々ここで寝入るものねぇ。」
 「あははー。///////」

こたつ布団を掛け布団扱い、
首まで埋まって心地よさげに寝ている宵も少なくはなく、

 あれって脱水症状起こすから良くないんだよ?
 そうなんだ。

それは知らなかったなぁと、
脱水症状の怖さは さすがに御存知だからか
怖々と肩をすぼめるものの、

 「でも何か、居心地いいんだよねぇvv」
 「こら。」

言った端からそんな言いようが出るイエスへ、
性懲りもなく今年もまたやらかす気かと、
メッと、そのぱっちりした目許をやや眇めるブッダ様で。
それへ…彼にすれば“ごめん”という意だろうが、
そこで照れ臭そうに てへへと微笑うから始末に負えぬ。
いやどういう始末かって

 「…そ、そんな顔したって
  甘くはならないんだからね。////////」

やや脇へと視線を逸らしつつ、
お叱りの言葉を重ねるブッダ様だが。
頬もお耳も真っ赤なその上、

 「そ、そういえばクッキーがあったけど食べる?」
 「うんっvv」

叱ったすぐ後に、
甘いものをご褒美みたいにあげてどうしますか。(笑)
頂き物の丸いクッキー缶を戸棚から取り出し、
ついでにと、ミルクティーまで淹れて差し上げる行き届きようで。
それらを抱えて戻って来たコタツの間にて、ふと、

 “そんなに大きい型でもないのにねぇ。”

見下ろしたコタツへしみじみした視線を降ろしておれば、

 「? ブッダ? どうしたの?」

急に立ち尽くした彼だったのへと、イエスが案じるような声をかけ、
それでハッと我に返ったブッダ様、そのまま ふふと小さく苦笑する。

 「あ。ううん、ちょっとね。」

すとんと元いた場所、イエスの対面となるお向かいに腰を下ろし、
どうぞとマグカップを差し出し、
クッキーは蓋を開けてから缶ごと真ん中へ据えると、

 「イエスって結構肩幅あるのに、
  窮屈じゃないのかなって思って。」

横になってのひじ枕っていう体勢で寝入っていることも多いじゃない。
それに腰骨とかも ごんごんて当たってるだろうに

 「寝にくくはないの?」

ああもうってイラッと来ているところを、そういえば見ないなぁと、
今頃になって思い起こしたブッダだったらしく。
それが“不自由なんじゃない?”というよな部類の
つまりは気遣いや察しに通じて聞こえたか。
ふふーと嬉しそうに笑ったイエスが言うには、

 「それがね、その方が何か落ち着けるんだな。」
 「? 本当?」

落ち着けるとはまた大きく出ましたな、イエス様。(笑)
目許を思い切りたわめ、
口許もほころばせという満面の笑みなのへ。
あまりに意外と、
こちらはその目を見張ったブッダだったが、

 「ほら、怖い映画とか観た晩は
  暑くても妙に全身のそこここ
  隙間なくタオルケットでくるみたくなるとかあるじゃない。」

 「ああ、あれね。」

それはあれだ、
不意に何かが闇の中から触れて来たら怖いからという
一種 防御本能がさせること。
そこまでの裏付け込みで想いが至ったかどうか、

 「でも、
  イエスのコタツへの馴染みようはそれとは違うと思うよ?」

微妙に違うことだというのは察せられたか、
ブッダとしては小首を傾げて見せるばかりであり。

 「そっかなぁ。」

う〜んと考え込んだイエス、
プレッツェル風ハート型にかたどられたクッキーを手にし。
ポリポリと齧りつつ…

 「…っ。」

しばらくすると次に思いついたものがあったようで。
ぱあっと晴れやかな笑みを浮かべたお顔を上げて、
そうだあれだと気が急く彼なのを微笑ましげに見やったブッダ、
まあまあ落ち着いてと思いつつ、

 「なぁに?」

丁寧に訊いたところが、

 「復活までの間、
  横になってた柩を思い出すからかもしれない。」

妙に嬉しそうに微笑っているのは
やっと腑に落ちたなぁんだという心地からか、
それとも…

 「…………だから?」
 「そう、だから妙に落ち着くんじゃないかなぁってvv」

そうだよ、そうなんだってと、
妙にはしゃぐように言われても、

 「…ごめん、イエス。
  私にはそれが安らぎだという理解へ至れない。」

亡くなってからさして日を置かず、しかも輪廻転生でもない、
その身のままの“復活”自体、反則技ですものねぇ。




     ◇◇



イエスが挙げたあれやこれやを、
やはり“だから…”とする理屈として納得出来ぬブッダであり。
コタツで丸くなるところといい、
狭いところにきゅうきゅうと収まって
それが落ち着くなんて言うところといい、

 “なんかネコみたいなんだよねぇ。”

猫が思いがけない狭いところへ入り込んで和んでいるのは、
仔猫時代に兄弟で固まって暖を取った名残りだそうで。
そういえば、コタツが出せないぞと言えば、
寒い朝でも結構 素直に起き出してくれるまでのコタツ愛も、
どこか猫に通じてないか?
ちなみに、
コタツがまだなかったころは、
最悪 昼まで布団から出て来ないことだってあったそうで。

 “でも…。”

そうと断定するには、ちょっと微妙だよなと思いもするのは、
猫という属性に含まれる全てが、当てはまるイエスでもないからで。
何と言っても ご陽気で人懐っこいところは、
自分本位で気分屋で、
素っ気ない態度も見せるとされる部分とまるで重ならない。

 “むしろ、ふさふさのお尻尾をいつも振り回してる
  シェルティとかゴールデンレトリバーとか…。”

ただまあ、
群れを構成すれば階位を重んじ誠実で忠実…と来る
わんこの生真面目な属性もまた、
当てはまるかといや、

 “そっちも微妙ではあるんだよねぇ…。”

ついつい くくとブッダが吹き出したのは、
たった今、
その白い手のひらの上で通話を切ったスマホを見てのこと。

 【 あのね、今 ブッダ空いてる?】
 『はい?』

確か“お友達”に借りたという
アニメのコミカライズ本を返しに出掛けたイエスだったはずで。
一緒に出ようかと言うと、

 『う〜ん、それがサ。』

どこで捕まるか判らないのと言い出して。

 『公園で借りたんで、名前もお家も知らない子なんだ。』
 『はい?』

名前というか、
くうちゃんて呼ばれてた子だってのは判ってるんだけど、

 『それってあだ名だろうしね。』
 『だねぇ。』

公園か、それか今時だったら神社で遊んでるから、
そこで返してくれたらいいと、
なかなかに豪気なところを見せての貸してくれたらしく。

 『だいじょぶ、探せるし。』
 『そぉお?』

顔を知らないブッダでは手伝えぬ人探しだねぇということで、
一人出掛けてったイエスであり。
ちょっと水臭いんじゃないのと思わぬでもなかったが、
それこそ大人げないないとかぶりを振り、
お留守番に徹していたところ、
そのイエスからの電話がついさっき掛かって来て、

 【 あのね、今神社にいるの。
   凄い綺麗なんだよ? ブッダにも見せたいな。
   それとお手伝いもしてほしくて。】

何ですかそりゃと、
色んなことの取り合わせだった内容へ目が点になったが、
ふふと小さく微笑うと、了解と告げて通話を切ったというところ。
さてとと腰を上げ、
そうそうお手伝いというのはもしかしてと、
押し入れをごそごそ探ってから外へ出れば、
まだ午前中だからか陽も高く、陽なたは随分と暖かい。
一応と羽織って来たのは目の詰んだジャケットだったので、
少し歩けばもうじんわりと暑くなったほどだが、
帰りを思えばそうそう薄着という訳にもいかない頃合いで。
アスファルト舗装されてこそいるが、
軽以上の車がすれ違うのはやや気を遣うよな小道を進み、
それが交わる大通りを1つ越えると
やや大きめの庭木を植えておいでのお宅が増える。
その先に遠目からでももう観えて来るのが、
こんな小さな町には十分なランドマークになろう、
結構な樹齢らしいイチョウの樹で。
急な寒さのせいでだろう、
いつの間にか ほとんどが黄色く色づいているのがなるほど見事。
凄いなと見ほれておれば、

 「ブッダ〜。」

石作りの鳥居の向こう、
擦り切れた石段を上がった境内を巡る
それも石の柵の向こう側という高みから
お〜いと朗らかに手を振っているのが、
そちらはTシャツにパーカー姿のイエスであり。
そんな彼へ“て〜いvv”と飛びついた子がいたらしく
おおうと柵に腹を押し付ける格好になったのが
お道化半分で何とも微笑ましい。

 “こんな遠くにもお友達を作っちゃったんだねぇ。”

イエスが人見知りをするのは、
押し出しの強い、強引な人が相手のおりだけで。
公園だの遊園地だのに出掛ければ、
子供らに懐かれの、一緒に遊ぼうという流れとなることが多い。
さすがは神の子という面目躍如か、
いやいや、そういったアガペーの作用は関係ないらしく。

 『え?それってどうやるの?
  難しくない? わあ凄いなぁvv』

偉そうに上からものを言わない、
お兄さんは大人だからと仲間扱いから身を引かない…と、
そんな風に一線を引かぬ態度が受けるのと、

 『わあ、何これ、勝手に動くんだけどっ。』

及び腰には すぐなっちゃうほど、どうかすると頼りないものだから。
そして、そういうところを隠したり、
照れ隠しに怒ったりしない人なものだから。

  ―― しょうがねぇな、大人のくせに手ぇ焼かせやがって、と

子供にもあるらしい父性や母性をくすぐるのかも。
そうやって思わぬ通りや街角からお声が掛かるイエスであり、

 『それはブッダだって同じじゃない。』

お母さんが多いけど、熟女のお友達が一杯でしょー?と、
何でか口許尖らせてたイエスだったのは、まあともかくとして。(笑)

 「ほら、ブッダ、綺麗でしょう?」

石段を上がってゆけば、
背中へぶら下がる小さなお友達に難儀をしつつも、
社へ続く石畳へ向けて
どう?と自慢げに腕を延べてのご披露の構えをするイエスであり。

 「うわぁ、ホントだ。」

予想がなかったワケじゃあないけれど、
それでも、この風景はなかなかに壮観で、
ブッダもその双眸をおおと見開く。
散り始めたどころじゃあない、
急に冷えたそのうえ、
きっとこの何日かの木枯らしでなぶられたか、
結構な量のイチョウの葉が落ちていて、
境内のほとんど、足元のどこもかしこもという勢いで埋めている。
散り落ちたばかりか、それとも雨上がりではないからか、
落ち葉もさほど汚れてはなくての美しさ。
本体の木の幹の濃い茶色もよく映えての、
さながら黄色い絨毯というところかという、小さな絶景であり。

 「大きな樹だなと思ってはいたけれど、
  こんなに降らせるほど葉があろうとはね。」

夏場の緑の茂りも涼しそうで好きだったけれどと、
ブッダのお顔も柔和にほころぶ。
それを見て、わあと嬉しそうに微笑ったイエスだったものの、

 「ただあのね、……って、ちょっとくうちゃん重たいって。」

イエスの背中から首っ玉へよじ登る男の子は、
愛子ちゃんより少し大きいくらいの小学生。
なので、そんなに大きくもないのだが、
ようよう見やれば、
その男の子にもう一人ほど、面白がってぶら下がってる子が見えて。

 「ありゃまあ。」

それは重たいねぇと苦笑をしつつ、
そっちの子へはブッダが手を延べかかったものの、

 「…う、///////」

何故だか真っ赤になってそのまま駆け出してしまう。
ああえっと、
自分からじゃれるのはいいけど抱っこは恥ずかしい年頃なんだよと、
イエスが言い掛かったけれど、

 「ああ、拒絶されたなんて久し振り…。///////」
 「ブッダ、変なお兄さんみたいだからその発言は辞めて。」

妙な方向へ陶酔なさってしまった如来さまだが、
それはともかく。(笑)

 「あのね、ただこの落ち葉って。」
 「うん。お掃除したいのでしょう?」

遠くのほうから、庭ぼうきのそれだろう、
ざあざあと石畳を擦る音もしきりと聞こえて、
社の向こう、社務所や中庭を宮司さんがお掃除なさっているらしく。

 「石畳に落ち葉って、濡れるとてきめん滑って危ないものね。」
 「そうなんだ、それであの…。///////」

これでもこの子たちもね、お手伝いして掃き掃除してたんだよと、
奥向きに見える社務所の方を指させば、
他にもおいでか女の子も交じっての、慣れない手つきでお掃除中。
うんうんと微笑ったブッダが
ジャケットのポッケから取り出したのが、2組の軍手。

 「あ…。//////」
 「要るかと思ってね。」

準備は抜かりなく
怠りませんともと、にっこり微笑う頼もしさ。
わあvvと玻璃の眸へ明るい光を灯したイエスと共に、
では参戦しましょうかと、
明るい陽だまりがいっぱいの、
黄色い楽園へ踏み出すお二人だったのでありました。


 「ねえ、今度は神宮外苑のイチョウ並木も見に行こうよ。」
 「そうだね、週末にでもね?」






    お題 B&C
     “鍋でおねがいします”&“しっぽと耳と”



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  *鍋っていうのがよく判らないネタふりだったんですが、
   そういや、一時期“ネコ鍋”って流行しましたよね?
   ああ、あれかぁと気づくまでちょっと掛かりましたよ。
   狭いところ好きですものね、猫って。
   というワケで、
   今回のお題は“ねこのきもちで10のお題”ですvv


めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

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