でもネ やっぱりキミが好き♪
      〜かぐわしきは 君の… 7

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イエスがこの世で一番おっかないものは、
父である神の怒りとされる“落雷”でもなければ、
鼻がツンとする水練でも、押しの強いセールスマンでもなく、
言わずと知れた“ブッダからのお説教”だそうで。
もっと正確に言うと、激怒したブッダほど怖いものはないらしい。
カッと光ってお説教を始めるというのは
実を言えば まだ最後の“仏の顔”が残っている
最終的なカウントダウン段階であり、
いわば“嵐の前の静けさ”というところか。
あのマーラから、
様々な刀剣や武装、
果ては大規模な軍勢による攻撃を構えられるという
最凶の幻影を見せられても、
精神力だけで躱しての動じなかったほどの人。
思えば、初めて彼の自宅である“瑠璃宮”へと招かれたおりに起きた
あの 猩猩によるイエス略奪(?)騒動でも、
攫われたご本人は途中から意識を失っていたため、
顛末の詳細全てまでは今もなお よく知らないままなのだが、
実は…途轍もなく怒かったブッダは、
周辺一帯へただならぬ覇気を撒き散らし、
そりゃあ凄まじい影響が出たのだそうで。
それを静め、あるいは相殺するため、
あの梵天がすぐさま
自ら奔走したほどだったというから推して知るべし。

  ……あれ? でもあのあの。

確か、
ブッダ様が誰かに奪われたら連れ去られたらどうしようって。
それが一番恐ろしいって、
ご本人へまで、切々と説いていらっしゃいませんでしたか?

 “うんまあ、
  それが“一番怖い”には違いないんだけどぉ。///////”

 「だよねぇ。」
 「う……。」

不意にお向かいからの声が立って、
な、何が“だよねぇ”なのかなぁと、
やや焦りつつ がばちょとお顔を上げたイエス様なのへ、

 「だって、キミ、途中から声に出してたし。///////」
 「え?」

腰高窓を背にしているイエスからの真正面、
キッチンスペースに立っておいでのブッダ様が、
やや頬を染めつつ、
だがだが表情の方は やや堅く
憮然として見えなくもないという態度でそうと応じ。

 「あと、ブログに載せてる“一問一答”でも、
  同じ質問へ 私からのお怒りって答えてるし。」
 「あうう……。///////」

やや俯いての振り乱した髪の陰から
見たなぁ〜と、
夏向きの声になって恨めしげな言い方をするイエスだが、

 「だって、特にパスも掛かってなかったし。」
 「ううう…。////////」

そこは自業自得というか、イエス様ご本人の詰めが甘いというか。

 “うう、ぬかったなぁ…。///////”

そちらも詰めが甘かった、仔猫の一件も何とか目処がついて、
陽が暮れての一段と冷え込む中を、
ほこほこと心穏やかに戻って来たお二人。
洗い物を洗濯物用のカゴへ移してから、
ブッダはそのまま夕食の仕上げにとキッチンへ立ち、
イエスの方は、昼のうちに出した待望のコタツに足を突っ込んで、
これからの定位置へ早くも和んでいたところ。
六畳間の真ん中へカーペットを敷き、
お陽様に干したふかふかの布団をかぶせてと、
無事にセッティング出来たコタツへ、
ではとスイッチを入れてみての試運転をした昼のうちは、
いいお天気だったこともあり、まだそれほど寒くもなかったが。
さすがに晩ともなると、
スイッチはすぐに切る程度でいいとして、
足元へのこの温みはやはりありがたく。

  …という感動へのお話は ちょっとひとまず置くとして

相変わらずに結構な人気を博しているイエスのドラマブログには、
ドラマの感想を記したメインのブログの他に、
個人的な日常を綴った日記とそれから、
自己紹介を兼ねてのこと、
趣味やらPC歴、嗜好、好きなもの嫌いなものなどという、
定番の羅列へ答えているページへのリンクがあり。
ブッダが指摘したように、
そこには“この世で一番怖いもの”という設問もあって。
管理人“いえっさ”の回答として、

  ―― 同居人が怒ったら怖い、と

さっくりした書き方ではあったが、間違いなく記されてある。
ブッダという個人名までは出してないけれど、
管理人の正体を知っておれば、
その同居人と言えば…と、
すぐさま想起出来もするという書きようでもあって。

 「でも、どうやってブログを見たの?」

PCだのネットだのには相変わらず関心がない彼だし、
よって操作方法も依然として知らないはず。
なのでと油断していたほど、そっちは正しく不意打ちだったものか、
うううと唸りつつ重ねて訊いたイエスだったのへ。
蓮の花も恥じ入る嫋やかさで にっこり笑ったブッダ様 曰く、

 「スマホで。」

けろりと答えてから、どーだ参ったかと胸を張る。
でも確か、携帯やスマホであんまり長くネットへ接続すると、
料金が高くつくとかいいません?
いやいや、
もーりんは相変わらず携帯さえ持ってないので よく知りませんが。

 「そりゃあサ、
  本当におっかないのは、
  ブッダが誰かに連れ去られちゃうことだけど…。」

やや拗ねたような口調でそうと紡ぐイエスなのへ、
ブッダのやや素っ気なかった表情が
おや?と、それこそ意表を衝かれたように軽く弾かれる。
だって、これまでそれを言い出されるたびに、
そして“そんな恐れもあるほど素敵なんだから”と、
そこをしっかと自覚してよとすがられるたび、
ちょっぴり申し訳無いような気持ちにさせられもしたから。

  何だよ あれってただの口説だったの?、と

(ハス)に構えた振りだって したくもなったブッダだったのに、
いやいや、あっちこそ やっぱり本心ですと言うイエスであり。

 「だって、そんなホントのこと、
  誰が読むか判らないあんなところに、
  書けるわけないじゃない。」

それこそ“そっか、そういえば”なんて、
余計なこと誰かへ気づかせることになりかねないもの、と。
口許を尖らせての真剣真摯に…というか、
ともすればムキになって言葉を重ね、

 「それにね、
  考えたくもない“もしも”だけど
  もしもの話、力づくの強引に奪い去られたとしても、
  私 絶対に諦めないから、いいの。」

 「………………え?/////////」

オーブンの頑張り待ちの身、
流し台の縁に腰を預ける格好で、
つまりは、少し距離を取って
イエスと向かい合う格好でいたブッダだったが。
膝を立ててのそこへと顎先を押し当ててという格好、
独り言と紙一重のような言いようではあれ。
どこか決意表明のような言い方をされては、
ついつい訊き返しもするというもので。

 「……。」

二度まで繰り返すつもりもないのか、口を開かぬイエスなのへ、
その身を起こすと、六畳間の方へと足を運ぶ。
そこへ座ろうと向かい側へと手を延べかかったものの、
当のイエスから物言いたげに じいと見上げられ、

 「…。」

そこではなくの、彼の隣に当たる辺へと歩を進め、
膝を落とし、腰を下ろしつつ、
あらためて“さっき何て言ったの?”と小首を傾げれば、

 「だからあのね?
  ブッダが誰かに攫われてしまうなんて、
  とっても恐ろしいことだけど。
  だったら 私も諦めないで
  追いかければいいんじゃないかって。」

膝を抱えるような格好から、
そちらも身を起こしたイエスが ふふと笑う。

 「私って実はとっても執念深いんだよ?」

だから何処までも何時までも追い続ける所存だし、と。
まるで容易いことのように言い抜けるが、
天界関係者が相手ともなりゃ、
それこそ単なる鬼ごっこで済みはしない恐れも大きいのにね。
すぐに困った困ったと狼狽えては
“ぶっだぁ〜”と泣きつく人とは思えぬほど、
ちょっぴり伏し目がちになった不敵そうなお顔だけは一丁前で。

 「…いえす?」

その自信は何処から沸いたのかな?と、
さすがにブッダもすんなりとは飲み込めぬようだったものの、

 「だって私、
  ブッダのことを
  2000年以上も好きでいたのは伊達じゃあないもの。」

 「あ…。////////」

この執念でもって、
どんなに転ぼうと迷おうと諦めないで追い続けるのと。
すんなり追いつけないことは織り込み済みらしい
周到なんだか及び腰なんだか
微妙な決意を語るイエスなのへ、

 「そんな…。//////」

そうまで情熱的なことを言ってくれるなんてと、
慎みと戒律という清廉な世界に生きて来た
苛酷な苦行には強いが
健気なロマンには やや腰が弱くなる、
(苦笑)
純朴な釈迦牟尼様の心震わせるには十分すぎる告白を受け。
泡雪のごとくな白い頬にさっと淡い朱を亳いたブッダ様、

 「…私も」

目映いものでも見るように、その深瑠璃の双眸をたわめると、
イエスの側へと身を寄せて言いつのったのが、

 「たとい抗い切れぬよな存在の略奪に遭おうと、
  私も思い切り抵抗してやりますから大丈夫。」

  そう、二人掛かりで頑張るのだから、
  どんな相手であれ、
  敵わぬはずはありませんとも、という

まだ見ぬ敵への
“負けるものか”というエール交換だったりし。(敵て…)
すりり…と身を寄せる愛しき人の所作態度へ、
イエスの側でも腰を浮かせて身を寄せると、
その双腕
(かいな)広げ、迎え入れて差し上げて。
ああ健気な人が何て頼もしいことかと嫋やかに微笑い、
しっかと抱いた想い人の、
甘くて柔らかな口許、その乾いた唇でそおと塞いで奪えば、

  ち〜〜ん、と
  仏壇前の御鈴
(おりん)のような涼やかな響き

聞こえはしたが、こっちだって途中で止められますかいと。
お互いの口唇の熱や甘さや、
腕へ胸へ抱き上げ抱きしめた相手の肉感や重みを、
余すことなくの充分堪能し合ってから。
視線で名残り惜しさを伝え合いつつ、

 「…出来たみたい。」

いや、メインディッシュが。(笑)
そのおでこをイエスの肩へと伏せてから、
うんと切り替えて立ち上がるブッダ様であり。
ただまあ、颯爽としたその立ち姿へまといつく、
解けた螺髪は
まだ切り替えられてはなかったようだけれど。(う〜ん)

 「さあさ、真ん中空けてね。」

大きなミトン型の鍋つかみをはめ、
ブッダがオーブンから取り出したのは、
少し深めで大きめの耐熱食器。
じゅうじゅうというオリーブオイルの弾ける音と
チーズのとろけ焦げた香ばしい匂いのする、

 「今日はラザニアです。」
 「わあvv」

勿論 お肉は使っていないが、エリンギとそれから
大豆の唐揚げの応用で、大豆の水煮をざく切りにし
ギュッと絞ったものもコクの深いトマトソースと煮込まれていて。
それがまた、丁度いい食感の代用となっているから大したもの。
今日のは四層に重なっている、平たいパスタとソースとを、
大きなスプーンでごそりと掬い、取り鉢へ取り分けてやって、

 「熱いから気をつけて。
  あと、温野菜と、かき玉のお澄ましもあるからね。」

 「うんっvv」

どんな略奪者がやって来ようと迎え撃つ自信満々のお二人だから、
勿論のこと、どんな寒い晩が襲い来ても大丈夫。
ほかほかのご飯と、熱々の御馳走と、
それを一緒に囲んで食す、大好きなお互いがいるから、
どんなことでも乗り越えちゃうぞと、
パンとお行儀よく手を合わせ、


  「いただきますっvv」


  どうぞ、おあがりvv





    お題 A “うずうず”



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  *実のところ、一番怖いのは
   愛想を尽かされた挙句に
   “実家(天界)へ帰らせていただきます”と
   自主的な別離に運ばれることだと思われます。
   そうならないよう、
   仏のお顔のカウントダウンを招くよな事態は
   頑張って避けんといかんぞ、イエス様。


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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