でもネ やっぱりキミが好き♪
      〜かぐわしきは 君の… 7

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おせち料理の予約とか、
クリスマスケーキは?なんて話題を耳にするたび、
まだ早いよねぇなんて言ってたものが。

  気がつけば…あと10日で師走、十二月だったりし。

年賀状の印刷にというプリンターのCMが増え。
大掃除の準備はOK?という洗剤のCMや、
忘年会にはこれ一本という胃薬のCMへ、
ああ もうそういう時期なんだねぇと思いつつ。
それでもまだまだ、年賀状の図案さえ探してないし、
あれ?去年届いた年賀状ってどこに仕舞ったんだっけと、
思いはしてもなかなか実際に腰までは上がらぬ。

  …はい、
  わたくし、夏休みの宿題も
  ぎりぎりまで粘ってみる派でした。(こら)




日に日にどんどんと寒さも増し、
テレビでも風邪薬のCMが頻繁に流れる頃合い。
重ね着にも限度があってのこと、
外出に使い捨てカイロが手放せなくなる季節がやってくる。

 「でもなんか、
  最近は機能性下着っていうのも、
  お手頃な価格で買えちゃうしねぇ。」

使い捨てカイロも 勿論“世紀の大発明”だが、
某社のひーとてっくなど、
薄いのに温かいという ずんと高性能なものが、
しかも千円を切る価格で手に入るようになったことも
近年には稀なる画期的な出来事といえよう。
もーりんの記憶が確かなら、
婦人用の防寒下着、いわゆるババシャツや、
男性用のラクダのズボン下などは
高品質でちゃんと暖かいものともなると、
そこそこ結構なお値段だったのだ。
カシミヤとか、もっと高価なウール製のものだと、
ちょっとしたテイラーズコートと張るものもザラだったほど。

 「今時の子たちは冬でもしゅっとしたカッコしてるけど、
  アタシらが学生だったころなんて、
  制服の下にこっそりニットのベストを着込んだり、
  スカートの下にはトレパンを重ね着してたりしたものよって。
  雑貨屋の奥さんが言ってたよ。」

年末の大売り出しでアルバイトをしないかと、
またぞろ お誘いを受けているらしいイエスが、
そのついでに そんな昔話を聞いたと言うのへ、

 「まあ確かに、日本の冬は結構な寒さだからねぇ。」

日本通のブッダも さもありなんと眉を下げる。
夏がああまで暑いのに、冬は冬で今度は極寒と来て、
四つの季節が巡ることを“バラエティ豊かな”と片付けてしまって、
果たしていいものだろうかと、
そんな感慨が押し寄せた開祖様だったのかも知れませんが。

  言っときますが、
  昔の日本はこんなじゃなかったんですからね。(ツンデレ?)笑

春も秋も もうちょっとこう、
後ろ髪を引かれているかのように
行きつ戻りつするところに情緒があったというか。
梅や沈丁花の後にくる桜を、
まだかなぁと寒の戻りの中で心待ちにしたように。
楓の葉が 緑から黄色を経て徐々に赤くなるグラデーションが
日を追いつつのこと、錦を織り成して麗しいように。
まったりとやって来て しみじみと遠ざかるという風情があったのが、

 「今年はとうとう秋がなかったようなものだったしねぇ。」
 「うん…それらしい色々はあったんだけどもね。」

虫の声は聞けたし、台風も来たし、
キンモクセイの香りも立ったし、
旬のあれこれ、野菜や果物やお魚のお顔も見られたけれど。
なんか、どこまでも猛暑がついて回ったような気がして。(苦笑)
その次にすとんとやって来たのが、今現在の“冬隣り”ですものねぇ。
どっかのサプリメントのCMじゃありませんが、
うがいと手洗いの励行を忘れず、
どちら様も どうか風邪だけは拾われませんように。

  ……って、
  何か お話もロクにせんと終わってしまいそうな趣きですが。(笑)

そんなこんなで、
随分と駆け足で通過してった短い秋の余韻か、
それとも間近に来たる冬の気配か、
着るものもだが、食すものにも暖かいものが恋しい季節。

 “シチューやスープもいいけれど、
  けんちん汁とか あんかけも暖まるよねぇ。”

自分は多少の寒さくらい、
寒行に比すれば大したことはなしという解釈が出来る身だが、
イエスはそうはいかないしねと、
温かいメニューを考えるのにも余念のないブッダ様。
こういう作業が少々泥臭いなんて思ったことなんて、
もはやすっぱり忘れ去っておいでであり。
大切な人が美味しいと喜んでくれるのが何より幸せと、
スマホでお料理のサイトを検索したり、
図書館へ運べば婦人雑誌の献立特集を眺めたり。
それこそ バラエティ豊かなメニューを様々に繰り出せるよう、
情報収集も怠らないし、日々研鑽を積んでもおいで。

 “浅漬けは、大根の葉よりカブの葉のほうが美味しかったよねぇ。”

というか、
大根の葉の浅漬けは、作りおきすると乾いてしまうのが難だったなぁと。
自宅六畳間のコタツにて、献立ノート冬の部を眺めておれば、

 「ブッダ、ただいま〜vv」

頬や耳だけじゃあなく、鼻の頭までうっすらと赤く染め。
ゲーマー仲間(小学生)に借りたという
攻略本を返しにと出掛けていたイエスがお元気に帰って来て。
お帰りと声こそ掛けたが、
彼には珍しくも少々ずぼらをし、
コタツに入ったまま背中をやや倒す格好で、
そちらを見やったブッダだったのへ、

 「ほら、松田さんからこれ貰っちゃった。」
 「おやまあ。」

ほらほらと振って見せれば、
がささと中身が厚紙の袋へこすれる独特な音。
少し渋めの真っ赤な袋も特徴的な、

 「甘栗じゃないか。」
 「うんvv」

回転釜へ小粒の石をたくさん熱し、
その中に放り込んで焙煎した焼き栗。
天津甘栗という通り名が有名で、
中国は天津から輸入された栗を使ったのが初めだ…という説が
有力だそうだが定かではない。

 それはともかく。

袋をブッダへ渡すと、ダウンジャケットを脱ぎ、
まずは手を洗うという良い子の手順を踏んでから、
寒い寒いとコタツへ入るイエスを見やり、

 「よかったねぇ。
  丁度おやつどきだし、今日はこれをいただくといいよ。」

実はイエスの帰宅が何時になるか判らなかったので、
クッキーくらいしか用意はなくて。
その代わり、
飛び切り美味しいロイヤルミルクティを
淹れてあげようと思っていたところ。
広げていたノート、切り抜きを挟み込んでパタリと閉じると、
入れ替わるように立ち上がり。
キッチンへ足を運んで湯を沸かしつつ、
ミルクパンで牛乳も温めながら
おとっときの紅茶の缶をぱこんと開ける。
温めたティーポットへ少し多めの茶葉を投じ、
沸騰したお湯をそそいで、さてと。
一式を載せたトレイを抱えて振り返り、
コタツへと戻ったブッダだったが。

 「?? イエス?」
 「♪♪♪」

なぁに?と小首を傾げて見上げて来るお顔が何とも楽しげだが、
コタツの上の甘栗の袋は手付かずなまま。
先に食べてりゃあいいものをと思ったものの、
あ、と遅ればせながら気がついたブッダの口許へ
小さく零れたのは甘やかな苦笑。

 「今 剥くね、もうちょっと待っててね?」
 「うんvv」

甘栗のみならず落花生も、
殻が堅くとも薄くとも、上手く剥けた試しのないイエスとしては。
それは上手なブッダが剥いてくれるのを、
当然のことのように待っていたらしく。
ああそうだったね、そういう呼吸になってたっけねと、
去年の冬をこちらもやっと思い出す。

 「はい、熱いから気をつけて。」

まずはと手際良く紅茶と温めた牛乳とでミルクティを淹れ、
それから傍らに畳んであった新聞から
大判のチラシを抜き取るとそれを天板に広げて、
厚口の丈夫な赤い袋の口を開け、ざららと中身をそこへと空ける。
よく煎られた栗たちは、形のいいふっくらした大きめのばかりで。
今時らしく、爪のような形の剥き器も入っていたが、
却って慣れがないのでと、
それは見切って、まずはと最初の1つをパキリ。
爪を立てれば腹のところにきれいな横線が入り、
そこから上下へ殻が分かれて、
渋皮もするりと剥がれての そりゃあすんなりと、
お馴染みの剥いたのが現れたのを、
チラシの端、イエスの前へと置いてやれば、

 「いただきますvv」

わざわざちゃんと手を合わせるのが、何だか可愛い。
それは嬉しそうにぱくりとお口へ運び、
もむもむと良く咬んでいる様子まで、見ていて何とも微笑ましかったが、

 「…っ。」

途中でおおと眸を見張り、
唇の上のお髭までもが弧を描いたほど、
これはびっくりという顔になったイエス、

 「すごい美味しい。しっとりしてて味も濃いし。」
 「ふぅん?」

久し振りに食べるから感慨も深いのかなぁと、
その程度に思っていたブッダだったが

 「ほら、ブッダも。」

食べてみてと、続けて数個ほど剥かれてあったのの1つを手に取り、
手が塞がったままなこちらの口許へと運んでくれて。

 「…え?////////」

一瞬 ぎょっと怯んだブッダだったものの、
そんな態度にもめげることなく、

 「ほら、あ〜ん。」

身を乗り出しての、そうまで言われては…戸惑ってもいられない。
視線を左右へと揺らしてのそれから、
頬を染めつつ、おずおずと口を開いて見せれば。
にっこりという笑顔つきで、
柔らかな唇へちょんと載せてくれた、ころんとした1粒。
そのまま むにりと優しく押し込まれ、
口腔内へと取り込まれた剥き栗は、
歯を当てれば結構な歯ごたえがあったものの、
ぼそぼそ崩れるのではなく、
生の栗を湯がいたそれのようにしっとりとした食感がして。

 “…あ。”

香りの方も、
煎ったそれという甘く焦げた匂いのみならず、
栗の芳しさがしっかり残っている濃厚さ。

 「ホントだ、美味しい。」
 「でしょう?」

我が手柄のように ふふーと微笑うイエスであり、
ブッダも手元の栗を剥いてしまうと、
改めてパッケージを見直して、

 「これって上等な栗だよ、きっと。」

漢字ばかりなのは装飾で、裏を返せば製造した会社の社名。
あんまりこういうことには詳しくないが、
横浜の住所が電話番号つきで記されてあるから、
デパートなどにテナントを置くような格の店の品らしい。

 「露店のとか屋台のとかとなると、
  上質のから弾かれて弾かれてした、
  堅くて小さいのを売ってたりするんだけれど。」

スラムなどの祭りの露店などともなれば、
温かさだけが売りのような、そんな焼き栗も珍しくはない。
そういったもので微々たる日銭を稼いでは
家計を助けているよな健気な子供たちだっていると、
天界から見ていて知っていたブッダでもあって。
だが、これはそういうのとは真逆の一級品らしいことが伺え、

 「……イエス、
  もしかして松田さんから何か頼まれてない?」

頂きものの“裏”をいちいち疑ってかかるのは失礼だが、
ひょいと貰えるレベルものじゃあないと判った以上は、
一応確かめなきゃあと感じたブッダであり。
訊かれたイエスはといえば、
人差し指の先であごのお髭をつつきつつ、

 「えっとぉ、植木棚の小さいのを作ってほしいって言われたよ?」

 ぷりむらっていうのの鉢を知り合いの人からもらったんで、
 それを並べたいんだって。
 材料は用意しとくから、明日にでもって、と

それは屈託なく言うものだから、
訊いた方まで ややもすると苦笑以上の感慨が浮かばない。
調子のいい話だなぁとか、色々と思わぬでもなかったけれど、
頼まれた本人があっけらかんとしているのだから、
多くは言うまいと思いつつ、

 「じゃあこれって、それのお駄賃の前渡しなんだ。」
 「ありゃ。」

甘さも丁度、少し濃いめで こく深いミルクティ、
ふうふうと吹いて味わってたイエスはといや、

 「そんな気を遣わなくても良かったのにね。」

ふふーと微笑って、じゃあ頑張っていいのを作んないとねと、
そんな風に解釈してしまうところが、神の子たる所以か。
それとも、彼の彼たる所以というやつか。

 「そうだね。私も手伝うからね?」

口の中、ほどける栗の甘さがくすぐったくて、
お揃いの笑顔で やっぱり微笑ったブッダ様だった。






    お題 G “「にゃ?」”




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  *甘え上手なイエス様vv
   お弟子さんたちもイチコロだったのでは?(こらこら)

   甘栗や落花生の殻が上手に剥けなくて、
   ついついお友達に頼っていたのは何を隠そう私です。(笑)
   深爪してたのと、握力がなくてねぇ。
   その代わり、オレンジをトンビに剥くのは得意だったぞvv


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