でもネ やっぱりキミが好き♪
      〜かぐわしきは 君の… 7

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毎月22日はショートケーキの日だそうで。
そのココロは、
常に上にイチゴ(15)がのっているから、なんですってよ?
11月の第4木曜は感謝祭で、その次にやっと、
クリスマスまでを数え始める“アドベント”なのだが。
日本人はよほどにせっかちなのか、
ハロウィンも結構な前倒しだったのに引き続き、
クリスマスツリーへの点灯式や
宵の街を彩るイルミネーションもとっくに始めておいで。

 「12月は師が走り回るというほど忙しいから、
  準備に怠りはないかとするべく、
  何でも早めに呼びかけているのかもしれないね。」

 「うんうん、何たって日本人は勤勉だものね。」


   とんだ誤解ですじゃ、最聖のお二方。(苦笑)






近ごろの日本人以上に勤勉かも知れない最聖のお二人、
松田さんから頼まれていた植木棚作りを、
翌日にもさっそく手がけておいで。
管理人さんお宅の居間の前にあたるポーチへ降りれば、
ホームセンターで買い揃えたのだろう
角材や板がまとめられており、

 「おお、これって本当に焼いて加工した杉の木ですね。」

 「そうなんだよ。
  表へ出しとくものなら、
  そうした方が腐りにくいと言われてね。」

イエスが用意されてあった資材を見て、
そんな感嘆のお声を上げている。

 「???」

ただ一人、何のことだか判らなかったらしい、
深瑠璃の双眸を瞬かせ、キョトンとしているブッダへは、

 「素材への加工というか下処理というか。」

イエスが簡単に説明を。
杉材を使う場合、表面だけをあぶって焼くという処理があって、
磨けば光沢も出るし硬度も増すため、腐食を防げる。
海辺の町などでは外壁や塀に用いられた工法であり。
アンティークな印象を出すために塗る
ニスや浸透剤での仕上がりと雰囲気が似ているが、
当然のことながら、
手間暇を掛けた方が保ちの差は歴然としているらしい。

 「どのくらいの大きさのがいいですか?」

道具箱を開きながら尋ねるイエスへ、
松田さんは、ポーチに増えていた、
赤や青紫の小花が愛らしい小さめの鉢4、5個を見回し、

 「そうさな、これが全部乗っかれば良いかねぇ。
  陽あたりが良いほうが花ももつと言われてね。」

どれにも満遍なく当たるようにと言い、
肩幅ほどに手を広げ、
このくらいので良いかねぇとのことだったので、

 「判りました、任せてくださいな。」

にこーと笑い、
トレーナー越しに自分の薄い胸をぽんと叩いたヨシュア様。
用意されてあった板や角材を並べて
“む〜ん”としばし考え込んでから。
組み合わせる順番が決まったか、
そこまでの手持ちはさすがになかったノコギリをお借りすると、
ギコギコと慣れた様子で要りような長さへと揃えてゆく。

 「この切り口は始末した方が良いよね。」
 「うん。お願いしていい?」

毛羽立ったり ささくれ立った面や角、
ブッダが紙やすりで丁寧に整えてくれて。
その間にも、組み合わせた資材を
とんとんとんと しっかりクギ打ちし、
見る見る内にも、
高下駄を履かせた簀の子か、やや幅の狭いベンチのような、
上下二段が階段のように前後して連なっている棚が完成。
出来ましたよとお声を掛け、
お顔を出した松田さんは やややと意外そうな顔になり、

 「おやおや、一枚板ので良かったのに。」

何本かの角材を並べた格好の棚になったのへ、
手間が掛かったろうと訊かれたが、
そこはこちらもプロ職人の息子、

 「水捌けがいい方がいいかなって思ったんです。」

雨の中に出しっ放しはしないんでしょうが、それでも
植木鉢の底からだって流れ出る水はあるでしょから、
それで腐ってしまわぬように、と。
見栄えも良ければ意味もある手間なのへ、
ふふーと満足げに微笑うイエスへは、
松田さんもうんうんと頷いて納得なさったようであり。

 「ありがとよ、助かった。」

目許をたわめて笑ってのそれから、
ああそうだ、良かったら貰っておくれと差し出されたのは、
平たい桐の箱に収まった、乾麺の稲庭うどんだった。




     ◇◇◇



昨日貰った甘栗で十分ですよと言ったのだが、
いいんだよ、お歳暮に貰ったのがたんとあるんだと、
松田さんも譲らなかったので、
それじゃあとありがたくいただくことにして。
思わぬ特別収入へお顔を見合わせ、
一旦お部屋へと戻った二人だが、

 「じゃあ、今夜は鍋焼きうどんにしようか。」
 「あ、それ好きvv」

ネギと椎茸、ホウレン草にうすあげに、
エノキや、そうそう卵も落として…と。
具を数え上げるブッダなのへワクワクしているイエスも一緒に、
今日のお買い物へと商店街へそのままお出掛け。
陽あたりのいい中では暖かいものの、
風が吹き付けるとついつい“うわわ”と声が出るほど冷たくて。
あちこちの生け垣に、サザンカが赤い花をつけていて、
乾いた陽に晒されたブロック塀や、
ところどこ錆び付いた金網フェンスの続く
中通りの殺風景さへ、
多少は鮮やかな対比として奮闘中。
そういえば大掃除も考えないとね、
うわ、もうそういう時期かぁなんていう
他愛のないことを話しておれば、
あっと言う間に辿り着くのがお馴染みの商店街。
そろそろ定着のいつものジャケット姿で見て回る、
昼下がりの店先には、
冬場が旬のあれこれとそれから、
昼時だからか、温かそうなお総菜も並んでいて。
野菜にしゃぶしゃぶ餅、薄あげなど、
鍋への一通りの買い物が済んでから、

 「イエスのはテンプラも入れよっか。」

エビかチクワか、
揚げたのを買ってこうねとブッダから言われたものの、

 「私だけなら いいよ、そんなの。」

それよりあのねと、
ちょっぴり遠慮がちにヨシュア様が指差したのが、
和菓子屋さんの間口の一角、
冬になると実演販売をなさる、鯛焼きのお店で。
同じ“お魚”ならそっちがいいということらしい。
おやと意表を衝かれたらしきブッダだったが、

 「そうだね。
  一仕事した後だし、甘いものも悪くはなかろうね。」

うんと頷いて見せてから、
鉄板の前にアクリルの仕切りを立てておいでの
甘い香りのする熱気が満ちた店頭へと歩みを運んだのであった。




少し厚めのクラフト紙の小袋へ、
一尾ずつを入れて貰って受け取ったのは、
今しがた焼きたてのひときわ熱いので。
自分でリクエストしたにもかかわらず、
見るからに熱そうな“獲れたて”の鯛には、
ついつい怖気づいたイエス様。

 「わ、ちょっと待って。///////」

ブッダにはさほどの難でもないらしかったが、

 「そか、キミ熱いの持つの苦手だったよね。」

なのでと、
熱いもの入りのカップを上から掴むくせの話を、
いつだったか交わしたのを思い出す。
例えが妙だが、
お札を突きつけられた霊みたいなイエスの怖がりようへ
ありゃりゃと苦笑したブッダ様、

 「じゃあ、
  私のコートの右ポッケにハンカチが入っているから。」

 「え? …これ?」

それでくるめば少しはマシだよとアドバイスされ、
その通りにしてやっと、
少し大きめ、パリパリ薄皮の香ばしい鯛焼きさんが、
イエスの長い指の先へも落ち着いて。
イートインというほど上等じゃあないが、
自販機があって駐車場が見渡せる一角、
ベンチが幾つか連なっているのへと腰掛けて。
まだほんのりと湯気の上がっている
温ったかいおやつを堪能するお二人で。

 「あ、美味しいvv」
 「ホント。買ったことなかったものね。」

だってそれはと、イエスが目許を嬉しそうにたわめたのは、
暖かいおやつなら ブッダが何か作ってくれるから、と。
鯛焼きに負けない暖かい愛情込めて、
そうと言いたかったかららしいのだけれど。

 「ああでも まだ熱い。」

時々片手もちになって ふうふうと指先を吹くイエスなのが、
ブッダにしてみれば、何とも可愛らしくて微笑ましい。

 「猫舌の人って、持つのさえ苦手なものなのかなぁ。」

だとしたらよく出来てる連動だなぁとでも思うのか、
そんな疑問をこぼしたブッダまでが、
横からふうふうを手伝ってくれる。
何だか妙なことをしているようで、
自分のことだというに くすくすと笑い出したイエスにつられ、
ブッダもまた吹き出しかかる辺りは、
箸が転げても可笑しい年頃のリアクション。
ひとしきり笑ってから、

 「不思議だよねぇ。」
 「? 何が?」

やっと冷めた尻尾の先へ あぐと齧りつき、
まだちょっと熱かった餡へ はふはふと苦戦しつつ、

 「だって私、ドリアやグラタンは時間が掛かるけど、
  カレーは割とすんなり食べてるでしょ?」

 「………あ。」

不意にそんなことを思い出したイエスだったのは きっと、
丁度正面の壁に、
新発売のカレールウの販促用ポスターが貼られてあったからだろう。
だが、言われてみれば確かに…

 「そういや不思議だよねぇ。」

カレーだって最初のうちは吹いて冷まさないわけじゃあないが、
それでも、グラタンほどいつまでも熱い熱いと手古摺りはしない。

 「グラタンやドリアはなかなか冷めないからかなぁ。」
 「味わいこそ遠いけど、素材は似たようなジャンルなのにねぇ。」

自分の身のことだというに、
不思議だねぇなんて他人事みたいに言うものだから。
ブッダがついつい吹き出してしまい、

 「何だよ、笑わなくたって。////////」
 「〜〜〜〜いや、ごめん。」

まだ熱かったか、片手を離して指先を吹くお顔が、
何となく拗ねたそれだったの、気になりでもしたか。
その手を捕まえると、それへもふうふうと加担をするブッダであり。

 「え?////////」

 え?え? もしかしてネタ?ギャグ?
 だったら突っ込んだ方がいいのかな?
 ああでも、何だか……。////////

優しくてふっくらしている、尊いその手が触れてるんだと思うと、
ああごめんごめんと手離されるのがちと惜しい。
ブッダは本当に懐ろが深い人だから、
甘えていいよといつも余裕で構えてて。
でもやっぱり、そうそうゴロゴロぐるぐるとは、ねぇ?

 “ああ、そうだね。私 ホントに猫だったら。”

先日ブッダから言われたそれを思い出し、
もしもそうだったなら、人の目なんてかまわずに甘えられる、
ブッダだって気にもしないでいられようから、
にゃあと鳴いては もっと甘えられるのにねぇと。
それこそ仔猫の目に似た玻璃の双眸、
やや残念そうに陰らせる、ヨシュア様だったようでございます。






    お題 H “すりすり”




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  *そういえば 劇場版では
   “揚げたてコロッケ”を歩きながら食べる二人という
   萌えシーンがあったようですが…。
   いやほら私、
   劇場版、まだ観てないし……。
   猫舌なイエス様というのは、すいません、ウチ設定ということで。

   あと“良い夫婦の日”は、
   このお部屋に限っては微妙なので触れません。(笑)
   ブッダ様は納得しておいでの愛別離苦かも知れませんが、
   今の状況でそこへ触れるのは、
   ややこしくなるか重くなるかのどっちかなので。
   イエスさんの双親さんたちにしても、
   ややこしい夫婦だしなぁ…。
   あ、そういえば、
   梵天さんと弁才天さんが夫婦ってのは本当でしょうか?
   最強じゃないですか、それ。(笑)


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