Bikkle on the Web 日記 短編小説
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ふたり
書き手:朗/挿し絵:うれいなし

うれいさんはショートが上手いっす。

 すぐそこを電車がごおっと通りすぎていく。その間は自然と会話が止まる。ショートヘアでも風にはなびくんだな、なんて、一人で納得してみる。
「最近さあ、な〜んにもやる気が無くてさ。」
 電車が通りすぎた後の静寂を破って、彼女は言った。ほぼ反射的に僕は答えていた。
「ふうん。どうしたの?」
 やる気が無くてあの成績かよ。この間の模擬試験の結果を思い出して、ちょっとブルーになってみる。
「あはは。いーじゃない。君だって志望校には十分な成績取ってるんだから。」
 そんな僕の考えを読み取ったのか、彼女は僕の肩をたたきながらそう言った。まったく。僕の気持ちも知らないで簡単に触るんじゃないよ。どきどきするじゃないか。
「でね、何か何事にも集中できなくてさ。今日も全然勉強進まなかったんだ。」
 ついさっきまで明るかった顔が、ちょっと沈んだ表情になる。実際、受験生にとってこの時期に一日勉強が手につかなかったと言うのはかなりのプレッシャーになってくる。
「ほんとどうしたの?僕に出来る事だったら協力するけど。」
 すると、彼女はいきなり僕の顔を覗き込んできた。
「ほんと?」
「あ、ああ。協力できる事だったらね。」
 彼女はじぃっと僕の目を見ている。ああ、僕の好きな澄んだ瞳が、ほんのりリップが乗った唇が、赤本の厚さと同じくらいの距離まで近づいているじゃないか。電車が通らなかったのは幸いだったかもしれない。こんな動揺したところはあまり見せたくはなかった。
「ふうん。じゃ、君にはそのうちに頑張ってもらおうかな。」
「そのうち?」
「うん。そのうちにね。」
 くすくすと笑いながら、彼女は僕から離れた。かばんを後ろ手に持ちながらたたたっと駆けていく。
「約束だからねー。忘れたりしたら、その赤くなった顔の事みんなに言っちゃうぞー。」
 今度は僕の方が勉強が手につかなくなりそうだった。

後書き
 実は何回かリサイクルして使われている作品。もともとは当時付き合ってた女の子にあげたものです。その後、番長君のwebの10万ヒット記念に贈ったりもしています。
 この手の作品で一番狙っている事は、「読み手が恥ずかしさに部屋の中をゴロゴロまわってしまう。」事です。その点で、これは成功だったんじゃないかと思います。
 最初、女の子はロングヘアで、最初の部分で「ロングのヘアが風になびいている」みたいな感じだったんですが、うれいさんに挿し絵を描いてもらえる事になり、ショートに変更しました。今の自分の流行りがショートなんで、悔いはないです。<をい