Bikkle on the Web 日記 短編小説
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カッコ悪いフラれかた
書き手:朗

 改札近くの、ホームを見渡せる窓から、電車を降りたアイツがゆっくりと歩いているのが見える。足取りが重い。こちらの方が高い場所にいるのと、うつむき加減で歩いているので表情を読み取ることはできないが、いつもの彼女とは雰囲気が違う。やっぱり、泣いているんだろうか。
 僕が見ていることに気付いたら、いつもの明るい彼女に戻るんだろうな。きっと。アイツってのは、そういうヤツだ。

 悪友から電話がきたのがちょうど30分前。「おまえには知らせておこうと思って……よろしく頼むよ。」ヤツは最後にそう付け加えた。

 アイツの想いが届かないであろうことは、最初から僕にはわかっていた。だけど、ヤツから電話がきたと嬉しそうに話す彼女に、そんなことは言えなかった。
 いや、この笑顔を失うことなんて、僕には耐えられなかった。たとえそれが、結論を後回しにしているだけの、僕にとっての『逃げ』だったとしても。

 彼女が僕のことを男として見ていない事はわかっている。こんな時、僕が何を言ってもなんの意味も無いこともわかっている。逆に、こんな時にそんな事を言われても、フラフラと流されてしまうような人間だったら、僕は彼女のことを好きになっていないだろう。
 でも、君を支えることのできる人間が、君のことを大切に想っている人間が近くにいるということ、それだけはしっかりと伝えておきたい。
 ずいぶんと身勝手でずるい考えであるとは思うけど、それが彼女にとって少しでも救いになるような気がする。

 ホームからは、階段を上がるとすぐに改札だ。もうすぐ彼女の姿も見えるはず。そうしたら向こうもこちらに気付くだろう。そして、賢明な彼女のことだ。何故僕がここにいるのかもきっと気付く。そうなったらもう逃げられない。
「さて、カッコ悪い男になってくるか。」
 僕は一つ大きい深呼吸をして。
 どういう風に切り込んでいこうか、階段のほうに注意を向けながら、それを考え始めた。

後書き
 今回は、特に元ネタはありません。
 「好きな人が笑ってくれるだけで幸せ」ってのは確かにありますが、状況によっては非常に複雑ですよね。
 でも、やっぱり笑っていて欲しい。
 たとえ自分の想いが届かないとしても。
 とかカッコつけても、やっぱりこっちを向いて欲しいものですね。