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いつかのメリークリスマス
書き手:朗

雑踏が街を支配していた。
周りのビルは鮮やかな赤や緑に彩られ、街全体が慌ただしく踊っている。
誰もが、聖夜の到来を待ち遠しく思っているようだった。
そんな街の流れに取り残されたように、ぽつりと、そこに僕はいた。
人は急ぐ。終電間際。大切な人のいる場所へと。
そして、僕は何処へ行けば良いのだろう。

君の欲しがっていた椅子を買ったあの夜、ドアを開けた君は、忙しく夕食を作っているところだったね。
ろうそくの灯が部屋を暖かく染めあげていたっけ。
似合わないことをするものだと、お互いに苦笑いをして、そして抱きしめ合ったね。

君のいない、モノクロームの世界なんて、想像もできないと思った。
そしてそれは、なによりも恐ろしいことだと気づいてしまった。
覚悟はしていたつもりだったのに。逃げられない事実だと解っていたはずなのに。

いつまでも手をつないで、いられるような気がしていた。
何もかもがきらめいて、がむしゃらに夢を追いかけたかった。
喜びも悲しみも全部、二人でわかち合える日が来ると思った。
でも、それは、泡のような束の間の幻想でしかなかった。
「ずっと一緒にいよう。離れたくないんだ。」
と言った後、急に涙が頬を濡らした。

君は、最期まで幸せだったのだろうか。

大きな荷物を抱えた青年が、僕の横を足早に通り過ぎて行く。
まるで、それは、色褪せたいつかのメリークリスマスのように。

後書き
 一部の方は気がついたかと思いますが、この話はB'zの「いつかのメリークリスマス」という曲を元にして自分なりに再構成したものです。B'zファンの友人であるTomoさんのサイトへ投稿させていただきました。CDを貸してくれたり、色々と協力してくれた研究室の後輩に感謝。